-第二節- 二頁
彼女は今なんと言った。
彼女と僕が同じだと、“色”が見えると彼女は言わなかったか?
僕は寝そべっていた上体を起こすと彼女の目を見つめた。きっと、僕の顔は驚きを隠せていないことだろう。目をこれでもかと見開いているに違いない。
一方、少女は澄ました表情をして、僕のことを見つめ返していた。口元には微かに笑みも伺える。
僕は、そんな少女に取り繕うようにできるだけ落ち着いた物言いで問うた。
「ど、どういうことなのかな?“色”が見えるって」
少女が何を思っていったのかわからないし、それが事実がわからない状態で、自分自身が“色彩感覚”を失っていないことをいうのは些か危険だろう。
どう考えても、見た目可憐な少女で服装もスカート的な何かだ。そんな少女に何かをされるほど兵士としての訓練を怠ってはいないが、何が起きるかはわからない。念には念だろう。
そもそも、僕は彼女の素性も知らない。気配もなく現れたのだ。
そう気配もなく……って、え?
僕が気味の悪い結論に至ろうとしたところで少女が僕の問いに口を開いた。
「そのままの意味です。私は未だに、空は青く見えるんです。お花や木々は緑や赤、ピンク、みなさんが失ったという“色彩”を私は失っていない。―――そして、あなたも私と同じように見えているのでしょ?というか、見えているはずなの。違いますか?」
最後のほうをまくし立てるように言うと少女は、僕のことをじっと見つめた。
僕は、少女に見つめられてドギマギして、彼女から目を逸らして聞く。
「ど、どうして、君は僕が“色彩”を失っていないと思うんだい?それには、何か根拠でもあるのか?」
さすがに、会ってそこらの素性のわからない少女に、一年もの間周りに隠してきたことを簡単にうなずけるわけがない。
見た感じこの少女が他人をあざ笑うような人間には思えないし、からかうためにそういうことを言っているようには見えない。少なくとも僕の目には少女は前任に見えている。
だけれども、ここで簡単に少女を信じることを僕はできない。
職業柄というわけでもなく、僕個人の理由で人をすぐに信じることができないのだ。これは単純に僕側の都合であるが、もしも、少女が待ちの人間に“色彩”を失ってないというような話をして、そのとき僕の名前もだすと僕はそれだけで、少女と一緒に“変人”という烙印を押されることになるだろう。
もともと、僕は少しだけ見た目が周りの人間と違うのだ。もっとも、それで仲間はずれにされたことはないけれど、それでも他人と違うというのは一種のトラウマなのだ。僕にとっては
そんな僕の心中を知ってか知らずか、少女は僕の問いに答えた。
「―――――だって、あなたの目は私と同じだから、他の人たちは失ってしまった“光”をあなたの目には宿っている」
“光”……確かに、“色彩”を失った人たちの少女はどこか浮かないものだった、かもしれない。けれど、そのことが事実であるかどうか僕には判断をつけることができない。
僕が最後に“色彩感覚”を失っていない人間を見たのは、一年も前のことだ。比較なんて、記憶だけをたよりにしてはできない。
僕は目を逸らした少女に一度目をやって少女の目を見た。
そして、周りの人――――母や父、上司、同期の人間の顔を思い出した。
確かに、少女の目は不安のようなものを感じさせない。“色彩感覚”を失った彼らの目には隠しきれない悲観のような、そして“色”がない世界を見つめなくてはいけないことに対する不安のようなものが、あるようにも思えた。
もしかすると、少女の言っていることは真実かもしれない……
けれど、だからといって少女に対して本当のことを言うかどうかは別だ。
今さら、“色”が見えることをいうのには躊躇があった。
僕が断固として頷かないのを見て、少女は一度大きく息を吐いて語りだした。




