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第三話 当面の方針が決定しました(5/4改訂版)

当初用意していた3話をほぼ全てを書き直しました。

そのため、かなりの突貫工事でおかしい点があるかもしれません。

その場合は、早めに直す予定です。

なお、感想を受けて、注釈の数を減らしました。

また、マイマイのリアルでの設定は『あくまでログアウトできなくても当面の間は疑問に思わないが、ログアウトしないと不味い状況』というものを表すためのものなので、見たくないという方や納得できない方は、とにかく前記のような状態だということで、読み飛ばしても問題ありません。

追記

感想を見て、マイマイのリアルでの設定を第二案に変えました。

追記2

次回に明らかにされる家臣のマイマイへの思いを読まないと、最後の方でカグヤがやっちまった理由がピンと来ないことに気がついたので、カグヤと話し始めたあたりに、家臣の性質に関する内容を追加しました。


重要 改訂版について

色々考えた結果、次話で考えていたマイマイの現状に関する考察をこの話で組み込まないと、マイマイの行動原理が見えなくてまずいと言うことがわかりました。

そのため、それらを追加した改訂版を上げる予定です。

この改訂内容は、今後の話を読む上で大事な内容が含まれることになると思いますので、三話を既に読まれた方も、その部分だけは読んでいただければと思います。投稿したら、またここで連絡させていただきます。

⇒ということで、追加しました。マイマイがホームを復活させる直前に考察等を大幅に追加しました。また既に追記した内容ですが、カグヤと話し始めたあたりに家臣の設定を追加しましたので、そちらも確認していただければと思います 1/31日朝


トイレに関するツッコミなどが多いので、不快になら無い範囲で説明を追加しました。そして、1年間VRに居るのは危険という表現がいつの間にか抜け落ちてしまっていたので、それも書き込みなおしました。

(5/4朝改訂)

第三話 当面の方針が決定しました


side フューレ


聖都メガセンラグウ。

その中心にそびえ立つ五つの金色の塔。

それこそが地母神教会の総本山だった。


その塔の一つ、烈火の塔をガッチリとした体躯の男が歩いていた。

男の名はフューレ。

まるで戦士と見間違うような体つきと顔だったが、フューレは正真正銘の司教であり、聖教徒学校の卒業生だった。

聖教徒学校とは、地母神教会の司教候補を養成する学校であり、そこの卒業生達が地母神教会を動かしていると言っても過言ではなかった。

フューレもその例に漏れず、出世街道を約20年間歩んできた。

そしてついに、一つだけではあるが『教議会』での議決権を得ることになり、本日初めて教議会に出席したのだった。

教議会とは、地母神教会の意思決定を行う議会のことで、そこに出席できることは大変名誉なことだとされていた。

そのため大抵の者は、教議会初出席の日を人生最高の日として思い出に残すことになる。


ところが、フューレは、怒気を発しながら歩いていた。

その怒気は凄まじく、誰もがフューレの顔を見ると慌てて道を開けるといった程だ。

しかし、そんなフューレに声をかける者が現れた。

「やぁフューレ、浮かない顔をしているね?

 『ご神託』の件で何かあったのかい?」

フューレに声をかけて来た線の細いメガネの男の名はラップ。

フューレの聖教徒学校時代の同級生であり友人だ。

「自分で言うのもなんだが、こうも不機嫌な俺に声をかけてくるとは…相変わらずお前の知識欲は、大したもんだな」

ラップは聖教徒学校を主席で卒業した超優等生だ。

しかし、出世街道である小教区の司祭ではなく聖学者への道を選んだ変わり者だった。

聖学者への道を選んだことを問い質すフューレに対し「聖学者なら秘蔵の文献も読み放題だし、遺失技術や遺失魔法を真っ先に触れることが出来るんだよ?教会という名前を捨てれば、貴族共と代わり映えしない教区の司教より、よっぽど面白そうだと思わないかい?」と答え、顎が外れそうになったのは今となればいい思い出である。

つまり、ラップは知識欲が服を着て歩いているような人間だった。


「まあね。

 そんなことより、今度のご神託はどんな内容だったんだい?

 『世界の危機』とやらの正体が分かったのかい?」


「何も分からん!

 だと言うのに、どいつもこいつもサイゼル派の連中を止めることが出来ないでいる…


 悔しいことに、この俺もな!!!」

ダンっと壁に怒りをぶつけるフューレ。

フューレが不機嫌な理由は教議会においてサイゼル派の意見を覆すことが出来なかったからだ。

サイゼル派とは地母神教会の中で『正しい教義』の復活を目指す一派で、過激な行動に出ることが多い一派でもある。

現在、地母神教会ではサイゼル派が飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を伸ばしていた。

これは、一年前に世界の危機を伝えるご神託が降りたからだ。

ご神託とは、四人の巫女達が4月1日に地母神から神託を授かるといったものだった。

神託の内容は、長年の間平穏なものだったと言われている。

ところが一年前、つまり一つ前のご神託から、世界の危機を伝えるものに変化したのだった。

しかし、その内容は世界の危機を伝えているとは分かるものの、具体的に何が起きるのかまったく示されていなかった。

そこで出てきたのがサイゼル派だ。

サイゼル派は「世界の危機と言えば、サラディス魔王の復活しかありえない。世界を救うために魔王復活を阻止しなければならない!魔王に連なる者達を浄化すべきだ!」と訴えたのである。

