第四話 マイマイ最強伝説
旧第四話の代わりとして投稿したものです。
内容は完全に新規です。
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色々考えた結果、城の堀と壁の形状についての説明等の一部に対して手を入れました。
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マイマイが魔王の血を引いているという表現の追加と、スケルトンの姿について若干の追加を行いました。
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ウォルフルが城を見たところの文章を追加しました。
マイマイの城の名称を変更しました。
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多種多様な種族が共に暮らすのが珍しい。
という話を、多種多様な種族が軍隊を作るのが珍しいという設定に変更しました。
第四話 マイマイ最強伝説
・ワンドルフと墓石様
むかしむかし、サラディス魔王が現れたころ、人族の私達に対する攻撃は、とても酷いものになっていました。
愚かな人族は、私達とサラディス魔王の配下との見分けがつかず、見境無しに攻撃していたのです。
このままでは私達は滅亡してしまう。
そう考えた村人達は、誰かが人族と交渉し誤解を解く必要があると考えました。
ところが、なかなか人族との交渉に志願する者が現れません。
誰もが危険なことだと分かっていたからでした。
その時です、会合に飛び込んできた子供が「私が行きます」と声を張り上げました。
子供の名前はワンドルフ。
村はずれに住む、孤児でした。
ワンドルフは白い毛が混じった尻尾を持ち、まるでマダラ猪のようで毛が醜いと人々から嫌われていました。
だからこそ、ワンドルフは村の役に立てば、村に受け入れてもらえると考えたのでした。
ワンドルフは「親もいない私なら、もしも死んでも誰も悲しまない」と主張し、村人達を説得しました。
村人達は悩みましたが、結局ワンドルフを人族との交渉に向かわせることにしました。
ワンドルフは人族の王に対して「私達はサラディス魔王の配下ではない、こうやって剣を交えずに言葉を交わせることが何よりの証拠です」と必死に説明しました。
ワンドルフの必死の説明を人族の王は静かに聞いていました。
そして、ワンドルフの話が終わると、人族の王は立ち上がり、ワンドルフの元へと降りてきました。
それを見たワンドルフは、手打ちにされると思いました。
しかし、それは違いました。
人族の王は自らの過ちを認め、今後攻撃を一切行わないと約束してくれました。
そして、これまでの蛮行の侘びとして、沢山の財宝をワンドルフに渡しました。
村に戻ったワンドルフと沢山の財宝を見て、村人の誰もがこれで人族の攻撃は終わると考え、その日はそのままワンドルフを囲んでの酒宴が行われました。
ところが、村人達が寝静まったころ、人族の英雄や兵隊達が村を襲ってきました。
ワンドルフは慌てて「私達は敵ではないと、あなた達の王は認めてくれました」と、人族の王から貰った財宝を見せて、彼等を説得しようとします。
しかし、彼等は「王は我らに盗人を殺せと命じられた。盗人は皆殺しだ」と言い、村人達を襲い始めたのでした。
人族の王は嘘をついたのでした。
村人達は必死に戦いますが、一人、また一人と倒れていき、最後に人族の英雄がワンドルフの胸を突き、ワンドルフもまた死にました。
ワンドルフや村人達の無念の思いは強く、その魂は天に昇らず村に留まり続けました。
それから何年も月日が流れたある時、突然ワンドルフは体が暖かくなっていくのを感じます。
気がつくと、ワンドルフの目の前に神々しいお方がいらっしゃいました。
「あなた様は誰でしょうか」とワンドルフはそのお方に聞きました。
すると、そのお方は九十九人の神様を統べる、神様の中の神様、墓石様と名乗りました。
墓石様は仰いました。
「我らは、亜人も人族も平等に暮らせる国を創っている、お前達もそこで暮らすがよい」
ワンドルフ達にとって、それはとても魅力的な言葉でした。
しかし、ワンドルフ達には既に死んでいました。
「そうしたいのは山々なのですが、私達は既に死んでいます」
ワンドルフがそう言うと、墓石様はお笑いになりました。
「なるほど、その程度のことなど我にかかれば問題にすらならない」
しかし、神様の中の神様である墓石様にとって、そんなことは難しい問題ではありませんでした。
墓石様が軽く手を振ると、なんと村人全員が蘇ったのでした。
村人達はとても喜びましたが、どうしてここまでしてくれるのか不思議で仕方ありませんでした。
ワンドルフは墓石様に聞きます。
「どうして私達を助けてくれるのでしょうか。私達にはなにも墓石様にしてあげることがありません」
