第五話 マイマイはちょっとズレテイル 1
お待たせしました。
第五話を投稿します。
なお、第四話にて、多種多様な種族が同じ場所に住む事が無いという設定を、多種他方奈種族が軍隊を作ることが無いという設定に変更しました。
ご了承ください。
第五話 マイマイはちょっとズレテイル 1
side マイマイ
「朝風呂最高!!」
眠りから覚めたマイマイは、王宮の空中庭園にある浴場を訪れていた。
目的は、もちろんお風呂に入るためだったが、お風呂に入る理由は体を綺麗にするためだけではなかった。
体を綺麗にする以外の目的とは何か。
それは、頭を空っぽにするためだった。
「リアルな表現になったせいで、妙に体がべた付くのは辛いけど、お風呂もリアルになったのは最高だね。
お風呂は心の洗濯。
人類の偉大な発明だよね」
ご機嫌な様子でお風呂に浸かるマイマイ。
しかし、その表情はどこか無理をしているようだった。
実はマイマイは、少しだけ無理をしていた。
昨日のうちに、マイマイは今後の方針について決めていた。
そのため、今は悩んでいる場合ではなく、動くべき時だとマイマイは理解していた。
ところが、人間そう簡単に割り切れないものである。
朝になって、これまでとは違う点を見つける度に、落ち着かなくなったり、不安になってしまったりしたのである。
例えば、朝起きるとベッドの脇にカグヤがいるのが目に入ったのだが…
「ふあああ~おはよう」
「「「おはようございます」」」
「ふぉあ!?」
何故かカグヤだけではなく、マイマイのベッドを沢山のメイド達がぐるりと取り囲んでいたのである。
「な、なんでこんなに近いの!
いや、数が多いの!!」
しかも、そのメイド達の周りには更に何十人ものメイドが並んでいたのである。
「はい、本日のお召し物です」
「おお、ありがとう、ってスルーかよ」
「ご存知の通り、我々メイドはそれぞれ百使徒様に仕えているのですが、現在いらっしゃる百使徒様はマイマイ姫様しかいらっしゃいません。
ですので、配置換えを行いました」
「なるほど、だから私の部屋がメイド専門コスプレイベント如くメイドで溢れていたわけか。
って、勝手にプレイヤーの意思を無視してパーティ変更しているんじゃないかこれって!?」
「プレイヤーの意思?」
「いや、なんでもない、なんでもないよ!」
世界建設ギルドでは、百使徒達一人ひとりに、メイドスキーが主導して設立したメイド隊が配置されていた。
因みに、カグヤは全てのメイド達の長であると同時に、マイマイのメイド隊を率いている。
彼女達はメイド隊という括りになっているものの、百使徒によっては自分のパーティに組み込んでいる者もいた。
つまり、今回の事象は、マイマイ配下のNPCが他のプレイヤーのパーティを勝手に配置換えしたことになる。
そういう設定ができるのは事実であり、設定していなくても条件次第では起こりえることだったのだが、マイマイの記憶ではこれほど大規模な発生を見聞きしたことは無かった。
もちろん、マイマイの知らないところで、メイドスキー達が勝手に設定していた可能性はあるが…
(なんだよこれ、色々と気になるところは無視して、とにかく今は脱出のために行動すると決めたのに。
目が覚めていきなり気になることだらけだよ!)
いきなり、決意を鈍らす事態にマイマイは布団の中に戻りたくなったが、何とか踏みとどまる。
しかし、『気になる所』はこれで終わりではなかった。
「そういえば、配置換えしたって言ったけど、ステイシスとかいないみたいだけど」
メイド隊の副隊長であり、メイドスキーのメイド隊を率いている、どことなくエッチな雰囲気がする魔人族のメイド。
ステイシスの姿が見えないのである。
「ステイシスは、自室謹慎処分中です」
何故か、目が泳ぎながら答えるカグヤ。
「自室謹慎処分だと?いったい何があったんだ」
「そ、それは…」
「それは?」
マイマイの質問にカグヤは言いよどむ。
その様子に、何かとんでもないことが起きたのではとマイマイは思った。
ところが、その答えはマイマイの斜め上を行くものだった。
「ご就寝中のマイマイ姫様の姿に我慢できなくなり、抱きつこうとしました。
神聖かつ不可侵なマイマイ姫様の柔肌に触れようとするなど、許されざる行為!
ですが、今は落ち着き、本人も反省しております!」
頭を下げつつ、一気に語った内容は、まったく意味の分からないものだった。
(…………訳が分からない。
ステイシスは、私に抱きつきたくなるほど、子供好きって性格設定になっていたのか?