サイゼル派の意見に対し、他派閥からは魔王復活と読み解く根拠を示すこと。

そして魔王に連なる者達、つまり亜人達は聖書にあるように『愚かな存在』であり、積極的に浄化するのではなく、救うべき存在であると反論する。

〈※哀れな存在 聖書には、サラディス魔王による侵攻が発生した約千年前、亜人は信仰が無い愚かな存在のために、サラディス魔王側についたと示されている〉

しかし「魔王復活の可能性は聖書にも示されていることではないですか、それより可能性の高い世界の危機をあなたはご存知だというのですか?」と反論され、亜人達に対しても「それならば、今すぐ亜人達全員を地母神教徒にする手段を示してほしい!」と、改宗という手緩い手段では間に合わなくなると反論され、議論は平行線になった。

ところが、その後一年間で力関係はサイゼル派に大きく傾くようになる。

理由は、いくつかの王族や貴族が魔王復活阻止という名目で亜人達に対して圧力をかけ、土地や財産や命を奪い始めたからである。


ご信託の内容は、教議会にて公開・非公開を決議することになっている。

そして、世界の危機を知らせるご信託は、聖学者とその他一部の者意外には非公開とされていたはずだった。

ところが、何者かが各国の王族や貴族にご神託の情報を無断で渡し、それと同時にサイゼル派の見解を『教議会での有力な意見』として伝えたのである。

いくつかの王族や貴族が、亜人達に圧力をかけ始めたのはその直後だった。


亜人達は、唯一の亜人国家である皇国や辺境国家以外では各国に自治領を作り暮らしていることが多かった。

これらの自治領は、四カ国連合が皇国及び辺境国家に対して行った聖戦の終戦条約によって成り立ったもので、各国の王族や貴族から『取り返すべき土地』として常に狙われていた場所だった。

つまり、一部の王族や貴族が、亜人達の土地や財産や命を奪う名目として、ご神託と教議会での有力な意見を利用したのである。


これらの事態に対しサイゼル派は「各国の敬虔な信者達の努力を前に、これ以上実の無い議論を繰り返している場合ではない!」と教議会で訴える。

要するに、世の中は既にサイゼル派の意見に沿って動いており、それを否定し続けるのは各国と地母神教会との間に溝を作ると他派閥を恫喝したのだった。

明らかにサイゼル派によるマッチポンプであるが、お布施という形で各国から収入を得ていた各派閥は、次々と矛を収めることになった。


そして今日、新しいご神託が教議会で公開された。

穏健派の幾つかの派閥は、サイゼル派の勢いを止めれるようなご神託を期待したが、その内容は前回とほぼ同じものであり、サイゼル派を勢いづかせるだけだった。

穏健派である聖ドスティアン会に所属するフューレもまたその一人であり、落胆しつつもサイゼル派の意見に必死に反論した。

しかし、利権が絡み始めたサイゼル派を止める手立ては最早無かったのである。

「くそっ!どいつもこいつも金に目がくらんで、信仰心を忘れやがって!!!

 世界の危機が迫っているというのに、状況は混乱する一方だぞ!!」

教議会は正にサイゼル派の圧勝で終わった。

それは、四カ国連合の後裔国家と皇国。

そして人族と亜人との対立を煽るものであり、敬虔な地母神教徒として世界の危機に立ち向かいたいと考えるフューレにとっては、最悪の展開だった。

「いや、僕の見たところサイゼル派は信仰心から出た行動だと思うな。

 彼等の原動力は金じゃないよ。


 しかし世界の危機の正体が分からないのは残念だな。

 僕としては未知の魔王とか『破壊神』じゃないかと予想していたんだけどな…」

そんなフューレの怒りの熱弁など無かったかのように、話を切り替えるラップ。

ラップにとってはフューレの怒りより、自分の知識欲が満たされなかったことの方が重要だったのだ。


毎度のこととはいえ、ラップの発言はフューレから見ればとても失礼なものだった。

ところが、フューレは怒るどころか、顔を青くする。

ラップの言葉が禁忌に触れていたからだ。

「ラップ!どこに異端審問官がいるか分からないんだぞ!!」


「いやぁ、ごめん、ごめん。

 ここは大図書館じゃなかったんだよね。

 いやー、実は破壊神が世界の危機の正体じゃないかって思って調べていたら、『破壊神の姿を模ったと思われる像』を書き写した古文書を発見してね!」


「おい、ラップ!人の話を聞いているのか!?」


「フューレも見てみろよこれ!

 顔が何個もあるし、腕や脚が何十本も生えているし、分けの分からない肉の塊のようなものまであるし!

 そして、一つだけ少女の顔のようなものが生えているっていうのがまた、不気味さを増していて凄いだろ!!

 流石の僕も、これを見た後は食欲がなくなったよ。

 こんな、魔王も素足で逃げ出しそうな不気味な姿をしているなんて、さすが破壊神だ「ラップいい加減にしろ!!!!」

まるで子供のようにはしゃぐラップを一喝し、ラップの言葉を止めるフューレ。

ラップが語った破壊神とは、地母神教会で口にすること自体が禁忌とされている存在だった。

そのため、フューレも破壊神の詳細について知らなかったが、今の会話を異端審問官に聞かれていたら不味い状況になるのは間違いなかった。


「まったくお前は、昔から信仰心が足りん!!

 よし、決めた!!

 今日は腹いせに、お前にたっぷりと説教してやる!!」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。

 それって何かおかしくないかい?

