大好きなのだから
ーー報われなくても好きでいたい。嫌いだなんて言えないよ。だって私はあなたのことがずっと大好きなのだからーー
ロス・エンジェルス
蝗はすぐに泣くのをやめる。一瞬で元の顔に戻すのも彼女の特技だ。強くいるため……強く見せるための。
「この子はなかなか強かったよ。時間塑行しなければ、蝟に勝てるかもね」
三人の目の前に現れたのは、レオナを担ぐ蜏。レオナはぐったりしてはいるものの、消えてはいない。
「遊んでる間に蛇取られちゃったか。まあ、ここまでは計算通りだよ」
蜏がレオナをゆっくりと地面に下ろした。
「蛇!」
「分かってる!」
蛇は蜏の目をにらみつけた。これで、もう蜏は動けない。
ーーあとはこいつを地獄へ!
だが、三人の思惑通りにはいかない。
「あ、もしもし、これ、録音だから会話できないことを怒らないでね」
蜏は動かない。だが、彼の声はする。どこかにつけられたスピーカーから音を出してるのであろうか。
「もう、遅いけど毒ガスを仕掛けているよ」
急いで三人は息を止める。それすらも蜏の予測範囲。
「遅いって言ってるんだけど。まあいいや。ところでね、サバキに習っていると思うけど神経系の毒は主に二種類。簡単にいうとね。まず一つは体が段々抑制方向に働くもの。スノーの毒が典型的だね。体が段々動けなくなって、眠くなって、というのは体験した通りだね。で」
一拍置いたあと、
「君たち何か感じない? その毒ガスはスノーのとは逆のやつ。どう、興奮してきた?」
「うん? 僕にはその手の能力は利かないよ」
自己精神操作。それがあるからこそ、火蟻は火蟻でいられる。正常なふりができる。今さら精神操作の毒など意味のないことだ。
火蟻はもう勝ち誇っている。蛇を取り戻した。あとやることは攻めることだけ。だがーー。
ーー違うんだ! こいつの標的は!
「ほらほら、蝗……いや、アリス。言いたいことを言ったらどうだ」
蜏は動かない。なぜならーー彼は最初から動く必要がない。
「どうした蝗!」
火蟻が振り返る。
ーー嫌だ嫌だ嫌だ! 言いたくない! 絶対に! 私は勝ったんだ! 自分に勝ったのに! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!
私は火蟻が嫌い!
「アリス。いいんだよ」
蜏が火蟻の声で話す。
その瞬間、枷が外れた。
「そうだ! 私は火蟻が好きだ。愛している。私のことを安心させてくれると言ってくれた。こんな私のために。だけど、火の心の中に光を照らしたのは蛇だ。私じゃない! そして私は自分の口で好きだと言うこともできない。許されない! 私だって、私だって、火の心に自分の言葉で伝えたい! 大好きだと、伝えたい!」
「私は火蟻が、好き好き好き好き好き好き好き好き好き! だいっすき!」
「世界なんていらない。私が欲しいのは火蟻。あなただけ! あなたが私のものにならない世界なんて壊れてしまえばいい!」
唐突な蝗の告白に、蛇の目が蜏からそれる。
「さあ、天使ども構えろ!」
魔王を止めろ。
○○○
火蟻の両目が赤くなる。上空には四人の天使。蜏は姿を消した。
「グウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
黒い蟻の海が天空に伸びる。
「うげ、本当に狂いやがった」
「言葉使いに気をつけろ。我々は天使ということになっているんだ。あの破壊者にならえ」
「へいへい」
グリムとノッドは障壁を張った。蜏の指示は一つ。
『避けるな。神の御使いのごとくこの町を守りきれ』
「爆発しろ」
ブレイカーが腕を降り下ろし、衝撃波が火蟻を襲った。だが、その波動は黒い海に呑まれるだけだ。
ノッドとリサは蜏のことを完全に信用してはいない様子。
ブレイカーも蜏のことを信頼していないが、少なくとも信用はしていた。
