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二ノ宮係

◆◆◆

みなみ。悪いが、二ノ宮真紀にのみやまきを生徒指導室へ来るように頼んでくれないか」


 教師から開口一番に言われた。場所は職員室だ。

 教師から呼び出されて、何の用件だろう。僕は真紀ちゃんほど校則違反をしていないはずなんだが――と思いながら足を運んだら生活指導の先生からそう言われたのだ。


「なんで僕? 僕じゃなくてもクラスメイトはいると思うんですけど……」


 思わず僕は率直に聞く。

 第一真紀ちゃんが他人の言うことに素直に頷いて生徒指導室へいくわけがない。


「既に他のクラスメイトには頼んだが失敗した」

「あぁ……成程」


 別に僕に白羽の矢が立ったわけではなくて、最早手当たり次第に乱発している感じだったか。数うちゃ当たるというわけか。

 教師が直接生徒指導室へ来るようにといったって聞く耳を持つわけがないからといってクラスメイトが頼んだら大人しく生徒指導室へ足を運ぶわけがないのに――実際に失敗しているわけだし――とは思うものの


「わかりました」


 僕は引き受けた。

 断りたかったけれど、他のクラスメイトも引き受けた以上僕だけが断るわけにもいかないだろう。

 



◆◆◆

「やだ」


 教室へ戻ると、真紀ちゃんは僕の顔を見るなり用件がわかったのだろう、手で×印を作った。ピアスを隠すために伸ばしているはずの茶髪を、耳にかけているので意味がないくらいにピアスが目立っている。


「用件わかっているようだね。生徒指導室にくるようにって先生がお呼びだよ」

「説教されることが分かっているのに、わざわざいく馬鹿いないだろ」

「だったら呼び出しされないように制服をちゃんと着てきなよ」

「やだ」


 舌をべっと出す真紀ちゃんに、僕ははぁとため息をついた。今まで真紀ちゃん呼び出し任務を失敗したクラスメイトたちが、やや遠目に僕らのやりとりを見ていた。

 全くもって――めんどくさい。


「真紀ちゃん。わかった、真紀ちゃんが生徒指導室に行かなくていいよ」

「やっと諦めたか。伝えとけオレが生徒指導室に行くことなんてないって――!? ちょっと何を!?」


 めんどくさいので真紀ちゃんを俵担ぎした。これなら僕が直接運ぶだけで終わる。

 そこへ丁度泪が教室のドアを開けて入ってきた。


「丁度いい所に。るい。そのまま扉開けていて」

「わかったって――何をしているの?」

「見ての通り。真紀ちゃんを担いだ」

「おい、下ろせ! 鳴輝! 下ろせっていっているのが聞こえないのか!?」

「やだ」

「っていうかなんでボクを俵担ぎするわけ!?」


 真紀ちゃんがジタバタ暴れて五月蠅い。


「真紀ちゃんが生徒指導室に行かないなら、僕が連れていけばいいだけでしょ」


 益々真紀ちゃんがあばれた。往生際が悪い。僕が真紀ちゃんを下ろす時は生徒指導室へ放り投げる時だ。


「鳴輝! ボクを下ろせ!」

「五月蠅いよ真紀ちゃん。大人しくしないとお姫様だっこにきりかえるよ?」


 少しだけ抵抗が弱くなったので、僕はそのまま生徒指導室へ運んだ。

 まさか真紀を俵担ぎで僕が現れると思わなかったのだろう教師が驚愕していた。驚き過ぎて椅子から落ちそうになっていた。

 僕は真紀ちゃんを放置して教室に戻った。




 数日後、教師から再び呼び出された。嫌な予感がしつつ職員室へ向かうと


「南! お前二ノ宮係な!」


 確定事項として告げられた。何だいその係と聞く必要がないくらいに、内容は明確過ぎた。

 僕に拒否権はないんですか。その前に、二ノ宮係って……真紀ちゃん専門の係作らないでよ。

 教室に戻ると泪が苦笑しながら出迎えてくれた。


「お疲れ様。いや疲れるのはこれからかな」


 どうやら僕が二ノ宮係に任命をされたことを僕以上に早く知っていたようだ。


「どうして僕が真紀ちゃん係にならなきゃいけないのさ」

「鳴輝の武勇伝はもう教師たちの間で一斉に広まったからね、無理もないよ」

「嬉しくない。真紀ちゃんが抵抗する度に俵担ぎしなきゃいけないんでしょ?」

「やめろよ」


 真紀ちゃんも会話に加わった。今日は呼び出しを頼まれていないので俵担ぎをする必要はない。

 とはいえ、今日も校則違反常連のブレザーを着ないでパーカーを着ているスタイルに、ピアスが髪の間から見え隠れしている。


「それにしてもよく真紀を俵担ぎなんて出来たね」


 泪が感心した様子で僕と真紀ちゃんを交互に見比べた。


「そう? 真紀ちゃん、細いし、身長も高くないから泪も出来るよ」

「本当かい? 真紀。ちょっと」

「やだよ!」


 泪の手招きに真紀ちゃんが抵抗したが抵抗空しく泪にも俵担ぎをされるのであった。


「あぁほんとうだ。真紀、ご飯はちゃんと食べているかい? 少し軽すぎるようだよ。肉もあまりないようだ」

「たべてるって! なんでボクが女二人に俵担ぎされないといけないんだよ!」

「真紀。てんぱって素に戻ってるよ。ほんと、背伸びしたいお年頃だね」


 泪がくすくすと笑いながらも俵担ぎを止めるつもりはないようだ。真紀ちゃんももう少し身長があって体重があれば泪に俵担ぎされる運命は避けられたんだろうけど、残念だったね。


「っ――! おい、オレは別に背伸びしているわけじゃ……!」

「校則違反して一人称をオレにしている時点で背伸びしたいお年頃だよ君は」

「ってかいい加減下ろせよ!」

「このまま私も真紀を生徒指導室へ連れて行ってみようかな」

「連れて行ってみたら?」

「やめろ! 用も無く誰が生徒指導室に入るかよ!」

「用があっても君は入らないじゃないか」

「当たり前だ!」

「だからこういう結末を迎えることになったわけだけど」


 泪がそう言うと真紀ちゃんはぷいっとそっぽ向いた。



 泪と僕が真紀ちゃんを俵担ぎしたせいか、暫くクラスで真紀ちゃんを俵担ぎするのがはやるのであった。


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