 僕はこれでも忙しいんだ」


「いや、許さん!しっかりと付き合ってもらうぞ!」

ラップの首根っこを捕まえて引きずっていくフューレ。

フューレはラップの知識欲の強さに頭が痛くなる思いだった。

しかし、フューレ自身は気がついていなかったが、聖教徒学校時代に戻ったようなラップとのやり取りは、彼のイライラを確実に減らして行ったのだった。




side マイマイ


『召喚獣達と戯れる破壊神マイマイの像 一万パーティ撃破記念 兆国王作』


「幻覚が見えているのかな…

 見知らぬ廃墟のど真ん中に、私の黒歴史があるよ…」


「姫!拙者の目にも姫の像が見えますぞ!!

 やはり、ここが王都で間違いないかと…」


「幻覚じゃないのか…そうなのか…そうなのか…そうなのか…」


廃墟の真ん中で、ブツブツとうわごとの様に喋り続けるマイマイ。

マイマイはショックで倒れそうだった。

一言で言うと王都は廃墟になっていた。

王都は瓦礫に埋め尽くされ、昨日までの栄華が嘘のようだった。

「昨日まで普通に人々が暮らす町だったのに…いったい何があったんだ…」

たった一日で、まるで何百年も経ったような姿に変貌した王都にマイマイは目の前が真っ暗になった。

「ここが別の場所だと思いたいが、アレが幻覚じゃないとなると、王都で間違いないよな…」

マイマイはここが王都だと信じたくなかったが、自分の黒歴史が目に入り、認めざるをえなかった。


今から二年ほど前『召喚獣達と戯れる破壊神マイマイの像』という題名がついた噴水が、一万パーティ撃退の記念として王都に作られていた。

芸大出のギルドメンバー『兆国王』が一ヶ月かけてデザインし、魔黒石で作られたそれは最高級の噴水と言えたが…

マイマイはこの噴水が最高に気に入らなかった。

その理由はふたつあり、ひとつはデザインだった。

マイマイが召喚獣達と戯れている姿を元にデザインしたと言うのだが、マイマイ像の体の部分が何十匹もの召喚獣達の中に埋もれており、

召喚獣達とマイマイが合体したような訳の分からない謎モンスター、ホラーゲームのラスボスに出てくるようなクリーチャーに見えるからである。

しかも、マイマイの口から水が出るようになっており、更に人間離れした姿に見えて最悪である。

そして気に入らない二つ目の理由は、題名に『破壊神マイマイ』と書かれていることである。

破壊神マイマイとは、とある超重要イベントをマイマイが完全破壊した際についたあだ名で、エバー物語内ではかなり有名なあだ名だったが…

マイマイにとっては非常に不本意なあだ名であり、できることなら二度と見たり聞いたりしたくないあだ名だった。


因みに、マイマイは噴水のデザインや題名が、悪意によって決められたものなら文句の一つでも言ってやるつもりだった。

ところが、兆国王は完全な善意によってこれらを決めており、マイマイも文句が言えなかったのだ。

つまり、非常に性質の悪い噴水だった。


そんな性質の悪い噴水は、恨めしいごとに王都が廃墟になっていても、ほぼ完全に原形をとどめていた。

しかも、今もマイマイ像の口から元気よく水を噴出させており、日本語で書かれた『召喚獣達と戯れる破壊神マイマイの像』と書かれたプレートも健在である。

記憶と違う点といえば、干乾びた食べ物のようなものが、噴水の淵に置かれているぐらいだった。


噴水を見て「はあ」とため息をついたマイマイは、気持ちを切り替え、北に向かって歩き出す。

噴水は、マイマイのホームである王宮からまっすぐ南にいった所にある中央広場に設置されていた。

つまり、噴水からまっすぐ北に行くと王宮があるからである。


王宮は一辺あたり、数キロの城壁と堀に守られ、王都の真ん中にそびえ立っていた。

だが、これもまた姿を大きく変えていた。

王宮というより、どう見ても岩山である。

王宮は、まるで溶岩が固まったような岩で覆いつくされた外観になっており、城壁等の溶岩に覆われていない部分もまるで森のように木が生えていた。

「こいつは酷い見た目だ…敷地内の森は切っても問題ないから、後で処理するか。

 それはとにかく、中に入ってみよう…ってここもか!」

正門の前に来たマイマイだったが、正門も巨木に埋もれていた。

「ええい面倒くさい!『火球 通常型 LV5』」

実は結構面倒くさがり屋であるマイマイは、魔法で巨木を焼き払い正門の前に立つ。

だが、自動ドアのはずの城門は、開く気配が無かった。

(城門は岩に埋もれていない…ということは魔力が完全に切れているのか)

ホームを稼動させるためには、魔力が必要にある。

見たところ、ホームは完全に魔力切れを起こしているようだった。

(それなら、これでどうだ!)

魔力をホームに注ぎ込むマイマイ。

すると、ブゥンという音がして、若い女性の声が聞こえてきた。

「お帰りなさいませ!!!マイマイ姫様!!!!!」


「あ、ああ…ただいま」

スケサンの様子から、感情豊かな反応を予想していたマイマイは、なんとか平静を保って対応する。

声の主は如月カグヤ。

世界建設ギルドのメイド長を務めつつ、『ホームの精霊』までもこなすパーフェクトメイドという設定の家臣だ。

ホームにはホームの精霊という、ホームを統括するAIが配布されることになっていた。

多くの場合、配布されたAIをそのまま使うことになる。

しかし、既にメイド長としてギルドメンバー『ワシワー・メイドスキー〈自称ロシア人〉』が作成したカグヤがいたため、彼女にホームの精霊の機能をインストールしたのである。


