第七話:薄幸の少女(中編)
あっという間に約束の日曜が来た。案外早いもんだ。
コンコン――。
もう見慣れたドアの前に来た一馬はいつものスーツに身を包んでいた。
「入るよ」
ドアを開けると少しおめかしをしたるかが立っていた。
「一馬お兄ちゃん!」
白いワンピースを着たるかが一馬に抱きついてきた。
「今日をずっとずぅっと待ってたんだよ」
一馬はるかの頭に手を置いた。
「あんまりはしゃいだら駄目だろ?」
「うん! いこ!」
二人は病院からゆっくり歩いて三十分の所にあるテンテン動物園までやって来た。日本一の動物園! とまではいかないが、小さいながらも立派な動物園だった。
「何が見たい?」
「えっとね……クマさん!」
二人はクマエリアに足を運んだ。
「一馬お兄ちゃん見てみて!」
「おぉ!すげぇ!」
そこには人工の川に鮭を放流してそれをクマが獲るという光景があった。そこまでやるかテンテン動物園。
「がおーがおー」
るかはクマの真似をして上機嫌だ。
「一馬お兄ちゃんもやって」
「お、俺も!?」
躊躇したが、渋々クマ真似をやってみた。
「が、がおー」
「気持ち入ってない!」
ダメ出しされてしまった。
「がおー!」
「いい感じ!」
乗ってきた一馬はるかを襲うフリをしながら真似をした。
「がおーがおー!」
「きゃーきゃー!」
るかも楽しそうだ。良かった良かっ――。
「ん?」
一馬は周りの視線に気付いた。どう見ても十歳の少女を二十二歳の成人男性が襲っているようにしか見えないからだ。
「きゃーきゃー!」
るかはまだやっている。さらに訝しげに二人を見るギャラリー一同。
「いや、これは違うんです!」
尚もギャラリーの目は変わらない。
「違う……違うんだぁぁぁぁぁ」
一馬は、るかを抱きかかえて逃げるようにその場を去った。(実際逃げた)
「これからいいところだったのにぃ」
るかが少しむくれていた。
「勘弁してくだせぇお代官様ぁ」
「うむ。しょうがないのう。かっかっかっ」
お代官ごっこでるかは機嫌を直したようだ。
「次あれ! あれ見たい!」
その後、はしゃぐるかに引っ張られ、サル、ゴリラ、トラ、ライオン、ゾウ、キリン等々一通り見た二人は帰ることにした。
「うーん……満足だよぅ」
「小さな動物園とは思えないほど動物がひしめき合ってたな」
疲れたるかを背負って夕陽の帰路につく。
「今日はありがと」
「どうしたんだ急に?」
「はいこれ!」
背負ったるかから差し出されたのは小さなクマのぬいぐるみ。
「プレゼントだよ」
どうやら数日前から作っていたのはこれのことだったらしい。
「ありがとう、るかちゃん」
「また明日遊ぼうね」
「ああ、また明日な」
その日の夕陽は二人を優しく包んでいた。