第二話 気がついたら異世界 2
お待たせしました、第二話です。第一話の後半にあたるお話です。
自分のPCだと、文章の折り返しの位置などがちょうどいいのに、投稿するととても見難くなる…どうすりゃいいんだ…
⇒ご指摘を受け色々試しましたが、私自身は見やすくなっても他のPCだと更に見難くなるようなので、とりあえずこのままでいきます。
感想での指摘を受け、一箇所直しました。
1/22誤字報告を受け直しました
2/1暫定的ですが、マイマイの言葉を俺から私表現に変えました
第二話 気がついたら異世界 2
side マイマイ
(困ったぞ、自分の聞きたいことだけを並べると…
・バグって地図が使えないんだけど、ここは何処か知ってますか?
・サービス終了だと聞いていたのですが、あなた達は何か聞いてますか?
・バグっているみたいで、プレイヤーかどうか分からないんですが、あなた達はプレイヤーですか?プレイヤーだったら、現状について色々と情報交換したいんだけど。
ということなのだが…それを聞くわけにはいかない。
もしも、この人達がプレイヤーだった場合、場所を聞くのは問題ないが、それ以外はマナー違反になるからなぁ)
プレイヤーかもしれない人物との接触に、マイマイは対応に困り考え込んでいた。
何故マイマイは対応に困っているのかというと、目の前の六人がプレイヤーだった場合、先ほどの発言から考えるに、明らかに『なりきっている』からだった。
エバー物語では、その世界のキャラクターになりきることがマナーであり、現実社会の発言やメタな発言は喜ばれなかった。
特に、なりきってイベントを進行中の相手に対しては、ご法度であるとされていたのだ。
よって、彼等がプレイヤーだった場合、マイマイの疑問に色々と答えてもらえるチャンスなのだが…
正にイベントを楽しんでいる最中の彼らに対して、メタな内容を含むマイマイの疑問を聞くこと自体がマナー違反だったのだ。
つまり、マイマイは自分の聞きたいことを優先してマナー違反を犯すか、マナーを優先して当初考えていた道を聞く程度に留めるか迷い、考え込んでしまったのだった。
因みに、彼らのイベントに自分も参加して、全てが終わってから質問しようかともマイマイは考えた。
しかし、悩んだ結果それは止めることにした。
以前「止めて」と懇願する男僧侶が複数の女戦士に取り囲まれ、素手で攻撃されているというイベントに出会ったことがあった。
マイマイは男僧侶に加勢し、女戦士達を蹴散らしたが、結果として男僧侶と女戦士達の双方に怒られてしまった。
つまり、あれは所謂そういう趣味の人が集まったイベントで、お楽しみ中だったのだ。
〈※余談だが、どうやら中身は全員おっさんだったらしい〉
よって、今回も『人質プレイ』等といった特殊なお楽しみ中だった場合、マイマイの参加は彼らにとって邪魔者以外の何者でもないと考えたのだった。
対応を決められず「うーん…」と考えこむマイマイ。
しかし、そんなマイマイの思考を『キン!』という音が遮る。
どうやら、物理攻撃と魔法攻撃を防御する『魔法の鎧 常時展開型 LV30』が何かを防いだようだった。
(あれ?森の中に、隠密状態の敵でもいるのかな?)
〈※隠密状態 目視や探知系の魔法から身を隠すアクションを行っている状態〉
アイディックの生命体拘束魔法を見ていなかったマイマイは、森に潜む敵の攻撃かと考え意識をマップ魔法に向ける。
すると、戦士風の男、ロイが近づいて来るのが光点の動きで分かった。
(森の中の敵でも倒しに行くのかな?)
そう思い、戦士風の男の動きを追うマイマイ。
ところが、戦士風の男はマイマイの予想に反して側面からマイマイに攻撃を仕掛けてきた。
そのスムーズな動きに(おお!熟練者の動きだ!)と軽い感動を覚えるマイマイ。
だが、棒立ちのマイマイに戦士風の男の攻撃が通ることは無かった。
それは、マイマイが装備している髪飾りに秘密があった。
髪飾りは、同じギルドのメンバーに頼んで作ってもらった特別製で特殊な機能が備わっていた。
特殊な機能とは、内部に封印された特定の召喚獣を状況に合わせて自動的に呼び出す機能である。
具体的に言うと、装備者に対して直接的な攻撃が行われた際に、封印された召喚獣を召喚する機能が備えられていた。
封印された召喚獣は、マイマイの召喚獣作成能力と、ギルドの仲間達の支援によって完成されたフレッシュゴーレムの一種。
『見ると角煮が食べれなくなるクリーチャー三号』通称カクサンだった。
〈※フレッシュゴーレム 血肉で作成されたゴーレム。柔軟な動きが出来るなど無機物のゴーレムには無い機能を持つが、見た目がグロテスクなのが欠点〉
触手を使って戦士風の男の腕を切り取り、そのまま腕を喰うカクサン。
その様子を見て戦士風の男は驚いているようだったが、マイマイもまた別の意味で驚いていた。
(どうして、こんなにリアルな傷口なんだよ!?ちょっとこれはやりすぎだろ!?)