「カグヤ、早速で悪いけど損傷具合を報告して」

マイマイは、早速王宮の損傷具合を問い合わせる。

王宮の見た目がごつごつした岩山に変貌しているため、まともに機能するか心配だったからだ。


「基幹部分・カスタム部分は『コード666』により閉鎖中。

 装飾部分もコード666の影響により機能停止中です」

コード666とはギルドのメンバーが金と知識を投入して開発したホームの最終防衛装置であり、GMにも許可された準公式MODである。

〈※MOD ゲームの簡易拡張パック〉

これは、ホームの基幹部分及びカスタム部分に敵が侵入しようとした場合、ホームを溶岩状の特殊な粘土で完全に埋め尽くしてしまうというものだった。

これを使えば、敵は簡単にホームを荒らすことが出来なくなるが、自分達も一時的にホームを使えなくなるため最終防衛装置となっていた。

ホームが岩山のようになっているのは、このコード666によって噴出した粘土が固まったことによるものだった。


「基幹部分・カスタム部分の封印はどうなっている?」


「双方共に健在です」


続いて、マイマイは封印について確認する。

封印とはその名の通り封印魔法のことで、副次効果として封印対象を劣化から守る機能があった。

マイマイ達はサービス終了の日に、王宮のメイン機能が収まった基幹部分と、ギルドメンバーが作成した色々な機能が収められたカスタム部分を魔法により封印していた。

カグヤの報告は、それが依然として顕在であることを示していた。


「じゃ、中の皆も大丈夫なんだな?」


「はい、全員元気にしております」


そして封印の中には、家臣達も一緒に封印されていた。

世界建設ギルドは、家臣作成においてエバー物語最高レベルと評されたギルドで、家臣はギルドメンバーの金と努力の結晶であり宝だった。

因みに家臣とは、その名の通り、プレイヤーの家臣として働くNPCのことで、スケサン達召喚獣やメイドのカグヤも家臣である。

家臣は非常に便利な存在だが、AI故に意外と融通が利かないのが欠点だ。

「野菜を採取しておけ」と具体な作業場所と終了日時を示さずに命令したら、そのまま迷子になって半年後に千キロ程離れた他人の農場で野菜泥棒として逮捕されたり、いつも着かず離れずボディーガードをしろと命令したらトイレまで着いて来てしまったりする。

そのため、世界建設ギルドでは『家臣達にとって百使徒とは神以上の存在で、その忠誠心は物凄く高い。そのため、常識的に無茶な命令やありえない命令でも、「百使徒様のお考えだから」と実行しようとしてしまう』という脳内設定にして対応していた。



カグヤの報告を聞き終えて、マイマイはホッとした表情をする。

報告は、王宮が復旧可能であることを意味していたからだ。


「現在王宮の使用者はいるか?」

マイマイは続けてカグヤに質問する。

それは、王宮にギルドメンバーがいないかということだった。

王宮にギルドメンバーがいれば、マイマイを助けてもらえるからである。


「使用者はいません」


「最後に王宮を使用したのは誰だ?」


「ラグリマクリdeath様です」


「ラグリマクリdeathはいつまで王宮を使用していた?」


「1000年と6時間15分前です」


「は?なにそれ?」


「間違いなく1000年と6時間15分前に使用しています…失礼しました、今16分前になりました」


「なんなの、どういことなの!?

 どうして1000年も経ってるの!?一日じゃないの!?」


「マイマイ姫様?」


仲間が王宮を利用したのが千年前という情報にマイマイは混乱する。

エバー物語は長年サービスが提供されていたが、もちろん千年間もサービスが提供されていたわけではなかった。

そしてホームの精霊の機能は、エバー物語の基幹システムに常時接続されているため、時間を間違えるようなことはありえないはずだった。

混乱したマイマイはスケサンを見る。

マイマイとしては別にスケサンに期待していた訳ではなかったが、助けを求めて思わずスケサンを見てしまったのだった。

「姫!ご安心くだされ!」

ところが、スケサンはマイマイの助けになることを思いついたようだった。




「姫が1000年間を一日と間違えるほどのアホの子でも、拙者達の姫をお慕いする気持ちは揺るぎませんぞ!!」













「……………カクサン、スケサンを黙らしておいて」


「キッシャー!!」

髪飾りからカクサンが現れ、スケサンを触手でぐるぐる巻きにする。

スケサンに期待したことを後悔するマイマイだったが、スケサンのアホな発言のおかげで冷静になれた。


「カグヤ、ラグリマクリdeathは今どうしている」


「1000年と6時間16分前に、元の世界へとお隠れになりました。

 それ以後、王宮には来られていません」


「私が最後に王宮を使用し、王宮を出た時間はいつだ」


「1000年と8時間49分前です」


「その時の私の様子はどんな感じだった?」


「はい、『これで終わりなんて嫌だー』と泣き叫びながら正門から飛び出そうとしましたが、正門の段差に足を引っ掛けてしまい、頭から地面に突っ込みました」




「うん、間違いなく私だね…」

メイドに恥かしい過去を説明され、顔が真っ赤になるマイマイだったが、同時に状況を理解した。

(なるほど、昨日のことが千年前ということになっている。

 どうしてそうなったのか分からないが、千年経っているといことなら、現状と辻褄が合うと言えるな)

千年も時間が経っているというカグヤの発言を信じたくなかったが、千年経っていると考えると辻褄が合うことが多数あった。

例えば、千年経ったため転移魔法やマップ魔法が使えなくなったと考えると辻褄が合う。

例外もあるが、長年行かなくなった場所や名称が変更になった場所、何らかの理由で破壊された場所や機能停止した場所は転移魔法のリストから外される。

そして地形が少しでも変化した場所等は、マップが初期化される。


千年も経っていると仮定した場合、どれも十分に起こりえる話だった。

(といっても、本当に千年経っているわけじゃないから、千年経ったという設定で、地名や地形が変更されたのだろう)