すると墓石様は少しお笑いになり「お前の尻尾が可愛かったからだ。それだけで私にとっては十分な理由だ」と仰いました。
汚いといわれていた自分の尻尾を可愛いと褒めてもらい、ワンドルフはとても嬉しくなりました。
ワンドルフ達は墓石様に感謝の言葉を伝え、墓石様が創っている国へと移り住みました。
そこは天国のようなところでした。
エルフ・ドワーフ・ゴブリン・ドラゴン・人族・魔族・魔獣…世界中のありとあらゆる種族が墓石様の元で平等に暮らし、とても栄えていました。
こんなに素晴らしい国なら、全てのワーウルフがここで暮らせばいいのに、とワンドルフは思いました。
すると、墓石様は「ならば他のワーウルフ達もここに集めよう」と仰ってくれたのです。
墓石様の誘いによって百を越えるワーウルフの村が、墓石様の国へ移り住んできました。
皆、墓石様の国を素晴らしいと褒め称え、墓石様へ忠誠を誓いました。
ところが、それを面白くないと思った者達がいました。
人族の王です。
人族の王は、墓石様にワーウルフや他の亜人達は人族の奴隷として神が与えたものだから、勝手に連れて行くのは許されないと言いました。
そして神の名の下に、軍勢を墓石様の国に送り込んできたのです。
しかし、数が多いだけの軍勢は、墓石様の敵ではありませんでした。
墓石様が「では神の名の下に命令する。滅びるがいい」と軍勢に向かって手を振るうと、大地が裂けました。
そしてまた、手を振るうと、今度は空が落ちてきました。
ワンドルフの前には、世界が終わってしまうような光景が広がりました。
そして、人族の軍勢は、まるで殺されるマダラ猪のような声を上げながら、打ち滅ぼされたのでした。
ですが、人族の王は反省しませんでした。
軍勢の全滅を知った人族の王は、人族の英雄達に墓石様を討ち取るように命じ、他の人族の国や教会に兵隊を貸すように言い出したのです。
人族の王の命令によって集まった英雄の数は夜空の星よりも多く、そこに幾つもの人族の国や教会から集められた大軍勢が加わりました。
ワンドルフは敵の軍勢の凄さに驚き「墓石様、私達を奴隷として敵に差し出してください」と墓石様に申し出ます。
しかし、墓石様はゆっくりと首を横に振るだけでした。
あまりの軍勢を前に、墓石様が諦めてしまわれた。
ワンドルフはそう思い、その場にへたれこんでしまいました。
すると、そんなワンドルフの横に、神々しい人達が空から舞い降りてきました。
「80%いや70%で十分だな」
筋肉の塊のような姿をした神様。
「やれやれ、なかなか計算どおりにはいかないですね」
メガネかけた優男の姿をした神様。
「ふっ、もう人は斬らないと決めていたのにね」
刀を持った銀髪のエルフの姿をした神様。
「パーッと暴れてやりますか」
リザードマンのような姿をした神様。
「久しぶりに私の最終形態を披露することになりそうですねえ」
黒く蠢く影の姿をした神様。
「仕方ないわね、少し本気を出そうかしら」
光の剣を持った幼子の姿をした神様。
「ほぉ、我以外にも使い手がいるようだな」
漆黒のマントと包帯で全身を包んだ神様。
「まったく、どいつもこいつも喧嘩っ早すぎるぞ」
金色に輝くドラゴンの姿をした神様。
ワンドルフが驚いて辺りを見回すと、ワンドルフの周りには墓石様と九十九人の神様が集まっていました。
そして、その後ろには、墓石様達の家臣が城下を埋め尽くすほど集まっていました。
墓石様は諦めたのではありませんでした。
墓石様はワンドルフ達のために、戦おうとしていたのでした。
ワンドルフは、墓石様が諦めてしまったと勘違いした自分を恥じ、立ち上がりました。
そして、仲間達を集めて墓石様に申し出ます。
「私達も戦います。戦わせてください」
しかし墓石様は、笑顔でワンドルフの頭を撫でると「下がってろお前達、見ることもまた戦いだ」と仰られたのでした。
それから一週間、世界は炎に包まれました。
そして、墓石様の国は、英雄達と人族の血で赤く染まりました。
英雄達は想像を絶する強さでした。
しかし、墓石様達の方が遥かに強かったのです。
墓石様達は英雄達を全て返り討ちにし、秘術によって生きる屍に変えてしまいました。
英雄達ですらも手も足も出ない墓石様達の強さに、人族の王は恐れ戦きます。
人族の王と、王に協力した人族の指導者達は、国を捨てて逃げようとしました。
しかし、神様の中の神様である墓石様から逃げることできませんでした。
墓石様の前に引きずり出された人族の王と指導者達に、墓石様は仰いました。
「我らを滅ぼすには少し、いや、大いに不足だったな。我らを滅ぼしたければ、最低でもサラディス魔王より強い者達を100人以上連れてくるべきだったな」
それを聞いた人族の王達は、墓石様には絶対に敵わないと知り、もう二度と亜人達を勝手に連れて行くことはしないと言い、涙と糞尿を垂れ流しながら命乞いをしました。