エバー物語では、風当たりが強くなった1年前から、自主規制としてリアルなダメージ表現を改めていた。
そして、リアルなダメージ表現は『VRMMOの制限に関する法律』が施行以後は『違法な表現』になっており、今後発表されるVRMMOでは表現してはいけないものになっていた。
つまり、男の傷はいかにもCGといった感じのソフトな映像として表現されないといけなかったのだ。
だが、目の前の傷はリアルなダメージ表現になっており、しかも以前のダメージ表現より遥かにリアルなものになっていた。
マイマイは(何故ダメージ表現が元より更にリアルになっている?)と思考の渦に囚われるが、戦士風の男の上げた「全員逃げろ」という声に現実に引き戻された。
プレイヤーがイベント対象では無い相手に一方的に攻撃を仕掛ける行為はPK〈※他のプレイヤーを攻撃すること〉とされ、ご法度とされていた。
そのため、マイマイを一方的に攻撃した戦士風の男がプレイヤーだった場合、その行動を看過することが出来なかったからだ。
そのことを思い出したマイマイは、ほぼ反射的に手に魔力を籠め『スキル 魔力腕力変換』によって魔力を腕力に変換すると、そのまま戦士風の男をなぎ払った。
『パーン!』
何かが破裂したような音が鳴り響き、赤い何かが地面に広がる。
そして、戦士風の男の姿が消えた。
「あれ?」
間抜けな声をあげるマイマイ。
それもそうだった。
マイマイは先ほどの戦士風の男の動きを見て熟練者だと考え、少なくともそれなりのレベルに達していると判断した。
ところが予想を裏切り、たった一撃で倒せてしまったからである。
しかも、遺体は規制前のVRで耐性をつけていなければ、胃の中を吐いてしてしまう程の損傷っぷりである。
(あーあ、やっちゃった…正当防衛だからGMに怒られる事は無いけど、人型を倒すのはイマイチ気が乗らないんだよな。
でも、こいつらがプレイヤーだった場合、PKをするような奴等をほったらかしにするわけには行かないし。
仕方ない、いつも通りにするか)
〈※GM ゲーム管理者〉
この時、彼らの全滅は決定した。
マイマイは高位プレイヤーとして、GMの補助を請け負っていた。
そのため、PKを行うプレイヤーに対し制裁を加える権限を保有していたのである。
「スケサン…やっちゃって『特定召喚 スケサン』」
頭を掻きながら、空中に向かって呪文を唱えるマイマイ。
すると、空中に魔法陣が現れ、妖しげなオーラと豪華な鎧を纏ったスケルトン『スケさん』が現出する。
マイマイは元々運動神経が低く、VR内での近接戦闘も苦手としていた。
そのため、魔法と召喚獣を駆使して戦うプレイスタイルを確立していたのである。
しかし、今回召喚獣を呼んだのは、それだけではない。
ゲームとはいえ、人型の敵を自分の手で直接殺す行為がどうしても好きになれなかったからだ。
(憂鬱になる攻撃はスケサンに任せて、こっちは少し考えるか。
色々考えたいことがあるし…)
戦闘をスケサンに任せ、自分は色々と発生している不思議な状況を分析しようとするマイマイ。
ところが、エバー物語を取り巻く不思議な状況は、そんな時間をマイマイに与えなかった。
「姫!!お久しゅうございます!!!!!!
姫が『百使徒様』方と共に『元の世界』へとお隠れになって約千年、どれだけこの日を夢見たものか……ううううう…」
なんと、呼び出した召喚獣が勝手に喋りだし、骸骨の目のある場所から涙?のようなものを流し出したからである。
「な、なんで喋ってるの!?」
不思議を通り過ぎて異常ともいえる事態に、相手がNPCであることも忘れて声をかけてしてしまうマイマイ。
「なんで喋っているの?ですか…?
ハッ!!
姫!申し訳ありませぬ。
拙者を呼び出したということは、敵がいるということ。
喜びのあまり騎士の本分を忘れるとは…我ながら情けない。
直ぐに有象無象共を片付けますので!
