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不死の受命と無神論者の神  作者: 自然対数
第一章 罪人に送る地獄の業火
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絶食

 USAT フローリダ半島 マイアミース港 倉庫街

 五人のうち最初に脱出したのはレオナであった。暗闇の中、彼女は身体中をコンクリートの杭で貫かれながらも力ずくで肉を杭から引き離す。


「んんんァァァ!」


 ミチミチミチと腕の肉が杭から離れる。もはや死んだ鳥のようになってしまった腕だが、もう再生し始めている。だが、痛覚が無いわけではない。

 すぐさま再生した腕で、足に刺さった杭を抜く。幸い、腹には刺さっていない。ここには紋章がある。刺さったら砂になって消えてしまう。

 轟音と共にレオナは姿を現す。


「まったく、痛め付けるだけ痛め付けて。悪魔が」


 豊かな金髪を掻き上げて悪態をつく。白い制服がボロボロになってしまっているが、それが逆に劣情を煽り立てる。シャルロットやテンペランスではこうはならない。彼女らだと犯罪の臭いしかしない。


「みなさんは大丈夫でしょうか」


 そう言って彼女は仲間の救出に向かった。


 ○○○


 コンテナとコンテナの間を叫び声を頼りに探す。

 まず、彼女が出会ったのは頭に鎖を巻いて騒いでいる異常者だった。ガンガンとコンテナに頭をぶつけている。

 頭をぶつけたから、おかしくなったのか。おかしいから頭をぶつけているのか。


「ぬがー、これを取ってくれ!」


 異常者ではなく正義子であった。レオナと違って制服が汚れていない。ちゃんと戦ったのかとレオナはムッとするが、正義子に限ってはそんなことないことくらい知っている。

正義子はあのとき救ってくれたのだ。あのとき正義子の心の奥にあるものが、レオナにも伝わってきた。

 ーー私はここから出て、正義を成さねばならない。

 その言葉は今のレオナの根幹を成している。もっとも、シャルロットをからかうのはやめられないが。

 レオナは近づいて、鎖を掴んだ。結び方が複雑だったようだが、関係ない。力でねじ切る。


「ぷふぁー、助かったぁ」


 正義子は息がしやすくなり、スッキリとした表情だ。レオナは杭で貫かれていたというのに正義子は頭を鎖で巻かれるだけ。

 ーーあいつ、私に恨みでもあるのか。


「ほかのみなさんは?」


 ーー他のみなさん……というかレントさんはどこですか。


「向こうで爆発音がなりました。たぶんあっちです」


 正義子はコンテナの向こうを指差す。


 ○○○


 そこには人一人が入れるようなコンクリートの箱が二つと、四肢を鎖で縛られ、地面に貼り付けられたレント・ルクセリアがいた。


「ちょっとー、早く助けなさいよー」


 正義子が声のしない方の箱を見つめて、目の中に入れる。吸い込まれる箱。

 中にはテンペランスがいた。彼女の制服はレオナほどではないにしても汚れている。

 もう一方は見つめるだけ。何も起こらない。ただ、見つめるだけ。にらみつけるだけ。


「ちょっとー、ねぇってばー」


 レオナは声を無視しレントの鎖を引きちぎる。レントは気絶しているようだ。よほど疲れたのだろう。

 ーーそれにしても可愛い寝顔!


 ○○○


 目覚めると、レオナと正義子とテンペランスがこちらを覗き込んでいた。


「大丈夫ですか」


 夕日を背にレオナが優しく話しかけてくる。レオナ、正義子、テンぺ……誰か足りなくない?


「ちょっとー、早く出しなさいよー!聞こえてるんでしょ、ねぇ。ねぇ、いるんでしょ」


 後半はもう泣きそうだ。


「出してやれよ」


 もちろん、俺が出してやりたい。だが、あのコンクリートの箱をどうやって退けるのだ。


「私には聞こえません♪」

「なんのことだか」

「私がやったら箱が縮んで中のシャルさんつぶれちゃいますよ。」


 なぜ、みんなシャルを嫌うのか。レオナはいつもなぜか無視するし、テンぺは能力上、本当にできないのだろう。多分、中がつぶれる。正義子は……あぁ朝のまさよしこの件か。俺はいいのか?