その哀れな姿を見た墓石様は「我らは優しいので今回だけは許してやろう。ただし、また同じようなことをすれば、サラディス魔王のように大地諸共滅ぼしてやろう」と仰い人族の王達をお許しになられたのでした。
そして、平和な生活が始まりました。
ところが、ワンドルフはあることに悩んでいました。
それは、墓石様に何も恩返しをしていない、ということでした。
そこでワンドルフは、墓石様に直接お願いすることにしました。
「私にできることなら何でもやります。何か恩返しをさせてください」
すると墓石様は仰いました。
「お前の尻尾は大変可愛い。お前を私の枕係に任命する。お前の尻尾を私の枕にさせろ」
その日から、ワンドルフの尻尾は墓石様の枕になりました。
ワンドルフは毎日欠かさず尻尾を手入れし、墓石様に呼ばれると尻尾を枕として差し出しました。
人々から醜い言われた白い毛が混じった尻尾を、墓石様の枕にしてもらい、ワンドルフはとても幸せでした。
しかし、そんな幸せな日々は長くは続きませんでした。
ワンドルフが、墓石様を愛してしまったからでした。
それはあまりにも身分違いであるということだけではなく、墓石様に背く思いでした。
墓石様の身の回りの世話をする者達の中で、ワンドルフは唯一の男でした。
そのことにワンドルフは戸惑いますが、墓石様はその事をまったく気にしてはいらっしゃいませんでした。
墓石様にとって、ワンドルフは男ではなく、枕係だったからです。
しかし、ワンドルフは墓石様を愛してしまいました。
墓石様を愛してしまった自分は、もはや枕係に成り切ることが出来ない。
そう気がついたワンドルフは、墓石様から仰せつかった枕係という仕事を勤め上げ、墓石様の期待に答えたいという思いと、墓石様への愛との間で悩み苦します。
そして、悩みに悩んだワンドルフは、墓石様と二人で旅行へと向かう途中に、墓石様の下から逃げ出してしまったのでした。
それから何年もの間、ワンドルフは各地を放浪しました。
そしてある日、恐ろしい噂を耳にします。
墓石様が遠くの世界に旅立ったというのです。
ワンドルフは慌てて墓石様の国に帰りますが、そこには墓石様も九十九人の神様も、家臣達の姿も消えていました。
墓石様は本当に遠くの世界に旅立っていたのでした。
ワンドルフは悲しみ、王宮の前で十日間泣き続けました。
そんなワンドルフを不思議に思い、人々が集まってきました。
そしてそのうちの一人、エルフの青年がワンドルフのことを知っていました。
その青年は言いました。
「どれだけの時を費やすか分からないが、墓石様はこの世界に戻ってこようとしている」
青年の言葉に、ワンドルフは泣くのを止めました。
そして尻尾の手入れを始めました。
ワンドルフは十日間も尻尾の手入れをしていませんでした。
こんな尻尾を戻ってきた墓石様に見せられないと、ワンドルフは思ったのです。
それからのワンドルフは、墓石様がいつ戻ってきてもいいように、どんな時も尻尾の手入れを欠かしませんでした。
そして、墓石様が戻ってきたら、今度こそ自分の気持ちを伝えようと決めました。
しかし、ワンドルフは墓石様と出会うことができませんでした。
ワンドルフの寿命が来てしまったのです。
死の間際、ワンドルフは子供達に遺言を残します。
「墓石様がお戻りになられたら、逃げ出したことを謝ってほしい。
きっと墓石様はお怒りになっているだろうから。
そして伝えて欲しい。
ワンドルフは、墓石様を愛していたと」
ワンドルフの子供達は、ワンドルフの悲劇を嘆きました。
そして、墓石様の怒りを沈め、ワンドルフの思いを伝えるために、子供達はワンドルフの人生を語り継ぐと共に、ワンドルフの行いを後世に伝えることにしました。
子供達は、毎日尻尾の手入れを欠かさないようにし、愛を語るときには尻尾を愛する人の枕にするようにしました。
そしてそれを、更に自分の子供達に伝えていったのでした。
これが、いかなる時も尻尾の手入れを欠かしてはいけない理由。
そして、愛する人に愛を語る際に、尻尾を愛する人の枕にして語るようになった始まりです。
side ウォルフル
朝焼けが差し込む森の中を慎重に駆ける影が五つ。
その正体は、ウォルフルと、村の戦士長を務めるダグラスとその部下達だった。
彼らの目的地は、森と、焼け野原になった場所との境目。
目的は、状況の確認だった。
ウォルフル達の村、サウザンハウンド村は今のところ無事だった。
全てを焼きつくすかと思われた炎は、何故か村を避けるようにして燃え広がっていったからだ。
しかし、村人達はそれだけでは安心しなかった。
当たり前である。
見たことも聞いたことも無いような状況に置かれ、自分達にいったい何が起きているのかさっぱり分からないからである。
「長老。
明らかに人為的なものです。
こんなことをやった奴が近くにいるかもしれませんし、ここから先は体を隠すものがありません。