そもそも、なぜそれが罪になるということ自体が、まったく意味が分からない。
むしろウェルカムな展開なのだが)
その後細かくカグヤより話を聞くと、ステイシスだけでは無く、千人以上の家臣達が様々な理由で自室謹慎処分を受けているとのことだった。
繰り返すが、まったく訳の分からない事態だった。
マイマイは、即刻謹慎処分を取り消したが、勝手に自室謹慎処分等といった行動を取る設定がなされているなど、記憶にはまったく無かった。
そしてこのような『気になるところ』は、マイマイ自身にも起きていた。
一つ目は、マイマイが突然眠ってしまったことだ。
ここ数年の間、一度も魔力切れを起こしていなかったため、魔力切れになると眠ってしまうという仕様をマイマイは完全に忘れていた。
だが、マイマイの記憶が正しければ、魔力切れになったとしても本当に寝るわけではなく、操作不能に陥るだけのはずだった。
世の中には不眠治療の一環として、VRを使って強制的に睡眠を取らせるという技術はある。
しかし、それが勝手にゲームに組み込まれているとしたら、それはそれで大変なことである。
つまり、何者かの意図がマイマイの体に作用し、マイマイを強制的に眠らせたのである。
不安になるなと言う方が無茶な話だった。
このような不気味な状況に、マイマイの不安は朝から募る一方だった。
その不安は強く(実はここはゲーム内ではなく、リアルなのでは?そういえばゲームそっくりの異世界に飛ばされるという古典的な小説が過去に流行ったと聞いたが、事実は小説より奇なりと言うが…)と不安のあまり、非常識な考えが一瞬頭を過る程だった。
結局、ステータスを開き、そこに見慣れたカンストした数字が並んでいることを確認したマイマイは(ステータスが現実にあるわけがない。そうだ、これはきっと昨日考えたように何かの大事件や事故や犯罪に巻き込まれただけだ)と持ち直したが…
(いや、それはそれで不安だし、このまま生きてリアルに帰れるかどうかという根本的な問題の解決にはならない。
あー駄目だなあ。
こうやってウジウジと悩んでも仕方が無いって分かっているのに。
よし、風呂にでも入って、綺麗さっぱり忘れたことに『しよう』)
何もしないと、また不安な考えに頭が埋め尽くされそうな気がしたため、大好きなお風呂に入って、意図的に頭を空っぽにしようとしたのだった。
その作戦は概ね上手く行っているらしく、多少空元気であるはあるが、冒頭のようにマイマイは元気を取り戻しつつあったが…
ここに至ってまた『気になるところ』が出てきてしまった。
「やっぱりヤバイよこれ、こんなところ誰かに見られていたら、私が重度のロリコンだと勘違いされてしまううううう」
エバー物語に登場するキャラクーの体の造詣は、元々かなりリアルだったが、アブナイところはそれなりに簡略化されたものが配布されていた。
これは、リアルの『お上』に目をつけられない対策だったが、アブナイところにはモザイクが入るため、意味が無いとも言われていた。
ところが、マイマイの体はそこが違っていた。
マイマイの体は『ロリーナ』というクリエイターによって一からデザインされたオリジナルのもので、色々と作りこみすぎていた。
具体的に何が作りこみすぎているかというと、モザイクの下まで「何を参考にして作ったのか、詳しく伺いたいのでちょっと暑までご同行を」と言われてしまうぐらい、完璧に作りこんでいたのである。
因みに何を参考にしたのかロリーナに聞いたところ「自分のを参考にした」と悶絶しそうな回答をしてきたが、マイマイは何となくそれが嘘のような気がしていた。
その理由はただの勘なのだが、ロリーナの正体不明っぷりを考えれば、それは仕方の無いことだった。
ロリーナとマイマイの付き合いは、別のゲームでロリーナから話しかけて来たことから始まり、既に十年近く続いていた。
ところがマイマイは、彼女について詳しいことを何も知らなかったのである。
彼女について知っていることといえば…
・金髪ロリでドラゴンの羽とマイマイと同じような角がある《他のゲームで会った時から同じ容姿》
・創生戦争時代に魔王の子供達の家庭教師をしていたという超ロリババア
・マイマイの後見人かつ乳母
・どん底まで没落しているエントール公爵家を実質的に支えている
というエバー物語上の設定だけであり、マイマイはリアルでのロリーナの国籍も性別も大凡の年齢すらも知らないのだった。
とにかく、付き合いが長いのに正体不明なロリーナが作成し、色々と作りこみすぎているマイマイの体だったが、マイマイはとても気に入っていた。
上手く表現できないが、まるで昔から自分がマイマイであったような、そんな錯覚を覚えさせるほど、マイマイの体はマイマイに馴染んだのである。
そのため、今日までマイマイの体に不満を持ったことは、無かったのだが…
「あうううううう」
マイマイは自分の体が視界に入る度に顔を真っ赤にして、困り果てていた。
マイマイの体には一切モザイクが入っていなかった、そして完璧に作りこまれた体が丸見えになってしまっていたのである。
(最悪の場合『ロリが好きで好きで、自分自身がロリになりました!色々と自分で自分をイタズラもしたいので、体も作りこみました!』っていうタイプの人だと勘違いされるかも。
実際そういう人も他のゲームでは結構いるし…
それよりも、一歩間違えればわいせつ物陳列罪で捕まるかも!?)
