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急募終夜

+++

 雲ひとつない晴れ空の元、本日は大学のオープンキャンパスが開催される。

 開催時刻は十時から。集合時間の九時二十分前に私はオープンキャンパスアルバイトの集合場所へ到着した。まだ、今日一緒にアルバイトをする緤やナギに大輔はいないみたい。

 他にもアルバイトをする人は沢山いるようで違う学部や、学年、顔は知っているけど話したことはない人たちがいた。中には去年文化祭のミスコン優勝者もいた。やっぱ知り合いは三人だけのようだ。


「折亞―おはよう!」

「おはよう。オープンキャンパスでも女装なんだ」


 緤は通常運転女装姿で決めて登場した。この場にいる女性陣の誰よりも美しい。けど男。

 数分後、大輔と、ナギが一緒にやってきた。大輔は緤の姿を見て、あまりの美しさに時間を奪われた模様。


「緤、今日も凄く可愛らしいな」


 暫くしてから我に返った大輔は緤の容姿を褒め称えた。


「とーぜん。俺が可愛いのは何時ものことだけど今日は普段以上に準備してきたんだぜ!」


 緤に恋する哀れな野郎大輔は今日も哀れな模様。ナルシストの女装野郎と知っても恋する度胸は凄いけど。

 うっとりしている大輔とは反対に、切りたい寝癖のナギは目を丸くしていた。


「ナギ。どうしたの」

「いや……緤。ゴスロリじゃねぇから、傘持ってくるの忘れたなって思って」

「槍は傘じゃ防げないでしょ」

「いや、槍が振るのは男装してきたとき。ゴスロリじゃない時は雷雨だ」

「あぁそっか。ナギや……ある意味スル―していたけど大輔も緤がゴスロリじゃないのは初めてか」

「大学だろうが外だろうが、あいつ室内でくつろぐ以外大抵ゴスロリだろ。なんで今日はあんなお嬢様スタイルになっているのさ?」


 本日の緤の恰好紹介。白のワンピースに、薄い桃色のカーディガンを軽く羽織っていて、白のワンピースは無駄な装飾を省き清楚な感じを醸し出している。その雰囲気が良家のお嬢様を何処となく彷彿させる。サイドテールで纏める事が多い、やや天然パーマのかかった髪は今日下ろしてありアイロンで真っ直ぐにしてある。風が靡く度にリンス―の程良い香りを漂わせながら髪が舞う。装飾品は黒のカチューシャをワンポイントとしてつけていた。白のショルダーバックを肩から下げていて、全身何処からどう見ても女にしか見えない。けど男が自信満々に立っている。


「知らない。私も今緤と会ったばかりだし。それと、緤はゴスロリに目覚める前はあんな感じに女装していたよ」

「まじでか。何時だよ」

「高校生の頃とか」

「あいつ女装歴何年のプロフェッショナルだよ」

「興味ないから知らない」


 私とナギが会話をしている間に、大輔はひたすら緤の容姿とか恰好を褒めていた。緤は当たり前だ、と胸を張っている。


「おい。緤。なんでお前今日はゴスロリじゃない」


 ナギが尋ねると、緤は華麗に一回転して本日の恰好を見せびらかしだした。ナギは殴ろうか迷っているのか拳を固めている。


「今年の大学の入学希望者数が増えたら、学長がアルバイト費用増額してくれるって個人的に約束したんだ!」


 馬鹿じゃないの。学長が馬鹿なの? 緤がアホなの?


「何その詐欺……」

「俺と、去年のミスコンの二人で美貌をアピールして入学希望者数を増やすんだぜ!」


 去年の文化祭。流石に性別男じゃミスコン出られなくて、嘆いていたっけ。


「やっぱり詐欺……」

「ふふーん。だから今日はゴスロリより万人受けしそうなスタイルで決めてみました!」

「ほんと無駄所に気合いれるよね、緤は」


 ナギが呆れていた。むしろ呆れないのは恋は盲目な大輔くらいなものだ。


「見てろ。今に去年の倍にしてやるんだからな!」

「それで増える入学希望者は馬鹿だから減ればいいのに」


 私の言葉にナギが云々と頷いていた。


「なんでだよ! 酷いな!」

「酷いも何も事実だから」

「そうそう」


 緤が私とナギの発言に抗議している時、大輔の言葉を運悪く聞いてしまった。大輔は緤の美しさにひかれないで入学しない野郎がいることがおかしいって呟いている。おかしいのはお前の頭だ。