そう考えたマイマイは、とりあえず考察を打ち切った。

ログアウトのために王宮に来たということを思い出したからである。


「GMとの特別回線を開いてくれ。

 重要度は最高レベルで連絡してくれ」


マイマイと世界建設ギルドは、特殊な立場のため、GMと密接な関係にあった。

そのため、GMとの特別回線を持たされており、それはシステムダウン等といったトラブルにも対応できるよう、エバー物語の本体とは別ソフトになっていた。

本体とは別ソフトのため、どれだけエバー物語がバグっていてもソフトは起動するはずである。

ところが…


「あの…マイマイ姫様?」


「ん?どうした?」


「GMがマイマイ様方と共に元の世界へとお隠れになって以来、特別回線は使用不能のままです」


「冗談だろ!?」


マイマイはまた目の前が真っ暗になった。

それは、通信によって誰かに助けを求めるという手段が全て駄目になっただけではなく、もはや直ぐにログアウトする有効な手段が一つも無くなってしまったからだ。

家族や、頻繁に訪れる友人がいる人なら、ログアウトできないという事故が起きても、家族や友人が助けてくれる。

だが、マイマイには、それが期待できなかった。

マイマイはVRに嵌り過ぎ、親から勘当されていたからだ。

しかも、頻繁に連絡を取り合う友人は基本的にネット上で出会った友人ばかりであり、マイマイのリアルでの住所を知る者のは一人もいなかった。

また、VR上で行っている仕事の人間関係も期待できなかった。

勘当されたマイマイは、VR依存症とも言える自分でも、社会人として立派にやっていけるのを証明しようと、フリーランスでのVRクリエイターを始め、成功を収めていた。

しかしエバー物語の最後を楽しめるように現在は一時休業中であり、仕事に出てこないからと、マイマイを探そうとする人は誰もいなかったのだ。


(VR連続使用装備の栄養パックと下の世話関係の機器は、一年以上VR内で暮らしていけるレベルだ。

 となると、前払いしている家賃が切れる一年後まで待てば事故に気がついてもらえる可能性があるが…)

このままでは、マイマイがログアウトできるまで最低でも一年は掛かりそうな事態だった。

これまでマイマイは使用したことが無かったが、VRにはVR連続使用用の機器が実装されていた。

そのため、、正常に機能していれば、マイマイが長期間ログアウトしないことを感知して、栄養の補給と下の世話の方を自動的にしてくれるはずである。

だが、それでもログアウトできない状況というのは危険な状態だった。

(最悪の場合、死んでしまう可能性がある…特に注意すべき点は二つか…)

マイマイが思いついた可能性の一つ目は、VR連続使用装備が壊れてしまったり、火事が発生したりと、外的危機によって死亡する可能性。

そして二つ目は『VR性過労死』によって死亡する可能性だ。

VR性過労死とは、VRが一般社会に広がり始めた当初、VR使用中に脳梗塞が発生する確率が激増したことによって認識された病気だ。

VR技術は肉体の制約から解放されるため、リアルより遥かに効率的に業務を進めることが出来るが、それが脳への負担を高めており、脳梗塞の発生確率を高めていたのだった。

そのため、現在のVRには連続使用を制限する強制的なシャットダウン機能の付与が厚生労働省のガイドラインで示されていた。

しかし、既にマイマイはシャットダウンが起動する時間を越えており、その機能も正常に動作していないようだった。

因みに、一年以上VR内で暮らしていけるレベルの栄養パックがマイマイのVR機器には搭載されているが、そこまでVR内に居ればVR性過労死する可能性はかなり高いと言えた。


(一つ目はどうにもならないとして、二つ目はVR内でもリアルと同じように生活すれば、少しでも危険は減るか。

 このまま王宮でグータラ過ごしたら脳梗塞の危険は減るから、いっそのこと、GMが事故に気がついてくれるのを待つという手も…………いや、それは危険だ。

 そもそも、GMがいるとは限らないどころか、このVRがまともな場所かどうかも分からない)

マイマイはここに至り、重大な問題が頭から抜け落ちていたことに気がついた。

それは、現在マイマイの目の前で起きている状況は、どれもこれも不可解なことばかりなのに、それに対してマイマイは何も情報を持っていない状態だということだった。

こんな簡単なことが頭から抜け落ちているとは、マイマイは本人が思っている以上にいっぱいいっぱいになっているようだ。


(違法になった筈のエバー物語が稼動しているのは、次世代エバー物語が『タックスヘイブン』に移されテストを行っていたから。

 〈※タックスヘイブン VRに対して規制が無いだけではなく、VR内で行われている行為に対して、他国へ一切の情報公開を行わない国家のこと〉

 スケサン達が脳内設定と同じ動きをするのは、諸事情で公開している世界建設ギルドの脳内設定集を、次世代エバー物語用のAIのテストのために開発側が使用しているから。

 そしてログインできたのは、何らかの事故か、ちょっとしたサプライズ。

 といったようなご都合主義的な内容が今起きている不可解な状況の理由だったら、何も知らずに行動しても多分それほど大きな問題は起きない。

 だけど、悪い方向の何か、例えばとんでもない犯罪等が不可解な状況の裏に隠れているとしたら、何も知らずに行動するのは危険すぎる。



 でも、だからってどうすれば…)