マイマイは先程からずっとこんな感じだった。
自分の体を意識しなければいい。
と、マイマイ自身も分かっていたが、何しろ自分の体である。
熱くなったので、湯船から体を出そうとしては、小さな胸が目に入って赤面し。
股の間を洗おうとして、股の間に手を入れながら「これは、体を洗おうとしているだけなんだからね!」と赤面しながら自分に言い訳を繰り返す。
といったように、頑張って意識を逸らそうとしても、どうしようも無かった。
「あー駄目だ。
これじゃまったく落ち着かないし、不安も消えない。
よし、気分を変えるために露天風呂に移動しよう」
結局、埒が明かない事態にマイマイは、露天風呂に移動して気分転換をすることにした。
露天風呂は、空中庭園の端に作られていた。
そのため、マイマイが先程までいた内湯と違い、王宮の外の景色が見えるのが特徴である。
露天風呂から広がる景色は、以前だったら王都とその先に広がる衛星都市群だったが、現在ならば雄大な森が見えるはずである。
つまり、美しい風景を見るのが嫌いではないマイマイは、雄大な森を見て心を落ち着かせようとしたのだったのだが…
「ん?なんか焦げ臭いな。
ま、いいか。
さて、雄大な森を見て…あれ?
焼け野原ーーーーーーーーーーー!?」
「マイマイ姫様!?どうなされました!?
賊ですか?覗きですか?ステイシスですか?」
露天風呂から広がる光景は、あたり一面の焼け野原に変貌していた。
驚きのあまり、悲鳴のような声をあげたマイマイの周りに、カグヤを始めとしたメイド達が武装した状態で現れる。
どうやら露天風呂に置かれた石や柵等の影に潜んでいたらしい。
(どうしてそんな所に?)と、カグヤ達に色々と言いたいマイマイだったが、カグヤ達の覗きより、目の前に広がる光景の方が一大事だった。
「カグヤ、なんか森が焼け野原になっているんだけど、何があったの!?」
「はい、マイマイ姫様がお休みの間に、ご指示の通り木と森の処理を行っておきました。
『真面目に作業をした家臣達』の総力を挙げた仕事です、いかがでしょうか」
何故か、真面目にという言葉を強調しながら説明するカグヤ。
それを聞いたマイマイは、カグヤと眠ってしまう直前に話した内容を思い出す。
「えーと、確かに木と森を処理しろと命令したが、それは正門から見える範囲を指しているわけで~
あ、しまった!!
見える範囲って、そういうことかよ!!」
そしてマイマイは、自分の指示の不味さに気がついた。
マイマイは正門から見える範囲の木と森を処理しろと指示を出した。
そして正門からは、王都跡の周囲に生い茂っている森も見えていたのである。
人間がマイマイの指示を聞いたら、マイマイの指示は正門近辺の木や森を処理しろと言っていると判断するはずである。
しかし、いくらリアルに動くようになったとしても、カグヤ達家臣は、所詮はAIなのである。
今回のような、微妙なニュアンスの解釈を間違えることは十分に考えられた。
実際、エバー物語では今回のような曖昧な指示によるトラブルが頻発しており、マイマイも常に気をつけていたことだった。
ところが、当時強い眠気に襲われていたことと、あまりにも家臣達の行動がリアルになっていたことが重なり、うっかり人間に対する指示と同じように、曖昧な指示を出してしまったのだった。
「うーーーーーーーーーーまたやっちゃった…」
間抜けな失敗に、凹むマイマイ。
実はマイマイにとって、こういった家臣への指示ミスによる失敗は、今回が初めてではなかった。
かつてマイマイは、ワンドルフという名のNPCを気に入り、準家臣として扱っていた。
彼はマイマイがとある廃村で見つけた亡霊を生き返らせたNPCで、尻尾が昔マイマイが飼っていた犬の『ムック』に良く似た可愛い柄をしていたのが、気に入った理由だった。
そんな彼は、マイマイの期待を裏切らず、その行動によって常にマイマイを笑顔にさせていた。
ワンドルフは、幼き日のマイマイ《リアルの》とムックのように、マイマイの周りを元気に駆け回り、寝る時には尻尾を枕代わりに差し出したのだった。
ところが、そんな彼の行動によって、マイマイは今回のように何度か頭を抱えたことがあった。
事の始まりは、ある日ワンドルフがマイマイに、他のワーウルフを王都に呼びたいと言い出したことだった。
所謂『移民フラグ』という奴である。
エバー物語のNPCは、常に固定された街に住み着いているわけではない。
一定の条件を満たすことで、他の地へと移り住むよう設定されていた。
その一定の条件の一つとして、NPCからNPCへの勧誘というものがある。
NPCが自分と関わりのあるNPCに対して、自分の住処へと誘うというものだ。
そして、誘われたNPCは、自分達の現状と移住先の状況、そして誘ってきたNPCとの関連度の強さで、移住の可否を決めるというものだった。
このような移民フラグ自体は良くある事であり、マイマイがそれを了承するのもおかしな話ではなかった。
だが、しっかりと内容を確認しなかったのがいけなかった。
マイマイがワンドルフの依頼に対してしっかり内容を確認せずに「ぽちっとな」と、了解の意を示した約一ヵ月後、ちょっとした騒ぎが発生することになる。
王都西地区にある日輪凱旋門に併設している移民管理事務所がパニックに陥ったのだ。
それは、何の前触れも無く、王都に27851人ものワーウルフの移民希望者が殺到してきたからだった。
「マイマイ!この騒ぎはお前が原因じゃな!!
