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第八話 ロリがドラゴンでやって来る

第八話 ロリがドラゴンでやって来る


side マイマイ


破壊神国の王宮の正面は、王都と呼ばれた街で埋め尽くされている。

では裏側には何があるのかと言うと、同じく街があるのだが、街と王宮の間に、あるものが設置されていた。

設置されていたものは、広大で平らな土地、そしてカマボコ状の巨大建造物が数十個と、全長4km、幅500mの道路上のものが二本。

そしてその上には、プロペラのついた鉄の鯨のようなものと、羽の生えた動物達が並んでいた。

それは『制空基地』と呼ばれている所だった。


マイマイはその制空基地の一角。

全長150m前後の、炎のように真っ赤な鱗を持った生き物が佇む所にいた。


「ごめんね、ファイ一郎は乗るためドラゴンじゃないけど、長期間無補給で行動できることと、航続距離が長いこと、そして攻防御力を考えるとファイ一郎が一番適任なんだ」


「ガルルルル!!」


「『よく分からないけど、おまかせ下さい!!』と言ってます」


「そうか!目的地は徒歩で10日以上かかる距離で大変だろうけど頑張ってね」


「ガルッ!ガルガルッツ!!」


「『がんばるよっ!!マイマイ姫様は寝て待っててください!!』と言ってます」


炎のように真っ赤な鱗を持った生き物は、ファイアードラゴンのファイ一郎。


・ぶつかっただけ敵を薙ぎ倒せるほど巨大な体を持っている。

・小型の敵に纏わりつかれても大丈夫なように、分厚い鱗で全身を覆い、おまけに体中から炎が出る。

・口からどんな敵も骨まで焼き尽くす必殺の『炎獄撃滅覇』を吐く。

・戦闘に関係ないパラメーターには極力数値を振り分けない。

・名前は「the flames of hell(地獄の業火という意味)」。


というコンセプトで作られた『ぼくのかんがえたさいきょーどらごん』だった。

これを考えた『神龍』本人はいたって真面目だったらしく、コンセプト公開時に冗談だと思った他の百使徒とひと悶着あったのだが、決して悪いコンセプトではなかった。

その証拠に、コンセプト発表から一年後、ファイ一郎は初陣で敵ギルドの陣地をプレイヤーごと一撃で吹き飛ばしたのである。

何故か名前が「the flames of hell」から「ファイ一郎」に変化しており「名前が格好悪くなった」とマイマイが残念がったが、コンセプトが正しいことを神龍は実戦で証明することができたのだった。


そんな強力なファイ一郎を、マイマイは神聖オルトラン王国への足に使おうとしていた。

そのため、既にファイ一郎の背中には『どんなに揺れても安心!安全操縦席 製造番号98564615号 Maid in GM』と刻印された椅子が三つ取り付けられていた。

椅子が三つあるように、マイマイには、ファイ一郎とカクサン以外に、二人の家臣が同行することになっていた。

一人はマイマイのメイン盾、スケサン。

そしてもう一人は、先程からファイ一郎の通訳を行っているカグヤだった。

カグヤの姿があることが示しているように、ウォルフルの村をステイシスが訪れてから、2日以上経っており、実は今日で10日が過ぎていた。



「いや、寝ないから。

 ねえカグヤ、これって寝坊したことの皮肉だったりしないよね!?」


カグヤが翻訳した「マイマイ姫様は寝て待っててください!!」という言葉に嫌な予感を覚えたマイマイは、カグヤに確認する。


「そんなことは無いと思いますよ」

いつものように優しく微笑みながらカグヤが答える。


「そうか、カグヤがそういうのならそうなんだろうな」

だがそれでも何となく不安なマイマイは、不承不承といった感じで頷く。

すると、スケサンが文字通り、横からグイッと首を突っ込んできた。


「そうでござるよ、姫に皮肉を言う家臣などいるわけが無いでござる!

 きっとファイ一郎は、ステイシス殿に明日出発みたいな事を言っておきながら、姫が寝過ごしてその日に出発していなかったのを非難しているとかでは無く。

 姫はよく寝る子でござるな、でも寝る子は育つというから、今のようにぐっすり眠り続けたら、姫の体も少しは女らしく成長するかもしれないでござる。

 だから、姫の将来のために寝させてあげよう!

