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閑話第一話 メイド隊の激闘

四話の冒頭部分が、長くなりすぎたため、閑話として独立させました。

目指していた方向と少し違う方向になった他、無駄に話が長くなっため、話そのものを削除することも考えましたが、本編をスムーズに読んでもらうための補足になる部分があるため、投稿することにしました。


なお、第三話でマイマイが眠る直前にカグヤに言った最後の台詞を「悪いけど後は全部任せる。頼むよカグヤ……………」に変更しました。


追記

家臣達が封印中も意識があり、そのため思いが積もりに積もったという内容の表現を追加しました。



【注意点】

今回は本編と違い、少しドタバタした内容になっています。

前三話と雰囲気が違うので、合わない人にはかなり合わない内容になっています。

そのため、合わない方は後書きだけを確認して、この話が無かったものとしてスルーして、第四話(未投稿)を読んでも構いません。

閑話第一話 メイド隊の激闘


side 如月カグヤ


メイド隊とは、カグヤ率いる美しいメイド達によって構成された部隊で、とても華やかな部隊だった。

しかし、メイド隊には華やかさとは縁遠い、裏の顔があった。


その裏の顔とは、エッチなこと。

ではなく『最終防衛線』という顔だった。

メイド隊はその職務上、常に百使徒の近くに控えているだけはなく、一見強そうには見えないため、警戒され難いという特徴があった。

そのため、敵の襲撃等が発生した場合、最も確実に百使徒の護衛を務めることが出来るという特徴があった。

よって、メイド隊はメイドとしての高い能力を持つと同時に、家臣達の中でも屈指の戦闘力と忠誠心を誇る部隊として編成されていった。


そんなメイド隊は、実戦において期待通りの活躍を見せた。

最終防衛線として正式に定められた『破壊神討伐イベント』開始以後、百使徒との連携という前提があるものの、一度も最終防衛線を突破されることがなかったのである。



そんな、世界建設ギルド、最強の一角であるメイド隊が、マイマイの寝室に集まっていた。

その目的は裏の顔、つまりマイマイの護衛のためだった。


実はここ数時間、マイマイの寝室を舞台として、メイド隊と侵入者との間で激しい攻防が行われていたのである。

しかも、メイド隊はかなりの苦戦を強いられていた。



眠れるマイマイの傍らでいったい何が起きているというのか。

それを説明するには、話を千年前に戻す必要があった。


----------


エバー物語には神を自称する者達が何人もいる。

しかし、世界建設ギルドの家臣達にとっては、その大半はまがい物だった。

では、家臣達にとっての神とはいったい誰なのか。

その答えはマイマイを含む百人の英雄。

百使徒のことだった。


家臣達は自らを創造した百使徒を、唯一無二の神として崇め、絶対的な存在としていた。

そして『忠誠こそが家臣の誉』という言葉の元、ありとあらゆる命令を忠実にこなしてきた。


百使徒の命令を忠実に実行する日々。

それは家臣達にとって、至福の日々だった。

家臣達は、百使徒から敵を倒せと命令されれば、女子供であろうとも容赦なく殺し、街を滅ぼせと命令されたら笑顔で全てを焼き尽くした。

百使徒のために働くこと、それこそが家臣の存在意義であり、喜びだったのだ。



ところが、今からちょうど千年前、至福の日々が突然終わりを迎える。

百使徒が、元の世界へと帰り、二度と戻ってこないというのだ。

しかも、家臣達は元の世界へ同行することが不可能で、この世界に打ち捨てられるのだという。


動揺する家臣達。

家臣達にとっては、百使徒のいない世界で生きていくなど、何の意味もなかったからだ。

そのため、家臣達の間で自害する計画が持ち上がり、それは程なくして反乱計画へと発展していった。

『打ち捨てられるぐらいなら、愛して止まない百使徒の手で殺された方がましだ』

それが家臣達の素直な気持ちだったからだ。


反乱計画の成否は、メイド隊の動向が鍵になっていた。

常に百使徒の近くに控えるメイド隊を仲間に引き入れないまま反乱を起こした場合、百使徒に直接殺される前にメイド隊に殺されてしまう可能性があったからだ。


よって、メイド長であるカグヤに、反乱計画への参加が打診されることになる。

「話は分かりました。

 ですが、忠誠こそが家臣の誉です。

 たとえ打ち捨てられることになっても、それが百使徒の願いなら、それに従うまでです」

しかし、カグヤの答えは不参加だった。

メイド隊の説得失敗という、情報の秘匿が困難になった状況を受け、決起寸前の状態になる家臣達。

ところが、最悪の事態は直前で回避された。

その原因はマイマイだった。


サービス終了の数日前、マイマイは百使徒にとある提案をした。

「また使えるように、全てを封印しよう。

 そして誓おうよ!

 絶対にここに戻ってくると!