ブレイカーは蜏のやりたいことを何となくだが聞いていた。もともと、真祖や亜人の王のこともそれほど信用していない。目的が同じなら手段が穏便な蜏の方がブレイカーは好みだった。平和になるために争いを起こす、犠牲を出すーーというのはブレイカーとしても疑問があるものだった。
ーー破壊の天使か、笑っちまうよ。
無表情の顔が少し動いた。
「全然効いてないんだけど。天使っぽく、しかも強いのってあんまりないわよ」
リサが肩をすくめる。ブレイカーは横目でリサを睨んだ。地竜風情が天使を馬鹿にするのは些か不満だったが、そんなことで争っても仕方がないと、目線を火蟻に戻した。
「グウウウウウアアアアアアアアアア」
火蟻は天使をあきらめて地面を割る。彼の目的は世界を壊すことだ。
「おいおい、あれを止めるのかよ。しんどいな」
ブレイカーが火蟻に向かって光の柱を放つ。正義子の持っているバロルの聖眼を大きくしたものである。
黒い蟻の海が少しだけ退く。多少は効いているようにも見えるが、光の柱が削る以上に黒い蟻の生産が早いのだ。まるで、光の柱が下から黒く染まっていくように見える。
地平線まで黒く染まり、そこは地獄と化していた。
「四人の天使が黄昏の中で舞い、厄災である蟻の群れが退けられるーーか、本当に大丈夫なのか?」
天使は思わず呟いた。
○○○
火蟻の両目が赤くなる。上空には四人の天使。蜏は姿を消した。
「グウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアア」
火蟻が吼える。彼は命令通り、世界を消す。
“火蟻が私のものにならない世界なんて壊れてしまえばいい”。
激情に委ねられた人間は、原罪のひとつである破壊衝動が押さえきれない。
女王であった彼女は何でも自分の思い通りにいくと思っていた。
たとえ蜜蠭に心を殺されても、性根は変わらない。
だが、彼女は心の底で悟っていた。この人は自分のものにはなり得ない。たとえこの世のすべてを渡してもこの人は自分のもとへは来てくれない。
それならいっそうこんな世界は壊れてしまえばいい。そちらの方がよっぽど簡単だ。
一人の心を得るよりも世界を壊して全部なかったことにした方がよっぽど楽だ。
そこまで蜏は計算した。
変に思ったのは蛇が来たくらいの頃、ステラの頭を持って、ヘクセの元に飛んだときだ。確かにあのとき、蝗と蜜蠭は一触即発だった。絶対にこいつに頼るか、というような雰囲気だった。蜜蠭は彼女の仇だったのだ。
それなのに彼女はステラの入った箱を持っていった。おそらく彼女は蜏がけしかけなくても蜜蠭に頼って、火蟻を助けに行くつもりだったのだ。
そのときは、蜏にも意味が分からなかったのだが、だんだんと蝗が何を思っているのがわかってきた。
この作戦をたてるのに、本当に何日も何日もかかった。天使たちとも、普段しない相談なんかもした。本当に本当に大変だった。
頭の中で、何回も何回も何回も何回も何回もシュミレーションして、ああでもない、こうでもないと考えた。
最高の頭脳をこれだけ悩ませるのだ。
乙女心は。
地上は黒い蟲たちの渦のなか。その色はどんどん濃く、密となっていった。
蜏はその黒い渦のなかにいた。身体を憎悪と慟哭が蝕む地獄のなかに、彼は自ら入っていったのだ。
「僕の予想が正しいなら……」
渦のなかには普段火蟻を守っている黒龍がいた。その黒龍は、その黒龍だけはまるで自我があるように火蟻を守っているのだ。
仕事量操作は炎のように使うことはできても、自我をもった何かをゼロから作り出すことは不可能なはずなのだ。だから、目の前の黒龍は異質すぎた。
黒龍はまるで火蟻を守るかのように包んで、こちらをにらんでいるのだ。
「黒龍……君はやはり」
蜏はうつむいた。黒龍がこちらに敵意を向けているのだとしたらーーそういうことだろう。
「もし君を再び……葬ると言ったら、どうする……」
黒龍は中で発狂し続けている火蟻をちらりと見せ、再び蜏をにらみつけた。
「そうか、君が現界しているのは……」