赤ん坊の頃から、よく考えて行動しろと言っているじゃろうが!!
この、どアホの子が!!!」
「溺れる、溺れちゃう!!!
スープで溺れちゃう!!」
突然響き渡ったロリーナの怒鳴り声と共に、マイマイの頭が冷製スープの中に沈められる。
必死の思いで、冷静スープの器から顔をあげると、そこにはマイマイの頭を右手で掴んで微笑むロリーナの姿があった。
(やっちゃった)
何をやってしまったのか分からない、だが何かまずいことをやってしまったということだけは分かった。
「ロリーナ。
あれはだね、不可抗力という奴でね。
あ、ちょっと、話せば分かる!」
「問答無用じゃ。
覚悟せい!」
パシーン!パシーン!
「ひんひん痛いよー!
お尻叩くの止めてーー」
お尻ペンペンという、恥ずかしいお仕置きをマイマイが受けたことから分かるように、ワーウルフの移民希望者殺到という事件は、マイマイの指示ミスが生んだ結果だった。
エバー物語では、人族の国に住む亜人は、最も低い身分を与えられていた。
ワンドルフが移民の声かけを行ったのは、そんな人族の国に住むワーウルフ達だった。
破壊神国では『とある事情』により、GMによって設置されている既存の人族の国と違い、亜人達も平等に扱っていた。
つまり、低い身分を与えられ、生活が困窮しているワーウルフに対して、破壊神国への移住はとても魅力的な話だったのである。
そして、そのようなワーウルフ達にワンドルフが移民の声かけをかけるのは、マイマイが注意していれば、十分に予想できることだった。
それは、ワンドルフは元々人族の国に住んでおり、必然的にワンドルフと関係の深いワーウルフは人族の国在住に集中するだろうと容易に予想できるからだった。
しかも、ワーウルフの移民希望者が殺到した理由はそれだけではなかった。
ワンドルフが移民の経費として希望してきた資材『荷ゴーレム車×999台、ストーンゴーレム×999人』を『内容をよく確認せずに』希望通り投入したのも原因だった。
移民に対して護衛や輸送手段を完備することは、移民の安全と輸送力を確保することにより、移民の成功率と、移民人数を引き上げることになるからだ。
実は、マイマイの承認してきた資材は、複数の地域に散らばるワーウルフ達に声をかけ、彼等を輸送するのに十分な量だったのである。
このように「確かに原因はワンドルフにあるが、その危険性に気がつかないばかりか、余計に悪化させるとはどういうことじゃ!!!」と、ロリーナにこってりと絞られ、部屋の隅で丸くなって落ち込むマイマイだったが、まだ終わりではなかった。
一部の国(ギルドとNPCがコントロールする国の両方)が、マイマイ達の移民政策に文句をつけてきたのである。
マイマイ達世界建設ギルドは、破壊神国を立ち上げるにあたり、あの手この手を使って各地から移民を募っていた。
この行動はこれまでに無い規模であったが、『とある事情』によりGM監督下の行動であり、その理由も当初は秘密だったが、昨今では広く知られたものになっていた。
だが、一気に三万人近く移民させたマイマイの行動が目立ちすぎたのだろう、マイマイの了承した移民が外交問題になり、一触即発の事態になるのにさほど時間はかからなかった。
このような事態にあたり「本来このタイミングで戦端を開く予定では無かったのではないか」と、マイマイ達はGMに仲裁を求めたが、GMは『これでも問題ない。いや、こっちの方が盛り上がりそうだ』と思ったのだろう。
GMの仲裁は行われず、そのまま開戦へと突き進んでいってしまったのだった。
戦争を仕掛けてきたのは、弱小国と大国の一部勢力であるため当初は「罰として、一人で何とかしてくるんじゃ!」とロリーナに言われて一人で敵軍を薙ぎ倒していたマイマイだったが、敵軍の第四次侵攻より状況が変化した。
現時点での破壊神国へ宣戦布告はGMの意向に反するのではないかと様子見をしていたプレイヤー達が、『どうやらそうでは無いらしい』と気がつき参戦し始めたのである。
新たな国や冒険者達が次々と参戦した結果、参戦プレイヤー数はついに5000人に達してしまう。
マイマイよりかなり低レベルのプレイヤーが大多数だったが、とても勝てる数ではなかった。
(あー、こりゃ死んだ)
と絶望的な気分になるマイマイ。
(何かワンドルフが「マイマイ姫様、私達を奴隷として敵に差し出してください」とか言っているけど、そんなのじゃどうにもならないから!
