彼のもの
魔女の森 小屋
七人だと窮屈に感じるが、その方が密に会話ができる。全員が木の床で輪になって話した。
ステラは輪の中に資料を投げた。
「さて、ゴールド二世について少し調べました。バラバラだったアフリカをまとめて束ねて作ったのが、神聖帝国アフリカーーというのは言うまでもないですね。その一代目の王様がゴールド一世。使った力はただ一つ、金です。おそらく、息子の力を使ったんでしょう。それでも、あからさまに金を使いだしたのは一世が死んでから。さすがにあの建物はないよね」
ステラが話を続ける。
「まあ、国内の人はあれで喜んでるよ。何もしなくても金が降ってくるんだから。警備員のやる気がないのもそのせい。だけど問題は他の五つよ。特に新ソの氷帝がぶちギレてるわね。氷帝以外もちょくちょくあそこに行くみたい。潜入するなら五人がいないときに限るわ」
「それは私が千里眼で確認しよう」
ヘクセが自分の目に手を当てる。ヘクセがアンドロマリウスを“降ろしてくる”のでヘクセの目に特殊なものはない。
「ゴールド二世に関して言えば、彼が天賦か人工異能かでかなり変わるわ」
「何でだ?」
ステラの言葉にサンが疑問を投げかける。
「人工異能なら、被害者でしょ。独裁者の父親が、自分の子供を監禁して、『金があふれる、とか、金を出せ、金を作れ、あるいは私たちは金持ち』だと吹き込むんだから。一方、天賦ならまあ、息子から金が沸いたら使っちゃうでしょ。むしろ、民のために使うとしたらむしろいいほうだと思うわ」
ステラの話に入るのはスノー。
「でも、ゴールド二世がどんな人間かなんて関係ないじょ。征服するだけだじょ。どうしてそんな話をするんだ?」
舌足らずな声で尋ねる。
号令は蜜蜂、笑うのはステラ、サン、蘭央
「モチベーションの問題よ。だって」
「「「「悪人には最強の力で正義の鉄槌を」」」」
ステラが刀を投げた。刃はゴールド二世の写真へ直行。
「作戦会議にしましょう。ゴールド二世は金塊を作る能力。さらに金塊を操作する自由度の高い能力ね。ですがあ、我々の中にも金を操れる人がいます!」
ステラが笑顔で問いかける。
「ああ、ババアか」
「ババアだな!」
「ババ様!」
「ババアさんですね」
「ババーー」
「お前にだけは言われたくないぞ、蜂の巣。お前もババアだろ」
魔女は箒で蜜蜂の顔を突く。蜜蜂は素早く箒をつかんで防御。じゃれ合うようなやり取りだったが、スピードは恐ろしく早く、ステラの目でさえも追うことはできなかった。
「え、ええ……ババアです……じゃなかったヘクセね。だけど、ヘクセは隙をついて、相手を傀儡にする役目があります。そこで、皆さんはゴールド二世の本体を見つけて、戦わなければいけません。案はありますか?」
エレミットが手をあげた。
「そもそも、戦う必要はないかと……」
「どういう意味?」
「例えばハニートラップです。ああ、蜜蜂は関係ないですよ」
目を光らせた蜜蜂は一瞬でショボンとなった。
「まず、顔の割れていない蘭央さんが、ゴールド二世に近づき、二人きりになります。お気に入りっぽいのでここまでは意外とすんなり行くと思います。個室に入ったゴールド二世は絶対に本物ですよね。そこで、透明化していたヘクセが精神操作で作戦遂行です」
ということで、神聖王国アフリカ王宮内。
「ふええぇ、無理だよお」
今いるのは、聖 蘭央ーーただ一人。一応、“敵としては”面が割れていない。入るまではエレミットが手をつないでいたが、今はもういない。
ステラ、ヘクセ、エレミットは透明化で見守る。残りは留守番だ。
作戦としてはまず、この辺をうろうろして、ゴールド二世に見つけてもらうこと。見つけてもらうことなのだが……。
「ううぅ、恐いよお」
ラオウ化をしていない小娘モードだと彼女はなにもできないようだ。アンデルセンの宮殿の門番の面接もラオウで行ったらしい。もちろんその時は服を着ていた……ことを願う。
隅の方でじっとしている。こんなのでは見つけてもらえるはずがない。
透明化したステラはイライラしたが、そうも言ってはいられない。
宮殿内を歩き回る女性はみんな蘭央よりもずっと綺麗に見えるーーそんなことを蘭央は思っていたのかもしれない。本当はそんなことないのだが。
「すん、すん」
隅の方で動かない蘭央。“しゃがんでいる”と見つけてもらえない。
「大丈夫ですか?」
壮年の声。顔をあげて、見たその人物はーー。
「イ、インシオン」
印華の大統領だ。一応面は割れていないが、ビックリして逃げてしまう。
「ひいいいいいいいいい」
人ごみをかき分けて走る。走る。走る。走る。だらだらとした空間に一人だけ全力疾走の女性。目立たないはずがない。
そして、蘭央は腕を捕まれた。
「いい尻してんじゃねえか……っておい、お前は昨日の女じゃねえか? 俺が欲しくなったのかあ。まったく淫乱だなあ。ぐひひ」
サングラスの向こう。その目は見えないけれども、眼孔には欲望がつまっているはずだ。
確かに蘭央はウエストが細い癖にお尻はプリっと上がっている。小さな胸がかわいいとしたら、お尻は美しいと言える。
一応作戦は成功なのだが、蘭央の足は小鹿のように震えていた。
ーーあちゃー、大丈夫か?