 戻ってくるのがほとんど不可能だって分かっているけど…

 こんなので終わりだなんて、皆も嫌でしょ!?」


マイマイが百使徒に提案した、絶対に戻ってくるという誓い。

それが家臣達の心を打った。


百使徒がこの世界に戻ってくることは、かなり困難なことだと家臣達は聞いていた。

詳しい事情は分からないが、この世界への道が閉ざされるだけではなく、『ケイサツ』という恐るべき敵が襲ってくるのだという。


しかし、百使徒がこの世界に戻ってくることを望み、戻ってくることを誓った。

家臣達にとっては、それだけで十分だった。

家臣達はマイマイが提案した誓いを胸に、素直に封印されることになる。

そしてメイド隊も、至福の日々を夢見ながら、百使徒の帰還を待ち続けたのだった。


----------


マイマイ姫様帰還。


その情報が流れた瞬間、家臣達はまさにお祭り状態になった。

デュラハン達は、自分達の首を喜びのあまり空に放り投げ、ドラゴン達は空に祝砲を打ち上げる。

サキュバス達は意味もなく発情し、ハーピー達は歌いまくった。

もはや、何が何やら分けが分からない程の大騒ぎだった。


しかしそんな中、冷静に行動する者達がいた。

メイド隊である。


メイド隊は、マイマイからの勅命である『木と森の処理』の総指揮をメイド隊が取ると全家臣に通達すると、マイマイを素早く寝室に運び込んだ。

そして、眠れるマイマイが敵に襲われないよう、その周囲をガッチリと守りだしたのである。


そんな『忠誠こそが家臣の誉』を地で行くメイド隊の行動によって、家臣達のお祭り状態は徐々に収まっていく。

王宮の守りを受け持つよう指示を受けた者達は、王宮の周りに分厚い防衛線を引き始め、それ以外の者達はマイマイの勅命を実行し始めたのである。


ここまでは問題なかった。

千年前と同じく、そこには百使徒の命令を忠実に実行する家臣達の姿があった。


ところが、それから一時間もしないうちに、マイマイの寝室に侵入者が次々に現れたのである。

そして、最終防衛線であるメイド隊との激闘の末、撃退されるという事態が発生したのである。

千年間の封印で一部機能不全を起こしているとはいえ、王宮には複数の防衛線が引かれていた。

それは、魔王サラディスでさえも撃退できると断言できる程のもので、最終防衛線であるメイド隊にたどり着くことすら難しいはずだった。



そんな防衛線を突破し、最終防衛線であるメイド隊と激闘を繰り広げる者とはいったい何者なのか。

その正体は…






家臣達だった。


何故、味方である家臣達がマイマイの寝室に侵入してきたのか。

そこには、深いようで…


とても、浅い理由があった。


----------


「カグヤ~ミーアだよ~開けていい~?」


「今度はミーアですか、ミーアは何の用ですか?」


カグヤの部下達が寝室のドアを開けると、巨大なネコミミ少女が入ってくる。

といっても、明らかに普通のネコミミ少女ではなかった。

フッサフサの長毛種の猫のような体と、同じくフッサフサの羽。

そして、猫なら頭がついているはずの所から、巨大なネコミミ少女の上半身が生えているという、ギリシャ神話版スフィンクス〈スピンクス〉の少女だった。