拙者はエントール・マイマイ三世姫 近衛騎士隊長 スケサン・ヤッテーシマ・イーナサイでござる!!!
いざ、尋常に勝負!勝負!!」
マイマイには、目の前の光景がまったく理解できなかった。
確かに、音声ソフトで音声を作り、多額の費用を払いNPC用高級AIをセッティングしたらある程度はそれっぽく動いてくれる。
だが、マイマイは高級AIをセッティング等していなかったし、例えしていたとしても、ここまでプレイヤーっぽい動きができるとは思えなかったからだ。
(スケサンの近衛騎士隊長という肩書きと、侍っぽいしゃべり方は、ギルドの中で「こういう脳内設定なの!」と発表して、『脳内設定集』に記入していただけなのに…どうして!?)
マイマイは、何が起きているのか意味が分からず、その場で固まってしまうのだった。
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side アイディック
アイディックは、常に危険と隣り合わせの冒険者という仕事が、実は好きではなかった。
そんなアイディックが冒険者を続けていたのは、生活のためと、ロイの存在によるところが大きかった。
恩人であり友人でもあるロイを助けるため、そして何よりも冒険者として非凡な才能を持つロイに任せている限り、命の心配をする程危険な事態になることがほとんど無かったからだ。
だが、そんなロイが一撃で殺された。
名の知れた冒険者とは思えないほど、あっさりと殺された。
アイディックは、空中に魔法陣を展開するマイマイに背を向け、そして他の仲間にも背を向け走り出していた。
(あれは小娘なんかじゃない!!小娘の皮をかぶったバケモノだ!!)
アイディックはロイを殺したマイマイの頭から生えた肉と触手の塊、そして『揺れ』を感じさせない完璧かつ非人間的な魔法陣の構成を見て、直感的に分かった。
相手は見た目相応の存在ではなく、人知の及ばない何かだと。
だから、アイディックは森の中をひたすら走る。
可哀想な人質の少女達も、人数あわせで集めた馬の合わない二人の仲間も、ロイの敵討ちもどうでも良かった。
ベテラン冒険者としての経験を使い、逃げる算段だけを立てる。
(こうなったら『帰還のスクロール』を使って逃げるしかない!)
帰還のスクロールとは、使用することによって特定の場所へ移動することができるアイテムのことである。
アイディックの持っている帰還のスクロールは、ロイとアイディックが多額の金を積んでギルドより購入した品で、移動先はギルドになっていた。
アイディックはそれを使い、マイマイから逃れようとしていたのだった。
しかし、帰還のスクロールには発動時に光り輝くという欠点と、発動そのものに十秒ほどの時間を要するという二つの欠点が存在した。
通常の使用では問題になる欠点ではないが、敵から逃げている状況では非常に厄介な欠点だといえた。
そのため、アイディックはマイマイの気を逸らす方法はないかと考える。
すると、アイディックの脳裏にロイが日々語っている言葉が浮かび上がった。
(そうだ『攻撃を仕掛ける瞬間が、最も無防備になる瞬間』だったな。
バケモノが、人質の少女達を喰らう瞬間がチャンスだ!)
マイマイが聞けば卒倒するような内容だが、カクサンがマイマイの一部だと思っているアイディックには、マイマイは人を喰らう異形のバケモノにしか見えなかった。
そして、そんなバケモノが美味しそうな子供達を見過ごすはずがないと考えたのだった。
そこまで考えたアイディックは、状況を確認するために後ろを振り返ろうとする。
しかし、アイディックは後ろを振り返る前に、ゴロリと倒れこんでしまう。
(何やっているんだ!転んでいる場合じゃないだろ!)
慌てて後ろを確認しようとするアイディックだったが…
視界を邪魔するかのように、森中の木が倒れ始めた。
「何だ!?何が起きているんだ!?」
混乱するアイディック。
そして、そんなアイディックに向けて、大木がゆっくりと倒れこんできた。
「ひっ!?」
それを見たアイディックは悲鳴を上げて、そこから飛び去ろうとする。
しかし。
「何故だ!何故動かん!?」
アイディックはそこから動けなかった。
それもそのはず、混乱するアイディックは気がついていなかったが、彼はお腹のところで真っ二つにされていたのだった。
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side マイマイ
「姫!片付きましたぞ!」
「何やってんだよーーーーーー!?馬鹿なのー!?死ぬのー!?」
マイマイは頭を抱えていた。
スケサンの必殺技『空斬剣』は剣を振るった先、数百メートルにあるもの全てを、空間ごと切り裂く技だ。
空斬剣の力を持ってすれば、間に何があろうとも問答無用で敵を切り裂くことが出来る。
今回のように間に森があろうとも、敵を倒すことが出来る。
そう、森があろうとも。
「森が滅茶苦茶じゃないかー!?」
スケサンの刃は、森に逃げ込んだ冒険者の魔術師も、人質を放り投げて逃げ出した二人の冒険者も真っ二つにしていた。
しかし、一緒に周囲の森も綺麗さっぱりに、真っ二つにしてしまっていた。
ゲーム内の森を破壊しても、問題ないのではないか?