 と気を利かしてくれているのでござるよ!!」


 







「それはファイ一郎じゃなくて、スケサンの考えだろうが!!」

マイマイは杖をボコンとスケサンの頭に叩き落す。


「さあ、カグヤ、カクサン、スケサンは置いてファイ一郎にそろそろ乗ろうか!」


「かしこまりました」


「m9(^Д^)プギャー」




「姫!?拙者も行くでござる!!!?」


置いていかれそうになったスケサンは、頭蓋骨の位置を直しながらマイマイの後を必死に追いかける。

だが、スケサンの話も完全に的外れという訳ではなかった。

スケサンが話していたように、報告書の説明を受けた次の日はマイマイが寝過ごしたため、出発が中止になっていたのである。

そして、それに対して皮肉を言う家臣がいないというのも事実だった。

むしろ、ステイシスを始め、出発の話を聞いていた家臣は、マイマイの出発が延び「準備が無駄になった」と怒るどころか、大喜びだった。


何故大喜びなのか。

それは、マイマイの出発が結局10日も遅れた理由と根は同じ理由だった。


「ミーアは、ミーアはいい子にしてるから、絶対に帰ってきてねーーー」


耳をと尻尾をペタンと落としたミーアが涙ながらに言う。

その声が切っ掛けだったのだろう、次々に家臣達が声を上げ始める。


「ご武運を!!絶対無事に帰ってきてくだされ!!!」


「何かあったら、直ぐに呼んでくださいよ!!

 紳士である私は、敵の中でも、日光の中でも、流水の中でも、お風呂の中でもトイレの中でも馳せ参じますぞ!!」


「パパ最低…」


「あなた、まだ懲りないようですね…」


「ガウガウ!!」


「ワレラノココロハツネニマイマイヒメサマトトモニ」


「ファイ一郎、お勤めをしっかり果たせよ!!!!

 いざとなったら、命をかけて守るのだぞ!!」


「絶対に無事に帰ってくるんだベー」


「どうしてメイド長だけなのですか~、私も連れてってください~」


「ステイシス殿まで行ってしまわれたら、王宮の管理はどうするのですか」


「そんなの分かってますよ!でも言わせてください、カグヤの馬鹿ー!カグヤが行くから、私が行けなくなっちゃったじゃないですかー」


「公的な場で呼び捨てはまずいのですよ、ステイシス殿!」


「うわーん、いっちゃやだーーー」


「プルプルプル、プルルルンプル」


「スケサン!マイマイ姫様に何かあったら、土葬にしてやるからなーーー」


「スケサンさーん!そこ私に代わってーー」


「モコーン!モコーン!?モコーン!」


「お土産鰹節でお願いしますにゃー。

 だから絶対に帰ってきてにゃーーーーーーーーー!」


「いや、人参がいいうさ」


「無事に帰ってきてくれるのがお土産で十分だにょろ!!」


「行く前に一回だけでいいから、ペロペロさせてくださいー」


「何かあったらすぐに呼んでくだされ!!」


「生水は、間違っても飲んじゃいけませんぞー」


「知らない大人には絶対について行っちゃ駄目ですよ!!」


「いってらっしゃーい!」


「お体にはお気をつけてー」


「絶対、絶対に、死なないで下さい!!!!」


「あなたの家臣で、私は幸せでしたーーー」



(相変わらず皆、大げさすぎだろ。



 ああもう!

 確かに私自身も不安なんだけど、それを忘れようと努力してたのに、皆が心配するから不安になってきたじゃないか!

 でも、心配してくれるのは嬉しいから、文句は言えないけど!!!)