色々なことが頭を巡り、どう行動すればいいか分からなくなるマイマイ。




それからマイマイは三分ほど考え続けるが、良い答え見つからなかった。

しかし、はっきりしたこともあった。

(何も情報が無い状態で考えても、良い答えが出てこないのは当たり前か。

 それによくよく考えてみれば、時間が経過するだけで死んでしまう可能性が高くなって行くんだ…

 何もしなくてもリスクが上がって行くのなら、危険を承知で動き回って情報を集めた方がマシかも知れない)

それは、情報を集めなければ、どうしようも無いということである。

そして、ログアウトを求めて行動してもしなくても、リスクがある状況は変わらないということだった。

(各地で情報を集めよう。

 そして、信頼できるプレイヤーかGMに出会えたら、助けを求めよう。


 はぁ…これが『ゲームの世界に入ってしまう』といったような御伽噺のような展開なら、それはそれで良かったんだが…

 そんなこと、常識的に考えてありえないからな。

 普通に原因を考えると事故か、犯罪に巻き込まれたか、考えたくないけど自分の頭がおかしくなった可能性のどれかだろうな…)

マイマイは、ログアウトするために各地を回り、情報の収集や信頼できる人物の捜索を決意する。

一瞬、昔呼んだ『不思議の国のアリス』を思い出したが、厨二的思考が多い一方で社会人として常識的なところも併せ持つマイマイはありえないこととして切り捨てた。

(となると、目的地はGM教会とギルドになるな)

エバー物語の世界はとても広い。

しかし、プレイヤーやGMと出会える可能性が高い場所がいくつかあった。

(プレイヤーなら、四カ国連合の首都にあるギルド本部や支部にはほぼ間違いなくいるだろう)

エバー物語には、四カ国連合と呼ばれる対魔王同盟を結んだ人族の大国が四つ存在した。

そこの首都には、戦士ギルドや魔術アカデミー等といった各種ギルドの本部や支部が設置されており、プレイヤーがイベントを求めて集まっていた。

(そして首都にあるGM教会なら、GMもいる可能性が高い。

 もしもGMがこのVRにいないとしても、メガセンラグウのGM教会本部、そして最悪の場合でも天界にまで行けば、このVRを操作している人物にぶち当たるはずだ)

GM教会とは、GMを神の一員として祀っている教会のことだ。

しかし実態は、GMのエバー物語内での管理室兼開発室であり、天界とは総管理室兼総開発室のことだった。

つまり、GM以外の何者かがエバー物語を起動していたとしても、その人物と出会うことができる可能性が高い場所だった。

(鬼が出るか蛇が出るか分からないが…


 よし!勇気を出して行ってみよう!

 では、まずは近くの王国からだな。

 そこが駄目なら、他の四カ国連合を回って、それでも駄目ならメガセンラグウのGM教会本部に向かうか)

王宮の位置から見ると、四カ国連合の一角『オルトラン王国』が最寄の国といえた。

そのため、マイマイはまずはオルトラン王国に向かうことを決める。

(それじゃ、家臣の復活とアイテムや装備のために王宮を復旧させるか)

当面の行動方針を決めたマイマイは、早速王宮の復旧に取り掛かる。

その目的は、ギルドメンバーが溜め込んだアイテムと装備、そして家臣達にあった。

長年溜め込んだアイテムや装備は、数・性能共にエバー物語トップクラスの物が揃っており、家臣達は自動生成に近いものも含めると師団単位で部隊が編成できる程の数だった。

そしてそれらによって発揮される戦闘力は、ギルド単体で二正面の戦争イベントに勝利できるほどのものだった。

マイマイはオルトラン王国に向かうにあたって、それらを必要としたのである。


なぜそれらを必要としているのか、それはマイマイがエバー物語内で、監禁されたり、死んだりすることを恐れていたからだ。

監禁とはその名の通り、イベント等で監禁されてしまえば、ログアウトどころではなくなってしまう。

そして死んでしまった場合も同じだ。

死んでしまった場合、プレイヤーの肉体は行動不能となり、霊体を動かすことができる。

霊体は通常の壁などを突き抜けられるといった特徴があるため『霊体プレイ』を好むプレイヤーがいる程便利だったが、肉体から一定の距離までしか行動できないという制約があり、今回のマイマイの目的とは合致しなかった。

そのため、アイテムや装備を倉庫から引っ張り出したうえ、自分を守るために家臣達を復活させ、それらを駆使してオルトラン王国に向かおうとしたのである。

(といっても、凄い犯罪が行く先に待ち構えていて、それと正面から激突したら家臣やアイテムでは気休めにしかならない場合も…

 いや、そう決め付けるのはまだ早い。

 何か役に立つかもしれないし、自分の負担の軽減という意味では絶対に効果があるはずだ)

そして実はもう一つ、マイマイには家臣達を復活させたりする理由があった。

それは、自分に負担がかかるのを防ぐためだった。

例えば飛行魔法を連続使用すれば、早くオルトラン王国に着くことが出来る。

しかしそれは脳を酷使し、VR性過労死の可能性を高めてしまうのだった。


そのため、家臣の中には旅客機より巨大な100メートル超のドラゴン軍団等、乗り物として使ったりすることができる者達がいるため、オルトラン王国に向かうにあたってそれらに乗っていこうと考えたのだった。



マイマイはアイテムボックスを開き、『完全魔法薬』を取り出し全魔力を回復させる。

そして、そのままカグヤに向けて宣言した。

「コード666解除、全魔力の半分をホームに提供する!続いて、封印の解除、全魔力の半分…つまり残りの全魔力をホームに提供する!」


「コード666解除、封印解除」

魔力をホームに提供しコード666と封印を解除する。

コード666と封印の解除条件は、実行より一定の時間が経過していることと、ギルドのメンバーであること。

そして、全魔力の半分をホームに提供することだった。

つまり、コード666と封印の解除の二つを同時に行使したマイマイは、全魔力をホームに提供することになった。


魔力が減っていく感覚に反比例して、王宮を覆っていた岩が光の粒子に変わっていく。

そして全魔力が無くなった段階で、重厚な王宮が光の中から現れた。

「あ…れ…?」

すると突然、マイマイに強烈な眠気が襲ってくる。

(どうしてこんなに眠いんだ??

