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不死の受命と無神論者の神  作者: 自然対数
第一章 罪人に送る地獄の業火
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 ハングドマン異能力研究所


 私は所長のハングドマンです。みなさんはこれから異能力者になるのです。素晴らしいでしょう。すべては祈ることで叶うのです!


 身寄りのない少年たちは、ここハングドマン異能力研究所に集められた。異能の発現は苦痛と恐怖と一滴の希望でできる。ハングドマンはそう信じている。


 ○○○


 昔は、ただのハングドマン研究所だった。所長のハングドマンと少数の研究員。研究所と言うのは名前だけで実際は普通の学校とあまり変わらなかった、と思っていた。でも、今考えるとこの時点でおかしかったのだろう。奴はきっと最初から僕たちを食べることしか考えなかったのだから。


 あるとき、研究員がいなくなり、一人の少年が先生となった。

 その頃から研究所のカリキュラムが大きく変わる。


 ○○○


「サバキ先生ちゃん、今日は何するんですか」


 先生と呼ばれたのは白衣の少年。名前を貝塚サバキという。サバキは十二、三歳くらい。先生というよりも患者のようで、顔が青白い。


「これからみなさんの脳に電極を埋め込みます、って言うとちょっと怖いかもしれないけど少し電気を流して様子を見るだけだから」


「「「「はい」」」」


 生徒であった少年たちは不安と期待に胸を踊らせた。

 僕たちも超能力者になれる。


 実際に僕は異能力者になった。強烈な思い込みによる後天的な人工能力者。だが、あれは本当に異能と呼べるのか。


 ○○○


 透視試験場

 透視試験場では五枚のカードの絵柄を当てる。

 一枚目、ここが肝心だ。ここをクリアするかどうかでこの先のモチベーションが変わる。


「丸! 」


 正直なんにも見えなかった。ただの勘で丸と言った。すると、


「残念、正解は三角です」


 それでもサバキは笑顔だった。思えばあの人は最後まで笑っていたなあ。

 二枚目、三枚目、と三連続で外したが、次は外さない。


「星形!」


 サバキは笑ってカードを裏返す。

 少年は異能でも何でもなく、ただの勘で、


「はい正解、おめでとう」


 当てた。

 四枚目を当てたものの、最後の五枚目は外してしまった。これから成長するのだから、今日はこんなもんかと思った。


 念写試験場にて。

 少年はカメラに念を送る。実際にはそんなものはないがイメージである。イメージが大切だとハングドマン所長が言っていた。たまに来るハングドマン所長は僕たちを見るたびに笑っていた。

 いつも囚人服を着ていたあいつの笑い方はサバキのそれとは違い不気味だった。昔はわからなかったが、あいつはいつもこう言っていた。


「肥えろ、肥えろ、肥えろ、肥えろ、肥えろ、異能者の方が旨そうだ。悪人こそが救われる」


 

 念力試験場ではいろいろな色のボールが机の上に並んでいる。何でもいいから持ち上げろと、もちろん手は使っちゃいけない。


「んんォォォォ! 無理で……す」


 少年は顔を真っ赤にして倒れた。


 ○○○


 普通では考えられないが、年頃の少年少女が一緒の部屋で寝かされていた。下劣なあいつは、あわよくば食料が増えることを狙っていたのだろう。だが、幸いなことに僕たちは互いを兄弟のように思っていた。だから何もなかった。最後まで。


「なんかできた? 」


 少年はみんなに問いかけた。少年の結果は芳しくなかったがそれは皆同じだ。薄闇の中、声だけが聞こえる。


「いやぜんぜん、さちは? 」


 繋いだのは白羽しらは。白羽はリーダー的な存在で丸子と同じように活発な女の子だった。だが最近は、急に潮らしくなって、色香というのが出てきたように思う。いや、最初から色香は出ていて少年がそれを感じられるようになったのかもしれない。

