湯野大輔の悩み
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大輔が今日も死んでいる。気のせいなのかもしれないけど日に日にやつれている気がする。バイト三昧の生活を送っていたら、生気もなくなるよね。
「大輔。これ食べなよ」
学食の机で伏している大輔の顔にパンパンと軽く袋で叩くと、のそりと大輔は顔を上げた。目に隈が出来ている。まともに睡眠をとったのはいつが最後なのだろうか。
「……ナギ。貰っていいのか?」
「あげる」
大輔は僕が持ってきたシュークリームをさっそく手にとってがつがつと食べた。
「糖分取ったら少し元気になった」
「いやそんなすぐに変わるわけないでしょ」
呆れてため息が零れる。
「なぁ……」
深刻な表情はまた恋愛絡みの悩みであることは容易に想像が出来た。
百年の恋も冷めるような内面と性別をしている相手にまぁよくも恋心が続くよな、ほんと。僕なら緤の性別を知った段階で諦める。そもそも緤みたいなのは女でも好みじゃないけど。
「何?」
「俺、整形考えているんだけど何処かいい所知らない?」
「大輔。落ち着きなよ! あといい所なんて知るわけないからな!」
もうすでに行きつくところまで行きつきそな大輔が、さらに危ない橋を渡ろうとしている。いや危ないと言うか手遅れな橋か。
「だって、俺が緤に告白したとしても「俺より顔良くなってから出直してこい」って言われるに決まっている! 門前払いに決まってる!」
緤の性格わかっている癖に何故好きなんだろうと本当に本当に疑問だ。
猫を被った緤ちゃんなら、わからないけどわからないでもない。けど大輔に素を見せている緤に猫なんて存在しない。
というか、大輔。それ以前に、告白しても「野郎と付き合う気はねぇ帰れ」って言われるのがオチなんだけど。
あぁ、いや違うか。大輔の中では性転換するから性別の壁は大丈夫(……なのか?)になったのか。
「俺みたいな平凡顔じゃ緤と釣り合うわけがない!」
深刻な顔して顔を悩んでいたのか……本当に、恋は盲目すぎる。
「親からもらった顔を大切にしなよ」
とりあえずありきたりなことをいうしかない。
「けど、緤は可愛いんだぞ! 隣に並ぶ奴だって可愛い方がいいに決まっている!」
「人は外見じゃない! 内面だ!」
「人は第一印象がどれだけ大切なのかわかっているのか!?」
「緤とは友人なんだから第一印象はもう必要ないでしょ」
「いや、大事だ!」
「……百歩譲って大事だったとしても、整形する必要なんてないから。大丈夫だよ大輔」
最早何が大丈夫なのかわからないし、性転換手術と整形の何が違うのかももうこんがらがってわからなくなりそうだけど、とりあえず整形の方が気軽に出来そうな気がするのでそちらを止めないと明日にでも整形しに旅立ちそうだ。
日夜バイトに勤しんでいるから簡単な整形くらいならすぐに済ませられるだろうし。
とりあえず性転換手術の費用溜まったとか言い出した暁には皆で大輔の部屋に強盗するしかないよね。今のうちに計画を練っとかないと。どの道性別変わったところで大輔が報われることなんてないんだから。絶望するなら性別が変わる前だ。
大輔に対して整形の必要なさを解いていると、いきなり肩をがしっと掴まれた。そして、身体が少し後ろに下がった。さらさらとしたくすぐったいものが当たる。髪の毛だ。
現れたのは緤だった。僕の肩に手をまわしてひょっこりと顔を出したのだ。
大輔羨ましそうな顔をするな。僕は嬉しくなんてないのだから。
「よお。大輔にナギ、聞いてくれよ!」
返事も待たずに緤は喋り出した。
「昨日さ、見た目良くない奴にナンパされて食事奢ってくれるっていうからついていったんだけどよ、俺が食べている間ずーっと俺をニタニタと見ていて不気味だったんだよ! どうせ俺を凝視してくるならイケメンの方がいいよな!」
「きずなぁあああああ!」
僕は思わず叫んだ。大輔がやっぱり整形と呟いたのも聞き逃さなかった。
「へっ!? 俺何かしたか!?」
緤だけが理解出来ないと首をかしげていた。空気くらいよめよ!