終夜の出費
+++
どうしてこうなった。
俺は頭を抱えずにはいられなかった。
現状説明。スイーツ食べ放題(一人1600円+税)に男二人(一名女装)女三名できていた。
非常に俺は居心地が悪かった。
早く帰りてぇ。
時は遡ること数十分前。
以前、緤の殺人容疑を晴らすために協力をお願いした南鳴輝は、その日友人との約束をしていた。緤を優先して貰ったため、約束を延期してもらったそのお詫びに、俺は南とその友人赤岼のスイーツ代をおごることにしていたのだ。
そして今日だった。
南の何台持っているか定かではないけど、とりあえず連絡が通じるメールアドレスに是から行くという用件をメールしてから、俺は財布をズボンのポケットに入れて、外出しようとした矢先、俺の部屋に遊びに来た――そういえばメール返信面倒で無視していた――緤と遭遇した。
「おい、終夜何処にいくんだ? メイド喫茶なら俺も行くぞ!」
「行くかボケ。あとお前はメイド服がどんなのか見たいだけだろ」
「おかえりなさいませご主人様、はやりたくねーけどメイド服は着てみたいよな!」
「気持ち悪いだけだからやめろ。南に前、約束を後回しにしてもらったからな。スイーツ食べ放題の代金渡しにいくんだよ」
「スイーツ食べ放題だと!? 俺もいきたーい!」
「話し聞いていたか? おい、話し聞いてたか? 俺は代金わたすだ」
「よし、いくぞ終夜!」
人の言葉を途中で割り込んだ緤が、無理矢理ついてきた。お前帰れよ邪魔だ。
「……言っとくけど、奢らないぞ」
「はぁ!? 鳴輝に奢るなら俺にも奢れよ! 行こうぜスイーツ食べ放題!」
「誰がお前と行くか」
「大丈夫だって。俺と一緒なら恋人同士でスイーツを食べに来た人に見えるから、男二人で入ったって悪目立ちしないから」
「お前と恋人同士に見られるから嫌なんだつーの」
「こんな美少女と一緒にいられるのに何処が不満なんだ?」
「ナルシスト女装野郎なとこ」
「俺の根本から否定するんじゃねぇ」
緤はどう追い返そうとしても、奢られる気満々だったので仕方なく俺は――折亞を呼んだ。
勿論、その時は南たちとは別々に食べる予定だったんだ。
「初めまして、私は赤岼泪。本日は有難う」
南と赤岼が通う高校の校門で待ち合わせをしていると、二人並んでやってきた。ほぼ初対面の赤岼が俺たちに挨拶をした。
赤岼泪、彼女は凛とした少女、そんな印象を俺に与えた。燃えるような赤い髪は肩で切り揃えられていて、髪と同じ濁りのない澄んだ瞳。灰色と黒で統一された制服に、黒のニーハイをはいている。全体的にスラリとした体型だ。因みに、制服は南と同じだが、南の方は黒のハイソックスをはいていて、靴下の長さだけ違った。
交流がある南鳴輝以外が一通り挨拶をした所で、俺は南に財布からお金を取り出して渡した。
そこで別れようとしたのだが――此処で俺は無理矢理別れておくべきだった――南や何故か赤岼にも、是から俺たちもスイーツ食べ放題の店へ行くことがわかっていたようで、最終的には一緒にいこうということになったのだ。
因みに自己紹介の時、赤岼には緤が女装していることが見抜かれていた。
「初めまして、私は南雲緤です」
緤が被った猫を巧みに扱い上品な挨拶をしたのにも関わらず
「宜しく。終夜君に、和泉さんに、南雲君」
と、南のように君付けで統一するわけでもなく、折亞にはさん付け、緤には君付けで呼び分けたのだ。
「な、なんで俺が男だってわかったんだ!?」
「直感かな」
「やべぇ。俺この格好してて一目で男だってばれたの初めてなんだけど」
そんなこんなで、緤の猫は一分も持たずに消えた。
「終夜にだってばれなかったのに!」
余計な情報を南に与えられてしまったので、一発緤を殴ったけど俺は悪くない。
そして現在に至る。早くかえりてぇ。
「はぁ」
スイーツ食べ放題にきてから皿しかとっていない俺は深い深いため息をついた。
「終夜君。そんなどうしてこうなってしまったんだっていう顔は似合わないよ。甘いもの持ってきてあげようか?」
「俺はなんで南がスカートなのかを問い詰めたい」
「制服なんだから仕方ないじゃないか」
「私服に着替えてこい」
「残念だったね。わざわざ緤君と二人で行くのが嫌だから折亞君を誘ったのに、結果的にはやたら女だらけの中に混じる男という構図になってしまって」
くすくすと南は笑った。
「うるせぇ。ってか俺が折亞を呼んだ理由までお見通しかよ」
