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コンクエスト・ワールド  作者: あるべど
アルテニアの箱庭
3/57

鬼と刀

 伸び放題の白髪混じりの隙間から、するどく突出した鉤鼻と深く落ち込んだ窪みの奥で、ギラギラと目が輝いた。


「ほう、うまくかわしたな」


 禍々しく裂けた口から、しゃがれ声が漏れた。

 驚きもしたが、鬼が人語をしゃべると分かって、少し冷静になれた。

 つぎはぎだらけのボロ布をまとった鬼は、自分より背丈が低く、また、痩せこけていた。


「覚悟せぇ」


 しゃがれ声が、第二撃をしかけるべく、剣を振り上げた。

 大振りの一太刀を、身をひるがえしてかわすと、続けざまに、剣光が横一閃に走った。連撃をかわしきれず、腕をかすめた剣先が、衣服を切り裂いた。


「クッ!」


 刺すような痛みが二の腕に走り、流血が腕を伝った。 

 死の恐怖を味わい、心臓の鼓動がドクンと、胸を打った。


 体勢を崩して、地にひざをつけた瞬間、小柄な赤鬼は、剣先を突きつけ、突進してきた。


 やらなければ、やられる!


 泉のほとりに突き立った錆びた刀に飛びついた。


 振り向きざまに抜き放った刀が、赤鬼の剣を弾き飛ばした。想像していたよりも、手応えがないと感じた。


 やれる!


 衝撃で、刀の表面の錆びがはがれ落ちると、鏡のような鋼地が露出した。刀身まで、錆ついてはいなかった。

 間髪入れずに、振り上げた刀を、赤鬼の頭上へと振り降ろした。


「!?」


 赤鬼は死を覚悟したかのように、身動きひとつしなかった。

 剣先が、乱れ髪の頭をカチ割る寸前、ぼくは、赤鬼の正体に気づき、とっさに刀を引っ込めた。

 軌道を反れた剣先が、赤鬼の顔面を真二つに斬り開いた。


「ぐぬっ」


 赤鬼のお面が割れ、そこから人の顔が現れた。意外にも、赤鬼の正体は年老いた女だった。

 老女は片膝を地につけ、うなだれた。


「さあ早く、とどめを刺せ」

「何者だ!? どうして、ぼくを襲った!?」


 剣先を老女に突きつけ、問うた。


「ぼくを殺そうとしておきながら、死にたがっているように見えたのはなぜだ?」

「バカは、死ななきゃ直らんというが、やれやれ」


 しゃがれ声で低く笑うと、老女は顔をあげた。

 年齢は六十を越えたくらいだろうか、深いシワとシミだらけの薄汚れた顔が、ぼくを見つめた。しわがれたはずの老女の琥珀色の瞳だけが、曇りのない水晶のように透き通った輝きを保っていた。


 ぼくは、この人を知っている? 不思議と、懐かしさを覚えた。


「いったい、お前は?」 

「……」


 老女は無言のうちにゆるりと立ち上がると、踵を返した。


「ついて来な」


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