集まった一万人以上の家臣達が鬼気迫る様子で、一斉にマイマイに向けて自分の思いを叫びだす。

その言葉の大半は『マイマイの命を心配する』声だった。

これが家臣達がマイマイの出発が遅れたことに、大喜びした理由だった。


千年間待ち待ったマイマイがやっと帰ってきたのだ、家臣としては、もうひと時も離れたくないというのが本音だった。

それなのに、千年前とは違い、未知の領域になった危険かもしれない場所へ、家臣を置いてマイマイ自身が向かうというのである。

家臣からすれば、心配で心配で仕方が無い事態だった。

そのため、マイマイが寝過ごした次の日から、毎日のように家臣達がマイマイの元を訪れていた。

用件は、マイマイが出かけることを止めようとしたり、自分を護衛につけてくれと懇願するというものだった。


例えば、これは今から3日前の夜、中庭を散歩していた時のことである。



----------


「どうか今度の遠征には、我が夜の軍団をお供につけさせてください!」


「うわあああああああああああああ!?」

突然闇の中から飛び出し、そのままスライディングしながら土下座をする、何か。

それは、マント服姿のオッサンだった。


「な、なんだブラディア伯爵か、驚かせないでよ!」


「これは、申し訳ない!!」


飛び出してきたのは、ブラディア伯爵。

吸血鬼隊を率いる真祖で、吸血鬼隊を夜の軍団と呼ぶ、ちょっと中二病が入ったオッサン(子持ち)だ。


「因みに却下ね」


「あの?」


「だから、吸血鬼隊を連れて行くの却下だから」


「な、何故ですか!?

 我々のように強く、エレガントで、うつくすぃいいい家臣は他にはいません、絶対に遠征のお役に立ちましょうぞ!」


「駄目なものは駄目。

 ブラディア伯爵達はむいてないの」


「むいてないですとぉ!?

 そんなことはありません!!

 私だけでもお供に連れていただければ、格闘戦による近距離戦闘から闇系統の魔法による長距離戦闘まで対応できるのですぞ!


 しかも今なら、マイスイートエンジェルのカーミラちゃんもタダで付いて来るのですぞ!」



「パパ…私はお菓子のオマケか何か?」


ブラディア伯爵が、マントの中から眠そうな顔をした銀髪の幼女を取り出し、小脇に抱える。

因みにマイスイートエンジェルと危ない言葉を発しているが、ブラディア伯爵が幼女を手篭めにするために拉致監禁してきた訳ではない。

マントから現れた幼女はカーミラ。

ブラディア伯爵の愛娘だ。


(また、一から説明して納得させるのか)

娘を使ってまで、同行を希望するブラディア伯爵に、連れて行かない理由を一から説明しなくてはいけない事態に、マイマイは面倒くさい気分になる。

しかし、もっと面倒くさいことがその後に控えていた。


ガタガタガタガタガタ…


「あれ?地震!?」

地面が小刻み震え始め、その揺れが徐々に激しくなる。

そしてそれと同時に、唸るような重低音が辺りに響き渡り始めた。


「ハルト!!」


闇夜から虎と豹が現れ、マイマイ達の前に止まる。

といっても、ただの虎と豹ではない。

ディーガーⅢとパンターJ型と名付けられた、鋼鉄の虎と豹、戦車だった。


「アハトゥング !!」

そしてそこから、次々に乗員が姿を現し、マイマイ達の前で整列を行った。


その列の一つ手前。

列から離れたところに立つ二人の人物、黒い軍服を着た片目の、狼男ならぬ虎男といった風貌のがっしりした体つきの男と、少し線の細い感じの同じく黒い軍服を着た、豹男といった風貌の男がマイマイの前に進み出る。


「敬愛なる、マイマイ姫様。

 猛虎連隊長のヴィットマンと、副連隊長のパルクマンです。

 お声がしましたので、はせ参じました」


敬礼をしながら、話すヴィットマン。


「お声?」


「悲鳴が聞こえたとの報告が入りましたので、夜間進軍演習を切り上げて参りました」


「いや、ちょっとそこのブラディア伯爵に驚かされてね」


「なるほど、ブラディア伯爵を銃殺刑にされるのなら、このティーガーをお使いください。

 銀の砲弾のご用意があります」

落ち着き払った雰囲気で、さらりと怖い事を言うヴィットマン。


「いや、別にブラディア伯爵が何か悪いことをしたのではなくて、遠征に連れて行ってくれと直訴しに来てね。

 無理だから断ろうとしていたところなんだよ」


「ブラディア伯爵の力は決して侮れませんが、確かに伯爵の願いは全てにおいてナンセンスですな。

 夜間しか力を発揮できない吸血鬼が、城を離れてのお供するなど、いたずらに危険を増やすだけです。

 昼間の行動が制限され、それが作戦の冗長性を奪います。

 マイマイ姫様の安全を考えるのなら、身を引くのが賢明でしょう」


片目でギロリとブラディア伯爵を見つめながら、伯爵の願いを全否定するヴィットマン。

ブラディア伯爵の存在が行動の自由を奪い、それによって護衛をするどころか逆に危険が高まるというヴィットマンの指摘は的確であり、マイマイも思わず頷いてしまったが、それでは納得しない者がここにはいた。


「待ってください!!