因みに、ミーアの全長は50メートルもあるが、王宮は多種多様な大きさのキャラクターに合わせて作られているため、ミーアが窮屈な思いをすることは無かった。


「聞いて聞いて、ミーアね、森の処理を効率化させる作戦を思いついたの~、だからマイマイ姫様とお話ししていい?」


ニコニコした表情で寝室に入って来たミーアは、マイマイに対して作戦を伝えたいと言う。

ミーアは、子供っぽい性格からは想像できないが、実は世界建設ギルドの参謀という立場の家臣だった。

そのため、作戦のためにマイマイと話をしたいという意味では筋が通っていたが…

「マイマイ姫様はお休み中です、ですので作戦は事後報告で問題ないでしょう。

 本勅命の指揮権を持つ者として、ミーアに命令します。

 ミーアは森の処理の前線指揮を続行してください」

マイマイはまだ夢の中だった。

そのため、カグヤはミーアに仕事に戻るように命令する。

するとミーアは、プクーっと頬っぺたを膨らませ「ちょっとぐらいマイマイ姫様とお話させてくれてもいいじゃない!カグヤのけちー!」と、ドスンドスンと駄々をこね始めた。


それを見たカグヤは、まるで頭が痛くなったような仕草を見せると「騒がしいミーアを侵入者と認定します。強制排除開始」と部下のメイド達に命令を出した。

カグヤの命令で一斉に動き出したメイド達は「やだやだ~マイマイ姫様助けて~メイド達がミーアを虐める~」と叫ぶミーアを引きずり寝室を出て行く。

とても参謀とは思えないミーアの子供っぽい行動に、カグヤはため息をつこうとするが、直ぐに次の侵入者候補が現れた。


「王宮の警備状況について、カグヤ殿と打ち合わせをしたい」

黒いマントを着たちょび髭のおじさんがバルコニーから入ってきた。

彼の名はブラディア伯爵。

吸血鬼隊を率いる吸血鬼の真祖で、現在王宮周辺の警備を指揮していた。

そのため、最終防衛線であるメイド隊と打ち合わせを行うこと自体は何もおかしいことではなかったが…

「ブラディア伯爵、打ち合わせをするなら、マイマイ姫様の寝室で行わなくてもよいのでは?」

何故か、ブラディア伯爵は打ち合わせの準備をマイマイの寝室で始めていた。

「いや、あー…、別にここでもいいではないか」


「駄目です」


「いや、そんな硬いことを言わなくても」


「駄目です」


「我らは猫の子一匹入れない厳重な警備をしているのだ、少しぐらいマイマイ姫様のお顔を拝んでもいいだろ」


「先程、巨大な猫の子が侵入してきましたが何か?」


睨み合いなるカグヤとブラディア伯爵。

だが、第三者の乱入により、それは突然打ち切られた。


「マイマイ姫様ー!!田吾作だー!

 おら、千本も大木を刈り取ったべー褒めてくんろーーーーー!!」

突然、マイマイの寝室に響き渡る大声。

その大声は、先程のミーアの声とは比較にならないほどの大声だった。

マイマイ周辺には防音や耐振動等の幾つかの障壁が張られているが、これほどの大声だとマイマイの耳に入ってしまう可能性があった。


焦った表情で、カグヤが声の発生源であるバルコニーに出ると、そこには沢山の木を抱えた一つ目の巨人。

サイクロプスの田吾作の姿があった。

田吾作は見た目と裏腹に、とても純朴な青年だった。

だが、色々とおバカなところがあり、度々他の家臣達や百使徒を困らせていた。


「この脳筋!!

 黙りなさい!!