「まったく」


 レントは三人に背を向けて箱に向かって歩き出す。とりあえず声はかけてあげよう。

 その瞬間、衝撃波が走り、箱が壊れる。

 何事かと振り向くと、迷彩柄のジャケットを着た少年が立っていた。自分達より同年か若干年下だろうが、その目は火蟻のそれにそっくりだ。さすが悪魔は悪魔だな。紋章を見なくてもわかる。

 情報端末から警戒音が鳴る。その悪魔はサバキからの警戒音よりもはやくここへきたのだ。


「到着だ、クソども」


 ○○○


 はりねずみは火蟻のようには出来ない。火蟻には相手を無傷で捕らえる力がある。だが、彼にはどうしたってそれは出来ない。

だから彼は捕まえるときは必ず針を使って眉間かうなじに刺す。そうすれば向こうは気絶するのだ。強力な意志を持って再生されない限りは。


「まず、赤髪の女の子」


 そう言うと、はりねずみは姿を消す。


「瞬間移動か!」


 蝟はシャルロットの背後にまわった。

 シャルロットは振り返らずにホルダーの中の銃の引き金を引く。銃弾が地面に達する前に銃弾は真後ろに向かう。

 だが、銃弾が届く頃には、蝟の姿はない。今度は逆にシャルロットの前に現れる。


「それが、銃弾操作かー。遅すぎてあくびが出るね」


 蝟は本当にあくびをした。


「なにいいー、レント、こいつ、ムカつくわ!穴だらけにしてやる」


 そう言ってシャルロットは全弾を撃ち尽くし、あり得ない軌道で銃弾が蝟へ向かう。それでもシャルロットの銃弾は蝟に届かない。彼にとって銃弾はのろのろしすぎている。追尾したところで驚異にはならない。


「はぁ、遅いって」


 溜め息とともに姿を消し、シャルロットの背後にあらわれ、


 シャルロットのうなじに針を刺した。


 ○○○


 シャルロットはパタリと倒れる。この子は一番持って帰りやすいかな。だけど、やはり女の子に針を打つのは気が引けるなあなどとはりねずみが思っていると、


「この野郎おおお」

「ああうるさい。無能力者のレント君。年下なのは見た目だけだよ。俺にそんな口の聞き方をするな」


 蝟は呟く。

 はりねずみは次に黒髪の女の子の背後に高速で回る……つもりだった。だが、女の子の背後に回るのはやめよう。蝟にとって、それは弱者のようであった。

 強者とはこうあるべきだ。

 蝟は正義子とテンペランスの間、前方に現れ、二人の眉間に針を刺した。

さらに彼女らが倒れる前に両肩に抱えたあと、コンテナの脇まで高速移動し、優しく座らせた。


正義子まさよしこ、テンぺ!」


「お前は叫ぶしか能がないのかまったく、どうしようもないやつだな」


 そんな不甲斐ないレントのために、蝟は倒れている赤毛の女の子も二人のところに連れていくことにした。

 蝟は高速でシャルロットのところまで行き、わざわざ二人のそばまで運ぶ。


「お前、仲間に何かしてみろ、許さないぞ」


 ーーこいつ、嫌いだな。守る力もないくせに口だけは一人前に動かして、仲間に何かしてみろ、許さないぞと。笑わせるな。だったら人の話を最後まで聞け。

火蟻は毎回、まずは話を聞いてと言っている。

捕虜になれば女神が来る。女神が来れば……黒蛾と話し、ストーリーシリーズを倒す。簡単な話だ。大体あの女神はどこに隠れてるやがるんだ。見つけ次第……。


 ○○○


 シャル、正義子、テンペが悪魔に捕らえられてしまった。残るは俺とレオナだけ。それでも俺は女神と仲間たちのために剣を握りしめる。

 迷彩柄の悪魔がレオナの前に現れ、同じように眉間に針を刺そうとする。だが、

「捕まえた」

 その迷彩柄のジャケットは高速で移動した後、“普通の速さ”で針を刺している。だから、目の前に現れた瞬間、レオナはその腕を掴んだ。だが、少年が浮かべた表情は焦燥でもなく、憤怒でもなく、諦めでもなく

 憐れみだった。


「ぐああああああ」


 三歩前、レオナの腕に掴まれている少年が申し訳なさそうに立っている。少年はレオナの腕とともに、高速で下がったのだ。レオナの肩から鮮血が吹き出す。


 照明が落ちるようにレオナの意識がなくなった。倒れたレオナのうなじには、いつのまにか針が刺さっている。


 ○○○


 暗闇の中、声が聞こえる。まさ……こ。……よしこだと、どうやらこいつは死にたいらしい。私の名は……。




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