ゲーム初心者はそう思い、山火事を起こしたりすることがある。
だが、実はそれは大迷惑なのである。
例えば森が無くなったせいで、転移魔法やマップ魔法のマッピングがリセットされたり、森の中を使う予定だったイベントが破壊されたりするからだ。
そのため、森の無闇な破壊は禁止されてはいないが、迷惑行為とされていたのである。
「あー…これGMに怒られるかも…憂鬱だ…」
「姫!?申し訳ありませぬ。ここは責任を取って切腹を…」
「お前骨なのに切腹できないだろ!!ってだいたいお前は武士じゃないだろ!」
「キシャーwwキシャーww」
「カクサンも煩い!」
「キシャー…」
(はぁ…もう少しプレイしたら止めるか…)
人間のように動くスケサン等といった訳が分からない展開やバグに、憂鬱な戦闘、そしてスケサンの凡ミスに、まるで頭から生えたような状態で「キシャーキシャー」と鳴くカクサン〈※これはいつもと同じ〉に嫌気が差したマイマイは、さっさと状況を片付けてログアウトしようと決意した。
ログアウトを決意したマイマイは、早速後始末を始める。
「スケサン、カクサン、死体を一箇所に集めて」
マイマイは冒険者達の死体を一箇所に集めると「贖罪のゾンビパウダー」と、どこかのアニメキャラのような声を出して、アイテムを取り出しそれを死体に振りかけた。
『贖罪のゾンビパウダー』とは一部の高位プレイヤーに対して、GMより提供されたアイテムである。
その効果は、死んだキャラクターをアンデッドとして蘇らせ、名声値が一定値に溜まるまでアンデッド化が解けないというものである。
つまり、ルール違反を犯した者に対しての制裁処置の一環として開発されたアイテムだった。
〈※ プレイヤーからの指示(善行)を実施し名声値を貯めれば、アンデッド化が解け、キャラクターはすべて元通り(生き返ることができる)になる。因みにアンデッドに悪行を指示すれば、指示した者が制裁の対象になる〉
「うーあー…」と、あまり精神衛生上良くない声を出しながらアンデッドとして蘇る冒険者達。
体がミンチ状に潰れたロイと、上半身が潰れたアイディックの見た目は酷いものだったが、贖罪のゾンビパウダーによって最低限とはいえ体の修復が行われているため、歩行は可能のようだった。
そんな冒険者達を前に、マイマイは手馴れた感じで話し始める。
「はい注目ー。
君達は悪いことしたから、贖罪のゾンビパウダーの力でアンデッドになってもらいました。
分かってると思うけど、今回は甘めの制裁だけど次はないからね!
