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第2怪 笑いながらキレる人は中々に怖い

 けたたましい音を部屋中に響かせる目覚まし時計を切って、夏の暑さでけだるい身体を無理やり起こし、僕はベッドからのそのそと立ち上がる。軽く伸びをした後、カーテンを開けると外にはいくつもの住宅街が並んでいて、その屋根の上を鳥たちが飛んでいた。僕は日の光を浴びて体が目覚めていくのを感じながら今日もどんな一日になるのか楽しみにしながら、自分の部屋から出るのだった。


 さて、今日は日曜日。

 僕は毎週日曜朝七時半からやっているハイパー英雄時間を見るため、早く起きる。予想では既に──いた。まだ始まっている時間になっていないのにその時間帯に起きているのはこの家で一人しかいない。


「おはよう、一反木綿。やっぱり起きてたね」

「…………。…………!」

「まぁ、確かに遅く起きて見逃したらいやだもんね」


 先に起きていた一反木綿にそう朝の挨拶をした後、僕はキッチンに向かい食パンをトースターに入れる。他の二人は休みの日になるとしっかり十一時頃まで寝ているので、朝食は僕の分だけでいいのだ。トースターのレバーを回し、洗面所に向かう。

 そこで軽く顔を洗った後、口の中をゆすいだ。テレビで見たのだけど就寝から起床まで八時間だとすると、口の中ではもうこれ以上細菌が増える事の出来ない飽和状態になるのだとか。

 その飽和状態を再現したCG映像が僕にはどうにも頭に残ってしまい、それを見て以来僕は朝起きたときは必ず口をゆすぐようにしている。

 それはともかく、口の中はすっきりしたとはいえ喉の渇きは潤せない。

 ただでさえ気温は朝から二十七度を超えているのだ、このままでは干からびて死んでしまいそうだ。

 僕は冷蔵庫を開け牛乳を取り出し大きめのコップになみなみと注ぐと一気に飲み干した。やっぱり朝はこれを飲まないと始まった感じがしないと思うのは僕だけだろうか?

 誰に言うでもなくそう心の中で呟きながら、もう一杯飲もうと半分ほど注いだとき食パンが焼けたらしく「チンッ」とトースターが音を立てる。

 指先でパンをつまみながら皿に乗せ、マーガリンを軽く塗る。そしてそれと牛乳の入ったコップをお盆に乗せて居間に戻るとちょうどいい時間だったらしく、テレビでは五色の英雄が怪人と闘っていた。


「始まった始まった、今日はどんな話かな?」

「…………」


 僕がお盆をテーブルの上に置いてそう言うと、今日の新聞を持った一反木綿が新聞を見ながら頷いていた。どうやら彼も楽しみのようだ。そんなこんなでオープニングが終わり、物語が始まった。テレビの画面を見ると『第三十話! 頑張れカラーレンジャー部隊!』と書かれており、その文字がフェードアウトすると地球が真っ赤に染まっており、人々が恐怖に怯えた表情をしながら宇宙怪人『ストロボトーン』から逃げている。



『地球を征服してやったぞ! ガハハハハ!』

「う~ん、毎回思うけど敵方が征服成功してからカラーレンジャー部隊が動き出すのってどうなんだろうね?」

「…………?」

「まぁ一反木綿の言う通り逆転劇が面白いって言う人もいるだろうけどさ」



……………………


………………


…………



『必殺! カブラペンスラーッシュ!』

『ぐわぁー!』

「やっぱりかっこいいなぁ。ただあんなに血をリアルに吹きださなくても……」

「…………!」

「えぇ? そこがいいんだって言われてもなぁ」


 そしてエンディングが流れる。ほとんど劇中では使われなかったCGを思いっきり使ったエンディングはとても迫力がある。正直この技術を演出につかえばと思うのだが、どうやらカラーレンジャー部隊の監督はエンディングで使う事をこだわっているらしい。難儀なもんだね。

 次の『仮面騎手ロデオ』まで少し時間があるので僕は皿とコップを持ってキッチンに向かう。流しにその二つを置いた時、家の玄関から「ガンガン」と音が聞こえてきた。

 玄関を叩いているようだが、何故チャイムを使わないのだろう?

 僕は不思議に思いながら、少し小走りで玄関へと向かう。近づいて分かったが結構な力で叩いているらしく、扉が揺れているのが分かるほどだった。


「はいはい今開けますよーっと……ん?」

「お? 久しぶりだな、恭!」


 そこに立っていたのはだいたい十歳ぐらいの男の子だった。

 灰色の髪の毛に爛々と輝く金色の目。そしてその年頃にしては整った顔をしていて、もしこのまま成長したら絶対モテるなと確信が持てるほどだ。

 さらに一際目立つ、背に背負った大きな瓢箪と頭から生えている立派な角(・・・・)

 いつも来るときはこんな朝早くではないので、僕は思わず目をパチクリさせる。「おーい?」と僕の目の前でピョンピョンとジャンプしながら手を振られ、ハッと我に返った。


「“酒呑童子”じゃないか。どうしたの、こんな時間に?」

「いやー、実は昨日からずっと飲んでたら茨木童子に怒られちゃって。大慌てで逃げてきたのだ!」


 あっはっは、と笑いながらそう話す彼の名前は酒呑童子。天邪鬼の友達で前にニ、三度ここに訪れたことがある鬼の妖怪だ。こうして会うのは、まだお酒が飲めない僕に無理やり飲まそうとしてきた時以来だろうか。

 その時は彼の恋人である茨木童子の物理的説得で気絶してしまったので別れの挨拶もしっかりしていなかった気がする。彼女も中々の美少女なのだが、怒った時は特にヤバい。

 僕は茨木童子が怒った時の事を思い出す。その時の顔は見えなかったが酒呑童子を殴った時の後ろ姿から出ていた気迫は思い出すだけで鳥肌ものだった。逃げるのも仕方がないような気がする。


「それは大変だったね…………──!?」

「そうなんだよ! 毎回何時間もおれに説教垂れてさぁ。この前だって──」

「この前だって──何?」


 ピキッ、と音を立てて酒呑童子が固まるのが見える。

 そう言う僕も金縛りにあったように動くことが出来なかった。

 彼の後ろには鬼の形をしたオーラを放っている茨木童子が仁王立ちで立っていた。笑顔なのがまた怖さを強めている気がする。

 まだ僕の方を向いている酒呑童子はカタカタと震えながら涙目でこっちを見てくるが、僕は動かない身体を何とか動かして、首を横に振った。

 酒呑童子は絶望に染まった顔になると、諦めたようにゆっくりと後ろを振り向く。その時に小さく「ヒッ」と引き攣った声を出してしまい、さらに彼女の怒りが増したのかプレッシャーが大きくなっている。

 僕はこの状況からどうやって抜け出そうか必死だった。もうここにいるだけで寿命が減っていきそうだ。

 そんな時、リビングの方からテレビの音声が聞こえてきた。


『仮面騎手ロデオ! 今から馬乗り開始!』

「ハッ! ごめん二人とも! 僕、観たいテレビが始まるから! じゃ!」

「お、おい恭! おれを見捨てるかーッ!」

「ふふふふふ……。さぁテンちゃん? 覚悟はいい……?」

「イィィィィヤァァァァ!?」



……………………


………………


…………


 ガチャ。


「ふぅ……」

「…………?」

「ん? あぁ大丈夫、ちょっと寿命が縮んだだけだから」

「…………!? ──……?」

「ははは、そんなに驚かなくても大丈夫さ。……玄関から聞こえる悲鳴は気にしないで、うん」



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