ここからは特に慎重に行動しましょう」
目的地に近づいたウォルフル達の目の前に最初に現れたのは、人為的に切り取られたとしか思えない、一直線に続く森と焼け野原の境目だった。
それを見たウォルフル達は、慎重に行動を開始する。
が、その行動をウォルフルがぶち壊しにした。
「なんじゃこれは!?」
突然大声を上げるウォルフル。
その理由は、ウォルフル達の目に飛び込んできた光景。
岩山から現れた城に原因があった。
岩山がまるまる城となり、正に山のように巨大な城が現れたことは村からも見えていた。
しかし、屋根の上からであっても、森に視界を阻まれ、見えていた部分はあくまで城の上の方だけだった。
そのため、城の全容をウォルフル達は把握しておらず、その全体像を想像力で補っていた。
ところが、常識的な想像力で補った全体像と比べ、実物は正に想像を上回るものだったのである。
ウォルフルは、焼け野原の中に村から見えた巨大な城がポツンと建っている光景を想像していた。
ところが、村からは見えなかったが、巨大な城の周りには、それに付属する巨大建造物が寄り添うように建っており、それらによって一つの都市のようになっていたのである。
例えば、城の前に立つ正門と思われる建物は、門ではなく城砦といった様相をしており、大きさもそれ一つで並みの城砦と同じ大きさがあった。
そして、その門の奥にも同じような大きさの建物が、軽く見渡しただけで百以上林立していたのである
これらの巨大建造物は一つひとつが独特の意図で仕上げられており、それらを一つひとつを抜き出して見れば、まったく統一性の無い印象を受けるものだった。
ところが不思議なことに、視野を広げると巨大な城を中心に置いた一つの超巨大城砦都市といった印象をウォルフルは受ける。
これは、城の周囲に張り巡らされた『くの字型』を繋げた様な不思議な形状の城壁と塀が延々と続いているからだろう。
『何人も侵入を許すことは無い』
そう無言で語りかけてくるような迫力を持つ城壁と堀が、その中に林立する巨大建造物群を、周囲とは違う特別な領域だと主張していたのだった。
確かに、その場所は特別な場所だった。
ウォルフルはもちろん知らないことなのだが、その場所は百使途達の血と涙と汗と時間と出費の結晶であり、他のプレイヤー達から愛と敬意と畏怖を籠めて『魔天楼』という別称で呼ばれていた場所だったのである。
「長老、他の岩山も全て姿を消しています。
どうやら、全ての岩山が建物に変わったようですね」
「あれを見てください!
あの堀と塀は、森の下にあった遺跡です!
まさかこんなに長く続いていたなんて!」
何らかの理由で岩山が城に変化したことを示唆する者、堀と塀の正体を突き止めた者。
戦士達は必死に状況を分析しようとしていた。
これらの中でウォルフルは「ここまで巨大で凄まじいものだったとは…」と平凡な言葉を発するだけだった。
残念なことに本物の摩天楼など見たことも無いウォルフルは、魔天楼を上手く表現する言葉など持っていなかったということもあるが、神話や御伽噺でしか聞いたことが無いような圧倒的な存在である魔天楼の姿に、ウォルフルは呑まれてしまい、呆然とその場に立ち尽くしてしまっていたのだった。
すると、戦士の一人がそんなウォルフルの腕を引き、強引にウォルフルの身を低くさせた。
「どうしたんじゃ!?」
「長老!あそこをよく見てください」
少し怒りを込めた声で戦士に聞くウォルフルに対し、戦士は引き攣った顔をして城を指差した。
戦士が指差した先は真っ赤な二つの尖塔を結ぶように作られた空中回廊だった。
そして、そこには、鳥の群れが木に留まるように並んでいた。
(鳥の群れ?いや大きさがおかしい!)
空中回廊の大きさと、鳥の大きさの比率がおかしいことに気がついたウォルフルは、古くから村に伝わる『双眼鏡』という名の遠くを見渡せるマジックアイテムを取り出し、空中回廊を見る。
そして、戦士と同じく引き攣った顔になった。
空中回廊の上には、まるで木に留まる鳥の群れのように、優に百匹を超えるであろうドラゴン達が羽を休めていたのである。
「何ということじゃ。数も大きさも、皇国の飛竜とは比べ物にならん。
昨晩のドラゴン達といい、ドラゴン王と何か関係があるんじゃろうか?」
皇国の飛竜、ドラゴン王、双方共にドラゴンと聞けば誰もが最初に思いつく存在である。
「長老、そんな単純なものじゃなさそうですよ、これは。
ちゃんと城全体を見てください。
私が知る限り、ドラゴン王はドラゴン以外を率いることをしないはずですよ!」
ウォルフルの独り言に対し、ダグラスが興奮した様子で返答する。
何故ダグラスがここまで興奮しているのか、嫌な予感を感じつつ、ウォルフルは双眼鏡をあちこちに向けた。
そして、ウォルフルの嫌な予感は的中した。