じゃ、後はどうすればいいか分かるよね?」
マイマイは、自分の制裁は甘い制裁だと思っていた。
GMから許可された制裁方法はいくつかあるが、中には違反したプレイヤーをただ倒すだけというものもあった。
つまり、倒されたプレイヤーはその場に放置されてしまうのであり、最悪の場合、死体を漁られアイテム等を全てロストしてしまう可能性があった。
それに対して贖罪のゾンビパウダーでは、能力や行動が大幅に制限されるもののプレイヤーの操作が可能であり、アイテム等をロストする可能性が低かったからだ。
因みに、本人は甘い制裁だと思っているが、他のプレイヤーからはめっぽう評判が悪かった。
VR内で見た目が醜悪な姿になってしまうというのは、想像以上に精神的苦痛になるからだった。
「ううう…!?」
「うわああああああああ!?」
自らの状態に戸惑うような動きをするアンデッド達。
(…えーっとおかしいな。
贖罪のゾンビパウダーについては、ルールとして組み込まれているから、プレイヤーなら知っているはずだし、NPCの行動にもプリセットされているのだが…
何となく違和感が…)
贖罪のゾンビパウダーはルールブックにも示されているアイテムであり、NPCの行動に対しても有効になるように作りこまれていた。
だが、目の前の冒険者達がまるで贖罪のゾンビパウダーのことなど何も知らないようにような反応をすることに、マイマイは若干の違和感を感じた。
(ま、でも今はそれどころじゃないか)
「それじゃ『命令 クエストの出発地点に戻れ』
頑張って、名声値を貯めるんだぞー!」
「うーー…」
違和感を感じたマイマイだったが、他にも色々と気になることが多かったので、違和感を無視してアンデッド達に指示を出す。
指示の内容はクエストの出発地点に戻れというもので、このような事態でよく使われる指示だった。
マイマイはアンデッド達が無事帰っていくのを見届けると、次にライとシイの元に向かっていった。
(とにかく、二人を落ち着けるところに連れて行って、それからログアウトしよう)
「さあ二人とも、準備はいいかい?」
ライとシイの目の前に仁王立ちしたマイマイは、自分達の家に向かう準備は出来ているか?と、聞いた。
因みに、第一印象が大切だと考えるマイマイは、もの凄く笑顔である。
『コテン』
しかし、何故かライとシイは気絶し、ぱったりと倒れてしまった。
しかも、その顔は恐怖に固まっている。
「なんで!?どうして!?そういうイベントなのか!?」
気絶した二人を見て、慌てるマイマイ。
「姫、緊張が解けて、その反動で気絶してしまったのかもしれませんぞ」
「…そ、そうか。
うん、そうかもしれないな。
とにかく、二人を落ち着けるところまで連れて行こう。
スケサン、二人を運んでくれ」
気絶してしまったライとシイを見て(このまま放置してログアウトするのは、流石にできないな)と思ったマイマイは、スケサンに二人を背負わせて、近くの村へ運ぶことを決める。
ところが、それをスケサンが止めた。
「お待ちくだされ!
この二人を拙者が運ぶとなると、いざという時に姫の安全が守れませぬ。
ここは姫の安全を最優先に考え、近衛騎士団全員にて行動することを進言いたします」
「近衛騎士団全員!?」
(近衛騎士団って何だ!?
確かに脳内設定では、『召喚ナイトスケルトン 装備カスタム最上級型 LV30』や『召喚リッチ 装備カスタム最上級型 LV30』等といったスケルトン系でランダムで呼び出す召喚獣は、
様々な理由で自分に忠誠を誓った騎士で、スケサン配下の近衛騎士団に入っているという『脳内設定』にしていたが…)
「左様でございます。
百使徒様方がマイマイ様を除いてお隠れになっている現状は、極めて危険な状況でございます。
百使徒様方の足元にも及ばない戦力ですが、なにとぞ近衛騎士団全員の召喚を…」
肩ひざをつき、忠誠のポーズを取りながらマイマイに進言するスケサン。
そこまでされた以上、マイマイはスケサンの進言を断ることができなかった。
「分かった『特定召喚 近衛騎士団』こんな感じでいいのかな!?」
特定召喚とは、あらかじめ召喚対象を厳密にセッティングした召喚である。
そのため、近衛騎士団の特定召喚についても出来る限り厳密にセッティングが行われていた。
しかし、近衛騎士団そのものが脳内設定上の産物であるため、近衛騎士団の特定召喚はあくまで脳内設定を補完するお遊びだった。
つまり召喚は失敗するはずだった。
ところが…
無数の魔方陣が展開され、現出するスケルトンの軍団。
その数、数千体。
スケサン程ではないが、どのスケルトンも只者ではない雰囲気を発していた。
「姫だ!!」
「おおおお!!!」
「よかった…本当によかった…」
「マイマイ姫ーーーー万歳!!」
「者ども落ち着け!!」
(また訳の分からないことが起きた)と頭を抱えるマイマイを置いて、騒ぎ出すスケルトン達とそれを抑えるスケサン。
どう見ても脳内設定そのままの近衛騎士団を見て、マイマイは『もうどうにでもなれー』という気分になった。
そして時間は数十分ほど経過する。
マイマイは、気絶したままのライとシイを連れて村へと向かっていた。
そしてその周囲は、近衛騎士団によってがっちりとガードされていた。
因みに、カクサンは髪飾りの中に戻っている。
カクサンは『こんな事もあろうかと!』といった感じの秘密兵器だからである。
(受け入れてしまえば、感動的だな!)
