ルール
あの、馬鹿げた天使の男は、とにかくこちらの言うことなど一切無視して、説明をして消え去った。
【グッドラック】の言葉を空中に残し、空間のゆがみの中に消えた。
基本的なルールは簡単で、とにかく自分と同じ人間が現れたなら、即時戦闘をし戦闘不能状態にした方が勝ち、敗者は勝者に飲み込まれ存在しなくなる。
飲み込んだ方は、敗者の記憶を引き継ぐが、それは融合したときとは違い、あくまで他人の持っていた記憶であると分かる。
遭遇する時は、自分と並行世界の自分とが同じ座標に近づいたときに、お互いの世界が干渉し時空の歪みが発生。その結果、二つの世界がつながってしまう場所ができる。さっきの戦闘は、この狭間の空間ともいえる場所で行われ、どちらの世界にも属さないためにどちらの世界の住人にも、俺たちの声が聞こえなかったらしい。
ゆがみが発生している場合、向こう側の世界に乗り込むことが可能らしいが、敵地に乗り込むゆえに不利な戦いを強いられるのは必然。乗り込むことはあまりお勧めできないそうだ。
互いが同じ座標にいなくても、時より時空の歪みが発生し、乗り込んで奇襲をかけることもできる。というイレギュラーもあるが、かなり危険なために、そう簡単にはできないそうだ。
そして、一番重大なことは、これには時間制限があることだ。
正確な時間については、知らされていないが、二つの世界の自分が干渉できるほどに互いの世界が近くなっているため、このまま放置すれば互いの世界が融合し、強制的にそこに住まう人間も融合。これにより、さっき戦ったもう一人の自分がと、この世界の自分が融合、全く別の人間になってしまう。
その前に、相手を見つけ出し勝利しなければどちらでもない自分になってしまう。
それは、今の自分の消失、大げさな言い方をすれば自らの死を意味する。
荒唐無稽な話だが、目の前で起こったことを…、体験したことを考えれば笑い飛ばすことができない話で、しかも、これが本当ならば自分だけでなくすべての人間が関係する重大なことだ。
そう考えながら、まだ震えて、脳みそからの命令を実行してくれない足を引きずって、家に戻った。