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不死の受命と無神論者の神  作者: 自然対数
第三章 女王の愛は星よりも重く
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言えないよ

 いなごサイド マイアミース 観光街


 様々な建物、人種。潮風香る観光都市マイアミースの中央広場。憩いの場であるらしく、ここでランチを食べている人もいる。こんなところに呼びつけておいて、かげろうは遅刻をした。いなごたちは何時間も待たされたのだ。


「ああ、ごめんごめん。遅れちゃったよ」

(………………………………………………………)


「お前、本当に人間か?」


 いなごが聞いたのも無理はない。目の前にいる男は何も考えていない。そういう人間も稀だがいる。

けれども蜏には心があったはずだ。今はもう無くなってしまったのか。あるいは最初からそんなものは持ち合わせておらず、今までのはすべて演技だったのか。蝗は疑いながら蜏をにらみつけた。


くちなわは!」

くちなわくちなわくちなわ!)


 火蟻が叫ぶ。頭の中はくちなわでいっぱいだった。無理もない。蛇は火蟻の心の依り所なのだから。


くちなわはどこにいる? 話せ」


 女王の命令は絶対であるはずだが、様子がおかしい。言葉は通じず、心もない。それはまるで……。


「今は言えないなあ。まずは僕を倒してもらわないと」

(………………………………………………………………………)


「火蟻、様子がおかしいぞ。こいつは……しまったこいつはかげろうではない! 奴の作った機械兵器だ!」


「今、気づいても遅い」


 蜏の目が光る。


「星団式 始動」


 偽蜏がレオナに手をかざした瞬間、レオナの様子がおかしくなった。


「レオナが!」


 レオナが操られ、広場内を駆けずり回る。獅子の咆哮に人々が逃げ回った。

 いなごが止まれと言えば逆に、人々が止まってしまう。今、彼女はなにも言えない。言うことができない。

 どうしようか迷っていると、火蟻が蝗の手をとった。


いなごは後ろに下がってな。僕が、機械を壊して、レオナを捕まえるよ」

(これは、いなご向きじゃないな。女王様は僕が守ってみせる)

 ーーお、お前何考えてんだああああ。やめろやめろ。決意がぶれるじゃないか。なに、気障なこと考えてんだよお。


 火蟻はまず、レオナを箱で囲み、杭を刺す。それで、彼女は終わり。骨の間に杭が刺されば、激痛を我慢しない限り動けない。

 問題は偽蜏にせかげろうの方。“それ”は飛び上がり、太陽を掲げる。


「黒縄・等喚受苦処」 


 上空に土鎖が伸び、偽蜏かげろうを掴むが、煙となって消えた。


「ほーら、そんなんじゃダメだよー。エレミットは範囲攻撃じゃないと」


 蜏がプログラミングしているのは、エレミットたちだ。恐らくはスノーやステラの能力も使えるに違いない。

 偽蜏にせかげろうは火蟻の後ろ。火蟻を殴り飛ばし、姿を消す。


「ほらほらほら」


 上空から炎弾。いなごに降る炎を、地面から生える土壁が防ぐ。


いなご!」

(危ないから近く来て欲しいな)


 ーーダメだダメだ。“危ないから”近くに来て欲しいんだ。危ないからなんだ。勘違いするな。


 いなごは不承不承、火蟻に駆け寄る。戦闘能力ゼロで、聖でも何でもない。走り方はきっとただの女の子みたいになっているに違いない。


「等喚受苦処」


 鎖が上空に伸び、さらに鎖から陶器の刃が伸びる。


「ねえ、話聞いてる?」


 地面に降りた偽蜏かげろうは火蟻に発破をかけた。


「人殺しになっちまうだろ」


 まだ、広場には逃げ惑う人々がいるのだ。剣林処、煙火林処は使えない。避難するまで時間を稼がねばならない。


「なるほど、じゃあ、こうしようかな」


 かげろうが現れたのはいなごの隣。どこからかだしたラッパを構え、大きく息を吸い込んだその時、火蟻の片目が充血する。


「黒龍!」

(グウウアアアアアアアアアア)