 困ったな、王宮の復旧はまだ終わっていないのに……コード666が解除されても、中のホコリまでは消えないはずだ…

 せめて正門付近だけでも…森のように生えている木をどうにかして………ああ…駄目だ、眠すぎる…)

あまりの眠さにフラフラとなり始めるマイマイ。

そんなマイマイを誰かが優しく抱き支えた。

それはメイド喫茶で見かけるようなメイド服を着た、狐耳と狐尻尾を持つ女性だった。

「カグヤか…」


「はい!カグヤでございます!マイマイ姫様!!」


「異常に眠くて、王宮の復旧作業が続けられそうに無いんだ…

 『カグヤ及び全家臣に命令、王宮の復旧作業を行うこと。特に王宮内の掃除と、目障りな木の処理をしっかり行うこと…』」

突然襲ってきた異常な眠気に逆らいながら、カグヤと全家臣に王宮の掃除と王宮に生えている木の処理をするよう指示を出したマイマイ。

それは、コード666が解除されたことにより、岩山といった見た目の王宮は建物らしい姿を取り戻したが、大量に生えた木とホコリによって廃城のような雰囲気であり、思い入れのあるマイマイとしては放置できなかったからだ。

しかし指示を受ける側としては、マイマイの命令は曖昧すぎたようだった。

「掃除はとにかく、目障りな木の処理とはどのようなことでしょうか?」


「正門を木が覆っていたんだ。

 それに関しては魔法で燃やしたけど、それ以外にも森のようにいっぱい生えてるだろ?

 私みたいに焼き払ってもいいから、全部綺麗に取り払ってくれ」


「確かに、沢山生えていますが、具体的にはどの部分を取り払いますか?」


「場所が多すぎて、正直自分でも把握しきれない。

 せめてここから見える範囲だけでいいから、木や森全てを取り去ってくれればいい」

眠気を我慢しながら、せめて正門付近だけでもいいから木や森を取り払ってくれと指示を出すマイマイ。


「こ、ここから見える範囲全てですか?」


「そうだよ、それでいいからやってくれ」


「かしこまりました。

 ここから見える木や森全ての処理ですね。

 さすがマイマイ姫様、スケールが大きい」

その指示は曖昧なものだったが、無事カグヤを納得させることが出来たようだった。

「悪いけど後は全部任せる。

 頼むよカグヤ……………」


指示を出した安心感から、ついに眠気に負けるマイマイ。

そんなマイマイを優しく抱き支えるカグヤの視線の先には、大樹海と呼ばれている広大な森が広がっていた。



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side ライ


ちょっと変わった外見だけど、私達より少しだけお姉さんのピンクの髪の女の子。

そんな女の子に、冒険者達のリーダーが風のように近づいていく。

(駄目っ!)

それを見たライは、どうしようと顔を青くする。

(私が誰でもいいから助けてなんて適当なことを願ったから、ピンクの髪の女の子が捕まっちゃう!)

ライは、ピンクの髪の女の子が気絶させられる光景を幻視した。


ところが、ありえない光景が目に入ってきた。


ピンクの髪の女の子は、そのままその場所に立っており。

代わりに、冒険者達のリーダーの腕が無くなっていた。

そして、ピンクの髪の女の子の頭から、吐き気がするほど気持ち悪い何かが生えていた。

(何なのあれ…人の頭にあんなのが入っているなんて絶対におかしいよ!!)

頭から肉と触手を生やしたピンクの髪の女の子を見てライは、あれは人じゃないと思った。

(本当に悪魔が助けに来たんだ…どうしよう!!)

そして気がつく、自分が悪魔でもいいから助けてくれと願ったから、本当に悪魔が助けに来たんだと。

あれは間違いなんです!

本当に悪魔が来るなんて思っていなかったんです!

そうライは心の中で叫ぶが、次の瞬間には冒険者達のリーダーは、目を背けるほどグチャグチャに潰れてしまっていた。

そして、状況は更に恐ろしい方向に向かっていく。

悪魔が僕〈しもべ〉を呼び出し、冒険者達を森ごと真っ二つにしたのだ。

先程まで恐怖の対象だった冒険者達が可哀想になってくるほどの力の差。

そしてその数分後、最もおぞましい事が起きた。


冒険者達の死体を集め、おかしな儀式を始める悪魔。

すると、冒険者達が生ける屍として蘇ったのだった。

生き物は死ねばその魂が神々の世界へ行き、そこで審判を受け、穢れた魂は贖罪の旅をするのだという。

そして、贖罪の旅を終えれば、神々の元へ帰ってこられるのだという。

ところが悪魔は、審判を受ける前に魂そのものを縛ってしまった。

死を冒涜する行為であり、神々に正面切って喧嘩を売る行為だとライは思った。

(あんなに恐ろしい僕〈しもべ〉を連れて、神様に喧嘩を売るようなことを平気でするなんて、本当に魔王の末裔なんだ…どうすればいいの!?)

