裸王と音楽隊
デーンマーク コーペンハーゲン アンデルセン宮殿内
火蟻たちは北方に向かい、国境を越えた。首都コーペンハーゲンの中央、巨大な宮殿がそびえる。そこの宮殿内の門番の一人が紋章付きだ。
宮殿内に入りしばらくすると、幾何学的な模様が床や天井にびっしりと描かれた開けた場所に出る。ドーム状のそこはいかにも『ここで戦え、強者どもよ!』という声が……まあ聞こえては来ないけれども、そんな印象を受ける場所だ。
「ヌシらが我輩の相手か」
目の前にいるのは筋骨隆々の大男。ただ、そんなところは重要ではない。
「ひ、ひありさん。あの人、ぜ、ぜ、」
蛇は目を瞑って震えている。スカーレットの方は呆れた目で蛇の方を見る。
「おねーさん、超うぶなんですねー」
「だって、だって、あの人」
蛇は叫ぶ。
「全裸なんですよおおお」
彼、名をラオウと言い、特徴は全裸。男の裸なんて誰もみたくない。でも、
「蛇とスカーレットは下がっていて。僕はね、いつもいつも弱い男の子や肉弾戦の女の子と戦ってばかりでね。こう、筋肉の塊みたいな相手とは戦えなかったんだ。でも、本当は戦いたい。かっこよく、泥臭く戦ってみたいのだよ」
火蟻は殺生が嫌いなだけで、戦うのは好きだ。血のせいでもあるだろう。積極的に黒蛾に協力するのはそのためでもある。火蟻にとってレント達は“相手にとって不足あり”なのだ。だから日頃から蝟と手合わせをする。もちろんそのときは二人とも異能は使わない。
「ときに、蛇さん。僕がどうして高いブーツをはいているかわかる? 」
火蟻はおどけた調子で蛇に尋ねる。上機嫌になると冗談を言うこともある。別に、彼の感情はぶちぎれるか、そうでないか、だけではない。だからこそ……。
「身長のかさ増しですか」
蛇は手で顔を隠しながらも返事をする。火蟻は平均よりは小さいが、それでもブーツを脱いでいる状態でも拳一つ、火蟻の方が蛇より身長は高い。
「失礼だね。違うよ」
火蟻は笑いながら答える。
「こうするためさ」
右のブーツが変化して靴底の鉄板から爪先側へ刃が生える。
「僕は今から、鎖、壁、箱、炎、氷を使わないよ。もちろん黒いのもね」
だが、片目を赤くした。これで気合いが入る。
「与太話は済んだか小僧。では行くぞ」
仕掛けたのはラオウ。彼は火蟻へ右ストレートをぶちかます。火蟻はそれをかわし巨腕に右足の刃を打ち込む。
「猪口才!」
ラオウは刺さったままの火蟻の右足をそのまま掴み地面に叩きつける。
「かはっ」
だが、地面に叩きつけられる前に刺さった刃でラオウの腕を切り裂いていた。
「ヌシ、小細工は使わないと抜かしていたではないか?」
「刃を熱して切れやすくするぐらいは勘弁してよ、おじさん」
ラオウの腕はすぐさま再生する。地面で這いつくばる火蟻に対し踏みつけを行う。火蟻は転がりながら避け、足をかけてラオウを転倒させたあと、立ち上がる。
「やりよる」
「おじさんもね」
ラオウは跳ね起きて、そのまま巨腕を振り下ろす。火蟻はその腕をとりそのまま投げる。
「ふっ、童っぱが!」
火蟻の足が空中のラオウの首を掻っ斬りにいく。ラオウの首は距離を開けるのではなく逆に詰めることで、火蟻の右足の刃ではなふくらはぎが首に当たるようにする。
だが爪先側に伸びていた刃が縮み、かかと側へ伸びてそのままラオウの延髄に刃を差し込んだ。だが、
「ちょっとーヌシ、さっきからずるいんじゃないのー、じゃなかった卑怯ではないか」
ラオウの口調がおかしくなる。
「この辺が潮時ですね。火蟻さん横やりを入れさせてもらいますよ。この戦いは不毛です」
口を開いたのはスカーレット。
「なによ、じゃなかった、なんだ裏切り者は黙っておれ」
「はいはい、ラオウさん、ラオウさんあなたはどうしてそんなに筋骨隆々なの? 」
「それはね、私の変身能力のお陰だよ。私は強い人になりたかったから。ってあああああ」
「ちょっと、僕、刺さったまんまだから恥ずかしがって暴れないで」
火蟻の片目の充血はいつのまにか解かれている。
ラオウは煙を出しながら暴れ、そして
「うわっ」
全裸の娘が僕の上にのしかかってきた。薄めだが柔らかさはきちんとある。
娘の顔立ちは正義子にそっくりで、年は蛇と同じくらい。黒髪のポニーテールは高いところで結ばれている。ちなみに蛇の長い髪は低いところで結ばれている。
