第四話:気がついた先にあるもの
そこは真っ白な世界だった。まるで夢の中にいるみたいだ。
「夢か……」
とりあえず頬をつねってみた。
「痛い……」
夢じゃないらしい。
「どうしてこんな所に……」
一馬は考えた。いくつかのキーワードが頭を駆け巡る。
――コンビニ――
――小雨――
――黒ずくめの男――
――懸賞ハガキ――
――天使――
――駐車場――
――バナナ――
――拳銃――
「そうか、天使になりたいって言って拳銃で……殺された?」
一馬はひとまず状況を把握しようと決めた。
「大体ここは何処なんだ?」
その空間は上も下も右も左も無いような感覚に陥る。
「あの自称天使……一体俺に何したんだ?」
一馬は沸々と天上昇に対し怒りがわいてきた。
「何処に隠れてやがる! 出てこい!」
「別に隠れているわけじゃないんですけどね」
後ろから声がした。盲点だった。まだ慣れていない一馬は振り返るのに一分ほどかかる。
「大丈夫ですか?」
そこにはサングラスと帽子を取って、普通のスーツ姿になっている昇が心配そうに立っていた。羽をぴくぴくさせながら。
「おい! どういう事だ! 説明しろ!」
「何言ってるんですか? あなたの願いを叶えてあげたんですよ」
「別になりたくもなかったが……天使にしてくれってやつか?」
「ええ、その通りですよ」
「じゃあなんで拳銃で撃たれなくちゃいけないんだよ! それにどうしてこんな所に?」
「こんな所ってここが何処だか知ってるんですか?」
「知らん」
「ここは天国の入り口ですよ」
「へぇ……って事はやっぱり俺は死んだのか?」
「あなた達の所ではそうとも言いますね」
「そうとしか言わん! 大体死ぬなんて聞いてないぞ!」
「天使が生身の人間じゃ格好つかないでしょう?」
ごもっともである。
「でもどうして入り口なんだ?」
「普通の人間は死んだら行く所が決まっているので、本来はここは素通りなんですけど私達は天使ですから」
「説明になってないぞ。天使だとここで一旦止まるのか?」
「言わばここは天使にとって交差点なんですよ」
「交差点?」
「ええ。ここから天国、地獄、地上、そして私達天使界につながっています」
「場所は大体分かったけど……天使になった時と人間の時だとどう違うんだ?」
「なんと! 羽が生えます!」
予想通りだった。自分の背中を見ると、いつか見たことあるような羽が生えていた。昇と同じようにサイズはおもちゃのようなサイズだが。
「羽……ねぇ。当然飛べるんだよな?」
一馬は羽をぴくぴくさせながら言った。
「飛べません」
コンマ一秒で否定の言葉が返ってきた。
ぴくぴくぴくぴく――
ぴくぴくぴくぴく――
約十秒ほどのぴくぴくタイムの後。
「何でだよ! 羽があるから飛べるんだろ?」
「ちゃんと聞いていましたか? 羽が生えると言ったんです」
「生えるだけ?」
「そうです」
「意味ねー!」
「ああ、でも訓練すれば飛べるようには……」
「今は?」
「飛べません。でも五センチくらいなら浮けますよ」
「やっぱり意味ねー!」
「そう落ち込まないで下さい」
「もういいや……で? これからどうするんだ?」
「これからドリームカンパニー本社に行きます」
「そういえばそんなこと言ってたな……何する所なんだ?」
「簡単に言えば夢請負人です」
「夢請負人?」
「はい。地上に住む人達の夢を叶えてあげるために必死に働く会社です」
「じゃあ何で俺みたいな夢の無い人間の所に来たんだ?」
「手違いです。たまにあるんですよねー。まぁ当選した人を変更することは出来ないので願いを叶えに行ったのですが、こんなことになってしまった以上うちが責任を持って引き取るのです」
一馬は開いた口が塞がらなかった。
「ま、まぁそんなこともあるよな……」
一馬は強引に納得した。
「とりあえず行きましょうか」
そう言うと昇は一人で行こうとしていた。
「待てよ!行くにしてもうまく動けないんだけど……」
「ここは泳ぐ感覚で大丈夫ですよ」
「なるほど」
確かに移動は出来たが、元々泳ぎは得意ではなかった為、結局昇に引っ張ってもらいながらこの真っ白な空間を抜け出した。
「まったく。世話の焼ける人ですねぇ」
そんな昇の言葉にむかつきながら。