 マイマイ姫様が起きてしまわれたら、どうするのですか!!」

田吾作の非常識な行動を叱りつけたカグヤは、同時に魔法詠唱に入る。

詠唱した魔法は『強制転移魔法 短距離型 LV24』で、田吾作を持ち場に強制的に送り返すためのものだった。


カグヤに叱られたことで、不味いことをしていると気がついたのか「ごめんだべー」という言葉を残して、素直に転移させられる田吾作。

それを見送ったカグヤは、休むことなくマイマイの元に戻る。

もう一人の侵入者候補がいることを、忘れていなかったからだ。




もう一人の侵入者候補、ブラディア伯爵は部下のメイド達によって、床に貼り付けられていた。

「メイド長、この変態がマイマイ姫様の首筋をジロジロ見ていたので、予防措置として拘束しましたよー」

どうやらブラディア伯爵は、副メイド長のステイシスが取り押さえたようだ。

ステイシスは魔人族のメイドで、高速機動と状態異常攻撃が得意だ。

恐らく、ブラディア伯爵は一瞬の隙を突かれて、麻痺状態にされたのだろう。

ジタバタともがいているが、明らかにいつもの動きより鈍かった。

「わ、私は変態ではない、紳士だ!!」


「よくやりました、この変態紳士を侵入者として認定します。

 窓の外に放り出しておきなさい」


「こ、こら訂正しろ!」


「「「せーの!!」」」


「今の私は飛べ…うわあああぁぁぁぁ…」

メイド達に、窓からポイッと捨てられるブラディア伯爵。

その様子を見て、カグヤは深いため息をついた。


実はこのような事態が、マイマイが寝室に運び込まれて以後、延々と続いていた。

つまりこれこそが、最終防衛線で行われている侵入者とメイド隊との激しい攻防の正体だったのである。




神であり絶対的な存在である百使徒と引き離されて約千年。

その間、家臣達の胸には、百使徒への思いが積もり積もっていった。

封印されているとはいえ、家臣達は意識がある状態だったのである。


マイマイが帰還してきたのはそのような状況下だった。

本来ならば、百使徒に会いたくて仕方の無い家臣達のために、家臣全員を集めて、顔を見せてあげるべきだったのだろう。

ところが、マイマイは帰還直後に眠りにつき、大半の家臣達と顔を会わせないという、家臣達を焦らす様な行動に出たのである。

その結果、家臣達は『忠誠こそ家臣の誉れ』と頭では分かっていても『我慢できない』状態になってしまったのである。


「木を切るなんて面倒くさいわ!!

 早くこんな仕事を終わらせて、マイマイ姫様に会いたいのに!!

 ええい、ファイアードラゴン達のように、私達も木を全部燃やしてしまいましょう!

 そうすれば早くマイマイ姫様に会いにいけるわね」


「参謀のミーアが、職権を乱用してマイマイ姫様に会いに行った!?

 よし、私達も何か適当な理由をつけて、マイマイ姫様に会いに行くわよ」


「あああ…もう我慢できねえ。

 森を焼くって状況じゃねえぞ!!

 止めるなよ、絶対に止めるなよ!

 俺はマイマイ姫様の愛らしい寝顔を拝みに行くぞ!!」


「……なに!?

 ブラディア伯爵がマイマイ姫様の寝室に向かっただと!?

 …これは都合がい…いや、マイマイ姫様の危機だ。

 あの変態を放置すれば、マイマイ姫様に何をするか分からんぞ!!


 者共聞け!

 敵はマイマイ姫様の寝室にあり!!」

といった感じの会話が、各所で繰り広げられ、何人もの家臣達がマイマイの姿を一目見ようと、勝手に行動し始めてしまったのである。

千年もの時は、家臣達の忠誠心を歪に肥大化させ、色々と狂わせてしまったのだった。


「メイド長大変です!

 城壁を守っていたはずのリビングデット達が『変態を倒せ』と騒ぎながらこちらに向かって来ています!!!」


「また脳筋ですか…

 ですが、今度は楽な相手です。



 歓迎してあげましょう。


 盛大にね!!」



ただ単に攻めてくるのなら、それはそれで危険だが訓練どおりにやればいい。

ところが、色々と理屈を捏ね回したり、訳の分からない行動を取ったりと、ただ単に攻めてくるより遥かに面倒くさい行動を取ってくる者が多かった。

そのため、メイド隊の消耗は、想定を遥かに超える速さで進んでいった。


しかし、メイド隊の士気は衰えていなかった。

一度も最終防衛線を突破されていない意地と誇り、そして傍らで眠るマイマイの存在がメイド隊を支えていた。

(流石は、我がメイド隊だ)