 確かに、吸血鬼は昼では力が落ち、その力の落ち方は弱ったカーミラちゃんがいつ童女趣味の手にかかってしまうのかと心配なぐらいですが、夜での戦闘を考えて吸血鬼を一人二人加えるのも決して悪い判断ではありません!」


ブラディア伯爵の反論は、通常の遠征なら、決して的外れではなかった。

だが、今回の遠征は通常ではないゆえ、その反論は的外れだった。

「いや、問題はそこじゃなくて」とマイマイが理由を説明しようとするが、ここにはマイマイより早くブラディア伯爵の反論に反応する者がいた。


「全天候戦能力が無いなど、現代戦において言語道断!

 我が猛虎連隊は!

 ヴァンピールシステムにより、夜間の戦闘も実現している!!

 ブラディア伯爵が護衛に付くと言うのなら、我が猛虎連隊が護衛に付いた方が合理的!!


 もはや、吸血鬼など戦場に不要!!!」

突然、ヴィットマンの斜め後ろに立っていたパルクマンが声を張り上げる。


「ななななにぉぉぉぉう!!

 戦車なんぞ、空からの攻撃には手も足も出ないくせに、ギャンギャン吼えるな!」


その声にカチンと来たのだろう。

ブラディア伯爵が、パルクマンに詰め寄る。


「対空戦車というものをお知りにならないようですな!」


だが、パルクマンも矛を収めるつもりは無いようだ。

この二人、過去に何かあったのだろうか?


「馬鹿にするな!あんな豆鉄砲に夜の軍団を落とせるものか。

 戦車なぞ、この我輩が本気出せば、ちょちょいのちょいで鉄くずだ!」


「鉄くず…

 



 これ以上言い合っても、埒が明きませんね!

 どうでしょう、ここは一つ、一戦交えて優劣を決めるというのは!」


「いいだろう、その話乗った!」


マイマイを置いて勝手に盛り上がり始める二人、ブラディア伯爵は、まるで頭から電波を飛ばしている様な表情をし、パルクマンは喉当てマイクに手をかざす。

(なんでこうなるの!)

置いてきぼりの状況にマイマイは焦るが、実はマイマイより焦った人達がいた。


「パパやめて!」


「パルクマン!!命令を無視する気か!!」


カーミラが、ブラディア伯爵に抱きつき、チラリとマイマイの方を目で示す。

そして、ヴィットマンは怒りの表情で、パルクマンを睨み付けた。

ここに至って、どうやら二人も事の不味さに気がついた。

マイマイの前で、勝手に大騒ぎをし『個人的な理由での、家臣同士の殺し合い禁止』という百使徒が定めた法も破りかけたからだ。

現に、マイマイは気がついていなかったが、闇の中には、カグヤとステイシスがいつでもブラディア伯爵とパルクマンを取り押さえられるように、待機していたのである。


この後「申し訳ありません」「気にしてないよ」といったお決まりのやり取りが続き、事は収まったが、マイマイとしてはこのまま追い返して終わりとはいかなかった。

あくまで、二人の暴走を止めただけであり、護衛として連れて行けないということを納得させていなかったからだ。


「皆の気持ちは良く分かった。

 だけど、皆は私が召還術士だってこと忘れてない?

 スケサン達で足止めしている間に、必要だったら皆を呼ぶから安心して」


そして、納得させる切り札は、この言葉だった。

今回マイマイが、結局カグヤとスケサンとカクサン、そして乗り物としてファイ一郎を選んだのは、戦力が必要だが、沢山の戦力を連れて行けば目立ちすぎてしまい、意図せぬ接触をしてしまうからだ。

そのため、マイマイの盾となるスケサンと盾二号のカクサン。

マイマイと同じ魔法使い系&身の回りのお世話役、カグヤ。

長距離の移動を無補給で行うことができ、ちょっとやそっとでは落とされない強靭な体を持ち、乗り物として見た場合も、最高の性能を誇るファイ一郎。

という組み合わせになっているのだが、この戦力で敵と対峙するのはせいぜい10秒程を予定していた。

本職が高位召還術士であるマイマイは、召還することによって、戦力をほぼ無尽蔵に呼び出すことが出来るからである。

しかも、マイマイが世界建設ギルドのギルド長に就任した理由の一つでもあるのだが、マイマイは家臣のほぼ全てを召還対象として登録していたのである。


つまり、スケサン・カクサン・カグヤ・ファイ一郎を使って、一瞬でも足止めを行えれば、マイマイは大軍を率いているのと同じ状況だったのである。


「しかし、それはそうですが!

