表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクエスト・ワールド  作者: あるべど
アルテニアの箱庭
1/57

アルテニアの箱庭

挿絵(By みてみん)

「コンクエスト・ワールド」


第1章 アルテニアの箱庭

 

 ぼくは夢を見ていた。とても、悲しい虚夢だった。

 自らあげた叫び声で、目を覚ました。

 夢というのは、目が覚めてはじめて、それが夢だったと分かる。

 夢から覚めてもまだ、胸を激しくうつ心臓の鼓動は鳴り止まず、心にぽっかり穴が空いてしまったような喪失感だけが残っていた。

 

 あれほどの悪夢だったにもかかわらず、内容が思い出せない。ただ無性に喉が乾いていた。

 水が欲しい。それに少し肌寒い。

 かけ布団を求めて寝返りをうつと、背中がビリビリと痺れた。床が硬い。眠っている間にベッドから床に落ちてしまったのだろうか。

 

 目を開け、身を起こしぼくは周囲の異変に気づき、頭が混乱した。

 そこが都市部郊外に建てられた12階建ての6階にあるいつもの自分の部屋ではなかったからだ。

ぼくは屋外にいた。それも剥き出しの原っぱの上で、仰向けになって眠っていた。


 そよ風が頬をなで、青臭い草の匂いが鼻腔をくすぐった。


 夜明け前だろうか、周囲はまだ薄暗かった。

 夜中に寝ぼけて近所の公園まで出歩いてしまったのだろうか? ぼくはまだ未成年者だったはずだ。飲酒もしていなければましてや夢遊病者でもない。

 まだ眠足りないまぶたを擦りあげながら、ここがどこなのか確かめようと周囲を見渡した。


「えっ!?」


 見上げると、空に一筋の光の傷が走った。


「空に、ふちがある」


 それが巨大な壁だということはすぐには理解できなかった。

 視界全面に広がる奥行きのある暗闇。プラネタリウムの中で居眠りをはじめていたのか? とも思った。


 空が徐々に明るくなり始めた。


 きしむ身体に、うめき声を漏らしたぼくは、立ち上がった。


 寝間着用のいつものスエットの上下ではなく、白いTシャツとベージュのチノパンを着ている。それに、靴も履いていた。休日に履く赤いスニーカーだ。


 顔をあげ、ゆっくりと振り向いた。


 ぼくは絶句した。


 天まで届くような巨大な真っ白い壁が、そびえ立っていた。


 空の傷は、太陽光線が、壁にうつし出した反射光だった。

 圧倒するような巨大な壁の高さは、世界一高いと謳われる中東の超高層ビルを思い起こさせた。ビルの高さは、1000メートルを超える。それに匹敵するのではないかという巨大な壁という壁が、東西南北、ぼくを中心に取り囲むようにして存在していた。


 いったい誰がこんな巨大な壁を? というよりも、なぜ自分がこのようなところに? という疑問の方が先だった。


 ここが夢の世界だろうが、現実だろうが、今はどっちだって良い。夢は覚めないと夢だと分からないのだから。それまでは夢の世界もまた、現実かもしれない。


 ぼくは落ち着きを取りもどすために、大きく深呼吸をした。


 巨大な白い壁が反射板の役割をはたし、朝の太陽光が、周囲の壁へと拡散した。辺りはまだほんのり薄暗かったが、様子をうかがい知ることができた。

 林が見えた。小高い丘もある。どこかで、水の流れる音が聞こえた。そして、壁に覆われた狭い空を見上げて、ひとつ、気づいたことがあった。


 空の型だ。


「空が、六角形の型をしている」


 薄紅色に染まった雲と蒼い色の空が、 限られた六角形の空の中で、勢力争いをしていた。


 白く塗られた壁のせいで、それほど圧迫感はない。どこまでも地平線がつづいているように錯覚した。壁までの距離はそう遠くはない。3分ほども歩けばどの方角の壁にでも辿り着けそうだ。


 ぼくは壁に向かって、歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