プロローグ
∇プロローグ――――
力強く吹く風に生命力の乏しい草木が揺れる。
その合間を足が駆けて行く。
キリュウは切り立った崖の上に立つと、
「Collar」
と叫んだ。
そろそろ終わりが見えてきた。本当は誰が時間を見失ってしまったのだろう。長く生き過ぎた神々は己の職を捨て、我を亡くしてしまった。そうすることで神々は少しずつ少しずつ滅んでいく。止めるものは誰もいない。悲しい悲しい神々の終わり。皆、死んでいく。安らかに。目を閉じれば、安堵感におそわれた。「もう、生きなくていい」と誰かが言ってくれている。
遥か昔に永遠に生きることをもって生まれた神々は目を閉じた。
この物語が生まれて230年――。ある時、時の神が死んだ。天界の下にある、人間界の時間が消えた。枯れない草木に育たない食物。そして、歳をとることのない動物と、人。
何が嬉しくて時の神を殺したのか。
歳をとらないことの何が喜ばしいことなのか。
大人は良いかもしれない。若いままでいられるのだ。だが、子供は? 一生、大人になることはない。生まれたての赤ん坊なんてヒドイものだ。死ぬまで「オギャ」としか発することが出来ない。可愛い我が子が十年経っても成長しないことを目の当たりにしたとき、人々は知った。自分たちが求めたのはこんなものではない。すると人々は新しい考えにたどり着いた。「不死」 永遠の命。だが、これも「不老」と同等たるもの。神々はそんな人々を見ていて気付いた。
「これが自分たちの作ってきた世界なのか」
どこで作り方を間違えたのか。ああ、でも、それもどうてもいい。神々は疲れ切ってしまった。それからこの物語が終わるまでに神々は順番に死んでいく。彼等の中でいつしか、「生きること」が義務化していた。死なない体に生きることが怖くなった。
そんな神々を見ていた少年は「終わらせてしまおう」と考えた。これからの世界はこれから生きていく人が自ら作っていけばいいのだ、と。人々が望むように。だが、まずは時を進めなければならない。無くなってしまった色を集めなければならない。そうやって見つけた色を止まってしまった時をもとに戻す。時が動き出す時、向かえ来る明日に人々は泣いた。人間界が歓喜の色に包まれる。
人々は少年にお礼を言おうと思った。だが、すでに少年は死んでしまった。時を進めるということは全てを無に還し、新しい年を迎えるということ。そして、彼もまた、神だった。
―――――『色彩物語』第百ノ章「終わりのトキ」より
地と空が消えて300年。
争いの絶えない天空ノ村に、地の色彩と天の色彩が訪れた。月と地――、太陽と海――。天空と大地の代表格が揃った。
ほのぼのとした、のどかな空気が流れてくる。木々は我先にとはを赤や黄色に染めていく。生い茂った木々の下では草花が風に揺られ、種を落としている。
ふと、遠くに目をやると、可愛らしい女の子が一生懸命母の手をひっぱりながら「はやく」と急かしていた。買い物の途中だったらしく、母親は慌てて財布をしまっている。
女の子は広場の中央にある二つの銅像の前に向かった。母親が買い物している間、そこで遊んでいたのだろう。銅像の前までくると、女の子は聞いた。
「ねぇ、これなぁに」
「これ? これはね、そうねぇ、おじいちゃんとおばあちゃんがまだ若い頃に、世界を救ってくれた男の子の像なの。私たちは本当にこの二人に感謝しているのよ」
「へ~」
母親の説明を興味深く聞きながら頷いた。
「あのね、お母さん。さっき、ひだりのほうが「ありがとう」っていってたよ」
「え?」
女の子が言うと、片方の銅像の隣に赤い髪をした少年を見た。彼はニコッと微笑むと見えなくなってしまった。