城のように巨大な正門を腰を低くしながら潜る、同じく城のように巨大な一つ目の巨人。
スケールを無視したら、まるで猫がマーキングするかのように、門に体をこすり付ける猫のような体と少女のような上半身を持った訳の分からない生き物。
延々と続く城壁の上に寸分の狂いも無い等間隔で並ぶ鎧を着た兵士達。
城壁と堀をピョンピョンと跳ねて飛び越えるという、常識外れの跳躍力を持った兎耳をつけた少女達。
城の影から薄っすらと見える、ちょっとした豪邸並みの巨大さを持つゼリー状の物体。
魔法を打ち合いながら、空を飛び回るマント姿の男女。
まるで、戦争でも起きたかのように、城の周囲のあちらこちらで倒れている多種多様な人々。
それを、無造作に荷車に放り込むメイドと白衣を着た女性達。
ありとあらゆるものがウォルフルの目に飛び込んでくる。
そんな中でも、最も目立ったのが、多種多様な種族が武器を持って共に行軍する姿だった。
「なんということじゃ」
ウォルフルを含め、ここにいる全員の気持ちを表した言葉だった。
ウォルフルが知る限り、世界中に存在する多様な種族の大半は、同じ種族同士でまとまって軍隊を作るのが常識だった。
そのため、目の前で行軍しているように、複数の種族が一つの軍隊を作るのは珍しい光景だった。
もちろん、この常識には例外がある。
有名なものとしては、奴隷にされている亜人達の軍隊。
そしてもう一つが、皇国だ。
だが、目の前の光景は、そのどちらとも関係が無いのは明白だった。
見る限り人族の姿は無く、こんな場所に皇国の人々が大挙してやって来ることなど考えられないからだ。
(となると、やはり昨日のマイマイという少女と関係があるんじゃろうな…
考えたくないが…)
幾つかの仮説が消えたところで、事の原因として残ったのは、昨日現れたマイマイという名の少女だった。
勇気を振り絞って話してくれたライとシイによると、相手はエン何とかという魔王の直系にて、公爵家当主だという。
しかも、あの一見可愛らしい見た目は本当の姿ではなく、その正体はスケルトンが可愛く見えるほど醜悪な肉の塊だという。
(あの少女の姿が、偽りの姿だと知らなければ、本当に魔王の直系にて、魔界の公爵家当主なのかと怪しんだところじゃが、
スケルトンより遥かにおぞましい肉の塊がその正体じゃということになると、魔王の直系で、公爵家当主じゃというのは事実でもおかしくないわい)
地母神教会によると、サラディス魔王が滅ぼされて以後、魔界では戦乱が起き、王家は滅んだと言われている。
そして、魔王の血を引く各公爵家が王権を求め争い続けていると言われていた。
一般的に公爵家とは王家の血を引く貴族のみ、冠する事が出来る爵位である。
つまり、サラディス魔王の王家が滅んだ魔界において、公爵家当主と言えば、魔王の血を引く、正当なる魔王候補の筆頭格だったのである。
そんな存在が地上に現れたというだけで大事であると言うのに、目の前には多種多様な配下を引き連れ、挙句に城まで築いている。
(魔王の血を引く者が、多種多様な種族の軍勢を引き連れておる。
常識的に考えれば、地上侵攻としか考えられんわい)
先程の多種多様な種族で軍隊を作る例外の一つとして、サラディス魔王の配下があった。
サラディス魔王は三界征服のため、ありとあらゆる種族を配下に加え、それらの特徴を組み合わせた強力な軍隊を所持していたのである。
(ワシ等は今、サラディス魔王以来始めての地上侵攻の現場に立ち会っておるんじゃろうな)
嫌な汗が、背中を流れ、ブルリと震えるウォルフル。
すると、トントン、とそんなウォルフルの肩を誰かが叩いた。
「なんじゃ、次は何を見つけたと言うんじゃ、流石にもう驚かんぞ」
戦士がまた何を見つけたのだろうと思い、ウォルフルは後ろを振り向く。
だが、そこには見慣れ始めた青い顔をした戦士ではなく…
真っ白な顔をした、スケルトンの姿があった。
先日の豪華な鎧を身に着けたスケルトン程ではなかったが、その姿は身震いがするほど恐ろしいものだった。
「ぎゃっ」
「長老!?」
悲鳴を上げるウォルフルと、慌ててウォルフルとスケルトンの間に割り込む四人の戦士達。
そんなウォルフル達を目の前にして、何故かスケルトンは静かに佇んでいた。
それをチャンスと捉えたのだろう、戦士達は次々に構えを取る。
《ババババババババッ!!》
ダグラスが持つ剣が、バババッとした音を鳴らし始め、僅かに光り輝き始める。
(パワースラッシュを使う気か)
パワースラッシュとは、村の戦士の中でも数えるほどしか使えない必殺技だ。
その威力は高く、先代の戦士長であるエルザは、この技によってトロルを一撃で倒したことがある程だった。
「パワースラッシュ!!」
ダグラスの掛け声と共に、一斉に切りかかる四人の戦士達。
スケルトンは、右手に剣を一つ持ち、左手には何故か小鳥がとまっているだけで、何も持っていなかった。