 そもそも自ら遠征にいかれなくても!」

だが、ブラディア伯爵はなかなか引き下がらない。

確かに、態々マイマイが出る必要など無いように見えるからだった。


「いや、今回はどうしても私が自分の目で見て判断したい」

(だって、またカグヤの時みたいに、指示ミスしそうだし)

しかし、マイマイにとっては、森を焼くという間違えた指示を出してしまったばかりであり、また家臣に任せて、ミスをしてしまうのを恐れたのだった。

特に今度は、家臣に任せて、助けてくれそうなプレイヤーを見逃したり、逆に敵に回したり、いるかもしれない敵対的な何者かに狙われることになったら、正真正銘命の危機だったのである。

(ここでミスって、結果として自分が死ぬことになったら、洒落にならない!!)


「そのような目を見せ付けられたら、流石の私でも降参です。

 お気持ちは…硬いようですな」

どうやらマイマイの目から強固な意志の光を感じ取ったらしく、ブラディア伯爵はやっと引き下がる。


「ああ。

 気持ちだけは貰っておくよ、ブラディア伯爵。


 そういうことだから、ヴィットマンもいいね?」


「ヤヴォール !」


この日は以上のように、両者を納得させて終わった。

しかし、このやり取りは氷山の一角である。

このようなやり取りが何度も何度も続き、家臣達の一応の納得を得たころには10日間も過ぎてしまっていたのだった。

家臣達は皆、マイマイのために必死だったのである。



----------



(いつもより凄い熱気だ。

 皆の前で喋るの恥ずかしいけど…

 一言、何か言ってあげるべきだよな…)

マイマイに向けて家臣達の熱狂的な声が殺到し続ける。

それは、先程から止む気配がなく、既に一分以上続いていた。

マイマイは最初(いちいち対応していたら日が暮れてしまうかも)と思い、それをあえて無視し、そのまま出発しようかと思ったが、あまりの必死さに何も答えないことに罪悪感を感じてしまう。

そこで、マイマイはファイ一郎の上で仁王立ちになり、家臣に向けて叫んだ。

「皆ー聞いてー!」

マイマイの叫びが辺りに響き渡ると同時に、先程までの喧騒が嘘のように辺りが静まり返る。

それを確認したマイマイは、息を大きく吸い込み、一気に叫んだ。


「絶対に帰ってくるからね!!」


静かになった家臣達の間をマイマイの思いを乗せた言葉が走り抜けていく。








すると「マイマイ姫様ばんざーい!!」と家臣の誰かが叫んだ。

それに釣られたのだろう「マイマイ姫様万歳!!破壊神国万歳」とまた違う誰かが続いて叫ぶ。

「マイマイ姫様万歳!!破壊神国万歳!!」またまた、それに続き誰かが万歳と叫ぶ。

「「マイマイ姫様万歳!!破壊神国万歳!!」」万歳の言葉が家臣達の間を伝染していく。


「「「マイマイ姫様万歳!!破壊神国万歳!!」」」


「「「マイマイ姫様万歳!!破壊神国万歳!!」」」


「「「マイマイ姫様万歳!!破壊神国万歳!!」」」


そしてそれは、あっという間に家臣全体に伝染し、万歳の声が波のうねりの様にマイマイへと押し寄せる。

万歳の声をあげる家臣達は、誰も彼も笑顔であり、中には笑顔のまま涙を流す者までいた。

マイマイは、ただ単に(確かに危ないけど、近日中に絶対に帰ってくる予定でから、そんなに大騒ぎせずに落ち着いてね)と落ち着かせるために、言っただけだったが、家臣にとってはマイマイの言葉はとても重いものだったからだ。

マイマイは千年前に帰ってくると宣言し、約束どおり帰ってきたのだ。

そんなマイマイが絶対に帰ってくると宣言したのだ。

それは最早約束ではなく、家臣にとっては確定された未来のようなものであり、彼等を感動させると同時に、安心させるには十分なものだったのである。



「う、うん、計画通りだ、大丈夫だ問題ない。

 カグヤ!

