夢とナツとアキと
「ここは夢の中にあるドリームランド。ドリームゲームの世界だよ。」
アキさんは淡々と言った、何も不思議ではないということの表れだろうか…。
「なんなんですかそれは?」
俺は素直に質問した。結局これは夢ってこと?
「たぶん最初に説明を受けたと思うんだけど、簡単にいうとネットゲームみたいなものだよ。」
ネットゲーム。
最近それなりに人気なあれだろ。
メイプルなんちゃらとか。ファンタシーなんちゃらとか。テラーとかね、話は聞いたことがある。
正式にはオンラインゲーム。
パソコンを使ってインターネットに接続して、オンラインで同時に同じゲームの進行を共有することができる遊び。
インターネットが広く普及してる現在、遊んだことがある人はそれなりにいると思うけど。
俺は正直やったこともない。
「さらによくわからなくなったのですが…」
「君はネットゲームやったことないのかい?」
「ありません。」
「大体の原理ぐらいは知ってる?」
「まぁそれなりには…」
「じゃあ原理に合わせて言うと、人間というパソコンを使って、夢という回線・サーバーでDream gameを同時に遊んでいるわけ。実際にはどうかはわからないけどね。」
「はぁ…」
さらによくわからなくなった気がする。
「じゃあ単純に聞いていいですか?これは夢?それとも現実?」
「う~ん。どちらかというと現実。厳密には夢という現実。」
「はぁ…」
もうなんだか、はぁ…としか言えない。
「やっていくうちにわかるよ」
そんなこと言われてもね。でも、ここで悩んでいても先に進まないし次にいこう。
「じゃあ、Dream gameってなんなんですか?」
「それも説明受けたよね?いいかい?Dream gameは殺し合いをしてお金を稼ぐゲーム。」
「じゃあ、さっきの。ホニーさんが殺されたのも…」
「うん。その一端。ああやって相手を殺して、死体を換金所に持っていくと賞金と同額のお金をもらえるってわけ。」
「これって現実って言いましたよね?じゃあ死んじゃったらどうなるんですか?」
本当に現実だとしたら死んじゃったら死後の世界やなんやらに行くのだろうけど…。
ここは夢で現実で、結局どうなるのだろう。
「基本的には2度とこのゲームには戻って来れなくて、ゲーム外では遊夢病になる。
知ってるだろう?遊夢病。」
遊夢病。名前ぐらいは聞いたことがある。
最近ニュースで引っ張りだこだ。
精神がどうとか…詳細は知らない。
これだからは、俺みたいな現代の若者は…
「あの…遊夢病。名前は知っているのですが、詳しくどのような症状か詳しく知らなくて…」
「ニュースとか見ないのかい?
今じゃわけのわからない保護団体とかいるみたいだけど、要はただの動物かな?犬とか猫とかより酷いかも。
言葉もろくに通じなくなり本能に従って生きるようになる。
とりあえず今までの生活に乗っ取った動きはするよ。
例えば定時に起きて学校へ行って帰ってきて寝るとかね。
けど、知性は薄れ、欲求も極端になる。
マズローのやつで言うと1番下の生理的欲求が顕著になる。
どこでも寝るしどこまでも食べる、人の食べもの取ったりもする。
排泄は何処でもなりふり構わずする。
最悪なのは突然性交しようとすることだね。
もうほとんどが強姦だよね、男性だけならまだしも女性も男性に対してやるから。大変だよ。」
アキさんは少し笑いながら言った。本来は笑ってはいけない部分であると思うけど。アキさんは笑った。
「俺、遊夢病になりたくないです。」
純粋な気持ちである。つまらない日々を変わらぬままに生活するのは嫌だからいっそとか少し思ったけど、それは嫌だ。
アキさんは笑みを浮かべているけど、また話始めた。
「誰も遊夢病なんかになりたくないよ。
じゃあどうするかって言うと、このゲームの中でほとんどの人はチームを組んでいる。
そっちの方が生存率は上がるだろうからね。
で俺たちのチームに入らないか?という意味を込めて君を連れてきたんだ。」
そうか、チームのメンバーに裏切られる可能性はあるけど、一人で行動するよりはずっと良いってことか。
「私は反対だよ。」
後ろの方から声が聞こえてきた。さっきのグラマーな女性だ。名前は確かヤマねぇ。うん、きっとそう。
「なんで反対なの?」謎の男は聞いた。
すると、ヤマねぇは話を始めた。
「あんたは、このチームのリーダーだったよ。でも今は違う。