 黒龍が偽蜏にせかげろうを呑み込んだ。だが、もちろんそれは幻影。霧のようにきえる。

 火蟻はすぐさま黒龍を引かせた。


(黒龍はいなごを守レ)


 黒龍はいなごを中心にとぐろを巻く。


「僕だけ構っててもいいのかな? そろそろ獅子が復活するよ」


 轟音と共にレオナが姿を現した。

 レオナは一直線で黒龍に向かっていく。


「ああ、レオナさんは黒い炎に耐えられるかな?」

(黒龍を消すかレオナを止めるか……レオナだな。蝗はあくまでただの女の子なんだ)


「等喚受苦処」


 火蟻はレオナの手足と首を鎖で縛る。呻くレオナ。


「すこしのあいだ寝ていてくれ」


 鎖から生えた陶器の刃がレオナの首をはねる。黒龍はいなごと共に、レオナの体を守った。


 周りには人がいない。炎やら黒龍は彼らからすれば厄災だったのだ。普通に生きている人からすれば、それは世界の終わりか何かのように見えるであろう。

 潮時だ。


「叫喚・煙火林処」


 熱風が辺りを包み込む。土は吹き荒れ、焼けるような風が偽蜏かげろうを襲った。


「あーあ、もう終わりか」


 残念そうな言葉を残し、偽蜏かげろうは火蟻の前方でスクラップと化す。


「大丈夫?」


 充血が解かれ、黒龍が消える。中にいるのは気絶したレオナと、申し訳なさそうないなご


『悪い。何にもできなくて』


 いなごがスケッチブックを見せた。


「いいよ、相性があるんだから」

(怪我ないみたいだね。良かった)


 ーーくっ、私に優しくするな…….。


 火蟻が偽蜏かげろうに近づく。ごそごそと機械の内蔵を掻きむしり、手紙を見つけたようだ。


「クソ、あいつ、何がしたいんだ?」

くちなわ……大丈夫なのか。どこにいるんだ。クソ、クソ、クソ)


 手紙の内容は、


『あらあら、ごめんね、怒ってる? へびの体はまだ清い。早くしないと穢れるぞ。遅刻は厳禁、遅れるな。期限は明日のお昼まで』


「クソッ、絶対に助け出してみせる」


 ○○○


 破壊者サイド マイアミース 観光街


「「「ありがとうございます!」」」


 広場近くの路地。レンガ造りの建物で囲まれる通路。障壁が人々を守る。飛んでくる炎弾は全て、ブレイカーが受け止めているのだ。厄災に向かって、身体を張って人々から守る姿はまさに天使。彼だけは本当に本物の天使なのだから。


「みなさん、お怪我はないですか?」


 天使は正しく微笑んだ。機械のように。

 ーーんでこんな話し方をしなきゃいけねえのか。ったくやんなっちまう。顔も無理矢理変えなきゃいかねえし、何がおかしくて俺は笑ってんだ?


「そちらのかわいいお嬢さんも」


 とりあえずお嬢さんと呼んでみた。まだ年端もいかない。頬を染めているのは、人見知りだろうか。

 ーー誰でもいいって訳じゃねえんだろうが、この子で本当に大丈夫なのか?


