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不死の受命と無神論者の神  作者: 自然対数
第三章 女王の愛は星よりも重く
69/155

どうか

 ステラサイド 神聖王国アフリカ 王宮内


 基本的には前回の作戦と同じ。だが、今回の作戦の肝はスノーだ。蘭央とは違い、『ふええ』などと弱気なことは言わない。なぜなら、今の彼女は白雪姫スノーホワイト全盛期のころと瓜二つだからである。


「ああ、ずっとこのままでいたいわ。誰がすき好んで『わたち』などというか」


 とは言うもののこの状態は長く続かない。ヘクセができるのは悪魔の瞬間的な憑依であり、つまり彼女が呼べる悪魔の持つ能力しか行使できないのだ。

 雪が降るように静かにゆっくりと歩く。スノーのいまの姿はその場にいるすべての人間を魅了していた。その証拠にホールにいるすべての人間が彼女へ目を向けている。あの男も含めて。


「おっ、綺麗な姉ちゃんじゃねえか。こっちにおいで。俺といいことしよう」


 この男もまあすぐに引っ掛かる男である。後で何か起きても全部金で解決していたのであろうか。


「ええ、王様に見初められるなんて、嬉しいわ」


 スノーがゴールド二世の手を取りついていくことを確認した。

 エレミットの調査ならびにヘクセの千里眼によれば、今日は氷帝も英雄もいない。彼らのような正義感のある人間はこの作戦では邪魔でしかないのだ。

 唯一の客人は欧州連邦の総帥だが、彼は後ろ暗い噂があるため、懸念材料にはなり得ないだろう。


「レ、レグルス様あああああああ」


 スノーはゴールド二世の手を思いっきり振り離し、レグルスと呼ばれた男の元へ駆け寄る。


「好きです。握手してください」


 レグルスと呼ばれた男はスノーと並んでも遜色ないほどの美形だった。金髪の碧眼だが、どこか高級な棺桶を思わせる。

 レグルス・ネクロフィリアーー欧州連邦の総帥である。


「え、僕はそういうのやってないんだ。ごめんよ」


 レグルスはスノーを軽くいなす。だが、彼女には関係ないようだ。


「こんなところで会えるなんて! ずっとずっと好きでした! 誰か他に好きな人がいるんですか! いないなら私と!」


 スノーは詰め寄るが、脇にいる黒装束の護衛に阻まれた。

 当たり前である。欧州連邦の総帥レグルスに言い寄る女は数あまた。いくら美人とはいえ、スノーもまたその一人に見えたのだろう。


「ごめんよ、お嬢さん。お嬢さん、きれいだから。お嬢さんが死んだら付き合ってくれませんか? それまで待ちますよ」


 死んだら付き合ってくれませんか……意味がわからない。噂は本当なのだろうか。スノーも分かってないにちがいないが、とりあえず頷いている。


「わあ、うれしい。じゃあ、連絡先を。握手もいいですよ」


 スノーとレグルスをにらみつける瞳が八つ。透明化したエレミットとヘクセ、ステラそしてゴールド二世。


「おい、その女は俺が見つけたんだぞ。何してんだよ!」


 この時ばかりはエレミット、ヘクセ、ステラはゴールド二世の方を応援した。


スノーの行動は完全に作戦外だ。


 予定外の行動をされてはステラとしても気にくわない。


「何だい? 男の嫉妬は醜いよ」


 レグルスはゴールド二世に笑いかける。


「ふん、おい女! これやるから体貸せよ!」


 ゴールド二世は金塊を二人の足元に投げつける。そんなものスノーは拾わない。彼女はそれだけの金塊で済むほど安い女ではない。


「君は本当に何でも金で買えると思ってるんだね。クズはお引き取り願おう」


 レグルスが目を向けると黒いローブを被った護衛達がゴールド二世を囲む。


「な、何だよ。これでいいか!」


 金塊をゴロゴロ落とす。だが、だれもそれを拾わない。ローブの護衛たちはただじっとゴールドを見守るだけ。


「そんなものはいらない。我々の欲しいものは命か、安らかな死だけだ」


 護衛の一人が呟く。それはまるで死人のように。


「お前ら何なんだよおお」


 ゴールド二世が逃げ出した。


 ーー逃がすか!