リーダーと呼べたもんじゃない。
あの時以来、それなりにいたメンバーももういない。
今はお前と私の2人で壊滅的な状況。
そもそもの原因は…そこはどうでもいいけど。
なにより私はそろそろやめる。」
「じゃ、君には関係ないよね。
やめるんだったら。
それに、このチームは今日から新しいチーム!になる!」
「はぁ…」ヤマねぇはため息をついた。
「う~ん。チームの名前は…『キセツ』。
『キセツ』いい!それにしよう。ということで少年!チーム『キセツ』に入らないかい?」
正直、嫌だ。すでにやめると言ってるヤマねぇとこのよくわからない謎の男と同じチームなんて。
するとヤマねぇが大声を上げた。
「『キセツ』だぁ?ふざけんなよ!!お前のせいで…お前のせいで…」
ヤマねぇはどこかへ走り去った。
その後姿には、大きな声を張りながらも、怒りより悲しみの方が強く感じられた。
美人の涙は…俺はそんな躍動的生き方をしていない。
「やめるとか言っていてもやめないくせにね。君は入る?
こんなことを言うのはなんだけど、俺が同じチームにいる限り君の安全は、ある程度保障するよ。」
ある程度。
要するに、この世界では、基本的には自分で身を守らなきゃいけない。
ということも含んでいるのだろう。
「まだ考えさせてください。
それに考える材料が少なすぎます。
もう少し質問していいですか?」
「俺なんかはすぐ決めちゃうけど、普通はもっと考えるのかな?
メンバー2人は寂しいから。
いいよ、わかる範囲なら答える。」
「チームに入る前に、チームについて詳しく教えていただけませんか?
この世界には、どれくらいチームがあるのかとか…」
素直な質問だった。
さっきできたようなチームよりもっといいチームがあるかもしれないし。
「チームは数えきれないくらいあるよ。
それにチームはDream gameの公式なものじゃないからチームごとにやっていることが違う。
チームごとの人数は、少ないとこは少ないし多いとこは多い。」
「チームごとにやっていることが違うって、どういうことですか。殺しあうゲームですよね。」
「このゲームは、プレイヤー人数が多くなるにつれて奥が深くなってきたんだよ。
本格的にチームで賞金稼ぎ、殺し合いをしているとこもあるけど…。
たとえば情報屋とかね、商売してるとこもある。
色々あるんだよ。
それだからチーム掛け持ちとかする人がいて、人数が1000人超えるとこもあるね。」
「1000人、ありえなくはないですが。
それより情報屋って?それに商売とかもよくわからないんですけど。
掛け持ちは、なんとなくわかります。」
「お互いに殺しあうにはまず相手が必要だろ?そこで情報屋。
目ぼしい相手がどこにいるかとか、それなりに高い金額がほしいとかになると、どの相手の賞金が高いだとかね。
何も殺しあう事だけが生きて行くすべではないわけ。
それに商売については情報やだけじゃなくてね。
俺たちは夢の中でも結局は人間。
お腹も減るし娯楽物がほしくもなる。
そこからお金を稼いでる人もいるってこと。」
「じゃあ誰も殺さず、殺されず、この世界で生きて行けるってことですか?」
結構楽勝なゲームだとと思った。やりようによっては殺さなくても生きて行けるし、商売とかなら殺されずにすむ。
そんなことなら、何をするかもわからないチームに入るより、そういった簡単そうな生き方をした方が…
「残念だけど誰とも戦わない期間がある一定以上経過すると殺される。
説明されたでしょ?ゲームに不適切なプレイをした場合、【執行人】が現れますって。大体の人がESって呼んでるよ。
まぁ誰も殺さないことはこのゲームにとって不適切なプレイってことみたい。」
「でも何とかなりますよね?執行人が来ても逃げるとか。
最悪、戦って逆にやっつけるとか…。」
「無理だね。この世界ではESがルール、ゲームの管理者みたいなもの。
否応なくして殺される。それに戦おうにもESより強いやつなんてそうはいない。
でもプレイヤー側には絶対者ってのがいて、その辺くらいだと互角かちょっと下くらいじゃないかな。
一応ESにも賞金ついているから、時々あえて誰も殺さずES呼んで『殺す』とか言っている人もいるけどね。勝ったやつなんていないんじゃないかな?」
話が飛躍し始めた。執行人がゲームの管理者でプレイヤー側には絶対者?