いま思えば黒く艶やかな髪は今のくちなわのようだった。


「私は全然だめだった。でも丸子ちゃんは透視試験で絵柄を五連続で当ててたよね」


 幸は他の二人とは違い、おとなしめの女の子だった。けれども品や尊厳というのを大事にしていた。髪は丸子よりは長く、白羽よりも短い。

その気品はくちなわが時折見せるそれに近かった。

 丸子は頭をかきながら照れくさそうに笑った。


「いやー実はあれ全部勘だったんだ」


 丸子と言えば元気な女の子。男みたいな女の子。聡も明も僕も丸子よりは活発ではなかった。短髪で活発な男みたいな女の子。彼女を一言で言えばみんながこう言った。

目元がくちなわにそっくりで愛くるしい女の子。その魅力に気づかないままで……。


「その勘こそが超能力なんだよ君。わかってないなあ」


 得意気なのはさとる。聡は、眼鏡をくいっと上げて得意気に知識を振る舞うやつだった。少年はいつも感心して聞いていたけれど、明は『物知りはわかったから、今言うことじゃないよ』って突っ込んでいた。本人にはその気がなくとも聡が一番のムードメーカーだった。


「まあ聡くん全問不正解だからね。ある意味超能力だ」


「僕のはあえてさ。あえてはずしてやったのだよ。丸子さん」


「なんではずしたの?」


「あれだよあれ。あのー。えー。なっ明、あれだよな」


 男の子は少年と聡と明、鳩の四人で、特に聡と明は仲良しだった。明は聡の横でよく突っ込んでいた。明がいなかったら聡はただの変なやつ。もしかすると嫌われていたかもしれない。明は最後に一番意地を張ったやつかもしれない。明の誇りと覚悟を忘れてはいけない。


「開き直っても、聡。僕は君の味方のときとそうでないときがある。今はそうでないときだ」


「そんなああああ」


「んで、やっぱり鳩は全問正解?」


 少年が尋ねる。


「いや、あえてはずしてやったさ。だがなあ、今の僕では……まだ、すまない……」


 時より鳩は遠くに目をやって、申し訳なさそうに少年たちを見つめていた。あれは何を意味したのか

 毎日を幸せに過ごしていた。幸せすぎるほどに。


 ○○○


 数年後、鳩がいなくなった。

 我々一族は人に売られ、そこで使命を果たす。ここでの使命がハングドマンに食い殺されることならば、“そういうこと”になったのだろう。

 確かに異能を発現したのは鳩だけであった。

 この時点でいなくなった鳩は果たして幸せになったのだろうか。それはわからない。

 だが、少なくとも残っていたら、いや、あいつがいれば……。


 ○○○


 少年が青年になって月日が流れたある日の朝。サバキはもう十歳以上も年下になってしまった。

いつも通り起きる。空のベッドが六つ並んでいる。

寝室にはもう誰もいない。青年は相変わらず早く起きられないのだ。いつも起きるのが一番遅かった。ずっとあのまま起きなければ……いや起きていても変わらないはずだ。でも後、一時間遅く起きていたなら……やめよう。仕様のないことだ。でも、でも、でも……クソッ。

 廊下を過ぎ、まずは礼拝堂に向かう。礼拝堂の中は荘厳な雰囲気で周りを女神の油絵で囲んでいる。よく幸が中心にある巨大な女神像の傍らで読書をしていた。

美しいね、と。あの女神よりも幸の方がよっぽど立派だったし、実際、どちらが美しいかと問われれば幸の方が美しいし、白羽や丸子も少なくとも女神よりは綺麗だ。この頃になるとさすがに、三人が美人なのに気がついた。遅すぎたのかもしれない。

 女神の石膏でできた巨大な女神の像に今日もお祈りをする。

何てことしているんだ。そいつは未来の仇なのに。


「今日も一日、幸せでいられますように」

『女神、僕はお前をゆるさなイ』


 いつも通り朝の礼拝を済ませ、いつものようにミーティング室に入った。ミーティング室は床も壁も天井も白く、何個かの椅子と机とホワイトボードがあるだけ他にはなにもない。その椅子と机さえも白色なため、まるでそこは天国のようなところだった。だが青年が入ったのを最後に、