そんな中で、マイマイは早くもスケサンや近衛騎士団の存在に慣れ始めていた。
常に脳内設定で妄想していた光景が目の前にある。
不可解な点に目を瞑れば、感動するような光景だと開き直ったのだった。
感極まった表情でスケサンや近衛騎士団を眺めるマイマイに、一体のマジックナイトスケルトンが駆け寄ってくる。
〈※マジックナイトスケルトン 魔法剣士型のスケルトン〉
「部隊の先頭が村の入り口に達しました」
近衛騎士団の数は数千体に上り、マイマイの周囲だけでは納まりきらない状況になっていた。
そのため、近衛騎士団の中心に居るマイマイから先頭までの距離は数百メートルにもなっており、先頭の状況を知るためには伝令を走らせる状態になっていた。
「わかった、ご苦労!スケサン行くぞ!」
村の入り口に向かうべく、マイマイが歩き出す。
すると、スケルトンの群れが海を割るかのようにさっと二つに別れ、道を作った。
(スケルトン達がNPCだと知らなかったら、萎縮しちゃう光景だよな…
全員NPCだから物と同じ…気にする必要は無い…全員NPCだから物と同じ…気にする必要は無い…
よし!これで大丈夫だ!)
と暗示をかけるように自分に言い聞かせながら、その道を颯爽と歩くマイマイ。
そんなマイマイの後ろにはスケサンと、ライとシイを布に包んでお姫様抱っこするリッチ二体が続いた。
〈※リッチ 魔術師型のスケルトン。見た目は怖いが、スケルトンの体は骨でごつごつしている為、ライとシイを運ぶ際は布で包んだ方がよいと提案する程の紳士〉
村は森の中に隠れるように建てられていた。
村の規模を見たところ、先の魔法で探知したとおり、百人程度のワーウルフが住んでいるようだった。
そして、既に一人のワーウルフがマイマイ達の到着に気がつき、近衛騎士団の前にまで来ていた。
そのワーウルフは『いかにも村の長老』といった感じの人物で、そのあまりにも典型的な雰囲気に、マイマイはNPCだと当たりをつけた。
近衛騎士団の隙間を抜けたマイマイは、もう一度目の前のワーウルフ見る。
見ると何故か異常に顔色が悪く、プルプルと震えている。
(病気か?それと年寄りだからか!?とにかく、大人しくベッドで寝ていたほうがいいんじゃないか?
といっても、そういう設定なのだから、そう悩むこともないか?
いや、もしかしたら何かのイベントのヒントかもしれないな…)
何故顔色が悪いのかとマイマイが考えていると、いかにも長老といった感じのワーウルフが口を開いた。
「私は長老のウォルフルという者です。
このような辺鄙な所に、いったいどのような御用でしょうか?
何かお困りでしたら、お力になる用意が御座います」
丁寧かつ礼儀正しいウォルフルの言葉に、悩むのは後だと心を切り替えるマイマイ。
「この二人が冒険者の人質にされていたので、助けて連れてきた。
ここはこの二人の村でよいか?」
そう説明すると、リッチが前に出てライとシイの姿をウォルフルに見せる。
二人はまだ気絶したままだった。
「おお!確かに、ライとシイはここの子供です!ありがとうございます!」
何故か一瞬ギョッとした顔をウォルフルはするが、直ぐに笑顔を見せる。
「そうか、ならよかった。
ではこのまま村に進み、二人の家に連れて行こう。
スケサン!」
「御意!」
年寄りに二人を運ばせるのは酷だと考えたマイマイは、親切心で提案する。
「え、あっ、いや村から人を呼びますので」
ところがウォルフルは何故か狼狽する。
それを見てマイマイは、自分達が大人数であるため、大迷惑をかけているということに気がついた。
数千人以上で行動するということ自体は、エバー物語では別に珍しい行動ではなかった。
戦争イベントでは数万人以上の戦いになり、お祭りイベントでも数万人が集まる。
そして、各個人ギルドのイベントでも、数万人の人数が集まることがあるからである。
例えば、とあるギルドではスライム娘〈※スライム娘 スライムに少女の外装をつけたもの〉を数万人召喚して『どきっスライム娘だらけの水泳大会』という愛好家達のイベントを開催し、スライム娘とプレイヤー合わせて10万人近くを動員した記録が残っている。
といっても、人数が多いということは、それだけで迷惑になることがある。
つまり現実世界と同じように、町や村で大人数が行動する場合はそれなりの準備と根回しが必要なのである。
数千人を連れて村の近くにいること自体が、彼らにとって邪魔なのだと理解したマイマイはさっさとここを立ち去ることを決める。
(勝手に喋るスケサンといい、大人数が邪魔だと暗に表現するウォルフル長老といい、NPCのAIの性能が凄いことになっているな)
人間同様の動きをするNPC達に、マイマイが改めて感心していると、村からワーウルフ達がやってきて、ライとシイが引き渡された。
「ライ!シイ!しっかりして!!」
どうやらそのうちの一人は、二人の母親のようだった。
(気絶しているだけなのに、ちょっと大げさじゃないのか?)