「じゃあ殺しあわなきゃ結局殺されるってことですか?」
「そういうことだね。」
結局は殺し合いのゲームなんだ。ほんとに殺しあわなきゃいけなくて…殺し殺される。
でもゲームをやめることはできるんじゃないかな?それくらいの希望は。
と〇し先生のグリードな島もやめることが…できなかったけ?
「あのう、ここまで聞いておいてですが、ゲームをやめる方法は…」
「君は殺されたくないし殺したくもないんだね。
でも、残念だけどゲームは死ぬことでしかやめられない。
他に方法はあるかもしれないけど夢物語だよ、現実的じゃない。」
「じゃ死ぬまでこのゲームは終わらないんですね。」
「そうだね。ゲームである以上なにかしらのクリアはあるかもしれないけど…」
「はぁ。マジかぁ。帰りてぇよ。」本音が出た。
涙もちょっとでた。
わけもわからないまま変な夢の世界に送られて、殺しあうしか生きる道が無いなんて。
現実はつまらなかった。
学校も楽しくないし良いことなんてそんなになかった。
でも、この世界で生きて行くことよりよっぽど幸せだったんじゃないかって。
「帰れるよ。」
「はぁ。帰れるなら今すぐにでも帰りたいですよ。死ねば帰れるとかいうんでしょ?どうせ。」
「死ななくても帰れるよ。」
「死ななくても帰れるなら…えっ!帰れるんですか?」俺は歓喜した。
やめられないけど帰れるんだ!じゃあ現実帰って二度とこなければいいじゃん!俺天才!
「うん。一時帰宅みたいなものだけど。」
なんだ、なんだそういうことは早く言えよ!
もうー。焦らせるなって。帰れるなら簡単じゃん。
「詳しく教えてください、その話!」
「わかった。まずね、この世界は現実と連動していて昼夜反転してるんだ。
現実が昼の12時なら、こっちは深夜の12時。現実で寝ているとこっちの世界で起きていて、こっちで寝ていると現実で起きてる。
実際には時間の調整が入っていて、厳密に反転じゃないけど大体反転。
12時間とか寝てられないし、現実の睡眠時間だけだとあまりにもゲームの時間が短すぎるからね。
でもどっちにしても一時的でも帰れる、寝たらまた帰ってくるけど。」
「寝ればいいんですね?じゃあ寝よう、今すぐ寝よう!ん?また、帰ってくる?」
「うん。帰ってくる。一時帰宅みたいなものっていったでしょ?聞いてた?」
「それは強制?」
「うん。強制。」
衝撃的だった。世の中、自分に優しく作られていませんね。発狂した。
「チーム『キセツ』に入るんだね。良かったー新メンバーだよ。」
結局、『キセツ』に入ることにした。
やめることができないなら、ある程度の安全を確保してくれると言っているこのチームに入ることにする。
他を見てないからどうしようもないけど、掛け持ちをしている人がいるといっていたから、この世界で生きて行くうちに他のチームに乗り換えてもいいはずだ。
良いチームが見つかるまでここにいよう。
「で、ここまでナガレで話してきましたけど、自己紹介してませんでしたね。俺は…」
「まって、俺から自己紹介するよ。
それにこの世界では大体みんなアカウントネームみたいなのを自分で決めている人多いし、このチームに誘ったのは俺だから、先に自己紹介させてもらうよ。」
ここまで会話してきて今更だけど、やっぱり悪い人ではない。