「では、私はこれで」


 地面を蹴り、太陽に向かって天使は飛び立つ。


「あの、あなたは天使様ですか?」


 少女が天使の背中に叫ぶ。


「内緒ですよ」


 天使は振り返り、口に指をあて、片目をつむる。

 ーーあー、何やってんだか。破壊の天使が聞いて呆れる。こんなのラフィやジブに見られたら笑われるね。


「じゃあね」


 天使は光と共にその姿を消した。


「天使様! これ、落としましたよ!」


 女の子が掲げるのは一冊の本。

 

 ○○○


 蜏サイド ヒュージマンハッタン島 中央公園

 広い公園内、人工の林、湖、芝生。

都会のど真ん中に本当の自然は存在しない。

 ベンチに腰掛けるのは一人の美女と四人の美青年。それと包帯でぐるぐるに巻かれた人型。奇怪に見える彼らの姿を誰も認識できない。

 遅刻したあげく、間に合わないと踏んで使った偽蜏は失敗。しかも遅刻は遅刻だった。

 それは想定内で、ちょっと遊ぼうかなと思っただけだ。だが、問題は。


「あーあ失敗した。てっきり、くちなわあああからのいきなり無間暗処だと思ったんだけど」


 かげろうが湖をボーッと見て話す。向こうではカヌーが流れている。人工とはいえ、のどかで気分が落ち着く。


「いや、そりゃそうでしょ。人殺しになっちゃいますから」


 ノッドが慰めた。


「あいつの愛ってのはそんなもんなのか。好きなんでしょ」


「だからといって、きっかけゼロでいきなりプッツンいくわけないでしょう。だいたいくちなわの姿を見せないと意味ないでしょう。全く」


 かげろうには最高の頭脳がある。だが、心の話はあまり強くない。だからと言って、精神病質者でも社会病質者でもない。“人として普通に心が分かるし、分からない”のだ。簡単に言えば、頭がいいだけの子供なのである。


「じゃあ、くちなわ連れてきます。でどうすんの? 目の前で犯すのはさすがにダメでしょ。僕もそんなことしたくないし。無間地獄になっちゃうよ。どうすればいいの?」


 かげろうが頭を抱える。世界征服とは別の目的からいっても、蛇に乱暴するのはもっとも好ましくないことの一つだ。


「じゃあ、キスでもする?」


 ノッドが提案する。


「馬鹿だねえ、あんたら。その二人はいま、熱い訳でしょ? それに、そのくらいの女の子にとってキスってのは特別なものなんだよ」


 リサが言い放つ。


「じゃあ、どうすればいいの?」


「いいかい……」


◯◯◯



「そっちの方が怒るんじゃないの?」


 かげろうが不安に駆られる。大丈夫なのかと。いい感じに切れさせないといけない。あまりに何もしないと先ほどのようになるし、やり過ぎると無間地獄だ。


「まあ、それくらいならプチ切れぐらいですむんじゃないかしら。男の子の庇護欲、独占欲を適度に掻き立てつつ、純粋に怒ると思うわよ」


「そんなもん……か?」


「っていうか何であんたわかんないのよ? 女の子と付き合ったことないわけ?」


 リサがムッとした。


「まあね。でも僕は大人気だったんだよ。研究所の中でも外でもね。女の子に引っ張りだこだったんだから。僕はほら、顔もいいし頭もいいからさ」


 かげろうが遠くを見ながら答える。冗談を言っているーーつもりなのだが、本当のことなので誰も否定しない。


「お前……友達いたことないだろ」


 リサが横目で蜏をにらんだ。


「そんなことな……そうやって僕の過去を探るのは止さないかい。信用できるかどうか確かめたいのはわかるけどね。君たちのなれそめでも教えてくれれば考えてやらなくもないよ」


 蜏はノッドとリサに尋ねた。すると。


「リサってば、会ったときは僕にゾッコンでばああああ!」


 真っ赤な顔でリサがノッドを殴りつける。照れ隠しのつもりだろうが、スクラップにするのはいただけない。


「あーあ、また遅刻だな」


 ブレイカーがぼやく。

 リサがノッドをボコボコにして終了。ノッドは目を回しながら倒れている。リングと羽からはコードがはみ出ていた。

 壊れたノッドの天使パーツを治すため、一同は再び、レントの部屋に戻ることとなった。


「あーあ、遅刻だ……」



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