 出発!!」

納まるどころか、異様な熱気にを帯び始めた家臣達に、マイマイの顔が若干引き攣る。

そして、事実そうなのだが、逃げるようにマイマイはカグヤに出発の指示を出した。


「分かりました、出発します、ファイ一郎、テイクオフです」


「ガウッ♪」

ガクンと揺れ、ファイ一郎が滑走路に向けて歩き出す。

それに伴い、万歳の声が徐々に小さくなる。

しかしそれは、マイマイと家臣達の距離が離れ始めたからだけではなかった。

滑走路をファイ一郎が走り始めた頃、家臣達から歌が聞こえて始めてきた。



「「「敵が幾億いようとも」」」



「「「我らの力にひれ伏せる」」」



「「「我らが三界支配者なーり」」」



その歌は、第二次世界大戦を映したモノクロの古典映像と共に流れてくるような、古めかしさを感じるものだった。

だがその歌を耳にしたマイマイの口元はニヤリと笑った。


この歌の名は『破壊神国進軍歌』

軍オタの百使徒『極光』が作詞作曲た軍歌であり、マイマイにとっては百使徒達との出陣の度に何度も耳にした歌だった。

(この歌を聴いていると、まるで百使徒の皆が一緒にいてくれるみたいだよ)


ログアウト出来ないと気がついた時から、マイマイが不安を覚えない日は一日たりともなかった。

人には物事に慣れるという習慣があり、不安はこの10日間で徐々に治まってきていたが、それは確実にマイマイの心の中に残っていたのだった。

(何だか勇気が沸いてきた。

 さっきは心の中で文句を言っちゃったけど、それは撤回!

 皆、ありがとう!!!!)

だが、この瞬間だけは違った。

歌がマイマイに勇気を与えてくれたのだった。



「「「「神も魔王も頭を下げよ」」」」



「「「「仇なすのなら破滅を与えん!!!!!」」」」


マイマイ自身も破壊神国進軍歌を口ずさみ、右手を空に突き上げる。

それがまるで合図だったように、ファイ一郎は翼を強く羽ばたかせ、一気に空へと飛び上がっていった。



後の歴史家は語る。

世界の歴史が動いた瞬間だったと。



----------



side ???


青い空を切り裂く白い物体。

といっても、それは飛行機ではない。

全身が白い羽毛で覆われた全長12m程の一匹の生き物。

白いワイバーンがその正体だった。


「大丈夫?そろそろ疲れてない?」


その白いワイバーンの背中に小さな人影が一つ。

年は14か15程だろうか、まだあどけなさが残る顔に焦茶色の髪と目を持つ、年の割には小柄な少年がワイバーンに乗っていた。


「全然大丈夫、今日は風が穏やかだから、まだまだ飛んでいられそうよ」


ワイバーンの上には少年一人の姿しか見当たらない。

しかし、少年の問いに少女の声が答えた。


「でも…

 シェイリィやっぱりそろそろ砦に帰ろう。

 だって、お給金前だから、シェイリイはこの前からずっと竜小屋で寝泊りしているだろ、あんな場所じゃ疲れも……」


少年が、申し訳無さそうなお顔をして言う。

すると、突然ワイバーンの首がぐるりと曲がり、その瞳が少年を見つめる。

動物が視線を合わせるときは、攻撃の意思を示したものだが、その瞳は穏やかな色をしていた。


「大丈夫、本当にこのぐらいへっちゃらだから。

 それに、どうしてもベッドで眠りたくなったら、ハルスのベッドに潜り込むから!」


「だ、駄目だよ!

 女の子が僕みたいな男と同じベッドで寝るなんて!!」


「あれー?

 その言い草だと、ハルス君は、このシェイリィお姉さんにイケナイイタズラをしようとしているのかなー?」


「違うよ!!そんなことは無いよ、僕はシェイリィの体のことを!!」


「やっぱり私の体のことが気になるんだ、このケ・ダ・モ・ノ!!」


「ななな!!!違うよ違うよーーーー!!」

少年が、手綱を持っていない左手で、ポカポカと白いワイバーンの背中を叩き始める。


「恥ずかしがっちゃって!!かーわいー!!」

どうやら、少女の声は白いワイバーンから出ているらしく、白いワイバーンはシェイリィという名のようだった。

そして、その上に跨る少年の名をハルスというようだ。


「もう、可愛いだなんて!

 そんな事を言っていられるのは今の内だよ!