質問にはちゃんと答えてるし、なによりも意外と俺をたすけてくれてる。ありがたい。
「俺の名前はアキ。この世界ではそう名乗ることにした。チームキセツのリーダーです。
趣味は収集。なんでも集めることが好きです。好きな食べ物は……」
「あの、そんなことまで自己紹介しなきゃいけないのですか?」
「ごめん、ごめん。ついね。とりあえず、俺はアキよろしく!」
この人アキって言うんだ。
「俺はそういうニックネームみたいなの無いんで…。河原って言います。よろし」
「下の名前は?」
えーフルネーム言わなきゃならないの?ここは何とかスルーして…。
「趣味は特にありま」
「下の名前は?」
アキさんはしつこい人だった。
「下の名前嫌いなので…」いや、マジで嫌い。女みたいだし…馬鹿にされるし。
「下の名前は?」
うう。ちょっと怖かった。
「千夏です。河原千夏、です…」ああ。また馬鹿にされるんだろうな。
「じゃあ、君はこれからナツと名乗りなさい!この世界で名前はナツだ!
チーム『キセツ』にピッタリ!ナツよろしくな!」
マジかよ。馬鹿にされなかった。しかも名前を勝手に決められたし。ナツとアキね、確かに季節っぽいけど…。
「ナツ!返事は?」
「はい。よろしくおねがいします。アキさん。」
俺はこれから、ナツと名乗ることを決定された。
「ところでさっきのヤマねぇさんは?」
「すこしイントネーションが違う。ヤマネ。ヤマねぇじゃない。」
ヤマネさんか惜しかったね。ニアピンだよ。
どちらにしろやっぱり人の名前を覚えるのは苦手だな。
まぁまともに自己紹介してないから仕方ないか。
でも、個人的にヤマねぇと呼ばせていただこう。
「で、そのヤマネさんは…」
「ヤマネか…やめるとかを心配してるの?大丈夫彼女はやめないよ。
絶対に。彼女にもそれなりの理由があるからね。」
「理由とは?」
少し不躾だったかな、さっきの会話とかからだいぶ心傷がありそうだけど…。
「俺は聞く趣味はあるけど、言う趣味はないの。機会があれば聞いてみれば?」
「わかりました。」女性のプライベートに土足で踏み込むのは良くないね。たしかに。
「まだ聞きたいことはあるかい?」
「大丈夫です。まだありますけど今はまだ…ちょっと整理を。でも一つだけ聞かせてください。」
「何?」
「チーム『キセツ』は何をするチームなんですか?」これは聞いておこう。
とりあえず殺し合いはなさそうだから安心して聞けるし、早く知っておいて損はない。
さっき作ったチームだから、まともな返事は期待してないけどね。
「えっ?何をするかだって。なんにも。これと言って決まってない。だからなんにも。」
「なんにも?」
「そう。な~んにも。」
「ハッハッハッハッ!」
予想が当たればつまらないことの方が多いのに、今回は少し面白かった。
本当は呆れただけなのかもしれない。
でも久々に俺は笑った。何も面白くないのに何故か腹の底から。
俺はこの絶望しかなさそうなDream gameでナツと名乗ることに決められて、何をするか決まっていないチーム『キセツ』に所属。
話の流れからメンバーは、俺を含めてわずか3人。
先行きが不安。
でもやるしかなさそうだからやろう。
やらなきゃきっと殺される。
確信はないけれどアキさんと居れば、絶望しかなさそうでも現実以上に楽しいことがある気がする。