そしてその体は、革で出来たレザーアーマーと思われる鎧によって守られているだけで、とてもダグラス達の剣を止められるようには見えなかった。
そのため、四人の戦士達の剣は、見事にスケルトンの体に突き刺さるかと思われた。
だが。
「馬鹿な!?」
ダグラスが焦りの声を上げる。
スケルトンには二つの腕しかなかった筈だった。
ところが、レザーアーマーの隙間より、ヌルリと四本の腕が新たに生え、全ての剣を手掴みで止めてしまったのである。
尋常ではない光景だった。
剣を手掴みで止めるということ自体、異常とも言えるのに、それを四本同時に、しかも一つはパワースラッシュを止めてしまったのである。
「ひぁあああああ!」
一人の戦士が、剣から手を離し逃げ出す。
剣を習う者だからこそ分かる、圧倒的な力の差に耐えられなくなってしまったのだ。
そしてそれが切っ掛けだった。
次々に剣を放り投げ、逃げ出す戦士達。
「馬鹿者!逃げるな!」
それをダグラスは止めようとするが、そんな言葉を聞く者は誰もいなかった。
「くそっ
長老!しっかり掴まってくださいよ。
撤退します」
剣を引いたダグラスは、そのままウォルフルのいる所まで後ろ歩きで後退すると、ウォルフルの手を引いて一目散に村の方向に駆け出した。
四人の攻撃を止められる相手に、一人で勝てると思うほど、彼は自分の腕に自惚れていなかったのである。
それから村まで戻るまでの間、ウォルフルは生きた心地がしなかった。
件のスケルトンは、その六つの手に、戦士達が置いてきた剣を持ち追いかけて来たからである。
幸いスケルトンの動きはそれほど早くなく、追いつかれそうになっては、フェイントをかけつつ進路を変えて走るということを繰り返し、時間がかかったものの、何とか無事に村にたどり着くことができたのだった。
(一旦休ませてくれ)
必死の逃走劇にウォルフルは疲れきってしまった。
ところが、村ではウォルフルを更に疲れさせる事態が待ち構えていた。
「逃げるべきだ!!」
「いや、戦うべきだ!!」
「何が戦うだ!!
ダグラスでも勝てないような奴らを相手にどうしろってんだ!!」
「お前こそ逃げてどうなるってんだ。
この近くの森は全部焼けちゃったそうじゃないか!
身を隠す場所が無いのに、どうやって逃げる?
それに、追いつかれたら、どうせ戦いになる」
「その時は、お前が戦うべきだろ。
俺達はその間に逃げるよ、なあ村の皆!!」
「「「そうだ!その通りだ!!」」」
「ふざけるな!
お前は、同じ村の仲間を捨石にするって言っているんだぞ!!」
「そうよ!酷いわ」「確かにそうだ」
「うっ…違う、戦いたい奴は戦えって言っているんだ!
女子供まで巻き込むなってことだよ!!」
二人の若者を中心に村人達が集まっており、そこを中心に村全体がギスギスとした雰囲気に包まれていたからである。
中心にいる二人の若者は、それぞれ今後の村の方針について意見をぶつけていたが、その様子は正に喧嘩の一歩手前だった。
しかも困ったことに、二人は周囲を扇動するような発言をしており、村人達もその発言に同調しているようだった。
本来なら、周囲を扇動するような発言をする若者に、耳を貸す村人達ではないはずである。
しかし、どうやら先に逃げ出した戦士達が見たものを村中に話したらしく、村人達は既に冷静な判断が出来なくなってしまっているようだった。
(なんとか落ち着かせないと。
このままじゃ、村が真っ二つになってしまう!
唯でさえ村人が一丸となって立ち向かわなくてはいけない事態なのに、これはいかん!)
村始まって以来の困難に立ち向かおうとしている時に、村人同士がいがみ合っていれば、困難に立ち向かうどころではなくなる。
そう考えた、ウォルフルは何とか二人を落ち着かせようとする。
だが、ギスギスした雰囲気を吹き飛ばすような大きな笑い声に、ウォルフルの動きは止められてしまった。
「ハッハッハッハッツ!!
ほら、ライ!
こんなに尻尾が汚して、笑われちゃうぞ!
手入れしてあげるから、こっちに来なさい」
「えっお母さん!?
お母さんが率先して笑っているじゃない!
それに、今はそんなことをしている場合じゃ」
「どんな時でも、これだけは欠かしちゃ駄目よ!
それにね、尻尾が汚れているのも気にしないほど慌てるようじゃ、何事も上手くいかないわよ。
さあ、シイもこっちに来なさい。
シイも尻尾が汚れているわ」
「はい」「うにゃ」
(これはいったい…)
突然、村の真ん中で尻尾の手入れを始めるエルザと、ライとシイの親子。
「おい!今は大事な話をしているんだぞ!
何やってんだ!!」
「そうだぞ!
エルザ、先代の戦士長だったあんたはどっちにつくんだ!?」
すると、意見をぶつけていた二人が、揃ってエルザを非難する。
しかし…
「あんた達も尻尾が酷く汚れているわよ」
「なっ」「えっ!?」
「尻尾の汚れも気がつかないような精神状態で、まともに今後のことを考えられるのかい?