悪魔が魔王の末裔と言っていたことを思い出すライ。

彼女は恐怖で体固まり、どうすればいいのか、どうして悪魔に…それも魔王の末裔に救いを求めてしまったのか、そういった考えや後悔が頭の中でぐるぐると回り続けた。

だが何も答えは出なかった。


そして気がつくと、悪魔の視線が自分と妹に向けられていた。

ライは何も言えないまま、悪魔を見ていると、悪魔から恐ろしい言葉が発せられた。

「さあ二人とも、準備はいいかい?」

にやりと笑う悪魔。

何の準備なのか、冒険者達のように生きる屍になる準備なのか、それとも魔界に連れ去られる準備なのか、それとも…

い、いやああああああああああああああ」


「お姉ちゃん!!」


(えっ!?)


ライが目を向けると、そこには妹の姿があった。

そして、周りを見ると、見慣れた光景が目に入ってくる。

そこはライとシイの部屋だった。


(ここは私達の部屋?じゃあ…今のは夢???)


「シイ…悪い夢を見てたみたい…

 そうよね、いきなり魔王の末裔と出会うなんてありえないよね。


 うわ…凄い汗…

 墓石様の噴水へ水浴びに行こうかなアハハッ」


悪夢の影響か、ライの体は汗で凄いことになっていた。

そのため、水場で水浴びをしたいと妹に言う。

ライ達の村『サウザンハウンド』には小さな井戸しかなかったが、3キロ程離れた所にある遺跡を更に進んだところに大昔の噴水と綺麗な泉があった。

その噴水は『墓石様の噴水』といわれ、墓石様を祀る祭壇でもあった。

墓石様とは、とても恐ろしい姿をした神様で、食べるのが大好きな神様だった。

村の言い伝えによると、不味い食事を出されたことに激怒した墓石様は、町一つを滅ぼしたこともあったという。

そのため、村人達は立派な獲物が取れると、墓石様に感謝し、獲物の一部を祭壇にお供えしていたのだった。

といっても、昨今は不漁の日が多く、墓石様にお供えする獲物の量も減ってしまい、長老達は祟りが起きるのではないかと不安がっていた。

そんな墓石様を村が祀っているのは、恐ろしいだけの神様ではなかったからだ。

墓石様はその昔、滅亡の危機に瀕していたご先祖様達を助け、墓石様の国に住まわしてくれたという優しい神様でもあった。

そして何よりも、どんな干ばつでも枯れない噴水を村のために残してくれた神様だったからだ。


「駄目!!絶対に駄目!!」

墓石様の噴水で水浴びをしたいというライの話を、シイが否定する。

確かに、墓石様の噴水と村との距離だけを考えると子供だけで向かうには抵抗がある。

しかし、村と墓石様の噴水の間は、何故か危険な動物やバケモノが出ることも無いため、ライだけ向かっても問題ないはずである。


シイの様子に、何がいけなかったのかとライは考えるが、あることに気がついた。

家の外が妙に騒がしのである。


「シイ、何かあったの?」


「家の中にいなくちゃいけないの!!」


「どういうこと??」


嫌な予感がしたライは、ベッドから飛び降りると、そのまま部屋を飛び出す。

「お姉ちゃん!?待って!」

そして、シイもそれに続いた。



ライが家を飛び出すと、あたりは既に薄暗くなっていた。

しかし、北の方角。

墓石様の噴水がある方角が、まるで昼間のように明るくなっていた。

そして、何かが焼けるような匂いがあたりに充満し、ゴロゴロと遠雷のような音が聞こえていた。

(どこか高いところに登れば、何か分かるかも…)

そう思ったライが周囲を見回すと、村一番の大きさを誇る長老の家、その屋根の上に組まれた物見小屋の中に完全武装の母親がいる姿が見えた。


ライとシイの母親は、村有数の戦士だった過去を持っていたが、今は引退していた。

そんな母が完全武装している状況に只ならぬものを感じたライは、無我夢中で梯子を上り、物見小屋へ上がろうとする。

すると、ライの耳に「また始まるぞ!!」と他の戦士達に向けて叫ぶ母の声が入ってきた。


(始まるってなに?)

母の言葉の意味を知ろうと、物見小屋の母親を見上げるライ。

すると、物見小屋の少し先の上空。

村の真上を『ゴオッ』という音と共に、巨大な何かが次々に横切っていった。

横切っていった物体は、燃えるような赤い体を持った生き物。

ライは知らなかったが、ファイアードラゴンと呼ばれる炎を吐くドラゴンだった。


ファイアードラゴンが低空を飛んでいたためか、吹き飛ばされそうなほどの突風がライを襲う。

そんな突風の中、ライは必死に梯子を登り母に駆け寄ろうとした。

ドラゴンに原初的な恐怖を感じたのである。

しかし、目に入ってくる光景に、ライは言葉を失い、立ち竦んだ。

梯子を上りきった所にある物見小屋から広がる光景は、見慣れた森ではなく…




火の海だったからだ。



メラメラと森が燃え上がっている光景を、呆然と見回すライ。

すると、視界の真ん中に、燃える森とは違う光を放っているものがあることに気がつく。

それは巨大な城だった。

昨日まで岩山があった場所に、城が建っていた。

炎の中で揺らめく城は、まるで御伽噺に出てくる魔王の城のようだった。


何が起きているのか、あの城と目の前の火の海はどんな関係があるのか。

ライには分からなかったが「祟りじゃ!!墓石様の祟りじゃ!!」と騒ぐ長老を見て(もう、この村は終わりなんだ…)と悟ったのだった。


ヒロイン候補の少女達のピンチを、マイマイは救うことが出来るか!?

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