「そうだ、緤。昼は一緒に食べるよな?」


 大輔が期待の眼差しで緤を見つめたが、大輔から好意を寄せられていることに微塵も気づかない緤は


「いや、昼は先輩と食べる。それに野郎と一緒にご飯食べるわけにはいかない!」


 手を横に振ってあっさりと断った。

 入学希望者数を増やしたい馬鹿きずなはどうやら、自分が異性どうせいと一緒にいる姿を見て落胆させて減らすようなことはしたくないようだ。

 大輔はがくんと肩を落とした。


「来年、終夜この大学に入学しないかな」

「はっ? なんで?」

「そうか! 終夜が入学したら希望者増えるもんな、流石折亞!」


 首を傾げるナギとは違い、緤はメールで終夜に来年この大学受験しろとメールをうっていた。


「やっぱ終夜必要だよ。この大学に必要な存在だよ」

「あぁ……ツッコミか。確かに終夜が欲しくなるな」

「でしょ」


 意味を理解したナギが苦笑した。ツッコミ満載の緤にツッコミが足りないって深刻な問題だよね。


「というわけで、俺は先輩と行動するからまたあとでな!」

「分かった」


 緤がそそくさとこの場を離れて行った。ミスコン優勝者と緤が並ぶとそれだけで周囲に花が咲き誇ったように場の雰囲気が華々しくなる。けど男が混じっている。

 講義があまり緤と被っていない大輔はオープンキャンパスで緤と一緒にいられることを喜んでいたのがぬかよろこびと知り、生気の抜けた顔でふらふらと何処かへ行った。ご愁傷さま。


「そろそろ大輔、末期だよね」

「いやもう末期だ。折亞知っているか?」

「何が?」

「あいつ、この間ついにBLゲーに手を出した」

「は? え、まさか緤に似た登場人物がいるからとかいう理由?」

「ご名答。しかも、緤が女装していない時の緤に似ているっていう理由」

「馬鹿じゃん」

「馬鹿だ。もうあいつ手遅れだ。末期だよ」


 大輔は報われない恋しすぎて突っ走る道間違えているよね。緤は同性愛者じゃないしそもそも、緤は桔梗が好きだから大輔に振り向くことなんてないのに。

 けど、大輔が一途過ぎてかわいそうになってくる。


「ねぇナギ」

「なに」

「緤にちょっとキスしてきなよ」

「なんで!? 嫌に決まっているだろ」


 即効拒絶しなくてもいいじゃん。まぁ同じ立場だったら拒絶いったくしか私にもないけど。


「流石に大輔がかわいそうになってきたから」

「それと僕が緤にキスをしなければならない理由が繋がっていないよ」

「ほら、緤って女装時、自分を見る男性の好意とかはすぐに気付くタイプだけどさ、同性と知ってまで好意を向けられているとは思ってないから――終夜にはなんで俺に惚れないのか理解出来ん! とか言っているけど、実際に向けられていると気づかないじゃん、大輔の好意みたく」

「それはわかるけど、なんで俺」

「だからだよ。緤が男だと知っていても好きになるやつはいるんだよって感じで忠告と大輔への好意を気付かせるきっかけをナギがキスをして作ればいいって」


 そうしたら、大輔の思いに緤が気付くかもしれないじゃん。


「絶対御免。なんで好きでもない、ましてや野郎にキスしなければいけないのさ。一生大輔がかわいそうのままでいいよ」

「大輔報われなさすぎって思わない?」

「思わない。全然思わない。もっと報われなくてもいいよ。そもそも大輔が緤にキスをすればそれで終わりでしょ」

「恋の破局だね」

「俺と緤の友人関係は破滅していいのかよ」

「それ以前に、大輔じゃ緤にキスするなんて度胸あること出来るわけないでしょ」

「あぁ……。けど僕は絶対キスなんてしないからね。なんで野郎にファーストキスあげなきゃいけないの」


 ナギがそう断言したところで、アルバイトの集合時間になった。


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