どう考えても集まってきたプレイヤー達、私をぶっ殺して、レアアイテムとか色々分捕るのが目的だから!
多分、レアアイテム全部渡してダブルピースしながら撮影されるぐらいを覚悟しないと、助からないから!)
完全に諦めムードになるマイマイだったが、流石にロリーナ達はそこまでドSでは無かった。
「ふはははははは!」
天空から馬鹿笑いが聞こえてくる。
そこには、サングラスと海パン『だけ』を身につけたを筋肉モリモリのマッチョを先頭にした、九十九人のプレイヤー達の姿があった。
マイマイは色々とやらかすことがあるが、百使徒の結束と、マイマイの百使徒達から愛され具合は、それを遥かに上回るものだったのである。
(あの時は、国境線沿いの村が吹き飛んだり、森が砂漠になったり、王都の一部が火に包まれたりしたけど…
皆がいたおかげで、何とかなった。
敵の中心人物を一騎打ちでバタバタ倒してくれたり、家臣達を電撃戦の如く動かして敵を分断したり、他の亜人系の国やギルドと連絡を取り合って救援軍結成してくれたり、破損していた決戦兵器を応急修理で稼動させてくれたり…
ワンドルフ達まで「僕達も戦います!!僕は神民ではありません!!!マイマイ姫様の家臣です!!」とか言い出してちょっと困ったけど、ちゃんと避難誘導してくれたり…
あれ?それはおかしいな、NPC達がそんな柔軟な台詞を言うなんて…あれれ?そんな台詞を言わなかったような気もするし、おかしいな、記憶が??
まあ今はいいや。
とにかく問題なのは、今は誰もいないってことだよな…
どうしよう!!)
マイマイは、自分の手がプルプルと震え始めたのを感じる。
自分の馬鹿さ加減に、自分に対して怒りを抑えきれなくなってきたのだった。
(あああ、私のバカバカバカ!
大切な時に、こんな大ミスやらかすなんて、本当にどうしよう!)
「はぁーーーーーーーー…」
「「「!!っ」」」
だが、自分に怒りをぶつけてもどうしようもない状況に、マイマイは溜息をつき、震える手で頭を抱えながらその場にしゃがみ込む。
マイマイなりに、何とか心を落ち着かせようとしているのだった。
(こういうミスはしないように気をつけていたのに、またやっちゃうなんて。
指示ミスで森を焼くとか、絶対に他のプレイヤーやGMから非難轟々だよ。
ん?
他のプレイヤー?)
ここでマイマイはあることに気がつく。
そもそも、現状は他のプレイヤーか、GMを探している状況。
望むべき形ではないが、クレームが来たら、それはそれで接触の機会であり、無駄に出来ない状況ではないかと。
「カグヤ」
「はい…」
何者からのクレームが来ていないか、状況を確認しようとカグヤに声をかける。
ところが、妙に元気の無い声が返ってきた。
不思議に思い、マイマイがカグヤに顔を向けると、カグヤの顔が真っ青になっていた。
しかもその青さは、これまで見たことが無いほどだった。
「カグヤ、どうした!?
顔色が優れない様だけど?」
カグヤを心配し、カグヤの体調を問いかけるマイマイ。
ところが、カグヤはその問いに答えず、突然姿勢を低くする。
その動きは、まるで崩れ落ちるようだった。
(いきなりなんだ、顔色が悪いかと思ったら、崩れ落ちるように姿勢を低くしたぞ!?
手足も小刻みに震えているし…
まさか、立っていられないぐらい、体調が悪いのか!?)
困惑するマイマイを他所に、そのままカグヤは両手を床につけ、更に頭までを床につける。
「マイマイ姫様、申し訳ありません」
そしてカグヤは、マイマイに向かって、絞り出すような声で謝罪を行った。
その姿は、どこをどう見ても土下座だった。
(この姿、私の勘違いでなければ土下座だよね。
どうして、カグヤが土下座なんてするんだ?
私は、カグヤに対して土下座しろと命令して無いし、カグヤが何かミスをした訳でもない。
となると、土下座する理由が無いぞ??