なぜ今、蛇出てくるのか。 それは裸の女の子の向こう側、蛇の目と火蟻の目が合っているからだ。
火蟻は恐怖で動けないという体験を久しぶりにした。それは雷蜘蛛の比でない。
火蟻は動けない。蛇の睨みによりまったく動けない。
君の能力はこれだ。火蟻は教えてあげたいのだが口も開けない。
沈黙を破ったのはスカーレット。
「とりあえず服を着てください。蘭央ちゃん」
○○○
「もう私に攻撃の意志はないです。というかもうお嫁にいけない」
正座で座るラオウ、もとい蘭央は涙目で話す。蛇は蘭央と目を合わせ、太ももを踏みつける。
「お嫁にいけないじゃねーよ。小娘。うちの火蟻さんに何してんだ。あん? 」
能力がわかると、気持ちが大きくなるんだなあと火蟻は呑気にしている。
「火………らだは私……………んだぞ」
小さい声で蛇が呟く。火蟻には聞こえない。
スカーレットがにやついてる。それも火蟻には分からない。
「ああ、そうだ。君には説明せずに戦い始めちゃったんだけど、我々の目的はね………」
ストーリーシリーズを倒し戦争を止めること。そのために自分たちの代表者、向こうで言うところの女神に出てきてもらうことを説明した。
「もちろん、君達の信仰を否定しようってんじゃないよ」
蘭央は渋い顔をする。きっと裏切りにはなるまいかと疑問に思っているのだ。
「別に仲間になる訳じゃないから裏切りにはならないと思うよ」
蘭央の顔は変わらない。だが、もう一押しだ。
「まっ、攻撃する意志がないならうちにおいでよ。変な人ばかりで楽しいと思うよ」
蘭央が顔を少し赤らめたのを蛇は見逃さなかった。
火蟻の後ろで蛇は蘭央に耳打ちする。
「私と戦うつもりなら覚悟しろよ」
この二人の間に入るのは自殺行為だなと蘭央は身震いした。
○○○
ブレーメンへの道程 車内
運転席(自動操縦だが)には火蟻、横の席は蛇。後ろにスカーレットと蘭央、スノーは箱に詰めてトランクに入っている。
「火蟻さん、あの女に甘くないですか?」
「えっそう? 」
「生身で連れてきちゃっていいんですか? スノー・ホワイトはトランクですよ」
「まあいいんじゃない? 攻撃する意志はないんだから」
蛇はむすくれる。その理由が火蟻にはわからない。
「ところで、この地図で見ると場所行ったり来たりしてません?ベルクフライハイトからコーペンハーゲンでブレーメンですよ。スカーレットちゃん、嘘ついてません?」
ブレーメンはドイチュであり、行ったり来たりしていることはどんな方向音痴でもわかる。
「火蟻さんが弱いやつ順で連れてけって言ったんですよ。蛇さんの能力開発のためにわざわざ」
蛇は少し赤くなる。
「そうだよ。でももうその必要はないね。次はブレーメンのエーゼル・ハイエロファントだ。能力は……」
○○○
ブレーメン エーゼル宅
エーゼルの家はスカーレットとスノーの家を足して二で割ったような家。つまり普通の家だった。
「蛇、チャイム鳴らして」
火蟻が指示をだし、蛇はチャイムを鳴らしてドアの前で待つ。
「よく来」
ドアが開かれると中から出てきたのは優男だ。その服には多種多様な音叉がついている。今回は使わない。
エーゼルは何か続きを話したがっていたようだが、突然声が途絶える。
「はい、仕事終了」
火蟻は無感情でそう言う。なぜならその男は蛇と目が合っているからだ。
「いや、これは最速だったね」
本当に最速である。レント単独でもまだ粘る。
「あとはその音叉を外せば無力化です」
この音叉も彼にとって大事なものかもしれないので、火蟻は一緒に持って帰ってあげる。
「ああ、ありがとうスカーレット」
蛇の能力は発見できたのでこれからは火蟻はサクサク行くつもりだ。
「あー、この人って安全な人?」
「どう意味ですか」
「この悪魔がーってつっかかってくる?」
「どーでしょう。そんな激しい人じゃないですけど、協調性を重んじる人で神様への信仰具合も高いです。火蟻さんたちよりもむしろ私たちに、裏切り者めーって襲い掛かってきそうです」
一応、無力化しておいた方がいい。彼の異能は相手によっては天敵になる。
「んじゃまあ、音叉を外してから箱を作って入れるか。紋章の部位だけ入れてもいいんだけど、さすがになにもしてない人の体を切断するほど無慈悲じゃないからね」
「次どこいけばいいのかな」
「次が最後、ハーメルンのヘクセ・パイドパイパーです」




