透明人間
この子だけは透明人間にしてはいけない。私のような存在を作ってはならない。
ただ、ただ雨に濡れるその子供を見て思った。
今はただこの小さな子供には似つかわしくない憎悪が子供を蝕むけれど、この憎悪がなくなってしまうことが一番恐ろしく、悲しいことであると私は知っていた。
先人が言っていた「好きの反対は無関心である。」と正しくそうであった。人は人によって認識されることによって人として存在することができる。
私にはそれができなかった。私は誰にも必要とされなかった。言葉の一言一言や行動は全てなかったものにされた。いつから自分が透明人間にされていたのか私には分からないが、私が自我を持つ頃には私は透明人間で両親でさえ私を居ないものとして扱った。
幼かった頃の私は両親が何故そうしていたのか理解出来ていなかった。今になって両親は私がいらなかったということに気が付いた。
私は両親に認めてもらうために、精一杯頑張った。迷惑をかけないように私は全てにおいて死に物狂いにやった。それでも、私を見てくれることは、なかった。学校では常に1位になった。学業においても運動においても。学校の全てが私を認めてくれた。だけど、両親だけは認めてくれなかった。
「どうしたら、どうしたら、俺は認めてもらえる。母さん、父さん、どうしたらいいんだ。」
「……………。」
私が、言ったことに対して二人は何も言ってはこなかった。二人の目に写るものに私はいなかった。
私は、ここで改めてこの二人は私の存在を認めてくれないのだと理解した。