 僕はご先祖様が残してくれた、この『破魔の剣』で英雄になるんだ!」


少年が、背中に背負った剣を抜く。

その剣は、飾り気も無い古びた剣だった。


「うん、そうだね…」


曖昧な表情をする白いワイバーン。

それを見て、馬鹿にされたと思ったのだろう。

少年は、少しむくれて、語り始めた。


「シェイリィ!まだ信じてないの!!

 これは本当に僕のご先祖様が魔王と戦ったときに使った剣なんだ!

 その証拠に、この剣は伝説によると、いくつもの秘密の力が隠されているんだ!

 例えば、恐ろしい敵が近づいてきたら、それを教えてくれると言われているんだよ!」


「怒らないで、信じていないわけじゃないの。

 ただ、証拠って言われても、一度も敵を知らせてくれたことなん……て!?」


突然、シェイリィの言葉が途切れる。

そして、ハルスの声も途切れた。




ブウウウウウウウウウウウウン………




先程まで、二人の声と風切り音しか聞こえなかったところに異質な音。

低い、不気味な音が加わった。


「破魔の剣が唸っている…」


ハルスの言うとおり、まるで唸り声を上げるかのように、破魔の剣から不気味な音が響き渡っていた。


「そんな…うそ…」


呆然と、破魔の剣を見つめる二人。

そうしている間にも、どんどん破魔の剣の唸りは大きくなっていく。


「いったい何が!?」


辺りを見回すハルス。

すると、突然辺りが暗くなった。


「何だ?雲か!?」


ハルスは雲の下に入ったかと思い、上を見上げる。

するとそこには、赤い岩壁があった。


「どうして壁が?」


訳が分からず、ハルスは混乱した表情でジッと壁を見つめる。

すると、ハルスの耳に女の子の声のような音が聞こえてきた。

「神 オル ラン 国は、こっち 方向 あって  か?」

だが、その声は風に乗った一部だけが聞こえているらしく、途切れ途切れになり聞き取れない。

そのためハルスは、何とか聞き取ろうと耳を澄ますが…


グアアアアアアアアアアー!!


聞こえてきたのは、この世の物とは思えない程、恐ろしい何かの声だった。


「ハルス!!!」


シェイリィの金切り声が響くと同時に、ハルスの体を浮遊感が支配する。

手綱を反射的に握り締めると同時に、必死に首を回し、状況を理解しようとする。

すると、赤い岩壁が離れて行くのがハルスの目に入った。


(壁…じゃない!?)

そしてハルスは気がつく。

赤い岩壁は岩壁ではなく、見たことも無いほど巨大なドラゴンの一部だということに。


「シェ   イリ ィ!助けて!!」


「黙ってて!!」

まるで伝説に出てくる魔王を彷彿とさせる姿に、ハルスの体は恐怖に支配され、反射的にシェイリィに助けを求める。

だが、シェイリィにも余裕が無かった。

シェイリィは、巨大ドラゴンから逃れるため、急降下を始めており、しかも、魔力を羽から噴出することにより、通常の二倍の速度で急降下していたからだ。


side シェイリィ


(このまま急降下して、森の中に!)

シェイリィの記憶どおりなら、この辺りはセコイア杉と呼ばれる100m以上の高さになる巨木の密集地のため、あの巨大なドラゴンなら、その巨大さが邪魔になり容易に入ってこられないはずである。