私の意見が聞きたいなら、尻尾を洗って出直しな」
エルザの意見に、二人は怒りで顔を真っ赤にするが、改めて見た自分の尻尾の汚れの酷さに、その赤さは羞恥のものへと変わっていった。
その様子に、他の村人達も昨日から、まともに尻尾の手入れをしていないことに気がつく。
そして、一人、また一人と、尻尾の手入れを始め、気がつくとギスギスした雰囲気が無くなっていた。
「流石エルザじゃ、助かったわい」
「いえ、この程度のこと、私が言わなくてもいずれ誰かが指摘したはずよ」
「まあ、そうかもしれんが、やはりエルザが言うと説得力があるわい」
ライとシイの母親であるエルザは、先代の戦士長であり、現役時代は『ここ百年では最強』と評された程の実力者だった。
そのため、エルザに対しては村の誰もが一目置いており、その発言力は甚大だったのである。
「とにかく礼を言わせてくれ。
助かった、ありがとう」
エルザは少し困った顔をするが、ウォルフルは構わず頭を下げる。
エルザはらしからぬ謙遜をしているようだったが、エルザの行動が村を分裂の危機から救ったのは事実だったからだ。
「長老、分かりましたから、頭を上げてください。
ところで、長老はどうしたらいいと思っているの?」
「正直、逃げるのも、戦うのも不可能じゃと思うんじゃ」
「長老もそう思いますか…
レベル15のダグラスに気付かれずに接近し、パワースラッシュを受け止めるような奴がウロウロしているだけではなくて、
それ以外にも凄そうな奴らが数え切れないほど居たと聞いたわ。
昨晩、村の上を飛び回っていたドラゴンと同じ大きさのドラゴンが、数百匹いたとも…
正直、現役時代の私でもお手上げよ…
倒せと言われたら、墓石様にお祈りして、墓石様の降臨を待つぐらいしか方法が思いつかないわ…」
「ハァ、ワシ等はこのまま死ぬしかない、ということなんじゃろうか」
先程の豪気な雰囲気とは一転したエルザの様子に、村人が一丸となれば何かいい方法が見つかるかもしれない、という根拠の無い希望が打ち砕かれた気がした。
「まだ、そうと決まったわけじゃないわ」
ところが、弱気な発言をしたエルザ自身は、そう思ってはいないようだった。
エルザの目には、何かを決意したような鋭さがあった。
「エルザや?
まさか、何か起死回生の策でもあるのか!?」
「そんなものがあれば、どれだけ良かったか」
「は?」
穿き捨てるように呟いたエルザに、意味が分からず口を空けて間抜けな顔をするウォルフル。
それを見たシイが「長老ボケたの?」と失礼なことを言うが、エルザの様子がどこかおかしいことに気がついたウォルフルは、そのことをとりあえず無視した。
「こらシイ!
失礼なことを言うんじゃありません!!
お母さんは、長老と大事な話があるから、あっちでライの尻尾の手入れ手伝ってあげて」
「はーい」
エルザは、シイが離れていくのを確認すると、長老に向かって頭を下げた。
「すみません長老」
「いや、気にしておらんぞ、わしはボケておらんからの。
で話の続きじゃが…」
「はい。
この状況で私達が今も生きているというのが、死ぬと決まったわけではない、と言った根拠よ。
彼らの力から考えて、私達を殺そうと思えばいつでも殺せるはず。
ところが殺していない。
そこには何か理由があるはずだと思わない?」
エルザの言ったことはウォルフルが見てきた光景と一致していた。
村と焼け野原との境界は、まるで誰かが村への被害を食い止めたかのように、一直線になっていた。
また、村まで見渡せる大きさの城を持っている時点で、この村に気がついていない、ということもありえなかった。
「して、その理由とは」
「確実にこれだというのは、分からないわ。
ただ、長老が教えてくれた通り、ライとシイを助けたマイマイという魔王の血を引く、公爵家当主の女の子…
二人の話によると正体は醜悪な肉の塊らしいけど、それがライとシイの二人が可愛いからから助けたと言った。
そして、そのマイマイがあの城のどういった立場かは分からないけど、城の重要人物である可能性が高い。
これが答えなのかもしれないと思っているわ」
「確かに、本当に魔界の公爵家の当主、つまり貴族ということなら、お気に入りを守るために村一つ手出しを控える、ありえない話じゃないの」
マイマイは、ライとシイが可愛いから、村には手を出さなかった。
常識的に考えたらありえない判断のように思うが、それが貴族や王族となるとありえない話では無くなって来る。
もちろん全てではないが、貴族や王族にとっては、庶民とは己の欲望を満足させるための玩具であり、欲望を満足させるために、採算性など度外視した行動を取ることがあるからだ。
「じゃが、そうなるとじゃ。
今後、マイマイはライとシイを可愛がろうとするかもしれん。
いや、ほぼ間違いなくそうするじゃろう。
そうなってくると、その可愛がり方が問題じゃ。
ワシ等がペットを可愛がるとは違うかもしれんぞ?」
可愛がると言っても、世の中には目を背けるような可愛がり方が数多く存在することを、ウォルフルは交易商時代に嫌と言うほど見てきた。
例えば、ある人族の貴族が、奴隷の亜人を犬猫と同じように扱い、服も与えず、首に鎖をつけ可愛がっていたという話。
エルフを誘拐していたオーガ達が、彼女達を犯し、飽きたら喰らっていたことを、可愛がりと称していたという話。
今すぐウォルフルが思いつくものだけでも、同様の話が両手の指の数では足りないほどあった。
「相手は魔王の血を引く魔王候補。
もしかしたら、既に魔王になっているかもしれない醜悪な肉の塊。
可愛いという言葉の中身がろくなものじゃない可能性が高いのは分かっているわ。
だけど、そこに賭けるしかないのよ!