蜏は悟った。そして次にこの黒龍と会うときは、この黒龍を葬ると決めた。この黒龍が満足に葬られる世界を目指して。
この白い羽の黒龍のために。
○○○
「このクソ女ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
」
蛇が蝗の髪を掴み、殴る。何度も何度も。蝗は涙を流すばかりで、動かない。二人とも興奮剤の影響からか、あるいは別の要因からなのかーー感情的になっていた。
なぜ泣いているのか、もうわからない。
「うううぅぅぅ、ごめんなざい、ぐぢなわ、ごめんなざい」
「謝るのは、私じゃないだろ!」
蛇は蝗の髪を掴み、火蟻の方に向ける。黒い柱の中で、彼は発狂し続けていた。
「今、私の火はどう見える!」
髪を掴み、揺らす。心の痛みのせいで、髪を伝う感覚がない。
蛇は怒っている。それは自分の心のせい。
火を好きになった自分のせい。
「私はな、苦しんでいるように見える! お前の苦しみが火に移ってるんだ! 何を言うか分かってるな! 叫べ! 火に聞こえるように!」
蛇が蝗の顔を火蟻の方に向ける。
「う、うぅぅ、わたじは、わたじは、あなだのごどなんで、ううううう、ぜんぜんんんん、ううううぅ、ずぎじゃ、ずきじゃ、嫌だよおおお、嫌だ、嫌だ、嫌だよおお、ううう、言いだぐなんでない。うううううううう、わだじはああああ、むずばれなぐでもいいがら、ぜめで、ずぎでいだいいいい。嫌いだなんで、言えないよぉぉぉ」
じゃあ、世界なんて関係ない。火が好きだと言えばいいじゃない。
「どうして」
蝗が蛇に振り返る。蛇はひどい顔だ。ボロボロに泣いている。きっと、自分も同じ顔なのだろうと、蝗は思った。
「わだじだっで、れっががずぎなんだ。だがら、あなだのぎもぢがずごいわがる。ずごぐずごぐわかる。だがら、ふだりで、言おう。大丈夫。あなだの異能にまげないぐらい、れっがはわだじのごどずぎだもん!」
私たちはあなたを心から愛しています。だから、世界なんて見てないで、こっちを見て。
○○○
火の両目がもとに戻る。黒い蟻も引き、あとに残るのはめくり上がったコンクリートの地面と、今にも崩れ落ちそうなビル群だけだ。その町は一瞬で廃墟と化した。辺りにはもう、生きている人間の気配がない。
「僕は」
火蟻が二人の方を見つめた。
ーーああ、やってしまった。私はもう火の前にはいられない。私はやってはいけないことをした。
目や鼻から止めどなく涙がこぼれてくる。でもそんな姿よりも自分のおかした罪の方がはるかに恥ずかしかった。
(僕は蛇もアリスも好き)
紳士な彼にこんなことを思わせて。
ーー人間失格だ。
今すぐ駆け出してこの場から逃げたいと思ったが、あいにく私は動けない。蛇のせいで。
彼は私の前にゆっくりと歩いてきた。
(アリス、好きだよ)
全然、嬉しくなかったーーといえば嘘になった。
この期に及んで、醜い私は、火に好かれていると思うと体の中が熱くなってどうしようもなく苦しくなった。その苦しみは身体の芯が溶けていくようで心地よかった。
不意に火の後ろから鎖が上空に向かってまっすぐ伸びてーーそのまま火の脳天を貫いた。
ーーああ、終わっちゃった。これで洗脳は解ける。火には軽蔑されて、二度と話すことも無いんだ。
一生、火に嫌われ続けるんだ。
「うぅ、うううううううぅ」
もうだめだった。渇れそうだと思っていたのに。涙は決壊した。好きと言ってしまったときよりも、好きと思わせてしまったときよりも。どんなときよりも。
ーー死のう。この舌を今すぐ噛みちぎり、地獄に落ちよう。そうすればせめて、嫌われずにはすむかもしれない。お墓参りくらいはしてくれるかもしれない。私、火と同じお墓に入りたかった。火と一緒に年を取って、一緒に死にたかった。
もう叶わないのだけれど。
瞳を閉じて、舌に歯をかけて。
ーー生まれ変わったら火のお嫁さんになりたかったな。
何のことかわからなかった。
だけど今、視界には火の背中が写っている。