ということは、これは土下座に見えるが、土下座ではないということだ。
いや、結論を急ぐ前に、状況をよく整理してみよう。
まず、カグヤは顔が異常なほど真っ青になっている。
どう見ても、調子が悪そうだ。
調子が悪くなる原因といえば、ステータス異常だが、特に戦闘もしていない今で考えられる異常といえば…
そうか『疲労度』か。
つまり疲れているから、顔が青いんだな。
顔色で疲労度が分かることは今まで無かったんだが、NPC達がまるで生きているように動く今のエバー物語なら、こういったリアルのような微妙な変化で疲労度が表現されるというのは十分にありえる)
マイマイは自分の考えを確認するために、カグヤをよく見てステータスを表示させる。
すると、確かに疲労度がかなり上昇していた。
マイマイの経験で、半日ほど戦闘を続けたぐらいの疲労度である。
(顔が青いのは疲労度で間違いない。
となるとだ、申し訳ありませんとは何だ。
あ、これは簡単だ。
上司の立場で、仕事中の部下が、疲労が溜まった状態で「申し訳ありません」と言ってきたと仮定すれば分かりやすい。
雰囲気から察するに「申し訳ありません、休ましてください」と本音では言いたいんだろうけど、実際は「疲れて体がよろめいてしまいました、申し訳ありません」という意味で言ったんだろうな。
崩れ落ちるような感じだったから、最初は本当に疲労でガクッと来て、そのままそのことを謝ったら土下座の形になってしまったというのが、実際のところだろう。
カグヤはメイド長として、パーフェクトメイドとして振舞うようメイドスキーが調整していたからな、疲れてよろめき、主人である私に心配される事態になるなんて、謝らずにはいられない、というところなんだろう。
ここは理解のある上司として振舞ってあげよう。
このまま働かすのは可哀想だし、カグヤ達家臣は本当に大切な存在だからな)
「カグヤ」
「はいっ」
「カグヤに休暇を与える。
どこか好きなところに行ってもいいよ。
それと、カグヤの仕事はステイシスに引き継ぐこと」
(とりあえずカグヤには、疲労度が回復するまで休みを与えてあげよう。
その間は、仕事のことを忘れられるように、どこか好きの所に行ってもらってもいいし。
カグヤの仕事は、ステイシスに引き継がせることにしよう。
そうすれば、カグヤも安心して休めるだろうからね)
カグヤに休みを与え、ステイシスに代わりをさせると宣言するマイマイ。
だが、その発言が非情に誤解を呼ぶものだとは、まったく気がついていなかった。
「「「!!!!!」」」
「………………………ありがとうございました」
(やっぱり、休みたかったということで正解だったようだな。良かった)
何故か、しんと静まり返った中で、肩を震わせながら、深々と再度頭を床につけるカグヤ。
その瞳には、カグヤの心情を表す涙が溢れていたが、立っているマイマイからはその様子を伺い見ることは出来なかったのは、ある意味幸運だった。
「そういことだから、今日はゆっくり休んで。
明日に向けて英気を養ってくれ。
明日からどんどん忙しくなるからね」
「はっ?」
ガバッと顔を上げ、口を半開きにしたままマイマイを見つめるカグヤから、困惑を凝縮したような言葉が漏れる。
「だから、今日一日休んで、明日からいつも通り働いてくれって言っているんだけど」
「それだけ…ですか?」
(えーと。
休暇を一日あげると言ったら「それだけですか」と言われた。
つまりこれって「休暇が一日じゃ足りません」って言われているわけだよな。
うん、普通の会社だったら、怒られちゃう様な発言だよね。
でも、他の家臣達もそうだけど、カグヤはとっても大切だし可愛いし、それにここは会社じゃないからね。
おまけに、周りのメイド達も、何かハラハラした様子で見てるから、ここで手のひらを返してカグヤを怒るのも何かかっこ悪いしね。
分かったよ、もう少しだけ休ませてあげるよ。
といっても、私の脱出という問題があるから、ずっと休ませてあげることは出来ないからなぁ。
うーん、二日が限度かな。
悪いがこれ以上は認められない。
なぜなら、攻略が遅れる=私自身の命がピンチだからね!!)
「わかった、じゃあ二日だ。
悪いが、これ以上伸ばすことはできない!
これは命令であり、何人たりとも疑問をはさむことは許されない!」
自分自身の命がかかっているため、マイマイは精一杯の力を籠めて二日と言い切る。
「は、はい!
分かりました。
二日間、お暇を頂きます!」
「ああ、二日間仕事のことは忘れて自由にしてくれ、それとステイシスにも伝えておいてくれ」
「ありがとうございます。
失礼いたします」
見惚れるほど綺麗な笑顔浮かべながら、カグヤは目からポロポロと涙を流す。
カグヤはその涙をハンカチで拭うと、花開くような笑顔で一礼し露天風呂から出て行った。
マイマイは、そんなカグヤの姿を間近で見ることになったが、男性は女性の涙に弱いものである。
カグヤの涙に頭がフリーズしたマイマイは、何も出来ないままカグヤを見送ったのだった。
そして、カグヤが露天風呂を出て20秒ぐらい経った頃だろうか、やっとマイマイが再起動した。
(まさか、涙が出るほど休暇が嬉しいとは、そんな疲労度が溜まっていたのか。
今後は、疲労度管理をしっかりしないとな。
今までは、城のメイド達の疲労度とかはメイドスキーが管理してくれていたけど、今はメイドスキーいないし。
ま、とりあえず一件落着だな)
カグヤの涙という、予想外の事態が発生したが、一件落着したことに安心するマイマイ。
(あ、しまった。
クレームが来ていないか聞くの忘れていた)
ところが、肝心のクレーム情報をカグヤから聞き出していないことにマイマイは気がつく。
そのため、マイマイは偶々目に入った褐色の肌と乳白色の髪に尖がった耳を持った巨乳のメイド、ダークエルフの三成に声をかける。
「ねえ三成、森が燃えちゃった件で、私達に何か言ってきた人いた?」
突然マイマイから声をかけられたことに三成はビクッとなるが、直ぐに姿勢を正し報告を始めた。
三成は、リアルではお目にかかれないほど立派なスタイルを誇っているが、その中身はバリバリの軍人だった。
「報告します、家臣以外の者との接触について、スケサンから情報が上がってきています」
「本当!!