スケルトンとマイマイが村を訪れた時点で、私達に選べる選択肢なんて、殆んど残されていなかったのよ。
逃げても戦っても死ぬ可能性が高いなら、選べる手段なんて一つしかないじゃない!」
「まさか、エルザ、お前」
ウォルフルは、何故エルザが若者二人を止めたのか、何故らしくない謙遜をしていたのか分かった。
「もしも奇跡的に生かされても、逃げたという事実と、戦ったという事実は、相手の機嫌を損ねるだけ、だから逃げるも戦うのも絶対にしては駄目。
それなら、相手の好意に上手くつけ入って、私達の利益に…
ライとシイが無事に生き残れるように繋げるしかない。
フフフ…
二人に啖呵を切った私が、実はこんな情けないことを考えていたなんて知ったら、村の皆は落胆するでしょうね」
自嘲的に笑うエルザを、ウォルフルは責めることができなかった。
元戦士長であり、戦士であることが生甲斐であると言っていたエルザが「子供のために」と言って戦士をあっさりと辞めたことをウォルフルは知っていた。
そして、エルザの現状認識もまったく間違っていなかったからだ。
マイマイという圧倒的な存在の手の平の上にいるウォルフル達にとって、自分達に残されている選択肢など、エルザが言うように殆んど残っていなかったのだ。
「多分何らかの形で相手は接触してくると思うわ。
もしかしたら、マイマイが原因だとしている予想が外れるかもしれない。
だけど、その時が勝負の時になる筈よ」
エルザは静かに語ったが、その言葉には何ともいえない迫力があった。
そしてその勝負の時は、その日の夕方に訪れた。
ウォルフルが家の中で、例の六本腕のスケルトンに奪われた筈の三本の剣が、いつの間にか村の入り口に丁寧に並べてあったという怪現象に頭を悩ましていると、ダグラスが飛び込んできた。
「長老大変です!
村の入り口に物凄い別嬪のメイドが現れて、長老に会わせろと!!」
「別嬪のメイド?」
「奥さんに隠れて、あんな別嬪のメイドとお付き合いがあるほど、長老に甲斐性があったとは思いませんでしたよ」
「何を言っておるんじゃお前は?」
真面目なダグラスらしくない、下品で、下手糞な冗談にウォルフルは首を傾げるが…
その理由は、直ぐに分かった。
見た目は、驚くほど美人であることと、赤い髪と、蝙蝠のような羽と角を持っている以外は、普通の十代後半のメイド。
しかし、『圧力』としか表現できない何かが、メイドから発せられていた。
「すごい別嬪でしょ?
なのに、震えが止まらないですよ。
別嬪を見過ぎて、体がおかしくなっちまったんでしょうかっハハッ」
メイドに向かって剣を抜いている戦士達は一人残らず、尻尾を丸め、怯えきった表情をしていた。
そしてそれは、ダグラスも同じだった。
だから、下品で下手糞な冗談で自分を振るい立てようとしていたのだった。
「ダグラス、十分じゃ。
戦士を下がらせろ」
「し、しかし長老。
何かされたらどうするんですか」
「お前達がどうにかできる相手じゃないわい」
だがそれは、ダグラスには悪いが無駄な努力だとウォルフルは思った。
(へっぴり腰とはいえ、剣を向けられているのに、笑顔がまったく崩れておらん上に、恐ろしいほど自然体じゃ)
ウォルフルの交易商時代に培った感が、目の前のメイドは、朝方出会ったスケルトンより遥かに危険な存在だと警鐘を鳴らしていたからである。
「あなたが長老のウォルフル氏でしょうかー?」
ダグラスの行動から、ウォルフルが長老だと分かったのだろう。
ちょっと力の抜ける口調で、メイドがウォルフルに話しかけて来る。
「そうですじゃ、この村の長老、ウォルフルですじゃ」
「お初お目にかかります。
私は破壊神国、百使徒直属組織、メイド隊副隊長のステイシスと申します。
我らが神にて世界と理の統治者、マイマイ姫様から皆様への贈り物をお持ちいたしましたー」
(我らが神にて世界と理の統治者からの贈り物じゃと!?)
いったい何が出てくるのか、ウォルフルの心は不安でいっぱいになった。
色々忙しく、ずいぶんと間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
実は当初の構想より、途中から外れてしまった部分があり、今回の新第四話でそれを元に戻しました。
今後はこの方向で行くつもりです。