優しく、安心する火の匂い。
身体は暖かかった。
まるで、罪人を癒す業火のように。
抱き締められたのだ。
(蝗……アリス。舌を噛みちぎろうとしたでしょ。アリスのことだから、僕に悪いと思ったんだよね。でもアリス。確かにさっきは強制的に好きになったけど。そのお陰でアリスの気持ちに気がつくことができた。ごめんね、僕、鈍くて。最低だよ)
ーー赦してくれる……それだけで満足だった。だけどそれすらもきっと違う。まだ解けてないんだ。これで私が死んだら火は囚われの心のままになってしまう。
耳元でささやく。
嫌いだなんて言えない。だからせめて。
「私のことはもう忘れて」
ーーこれでいい。これで私は十分に満たされている。私の言葉は絶対だ。だから。
「忘れない」
聞こえていたはずだ。聞こえていたはずなのに。
「忘れなさい」
「忘れない」
閻魔の言葉は女王よりも強く。
「聖 火はアリス・クイーンハートのことを忘れなさい」
「絶対に忘れない」
言うしかないのだろうか。言って拒絶されればいいのだろうか。きっとそれしかないのだ。運命はどうしてこうも意地が悪いのだろうか。死ぬことも忘れさせることも許されないのか。
「私はあなたが嫌いよ。だからあなたも私のことを嫌いになりなさい」
「こんなにも想われているのに、嫌いになんてなれるわけない!」
耳元の声は心臓に突き刺さった。
「嫌いになんてなれるわけないよ。心の壊れている僕をアリスはずっと診てくれた。蛇との仲を取り持ってくれたし、復讐にも協力してくれた。こんなに想われているのに僕は気がつかないで最低だ。だからさっき、鎖で自分を攻撃した。別にアリスのことが嫌いだから鎖を出した訳じゃない。もう一度、いや、何度でも言うよ。僕は君が好きだ」
「そんなはずはない。私はあなたの心を汚した。私にはもう生きている資格なんてない!」
不意に身体の拘束が解かれた。
今まで見えていなかった火の表情が目に映る。彼の両目は充血していた。彼は本当に……。
「言ってわからないやつだな! こうでもしないとわからないか!」
「へっ」
再び抱き寄せられてそして。
そして、アリスの唇は火に奪われた。
○○○
唇を奪われたあと、しばらく上の空だった。虚空を見つめて、視界が白くなったり黒くなったりするのを呆然と眺めていた。
「ねえ、私のこと忘れてない?」
(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう)
現実に引き戻してくれたのは蛇の言葉。かなりきつめの口調だったが、それに反して蛇の心は不安で押し潰されていた。
ーーそうだよね。さっきの火は嬉しかったけど、やっぱり火は蛇のもの。別に報われなくても、結ばれなくても、私は火が幸せであれば。彼の望みを叶えられれば。それで十分満足だ。
火の心を読んだ。
思わずため息が出て、笑ってしまった。
ーーいくら火でも、やっぱり男の子なんだ。これは要相談だ。
アリスはスケッチブックではなく、直接腕に書きこんだ。そして蛇に近づく。蛇はまるで敵のような顔でアリスの顔を睨んでいたが、動きを止めるつもりはないようだった。そればかりか毅然とした態度でその姿勢を崩さなかった。
ーーでもこれから戦う訳じゃないよ、蛇。
そして、火の願いを書いた腕を火にわからないように掲げた。
蛇の目が見開かれたあと、ジトりとした目で火を睨んだ。
「それはずるいんじゃないの火」
火のもとへ駆け出して、二人でその唇に蜜を注ぎ込んだ。
○○○
「ねえ、いいの。あれ放っといて」
三人とは離れたところ、ノッドが指をさした。
「黙ってな、あんたは」
リサの拳がノッドの顎を直撃。放物線を描き、瓦礫に埋まった。
「ああ、御苦労様。なかなかいいね。最高の出来だ。封印の一つはこれで解かれたと言っていいかな。要は世界征服に近づいてるってことさ」
天使たちの前に新世界の神が降臨している。