で、それはどういう話なの?」
「申し訳ありません、詳細については私も聞き及んでおりません。
よろしければ、スケサンをここに呼びますが」
だが、この件について、三成は詳細を知らないようであり、どうやら他のメイド達も同じようだった。
(知らないなら仕方ない。スケサンを呼ぶか)
マイマイは、召喚魔法でスケサンを呼び出そうとする。
ところが、その必要は無かった。
「ここからは、拙者が報告するでござる」
露天風呂に、野太い男の声が響く。
「スケサン、どこだ?」
「ここでござるよ」
露天風呂の奥から、手ぬぐいで大事なところを隠したスケサンが現れる。
「いやーいい湯で「ちょっと待って。あの、スケサン?私の体を見て、何か思わない?」
そんなスケサンの言葉を遮り、マイマイがスケサンに話しかける。
マイマイは、どことなく怒っているようだった。
「大平原のようなお体ですな」
「カクサン、スケサンをやっておしまい!!!」
「キッシャー」
「姫!?拙者、姫の骨が見えていたら、ドキドキでござるが、骨が見えていないからドキドキしないので大丈夫でござる!」
「キシャー!」
「そういう問題じゃねーとは、どういう問題でござるか!?
あががががががが、後頭骨を飲み込んだら駄目でござる!!!」
(これだけAIが凄くなったのに、デリカシーの欠片も無いとは。
って、何で私はこんなにスケサンに怒っているんだ!?)
「ああもう、訳が分からん!!
カクサン!スケサンを飲み込みの刑だ!!」
「姫!?そのような癇癪はいけないでござる!もしや今日はあの「キシャー!!!!」あーーー!?」
スケサンへの怒りが沸々と湧き上がってくることにマイマイは戸惑いを感じ、それがマイマイの怒りに油を注ぐ。
マイマイは心の片隅でスケサンに申し訳ないと思うが、なぜかスケサンへの折檻を止めることが出来なかったのだった。
後に三成は語る「あんまり男に興味が無いように見えるマイマイ姫様にも乙女心があった」と。
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side 如月カグヤ
(ああマイマイ姫様。
頭を抱えてしゃがみ込む姿も愛らしい。
などと馬鹿をやっていられる状況ならどれ程良かったでしょうか)
少しずれた事をカグヤは考える。
それは軽い現実逃避だった。
カグヤが現実逃避をする理由、それはカグヤの目の前に、絶望があったからだ。
百使徒専用の露天風呂、その湯船の中でしゃがみ込む可愛らしい少女。
その少女から、死を幻視してしまうほどの怒気が溢れ出ていた。
少女の名はマイマイ。
カグヤの主人にて、破壊の神でありながら、百使徒の中で最も優しいと言われた人であり、カグヤの命よりも大切な人だった。
大切な人であり、優しい人であるはずのマイマイの手は、その内心を表すようにワナワナと震えていた。
そして、スケサンを折檻したりしている時とは違う、冗談や照れ隠しではない、本物の怒気が溢れ出していた。
本来ならば、メイドであるカグヤは、直ぐにでもその怒りを取り除かなくてはならない。
だが、カグヤはいつもの様に動くことができなかった。
それは、マイマイの怒りの原因が自分にあり、そのことにショックを受けたカグヤの頭が真っ白になってしまったからだ。
カグヤが指揮をした、森を焼く行為。
それが、マイマイの意図に沿わなかったのだ。
(いかなる言い訳も許されない)
マイマイが何かを言っているが、余裕の無いカグヤの耳には届かない。
そのため、マイマイの言葉に条件反射的に反応した後、半ばマイマイを無視する形で土下座を行おうとする。
だが、体がまったくついてこなかった。
体中から血の気が引き、手も足も自らの意思を離れて小刻みに震えているからだろう。
土下座をしようとした体は、無様にその場に崩れ落ちた。
崩れ落ちる体を両手で支え、なんとか土下座の姿勢を取ったカグヤは「マイマイ姫様、申し訳ありません」と、字の如く一言だけを搾り出すのが精一杯だった。
(死ぬ覚悟は出来た。
ですが、許されるのなら、マイマイ姫様の手で…)
死の瞬間を待つカグヤ。
だが、現実はカグヤの想像よりも残酷だった。
「カグヤ」
「はいっ」
「カグヤに休暇を与える。
どこか好きなところに行ってもいいよ。
それと、カグヤの仕事はステイシスに引き継ぐこと」
(暇を与えられた、…捨てられたのですか)
それがカグヤが最初に感じたことだった。
愛情の反対は、憎しみではなく、無関心。
百使徒の誰かから聞いた言葉だった。
「こんな失敗をするカグヤは解雇。だから、どこにでも好きなところに行けばいい。もう二度と顔を見せないでね。カグヤの代わりなんてステイシスで十分だから」
マイマイから暗にそう言われたとカグヤは確信する。
憎しみや怒りに任せたまま、マイマイの手で殺されるのではなく、飽きた玩具のように捨てられる。
カグヤにとっては、死よりも辛い現実だった。
「「「!!!!!」」」
他のメイド達も、マイマイの言葉の意味を理解したのだろう。
驚きと動揺が、部屋を支配する。
「……!!