南の言葉通り、緤と二人でスイーツ食べ放題にくるなんてそんな恋人同士みたいに傍目に見られるのが凄く嫌だった折亞を誘った。そこに折亞が加わるだけで恋人同士ではなく友達同士の雰囲気を作れると思ったのに! 何故かハーレムみたいな構図を助長させる役割に折亞がなってしまった。誤算である。
「そんなに男で混じるのがいやだったら、終夜も女装すりゃいいじゃねーか」
緤の爆弾発言に、折亞が笑ってむせていた。
「緤。俺が女装したって気持ち悪いだけだぞ、つーか一発で男だったバレルにきまってるだろ!」
「可愛くない終夜がいけない」
「遠まわしに自分は可愛いですっていってるよな」
「遠まわしじゃなく俺は言ってるんですー」
そういって緤はショートケーキを口に頬張った。
「おい、緤。食べすぎたら太るぞ」
「うるせぇ。食べ放題の店に来て、少量しか食べないとか勿体無いだろ! 来たからには元をとる勢いでくうのみ!」
もぐもぐとショートケーキを緤は食べ終えてから、再びケーキをとりにいった。折亞と赤岼も続いく。南は甘いものではなくスープを飲んでいる。
回りを見渡せば当然の如く女性客ばかりだった。
「お前、ケーキ食えよ」
「食べるよ。まだ時間があるから食べていないだけだよ」
「気になっていたんだけどよ、赤岼はお前が裏で色々やってますぜ側な人間ってことを知っているのか?」
純粋な興味で問うと、南は何とも言えない表情をした。
「知らないよ。知らないから教えないでおいてくれると嬉しいな。彼女は純粋に、高校の友達というだけだ。覚えなくていいことくらいある」
「覚えなくて? 知らなくてじゃねぇのかよ」
「覚えなくていい。知らなくてもいい。それだけだよ」
「ふーん」
「話し半分ってかんじだね」
「そりゃお前の嘘つき具合はよく知っているからな」
「そう。でも泪が何も知らないのは事実だ、嘘ではないよ。本当に彼女は何も知らない、折亞君のように知っていながらも境界線を決めて踏み込まないように接するわけでもないんだから」
南の言葉が仮に嘘だったとしても――まぁ別に、南のことを赤岼に尋ねる必要性もないか。
「ところで、僕のことは鳴輝と呼んでくれると嬉しいって前にもいったはずだけど?」
「はいはい。南」
「呼ぶつもり到底ないんだね……まぁいいけどさ」
鳴輝の方が聞き慣れているんだけどな――そう南が呟いた時、一足先に赤岼が戻ってきた。
「鳴輝。君の分もとってきたよ」
「有難う」
赤岼は皿を器用に二枚右手で持っていた。イチゴムースが両方の皿にのっている。
「おい、終夜お前も食え! 感謝しろ俺が持って来てやったぞ!」
余計なやつも戻ってきた。一生お菓子の海に消えればよかったのに。
緤から皿を受け取ると、チョコケーキにザッハトルテにモンブランにチョコムース。
「大量に有り過りだろ」
「何回もとりにいくの面倒だからな」
「はいはい」
甘そうなチョコケーキから手をつけるとやっぱり甘かった。暫くして折亞が戻ってくると、甘いものから脱出していた。
「折亞。俺にもハム分けてくれ」
「いいよ。そうだ、終夜、ここっていくらだっけ?」
「せんろっぴゃくえんぷらすぜーい」
緤が答えた。聞きとりにくいわボケ。
「わかった」
折亞が鞄から財布を取り出そうとしたので、俺はその財布を鞄の中に戻した。
「いいよ。どーせ、緤に奢るはめになっているんだから、折亞だけに払わせるわけにはいかないだろ。気持ちだけで十分だ」
「いいって。終夜に奢ってもらうの悪いよ」
「いいからいいから。俺に奢られておけ」
「そう? 有難う」
緤が奢られるき満々で財布すら持っていないのに。本当折亞の気持ちだけでうれしい。
おい、そこのゴスロリ男。ふんぞり返るな。
猫かぶっているのはいるので気持ち悪いけど、猫かぶっていないのはいないので腹立つ。
折亞は多少人見知りをする性格だが、赤岼が人見知りをしない友好的な性格だったので、会話は普通に弾んだ。
最終的には呼び捨てになった。
赤岼も赤岼で名字より名前で呼んでほしい派だったらしいので、俺が最後には泪と呼び方をかえると南が微妙な表情をしていた。残念。お前はずっと南呼びだ。
「僕を南と呼ぶことに何か拘りすら感じられるよ……というかただの嫌がら
せだよね」
流石嘘つきの名探偵。正解。
なんやかんやあっと言う間にスイーツ食べ放題の時間は終わった。五人分の会計を支払うのは財布がいたかった。少しシフト増してもらうか。
あと、折亞にクリア―してもらったゲームも売るか。確かまだ、買い取り価格高かったよな。
「よし、帰ったらゲームやろうぜ! この間折亞がクリア―したやつ!」
緤を殴った。俺は悪くねぇ。