黒い蟻が引くと、そこは神話の世界のようであった。空は黄昏色に染まり、一面は瓦礫と化していた。その上には男の子と女の子と蛇。それは何を暗示しているのだろう。
火蟻……いや、火にはできるだけ業を背負わせたくなかった。だから、こんなに破壊させておいて、虫一匹たりとも殺させてはいない。壊しても直せるものはすべて直すことができる。何せ自分はこの世界を救うのだから。
「あんた。ここまで読んでいたのか」
リサが蜏に尋ねる。本格的につくべき主を見定めているのであろう。
「いやあ、まさか。そんなわけないじゃないか。あの場から逃げた籠の鳥が鬼に申し訳ないと思って、罪滅ぼしに口ききしてあげたって? それとも嘆きの龍を安心させるため? ははっ、馬鹿な」
「どういう意味だ?」
ブレイカーを含め、誰にも理解できないだろう。
火蟻とレントをあんな風にしたのは吊るし人と女神だ。
幸せを運ぶ鳥は逃げた。
逃げただけではない。
地獄の扉を開いたのだ。
ブレイカーの問いを不意にし、歯車を進める。
「あ、レント君が壊れた。そろそろかなと思ってたんだけど。そうだね、潮時だ。因縁に終止符を打たせてあげよう」
今の蜏には、全能者の石付近の光景も同時に見えている。
ーーレント・ルクセリア。ずいぶんかわいそうな出生だ。最初は殺してやろうと思った。何せあいつの息子なのだから。
それでも、純粋で馬鹿な彼を見ると、その価値がないと思った。あれを殺したところで業が深まるだけだ。やめた方がいいことはすぐに悟った。
蜏が火蟻の前に出る。
「おい、蛇と女王。そいつを起こしてくれないか」
火蟻が仰向けで倒れているのを二人が笑いながらツンツンしている。
ーーあんなにされれば意識も吹っ飛ぶか。
蜏のことは二人とも見えていない様子。
「おーい、聞いてくれないかな」
ようやく二人が振り返るが、完全にぶちぎれていた。火蟻に町を壊させたからではない。この空気に水を差したからだろう。
だが、こうでもしないと。いつまでもいちゃつかれては困る。
「「ナンダ」」
ーー二人とも火蟻の口調が移っているよ。そりゃそうか。だって火蟻の能力は……。
「教え」
蝗が口を開いている。
教えろーーなんて言わせない。
「ナアアアアアアアアアアア」
蝗が頭を抱えて倒れこむ。
「貴様!」
蛇の千里眼付き恐怖の瞳は目をつむるだけで回避できる。蛇の直接の目とも、千里眼とも目が合わない。
「女王さま。これに懲りたら、心を読もうとするのはやめないか。それと蛇、何をしたのかだって? 一から一億まで一瞬で数えただけだよ。僕には簡単すぎることだが、女王さまの足りないおつむでは割れるほど痛いらしい。一億までで勘弁してるんだ。だから、心を開けとか、何かを話せ、って言うのはやめてくれ。おとなしく般若心経を聞いててくれよ」
蜏が目をつむってすらすらと話す。
「本題に入るけどね、ハングドマンの本名はハングドマン・“ルクセリア”だ。これを伝えてほしいんだ……てもう起きているじゃないか」
仰向けのまま、火蟻の目が見開いている。
「女王の前で嘘はつかないさ火蟻。さて君はどうする」
罪人の息子を君はどうする?
同情する? それとも……。
○○○
魔女の森 小屋
そこにいるのは、ヘクセと、ステラの率いる星屑団。テンペランスや、エーゼルもいる。
「おい! 散って逃げるか、集まって戦うかお前が決めろ!」
「どうして、私が!」
ヘクセがステラに指示をあおぐ。ステラはなぜ自分なのかがわからない。
未来が見えるんだろ!
○○○
聖執行部跡
「レント……なの?」
女神の口に光の剣を挿し込み、髪をつかんで引きずっている……。
蝗パートーー報われなくても好きでいたい。嫌いだなんて言えないよ。だって私はあなたのことがずっと大好きなのだから。
ステラパートーー放っておけない女王さま。優しい心は彼のもの。どうかあなたが報われますように。
レントパートーー俺にとって女神がすべてだ。あなたが俺に生きる意味をくださらぬなら、俺はいったい何者なんだ。