 作戦は違うが仕方がない。逃げるゴールド二世の前。ステラたちは姿を現す。ヘクセが手をかざすが、それは……。


「まずい、金分身だ……」


 確実に捕まえなければ、この部屋に溶け込まれてしまう。判断ミスだった。

 金粉が舞う。

 逃げるのはステラ達の方。逃げ回る間に、ヘクセが詠唱を始める。


「ごめん、スノー」


 置いていきます。


 ○○○


 無事? レグルスと連絡先を交換したスノーはすでに幼女に戻っていた。


「全く、わたちのことを何だと思ってるんだ! 置いてくなんて酷いじゃないか」


 プンプンと金の床を歩く。どうせ回収してくれるだろうと安心しているからこそ、こうやって怒ることができる。


「君、迷子?」


 スノーは誰かの足にぶつかった。


「レグルス様……」


 一度別れた人ともう一度会うのは何となく気まずい。だが、それが好きな人であれば別だ。


「君、親御さんは?」


 レグルスの方は気がついていないようで、心配そうに尋ねてきた。


「……いません」


 レグルスはスノーと目線を合わせるためにしゃがんだ。


「そっかー。じゃあ、一緒においで」


 レグルスはスノーと手をつないで王宮の外に向かう。

 その手はひんやりと冷たい。死人と遊ぶかのように。


「大丈夫? 本当に親いない?」


 スノーが黙って頷いたところで、魔女の森からヘクセに引っ張られた。


「あれ、おかしいな。いなくなっちゃった」


 レグルスは懐から出したナイフを舐めた。


 ○○○


 魔女の森 小屋


「お前なあ、『わたちに任せろ』っていっただろ。何なんだあれは」


 ヘクセは箒でスノーの頭をポンポンと叩く。

 スノーの勝手な行動のせいで作戦は台無し。全員はかんかんに怒っていた。


「だってええ、レグルス様がいたんだじょお」


 スノーが頭を押さえながらムッとする。


「おい、スノー。お前の目的は?」


 サンは蘭央にした質問と同じ質問をした。


「世界征服……」


 スノーがうつむく。


「お前……尻、軽すぎないか」


 この流れはまずいとステラは目を光らせた。


「この尻がな!」


 サンはスノーを抱え、ペチンペチンと尻を叩く。しつけとしては正常だ。


「痛ったあああああい」


 叫んだのはスノーではなくエレミット。ステラは鞘付きの日本刀で思いっきり頭を殴った。未来視で見えた光景はとてもではないが口には出せない。


「何するんですかあ」


 エレミットは頭を押さえてうずくまる。


「お前……よだれが出てんだよ! 蘭央ですらアウトなのに……こんな幼女……ケダモノ……」


「けだもの? ふふっ、案外本当に私はケダモノかもしれませんよ」


 エレミットの牙が光る。妖しい笑顔にステラの背筋が凍った。


「どうしましょうか。このままだと女王が帰ってきたときに、『お前ら何してたんだ』となりますよ」


 ステラが頭を抱える。


「もう、アリスちゃん一人いれば一発なのにい」


 蜜蜂が頬を膨らませる。今の彼女に人の願いを叶える力はない。蝗にそう言われたので、使うことができない。自由な意志を与えられている理由は“傀儡であることを自覚させるため”である。それがアリス・クイーンハートの復讐。


「それにしても……」


 全員が一斉にため息をつく。


「女王様、報われると思う?」


 ステラが皆に問いかける。


「どうかなあ。女王様はあれで結構、かわいいし、尽くすタイプだし、でもなあ」


 サンが頬杖をつく。


「そうなのよ! ウルフを尋問したのも火蟻のため、火蟻と蛇に発破をかけたのも火蟻のため」


 ステラが指を折る。


「もっと、あるわ。火蟻の仇にとどめを刺したのはアリスちゃんの言葉なのよ。ふふっ、おかし」


 蜜蜂の言葉に一同が驚く。


「なんか、腹立ってきたじょ。女王ちゃまがこんなに尽くしているのにあいつは何なのだ!」


「あの男……許さん」


 スノーと蘭央が憤慨する。


「まあ、仕方ないよ。くちなわがあんなにアプローチしてやっと気づくんだよ。まして、誰にも、絶対に好きだと言わず、微塵もそんな素振りを見せない女王様は……うーん。でも、気づいちゃったらきっと蛇が……」


 ステラが頭を抱える。


「もういっそ、火蟻、蛇、女王様じゃだめかな」


 エレミットが呟く。


「まあどうだろうな。三人がそれでいいって言うならいいんだが。たぶん、火蟻が“そんなのだめだ、一人に決めなきゃ”って言うだろうな。そして二人はそんなところが好きなんだろう? まったく、ほんと、三人ならいいのにな」


 ヘクセが遠くを見つめる。

 アリス・クイーンハートの話は終わり。ステラはやるべきことをやらなければいけないのだ。


「女王様の話じゃなくて、ゴールド二世の話をしましょう。たぶん、ハニートラップはもうだめです。他に案は?」


 美女が七人もいてハニートラップができないとはーー発案者であるエレミットは想像もしていなかった。


「誰かに頼る?」


「うーん、例えば?」


 サンとステラが首をかしげる。


「ちょっと遠いけど……」


 エレミットはある少年の名を告げる。


 仕方がない。強行突破と行こう。




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