と思うが、とりあえずこれで終了だと考えたマイマイは立ち去ろうとする。
ところが、ウォルフル長老が意を決したような表情でマイマイを呼び止めた。
「どうして、ライとシイを助けてくださったのでしょうか?」
「どうしてか…」
ウォルフル長老の言葉に一瞬詰まるマイマイ。
マイマイの経験上、こういった質問にどのように答えるかによって、その後の報酬内容が変化したりするからだ。
例えば現金なことを言えば、その場での報酬はしっかり貰えるが村人からの友好度が上がらず、その後に用意されている追加イベントが発生しないといったようなものである。
なのでマイマイは…
「可愛い子供が脅されていたんだ?助けるのは当たり前だろ?」
と模範的な解答をした。
「か、可愛いから助けたのですか?」
「そうだ!」
そう言い放つと、マイマイは踵を返し森の中へと去っていった。
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side ウォルフル
謎の少女とスケルトン軍団が去ると、ウォルフルはその場にどさりと座り込んでしまった。
(残り少ない寿命が無くなるかと思ったわい)
そんなウォルフルを心配したのか、村から村人達がワラワラとやってくる。
全員顔が青く、中には耳をペタンとさせ、尻尾も丸めてしまっている者達もいる。
「長老、大丈夫ですか?何かされたのですか!?」
「大丈夫、大丈夫だ。
何もされなかったわい」
長老の言葉に顔を見合わせる村人達。
それもそうだろう、誰もが自分達の村が滅ぼされると思ったのだ、何もされなかったなどウォルフル自身も信じられなかった。
今から数十分前、突然森から轟音がしたかと思うと、禍々しい気配が森から漂ってきた。
そしてそれから数分後、耳の良い村人から順に聞こえ始めた、ザッザッザッという歩調を合わせて歩く音と鎧が擦れる音。
善からぬ者が村に向かって来ていることは明白だった。
一部の若い者は「戦おう!」と威勢のいいことを言ったが、ウォルフルはそれを止めた。
耳の良い村人達の情報を集めると、数百は軽く越える大部隊が迫ってきていると分かったからだ。
しかも、森から感じられる禍々しい気配は尋常なものではなかった。
戦って勝てる相手ではない。
そう結論付けたウォルフルは、少数の者達だけを村に残し、他を森に隠した。
そして、自ら一人で迫り来る謎の軍団に向かっていた。
ウォルフルは、最悪の場合は自分の命を差し出す覚悟をした。
(説得できる可能性は低い、それが無理でもせめてワシの命で我慢してくれれば)
悲壮な覚悟で歩を進めるウォルフルに、謎の軍団が姿を現す。
その姿にウォルフルは息を呑んだ。
現れたのはスケルトンの軍団。
それもただの軍団ではなかった。
明らかに統制の取れた動き、そしてその武器や鎧は素人であるウォルフルの目から見ても超一級品のものばかり…
それはまるで、御伽噺に出てくる魔王の軍勢のようだった。
(これは魔王の軍勢と言っても過言じゃない凄さじゃ…
昔見た、ブルックス帝国の騎士団が可愛く見えるわい…)
スケルトン軍団をただただ呆然と見つめるウォルフル。
そうして数分が経っただろうか、突然スケルトン軍団が二つに割れ、目の前に通路が作られた。
最初に目に入ったのは、威風堂々という感じで歩く見たことも無い豪華な鎧を身に着けたスケルトン。
次に目に入ったのがピンクの髪の少女と、布に包まれた何かを持つ二体のスケルトンの姿だった。
ウォルフルはピンクの髪の少女に目が釘付けになった。
見た目の第一印象から言えば、豪華な鎧を着けたスケルトンが、目の前の軍団を率いているような印象を受ける。
しかし、そうではないとウォルフルは気がついたのだ。
例えば、狼の群れの中に一匹だけ猫がいたとしよう。
しかも、周りの狼がその猫に忠誠を誓っているような行動を取っていたとする。
はたしてその猫は本当に猫だろうか?
猫の見た目をしているだけの、狼より恐ろしい何かではないかと疑うべきではないだろうか?
ということである。
(…あれは…いったいどんなバケモノなんじゃ?)