ありがとうございました」
これまでの思い出全てを言葉に乗せて、カグヤは再度土下座をする。
マイマイの判断は妥当なものだった。
マイマイから事実上の全権を委任されておきながら、それを間違った方向に行使したのだ。
家臣達、ひいては破壊神国の規律を維持するためにも、最も重く残酷な罰を背負わせる必要があり、その相手が側近であっても容赦してはいけない場面だった。
だが、理屈で分かっていても、カグヤの心の中に去来した寂しさは何だろうか。
カグヤは、号泣しそうになるのを耐えるので精一杯だった。
そんな時だった、耳を疑うような言葉が聞こえてきたのは。
「そういことだから、今日はゆっくり休んで。
明日に向けて英気を養ってくれ。
明日からどんどん忙しくなるからね」
「はっ?」
幻聴かとカグヤは思う。
そのため、間抜けな声が口から漏れ、メイドとして、本来は許されないような主人を凝視するという行為をしてしまう。
(まるで、解雇ではなく、明日まで謹慎と言われているみたい。
でも、マイマイ姫様はお怒りで。
マイマイ姫様のお顔からは怒りの表情が消えていて。
え?ええ??)
「だから、今日一日休んで、明日からいつも通り働いてくれって言っているんだけど」
(本当に明日まで謹慎なの?これほどのことをして、マイマイ姫様の怒りをかって、たった、たったこれだけ!?
でも、そんなこと…
許されるわけ無い。
先程までのマイマイ姫様の様子は明らかに怒っていた。
殺されたり、追放されたりするのが当たり前なぐらいに。
それなのに、たった一日の謹慎処分だなんて…
多分これはマイマイ姫様の優しさのおかげ。
マイマイ姫様は百使徒の中でも特に優しいと言われ、それが世界建設ギルドの長を勤める理由の一つになったほどのお方。
だから、私にも情けを…)
マイマイに情けをかけられた。
マイマイの優しさが自分に向けられた。
そのことに、体が喜びに打ち震えるが、カグヤはそれを必死に押さえつける。
単純に喜んでいい事態ではなかったからだ。
(だけどたった一日とはあまりにも…
いくらなんでもこれでは、私自身だけではなく、他の家臣達が納得しない。
忠誠こそが家臣の誉と私達は言っているけど、マイマイ姫様の優しすぎる采配に疑問を感じる者も出てしまうかもしれない)
「それだけ…ですか?」
より強い罰を与えて欲しい。
そう言葉に込めるカグヤ。
厳しい罰は辛いが、これほど軽い罰を受けるのは周りの家臣達が許さず、それがマイマイへの不信に繋がると考えたからだ。
「わかった、じゃあ二日だ。
悪いが、これ以上伸ばすことはできない!
これは命令であり、何人たりとも疑問をはさむことは許されない!」
だが、マイマイはその思いをバッサリと切り捨てる。
そしてその言葉と同時に、マイマイの体から、力が圧力となって迸り、それがカグヤの体を突き抜けていった。
(我らが神!)
カグヤの体を突き抜けていった圧力。
それは、圧倒的な強者であるマイマイから溢れ出したものだった。
カグヤが知る限り、マイマイを始めとした百使徒達と共に戦ったとき幾度と無く感じてきたものだったが、これほど強力な意思の力が籠められていると感じたのは初めてだった。
それを感じ取ったカグヤは、思わず臣下の礼を取りそうになるのを抑えつつ思う。
(私の心配など、マイマイ姫様の力の前では無いも同然だわ)と。
マイマイの見せた有無を言わせない強力な意思。
それを前にすれば、カグヤが心配する程度の家臣達の不信や不和など、簡単に吹き飛ばしてしまうに違いないと確信したからだった。
「は、はい!
分かりました。
二日間、お暇を頂きます!」
「ああ、二日間仕事のことは忘れて自由にしてくれ、それとステイシスにも伝えておいてくれ」
「ありがとうございます。
失礼いたします」
カグヤは、マイマイの見せてくれた自分への優しさを二日間精一杯噛み締め、抑えようとしても体を駆け巡りそうになる歓喜に身を委ねようと決意する。
そして、ついに気持ちが抑えきれなくなり、目から熱いものが零れ落ち始めたカグヤは、最高の笑顔で一礼し、露天風呂を離れたのだった。
第六話は本日夜ぐらいには投稿できると思います。
第七話と第八話は現在最終調整中ですが、早ければ明日中になります。
第八話で一区切りになる予定です。