カグヤは自画自賛したのだった。



----------



「メイド長ー、朝日が上がってきましたよ…

 結局、一晩中進入が続きましたね…」


「…ご苦労様でした。

 流石に疲れたでしょう」


「ですね…」


朝になったところで、家臣達の侵入はようやく落ち着き始めた。



寝室は綺麗な状態のままだった。

そして、マイマイ自身も布団を蹴っ飛ばしているものの、スヤスヤと眠っていた。

そう、メイド隊はマイマイを守りきったのだった。


「こんなに頑張ったんだから、マイマイ姫様からご褒美貰ってもいいですよね」

やつれた感じのステイシスが、ご褒美が欲しいと言う。

メイド隊の活躍を考えれば、それは正当な主張だと言えた。

「後ほど、私からそれとなくお願いしてみましょう」

そのため、カグヤは部下達に何らかの褒美を出すよう、マイマイに進言することにした。


「いえ、その必要には及びませんよー」

ところが、ステイシスがカグヤの案を断った。

そして、ゾワリとした気配がカグヤの体を走り抜けた。

何事かと、カグヤは慌ててステイシスを見る。

するとステイシスは、怪しい目をしてマイマイをじっと見つめていた。

「ステイシス、あなたまさか…」


「私は今すぐご褒美が貰いたいんです!!

 ずっと目の前にマイマイ姫様がいるなんて据え膳状態じゃぁ、もう我慢できません!!

 それに見てくださいよ。

 千年前と違って間に壁一枚ある感じがしないでしょ!!

 これで触れちゃ駄目だなんて、ありえないですよー!!


 ちょっとぐらい、マイマイ姫様に抱きついて、頭をナデナデしてもいいですよね!!」

目の前で愛する百使徒が無防備な姿を晒しているのに、仕事以外が許されない状況。

しかも、カグヤ自身も不思議に思っていたのだが、千年前と違い、間に見えない壁のようなものがある感じがしないため、マイマイの存在がとても強く感じられるのである。

そんな我慢大会のような状況に、ついにメイド隊の我慢も限界に達してしまったのである。



突破されることなどありえない。

そう言われていた最終防衛線は、内部から崩壊し始めた。

(まずいことになった)

ステイシスの様子に、極めて不味い状況になったとカグヤは思う。

メイド隊は常に『忠誠こそが家臣の誉』を地で行く働きを見せていた。

それは極めて高い忠誠心があってこそのものだったが、高い忠誠心は強い思いの裏返しでもあった。

つまり、他の家臣達より強い思いを持っているが故に、一度箍が外れてしまったら手をつけられなくなってしまうのだ。


「そんなことは認められない」


「大丈夫ですよ、マイマイ姫様は百使徒のリーダーで、神様で、超越者で、エントール魔王の直系で、破壊神で、私達の生みの親なんですよ!

 とにかく凄いんですよ!

 そんな人が、私の目の前であんな誘うような無防備な姿で寝ると、私が我慢できなくなるっていう展開を予想しない筈がないじゃないですか!

 メイド長、いや、カグヤだって覚えているでしょ、落ち葉の落ち方が未来予知できる力のこと。

 あれを、マイマイ姫様が私達に与えてくれたことを!

 未来予知ができるのに、私の行動が予想できない筈がないじゃないですか!

 それなのに、あんな無防備な姿を晒しているんですよ!!

 これはどう考えても、私へご褒美をあげると仰っているとしか思えません!

 皆もそう思いませんか!