 地獄が始まる。


 扉に鍵がかかった。


「ねえ、今ガチャって言ったんだけど」


 少し不安げに話をはじめたのは明。いままでかかったことのない鍵がかかると言うのは、どうしようもなく不安だ。


「この部屋って鍵かかるんだっけ?」


 白羽が問いかけた。白羽の方はまだまだのんきだ。


「へー、かかるんだー」


 丸子が悠長なことを言う。この先に待つ地獄を知らずに。


「かかるんだー、じゃないわよ」


 少し怒っていた幸だって、この先を知らない。


「サバキ先生ちゃん、鍵閉まっちゃたよー」


 白羽……君は、分かっていない。その子のことを。その憐れな男の子のことを。


「ええ、閉まりましたよ。これから我々が何をするかわかりますね」


 サバキはいつものように生徒に問う。その問いはあまりに酷だ。


「わかんないよ。せんせー」


 わかんないよ、先生。丸子は最後までわからなかったのかもしれない。


「聡くんだけ、顔が真っ青ですね。何をするか分かりましたか」


 聡の声はかすれている。賢いあいつは最初に気づいて最初に……。


蠱毒こどくですか」


 そう、あの地獄の名は、蠱毒。


「その通りです。我々は今から殺し合い、残った一人に異能が付与される、ってやつです。


「なに言ってるんですか先生」


 幸はまだわかっていない。こんなに品のないものを彼女が理解できるはずはない。


「戦うんだね。やってやるよ」


 丸子は勘違いをしている。


「うりゃーー」


 丸子は聡に飛びかかった。元気づけるためだったかもしれない、だが、聡は丸子を呆気なく組伏せた。


「ふざけるな! 今はそんな場合ではない。今はこの窓のない部屋からどうやって逃げるかが先決だ。俺はこんな日がくるんではないかと思っていた」


「何むきになってんのよ」


  聡の反応の方が正しい。


「いや、これはまずいよ」


 水も食糧もない中、地獄の一週間が始まった。


 ○○○


 一日目 

 白羽が問いかける。


「ねえやっぱり、出口ってないのかしら」


 まずは、出口を見つけようとした。あらゆる壁や床が突然めくれないかと期待する。でも、この部屋は本当に出入口が一つなんだ。毎日ここに来ていたんだからわかる。扉は壁であるかのように動かない。


「トイレどうするのよ!」


 丸子が文句を言い、みんなに当たり散らす。

 トイレは机を囲って作った。


 少年が囲いの中に入ると、後の人間の糞尿が鼻を刺す。だが、人間ならば当然の行為だ。これから自分だって後の仲間の迷惑になるのだから。

糞というのは命の罪のかたち。殺して食べた相手の怨み。だから忌まわしく、強烈な臭いを放つ。黒蛾が、前そんなことを言っていた。だからあいつは糞を研究しているのだろうか。


 みんなも苛立っていたが、苛立つほどにはまだ、元気だった。


 二日目

 真っ白な部屋はいつの間にか、むせかえる糞尿のにおいで満たされた。意外にも男の子の方がみるみる元気がなくなっていった。


「一緒に出口を探しましょう」


 女の子の方が気丈だ。白羽と幸が引き続き、積極的に外へ出る方法を模索した。

 白羽と幸が交互に扉を机で殴る。


「うるせえぞ、少し静かにしてくれないか!」

「あんたこそ、黙ってないで手伝って!」


 その音がうるさいと言って明と丸子が文句を言いケンカになる。青年と白羽と幸が止めに入り事なきを得た。サバキはただ笑ったまま微動だにしない。


「……」


 一番やばいのは聡だ。死んだように動かない。青年は祈ったひたすらに。それしか知らないから。


 もはや誰も机で囲ったトイレには入らない。もう何も出ないのだ。それは何を意味するのか……。


「神様、助けて」


 三日目

 もはや、糞尿の臭いはしない。麻痺してしまった。


「腹減った」


 ついに一線を超える。聡が囲いの中に入り糞尿を口にいれる。みんなはやめた方がいいと言ったが意を返さない。みんなも力づくで止めさせるほど元気でもない。それくらいみんな憔悴しきっている。もはや、力ずくで扉を開けようとする者はいない。