「こっち来いよ!」
ゴールド二世が蘭央の手をとり、引きずるように歩き出す。
「おい、テメエ。女性に何てことしてんだ!」
誰もが見て見ぬふりをする中、ドスの聞いた渋い声でゴールド二世を引き止めるのはインシオン。
「うっせえぞ、大統領。これの催促か? これがほしいのか?」
ゴールド二世は金塊をインシオンの胸に擦り付ける。インシオンは無表情でそのすりつけてくる金を見下ろした。
「そんなものはいらない。そんなものがなくとも俺は人々に愛されている。だからそれに答えて一生懸命仕事してる! なのになんだお前は! 昼間っから女の子を捕まえて、みっともないとは思わないのかああ!」
王宮内を響き渡るドスの聞いた声。誰もがインシオンの方を向く。演説で鍛えられたのか、はたまた生まれつき大きいだけなのか。その声は、場の全てを魅了する。だからこそ、彼は英雄と呼ばれるのかもしれない。
「なっ、なんだよ。おっさんが調子づいてんじゃねえぞ」
捨て台詞を吐き、ゴールド二世はそそくさと逃げる。
「お嬢さん大丈夫ですか」
「ええ、ありが」
ありがとうございます、と言おうとした所で、蘭央はインシオンの人差し指を唇に当てられた。
「感謝は結構。君はエイジア人のようだね。もし、印華の子なら是非次の選挙でその気持ちを示してくれ。違ったなら……まあ、印華の友達にでも伝えてよ。じゃあ」
そう言ってインシオンは蘭央と握手をして去っていった。
ーーえ、おわり?
○○○
魔女の森 小屋
「……っていう感じです」
蘭央たちは一度、魔女の森に戻った。王宮に行ったのは蘭央、ステラ、ヘクセ、エレミットだけ。あんまり大勢で行っても前回のように誰かを置いていってしまう可能性を考えてだ。
「で、お前は“次の選挙はインシオンにいれた方がいい”って言ったのか……お前の仕事は何だった?」
サンがおでこに手を当てつつ尋ねた。
「ハニートラップで本物のゴールド二世を捕まえること……です」
「そしてそのゴールド二世をステラたちが討つ」
蘭央が頷いた。
「お前は誰の味方だ? 印華の英雄か? それともアリス・クイーンハートか?」
蘭央は下を向いて反省している。
「お前……尻軽すぎねえか?」
サンは薄目で蘭央をにらみつけた。
「ふええ、ごめんなさい」
「こんの尻がなああ」
サンが蘭央のお尻をがっと掴み、揉んだ。
あまり厳しくするのもよくない。これから長いのだからーーそういう判断でふざけたのかもしれなかった。
「にゃめえええ」
蘭央が悲鳴をあげる。
「私もいいですか」
エレミットはじゅるじゅるとよだれを垂らし、もう片方のお尻を揉みしだく。
「ううぅぅぅ、ちょっ、ほんとに、や、め、ふむうううう」
最初は頬を染めながら、抵抗していた蘭央だったが、次第に無抵抗になっていき、目がとろんとしてきた。
「ん、んはあー、はあ、はあ」
サンは途中で引いてやめたが、エレミットはやめない。両手を使って夢中で揉む。蘭央とエレミット、どちらの目ももうこの世界にはいない。そしてーー。
「あっ」
「ご、ごめん」
全員が頭を抱えた。目の前の光景は悪ふざけの末路。
「やりすぎだ……」
蘭央は服を着替え、エレミットは反省中だ。
「まあいいや、ステラ。どうすんだ」
「えーっと、誰か作戦を……」
ステラは他の人に作戦を尋ねた。横目でヘクセを見るが、肩をすくめるだけ。エレミットは反省中で部屋から放り出している。
「へんちん能力はあるのか?」
スノーがヘクセに尋ねた。幼すぎてろれつが回っていない。
「へんちん……変身か? 難しいな。変わるにも限度があるし、時間制限もある。それで構わないなら比較的、位の低いやつにいるが……」
ヘクセは悪魔を一時的に下ろすことができる。もちろん誰でもいいと言うわけではないが、スノーが欲する能力をもつ悪魔が存在するかもしれない。
「それで大丈夫だじょ! じゃあ、わたちに提案があるぞ」
作戦決行は明日。