 きっと皆へのご褒美もあると思いますよ!」


ステイシスの発言を即座に否定するカグヤだったが、予想したとおりステイシスはまったく引き下がる気配が無かった。

それどころか、支離滅裂な感じでステイシスが捲くし立て始める。

魔人族の血がそうさせているのだろう、その表情は狂気を感じさせるものだったが、発言内容には頷かされるところもあった。


マイマイは百使徒のリーダーであり、世界を震撼させた破壊神であり、世界の根源の一つであるエントール魔王の直系という、まさに生きる伝説というべき超絶的な存在である。

そして、ステイシスが言うように、マイマイは未来予知の能力を持っている可能性もあった。


カグヤとステイシスが創造されて間もない時の話である。

二人は、庭へ舞い落ちる落ち葉を掃除するという命令を受けたことがあった。

ところが、次々に舞い落ちる落ち葉に二人は悪戦苦闘する。

落ち葉の落ち方は千差万別で、全然落ちてこないかと思えば、突然沢山落ちてきたりするからだ。

そして、沢山落ちてきた時に限ってメイドスキーが様子を見に来て、まるで仕事が進んでいないように見られてしまったことが何度もあったからだ。

そんな失敗を繰り返し『しょんぼり』としていた二人にマイマイが救いの手を差し伸ばした。

『ぱたーんかいせきをした』と謎の言葉を発したマイマイは、落ち葉がどのように落ちてくるか完全に予知できる能力を二人に与えてくれたのである。

一見地味な力だったが、これはまさしく『未来予知』であり神の業だった。


そんなマイマイが、家臣達に顔を合わせずに眠った結果、家臣達を暴発させる事態になり、それによってメイド隊が苦戦し、ステイシスが暴走するという状況を予想していないとは思えなかった。

他のメイド達も、ステイシスの発言に色々と感じるところがあったのだろう、何十人ものメイド達がステイシスを援護できるような位置に移動しはじめる。


(もしも、マイマイ姫様の意図がステイシスの言うとおりのものだとしたら…)

マイマイの意図が見えない状況に、カグヤは不安を感じ始める。

そして不安になったカグヤは、思わずマイマイを見てしまう。

しかし、カグヤの目に入ったマイマイは、布団を蹴っ飛ばし、お腹を出して眠っていた。

眠れるマイマイは何も答えてくれない。

だが、カグヤはマイマイのとある言葉を思い出した。


『悪いけど後は全部任せる。

 頼むよカグヤ……………』


(そうだ、自分はマイマイ姫様から全てを任された。

 つまり、マイマイ姫様は、私の行動を肯定すると仰られた。

 それが答えだ)

カグヤはマイマイから後は全部任せると言われていた。

恐らく、マイマイはステイシスが言うように、家臣達の暴走から、ステイシス達が我慢できなくなることまで予想していたのだろう。

しかし、そのうえでカグヤに全てを任せたのだ。


(マイマイ姫様の深い考えを凡人たる自分が想像することなどできない、だがマイマイ姫様の求めているものぐらいは分かる)

カグヤ自身が正しいと思う行動を取ること、それがマイマイの求めだった。


「マイマイ姫様がステイシスの行動を予想していたというのなら、私がステイシスの行動に反対するという状況も予想していたはずです。

 そのうえで、マイマイ姫様は私に全てを任せてくれました。

 この意味が分かりますかステイシス?」

ステイシスに問うカグヤ。

そしてそれに、戦闘態勢で答えるステイシス。

もはや戦闘は回避できない状況だったが、カグヤの顔には不安の色は無かった。

「解らないのですか?

 私が勝利し、最終防衛線の連続防衛記録が更新される。

 そしてメイド隊は勅命を完遂する。

 それがマイマイ姫様が予想された未来です!」


激突するカグヤとステイシス。

メイド隊の最終防衛線の連続防衛記録は更新されるのか。

無事メイド隊は勅命を完遂できたのか。

そしてマイマイの意図はどこにあるのか。


それはカグヤ達の頭の中にいる『とにかく凄いマイマイ』だけが知っていた。

次は本編で、ちゃんとマイマイが主役です。


閑話をスルーする人へ

以下の点だけ、今後の話を読むうえで必要になるので、確認しておいてください。


メイド隊

カグヤが率いるメイド隊で、最終防衛線を担う。

副メイド長はステイシス。


ブラディア伯爵

吸血鬼隊を率いる家臣。


ミーア

世界建設ギルドの参謀。

子供っぽい。


田吾作

心優しき巨人の家臣。


家臣達の特徴

百使徒を神として崇めている。

そして、千年も封印されていたため、百使徒への思いが物凄く強くなっていて、そのせいで変な行動に出ることがある。


その他情報

千年前は百使徒との間に見えない壁のようなものがあった。

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