「サバキ先生、何でもするので助けてください」


「だめだよみんな、殺し合わなきゃ」


 丸子がサバキになんでもするから助けてほしいと願う。だが、その青白い少年にはなんの力もない。だめだよと諭すだけである。


「みんながいっしょに出られるように。また幸せに過ごせるように。何でもします。助けてください神様」


 青年の願いを神様は受けつけなかったようだ。


 四日目

 サバキが死んだ。最後まで安らかだった。彼の仕事は内側からの監視だったんだろう。その為だけに生まれ、その為だけに死んだ。彼は加害者だったのだろうか。被害者だったのだろうか。


「やっと死んだ」


 聡は目を光らせる。サバキの死体を食べようとしていたのだ。


「鳩くん、それはいけません!」


 幸が聡を机で殴り倒した。我々は人を食うほど堕ちてはいけないと。

 気品を大切にする彼女にとってその行為は文字どおり死んでもやらないことなのだろう。実際、彼女のみ、尿をもう一度飲むことをしなかった。力の抜けた彼女はもう一度だけ最後の力を振り絞る。


「わたし、わたし、ああなんてことを! 」


 幸は自分のしたことに絶望し舌を噛みちぎって自殺した。


 幸は最後に尊厳を失ってはいけないと言っていた。まったく、その通りだと思う。自制心は尊い。


「どうやら神はいないようだ」


 この日を境に、いや、少し前から僕は……気が触れていたのだ。


 五日目

 糞尿の臭いに死臭が加わった。臭いなあ。やだなあ。


「うううう、ううううう」


 明が白羽を襲おうとした。食事目的か性交目的か。だが、


「俺は、俺は俺は、人として、人間として死んでやるぞおおおおおお」


 すんでのところで留まった。幸の最後の言葉が引っ掛かったんだろうか。片手に強くつかんだ白羽の肩をもう一方の手で無理矢理引き離しその手を机に持ち変え、


 机に頭を打ち付けて、出血多量で死んでしまった。


 だけど明は自分の尊厳を守った。すごいじゃないか。なかなかできることではないよ。


「大丈夫だよ、大丈夫。正気でいられる。大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫」


 六日目

「もう疲れた」


 丸子が死んだ。彼女らしくはなかったが、よく持ちこたえたと思う。昨日から自分は大丈夫と唱えていたからか、なんだか大丈夫な気がする。


 七日目

「あとは私が死ねばあなたが助かる」




 白羽が……死んでしまった。




 ああ、僕が生き残った。


 ○○○


 扉が開く。


「あぁ、やっと出られますか」


 凄惨な光景の前、白い部屋は糞尿、死体で赤黒く染まっている。幾つかの死体、形の残っているものもあればないものもある。地獄絵図だ。

 青年は何事もないように男に話しかけた。錯乱しているのは青年ではなく、男の方。


「俺は間に合わなかったのか! 糞糞糞糞がァァァァ!」


 ○○○


 男は少し落ち着くと、青年に尋ねる。


「君はなんとも思わないのか」


 何を思うことがあるのか。あるとすれば、腹が減ったということぐらいだがそんな当たり前のこと聞くはずないだろう。それに、目の前の人間を青年は知らない。


「死体ですか。それとも蠱毒についてですか。そんなことより、あなたはどうやらここの人間じゃないようだ。誰ですかあなた? 」


「はぁ、なんてことだ」


 ○○○


「まずは正気に戻れ。お前だって、泣いていい。悲しんでいい。苦しんでいい。嘆いていい、怒っていい」


 そう言って彼は青年をやさしく抱き締める。


 その瞬間、青年の目が赤く赤く充血し、血の涙を流す。



「ああああァァァァァ!ああああああああああァァ!ああああああああああああああああァァァ!アアアアアアアアアアアアアアァァァァ!」



「それが、本当の君だ。だけど、」


 だけどそれ以上怒っては死んでしまう。


 青年の足が光りだす。


「私の仲間になってほしい。私の名前は黒蛾だ」


「よろしくれっか君」



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