シェイリィはギリギリまでスピードを殺さずに森の中に飛び込み、羽を広げ、一気に減速する。

しかし、そこは森の中。

運が悪いことに、シェイリィの右の翼がセコイア杉の枝にぶつかってしまう。


「きゃっ!!」


「うわ!?」


バランスを崩し、そのまま錐もみ状態になって落ちていくシェイリィ。

シェイリィはそのまま地面に激突するかに思われた。


ところが…

「えっ?」

地面に激突する直前、フワリとシェイリィの体が浮かび上がった。

そして、そのままゆっくりと地面に降ろされる。


「いった何なの!?」


困惑した声を上げながら、シェイリィが体を起き上がらせる。


「ハルス!?」

すると、自分の背中にハルスが居ない事に気がついた。

慌てるシェイリィだったが、ハルスは直ぐに見つかった。

シェイリィから10メートルも離れていない地面にハルスが横たわっていたのだ。


「ハルス!ハルス!」

シェイリィはハルスの近くに駆け寄り、ハルスを抱き抱える。

驚いたことに、シェイリィの姿が白いワイバーンの姿から、年が16程の少女の姿に変わっていた。

少女の姿と言っても、その姿は人間とは少し違っていた。

くせっ毛のある金色ミドルヘアを持つ頭の側頭部から、白い羽のような物が髪飾りのように生えており、背中には白い毛で覆われた羽が生えていたからだ。

少女は所謂竜人と呼ばれている存在だった。


「シェイリィ…大丈夫だよ」

ハルスは、呆然としているものの、怪我らしい怪我をしていなかった。


「よかった」

ハルスが無事なのを確認し、シェイリィの体から力が抜ける。

だが、そこでハルスが騒ぎ始めた。


「剣が!?破魔の剣が無い!?」

どこかのタイミングで落としてしまったのだろう、ハルスの手には、破魔の剣が無かった。

そんなハルスをシェイリィはヒョイと抱き上げると、そのままセコイア杉の根元に向かって走り出す。


「シェイリィ離して!?

 破魔の剣を探さないと!」


「馬鹿!今は隠れるのが先よ!」


ハルスが無事だったことに一瞬気が抜けたシェイリィだったが、ハルスが騒ぎ出したことにより自分達の置かれた状況を思い出したのだ。


「それに破魔の剣はどこかにあるわよ、耳を澄まして!」


ハルスに伝えると同時に、シェイリィも耳を澄ます。

すると、ブウウウウウンという音が聞こえてきた。

シェイリィの読み通り、この近くに破魔の剣は落ちているようだった。


「無事なのが分かったでしょ、だから今は静かにしてて」


シェイリィは、ハルスを抱きかかえたままセコイア杉の根元に開いた木の穴に飛び込む。

そして、ハルスをギュッと抱きしめたのだった。


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それから、30分以上経っただろうか、破魔の剣の音が消えたのを確認し、二人は木の穴から顔を覗かせた。

ハルスとシェイリィが木の間から見た空は、いつもと同じものに見えたが、どこか不気味さを感じさせるものだった。


「ハルス、もう少しだけ様子を見てから帰らない?」


シェイリィが砦に帰るのを遅らせようとハルスに言う。

しかし、ハルスはそうは思っていないようだった。


「シェイリィ、直ぐに破魔の剣を見つけて砦に戻ろう」


「でも、またさっきのドラゴンに見つかるかもしれないでしょ!

 それに、あれ一匹という保障はどこにも!」


「だけど、早くこのことを砦に知らせないと、大変なことになるかも!!」


反対するシェイリィをジッと見つめてハルスが言う。

その焦茶色の目は、まるで琥珀のような輝きを持っていた。


「もう…分かったわよ。

 でも、少しでも危ないと思ったら、また隠れるからね」


「ありがとうシェイリィ!!」


ハルスは小さいときから、ここはこうだと思ったら、テコでも動かないところがあった。

シェイリィはそれを感じ取ったのだった。


「さあ、それじゃ早速、破魔の剣を探すわよ」

ハルスの手を引っ張り、足を踏み出すシェイリィ。

人間であるハルスにとっては、音の出所を探すのは難しいことだが、竜人であるシェイリィにとっては簡単なことだからだ。

だが、その方向は先程まで破魔の剣の音が聞こえていた方向とは、実は別の方向だった。


(ハルスが英雄に憧れて村を飛び出すのを助けたけど、それはハルスを本物の英雄にするためじゃないの。

 ハルスごめんね、ハルスの夢が叶うことより、私はハルスの身の安全の方が大切なの。

 あのドラゴンは私達の砦のある国、神聖オルトラン王国を襲おうとしているの!

 だから、これから危険な場所になる王国に、今すぐ向かうわけにはいかないの!)


突然現れた巨大ドラゴンに気を取られたシェイリィは、ハルスが聞いた女の子の声を聞き逃してしまう。

しかし、竜人であるため、あの巨大ドラゴンの言葉「神聖オルトラン王国はどこだー」という声がはっきりと聞き取れたのだった。

そしてその言葉は、ハルスの身の安全を案じて村を飛び出してきたシェイリィにとって、聞き捨てなら無い言葉だったのである。


ハルスとシェイリィ、人竜一体のコンビだと砦でも評価されている二人だったが、実はその心に抱いているものは、別々のものだった。

こちらで連続投稿は最後になります。

次話はまだ書いている途中なので少し間が空く予定です。

完成度と速度、その双方が満たせるよう頑張ります。

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