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雪山山荘:Q3終わりの時間

 苺タルトのお代わりを要求した斉賀に、ユウは仕方なく自分によそってまだ食べていなかった半分をナイフで分けて渡した。

 食後のデザートを食べ終え片づけと休憩を挟み、時刻が十時を過ぎるとエリカが段ボール箱をひっくり返してクッションをフローリングに散乱させる。


「さぁ、枕投げやるわよ! あ、その前にテレビとか壊れたら困るものだけは台所へ移動させましょう」

「クッション出す前に移動させようよ……」

「仕方ないじゃない。やりたくてうずうずしていたのだから」

「全く、エリカらしいよ」


 太郎が呆れながら、クッションを一か所に纏める。


「よし、ユウ。テレビを移動するぞ」

「わかった」


 太郎とユウが力仕事を率先して行いリビングにあるテレビといった家電製品を台所へ移動していく間、エリカと斉賀は邪魔にならないようソファーに座っていた。


「って軽いものはお前らも運べよ!」


 太郎がツッコミを入れたが、ソファーで談笑を始められた。手伝うきは微塵もないようだ。

 全くと失笑する。

 性格も趣味もバラバラな四人だが、大学のサークルで出会い何故か馬が合った。

 大学時代はエリカの父親が所有する別荘へ遊びに行くのに旅行したり、試験前は皆で集まって勉強もした。斉賀を抜かそうと太郎は猛勉強して頑張ったが、結局一度も斉賀には勝てなかった。試験が終わると、お疲れ様を兼ねて飲み会へ行ったが、そのたびに斉賀が年齢制限に引っかかった。

 懐かしさを思い替えしながら移動作業をしているとあっという間にクッション投げが出来るスペースが完成したので、四角形になるように四人は座る。


「よーし! やるわよ! ルールは、斉賀を集中攻撃しない、以上!」

「ちょっと待って! そのルールなに。僕集中攻撃される予定だったの!?」


 エリカが枕を抱きかかえながら笑う。


「そうでもしないと私も太郎もユウもみーんな斉賀を狙うに決まっているじゃない」

「だな」

「だろうな」

「えぇ酷い」


 しょぼんとわざとらしく斉賀がクッションに顔を埋める。


「日頃の鬱憤をはらすのにちょうどいいしな」


 ユウが枕を投げる動作をしながら笑うが、その目は斉賀を狙う気満々だった。


「僕、そんなに酷いことしていないよー」


 斉賀が顔をあげながら、首を縦と横に振る。


「真冬の海に突き落としたこと忘れたとは言わせない」

「海に行ったのに誰も海に入らないのは寂しいからだよ」

「自分で入れ」

「寒いからヤダ」


 言い切った瞬間、斉賀にクッションが直撃した。それを皮切りに、クッション投げが始まった。


「ちょっとユウ酷い!」


 斉賀が投げ返すが、ユウは身体をずらして交わし、床に落ちている別のクッションを拾って再度攻撃しようとしたがそこを狙いすましてエリカのクッションが飛んできた。斉賀へ狙いを定めていたユウに反応できるはずもなく顔面に直撃する。

 やったなとばかりにユウが投げ返し、太郎は斉賀に投げつけ、斉賀はユウに一発当てたいのか手あたり次第に投げる。

 クッションが飛び交い、散乱しては拾いに走る。笑い声が途切れることなく続き、思う存分投げつくした後は楽しみ疲れて全員フローリングに寝っ転がった。


「あーっ楽しかった!」


 エリカが両腕を伸ばしながら、満足した表情を浮かべる。


「エリカの大学生活でやり残したことはできたか?」


 横たわったまま、ユウが遠慮がちに訪ねると、エリカは少し思案してから答える。


「そうね。あとは卒業すれば問題ないわ。全く、去年交通事故に会うなんて予想外だったわよ」


 斉賀、太郎、ユウは既に大学を卒業しており、斉賀はフリーで翻訳の仕事を、太郎は企業に勤め、ユウはケーキ職人として働いているが、エリカだけは去年交通事故にあい単位の関係で卒業することが叶わなかったのだ。


「本当だよな、俺も驚いたよ。けど無事でよかったよ」

「まぁ、一年学生生活を満喫できたと思って楽しんでおくわ。悔いがあった枕投げも出来たわけだし」

「エリカだったら留年なんて絶対ゴメンってなると思ったけどねー。プライドがエベレスト並みに高いわけだし」


 斉賀も会話に加わる。


「そこまでは流石にないわよ。せいぜいローツェくらいよ」

「いや、世界四位ってそれでも充分高いからプライド。それにしてもよく知ってるね」

「前に友達が世界の山を覚えるんだーって私に見せに来てたのよ。それで覚えているだけよ」

「どんな友達さ。まぁエリカは自分で調べたりする性質じゃないもんねーぐはっ」


 寝転がっていたエリカが起き上がって斉賀へ直接クッションを叩きつけた。


「前向きに考えただけよ」

「それは良かったよ」

「えぇ、感謝なさい私のプライドに」

「ははっそうするよ」


 斉賀が朗らかに笑う。


「さてっと」


 エリカが立ち上がって背伸びをする。


「そろそろ寝ましょうか」

「そうだな。クッション投げにつかれたことだし」


 太郎が同意を示し、起き上がり散乱しているクッションを拾って段ボールの中へしまっていくと見違えるようにリビングが綺麗になった。

 次いで、移動したテレビなどの家電製品を元に戻す。やはり斉賀とエリカは手伝わなかった。


「それじゃ、私はシャワーに入ってから寝るわ。私のあとは順番に入りなさい、そしておやすみ」

「うん」

「あぁ寝ている時、私の部屋に来たら殺すから。特に斉賀」


 物騒な台詞をエリカが吐いてから返答を待たず、リビングを後にして二階へ上がっていく。


「エリカってホント、すっぴん見られるの嫌いだよねー。おかげでシャワーがいつも夜遅くだ」

「あいつ別にすっぴんでも綺麗なのにな」


 斉賀の微笑に太郎が答える。


「そんじゃ、俺たちも寝よう。シャワーの順番は、斉賀、ユウ、俺でいいな?」

「OK-」

「そうしよう」


 順番を決めてから太郎が廊下に出てユウと斉賀も続く。


「おやすみー。明日も楽しもうね」

「あぁ。そうだな。海にいって斉賀を海に突き落とそう」

「いいな、それ」

「ちょっと良くないからそれー!」


 階段を上り、それぞれ部屋の前で別れた。




 そして翌朝――エリカが死んでいた。


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