ウォルフルは、恐怖で顔色がどんどん悪化していることを自覚しながら、ピンクの髪の少女のことを注意深く観察する。
これから行われるだろう交渉を考えれば、少しでも情報を集めておくべきだからだ。
だが、ウォルフルはピンクの髪の少女と目が合った瞬間、ゾクリと背筋が寒くなり、注意深く観察したことを後悔した。
ウォルフルは、若い頃に交易商として村を出て暮らしていた。
そしてそこで、海千山千の猛者達と渡り合ってきた。
ピンクの髪の少女がしていた眼差しは、そんな中で何度も見たことがあるものだった。
それは、人を物と同列にしている時の眼差し。
悪質な貴族や奴隷商が、人に対してまるで石像か何かでも見るかのようにしている時の眼差しと同じだった。
つまり、ピンクの髪の少女は、ウォルフル自身や周りのスケルトン軍団をモノと同列に見ているようだった。
(ワシだけならとにかく、小国程度なら落とせそうな程のスケルトン軍団をモノ扱いじゃと…どれほど凄いバケモノだというんじゃ…)
力の底が見えないピンクの髪の少女に対し、言い表せないほどの恐怖を感じ始めたウォルフルは『最悪の場合は自分の命を差し出す』という覚悟を捨てて逃げ出したい気持ちになる。
しかし、村の命運がかかっているという事実が、ウォルフルを辛うじてその場に留めさせた。
そしてついに、ピンクの髪の少女がウォルフルの目の前にまでやってきた。
ウォルフルは何故かピンクの髪の少女の容姿に見覚えがあるような気がしたが、今はそれを考えている場合ではなかった。
「私は長老のウォルフルという者です。
このような辺鄙な所に、いったいどのような御用でしょうか?
何かお困りでしたら、お力になる用意が御座います」
ウォルフルは、出来る限り丁寧な口調でピンクの髪の少女に問いかけた。
それは、とても抵抗して敵う相手ではない、つまり下手に出て相手の慈悲に縋るしかない状況だからである。
ところが、ピンクの髪の少女との会話は、結果としては訳が分からないままどんどん進んでいってしまった。
ピンクの髪の少女はライとシイを助け、村まで連れてきたのだと言う。
色々とありえない話だった。
ライとシイを助け、村まで連れて来る理由がピンクの髪の少女にはあるとは思えなかったからだ。
善意という可能性も考えたが、これほど強力で禍々しい気配のスケルトン軍団を率いるピンクの髪の少女が、善意でそのようなことをするようにも思えなかった。
常識的に考えて、悪意や村への何らかの要求があるとしか思えなかった。
因みに、ライとシイの姿を見せられた時、ウォルフルは心臓が止まりそうになった。
「助けたといっても既に二人は死んでいてね…この二人を、スケルトンとして彷徨わさせたくなかったら、こちらの要求を呑んでもらおうか…」といった感じの展開を想像したからだった。
結局、ライとシイは気絶しているだけだったため、胸を撫で下ろす結果になったが、ウォルフルはそのままピンクの髪の少女を帰す訳にはいかなかった。
後にとんでもない要求や代償を突きつけられても困るからである。
意を決して「どうしてライとシイを助けてくださったのでしょうか?」と理由を聞くウォルフル。
その答えは可愛いライとシイが脅されていたから助けたという、まったく予想外のものだった。
確かに、ライとシイは村のアイドルとも言える存在で村中から可愛がられているが、とても理由になるとは思えなかった。
つまり、本心を語るつもりは無いと言われたのだとウォルフルは理解した。
(あのピンクの髪の少女はどこから来て何が目的でライとシイを助け、どこへ向かったのか…
恐ろしいことが起きなければよいが…)
ブルリと身震いしながら、ウォルフルはピンクの髪の少女が消えた森を見つめ続けた。
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side マイマイ
ウォルフルが森を見つめ続けていたころ、当のマイマイは涙目になっていた。
「どうしてログアウトも強制終了もできないんだよ~GMともギルドメンバーとも連絡つかないし~どうすりゃいいんだよ~ウェエエエエン!!」
「姫!お気を確かに!!」
なんと、ログアウトも強制終了もできない上に、GMへの連絡もギルドメンバーへのメールもできなくなってしまったのである。
(訳が分からないよ、バグっているからかな…PCの強制終了も反応しないとか、どうなっているんだよ~!!ウェエエエエエエン!!)
まるでゾンビのように、フラフラと放浪するマイマイ。
そんなマイマイを見て、スケサン達が必死にどうにかしようとするが、何故マイマイが涙目になっているか分からずオロオロし、あの手この手を試して失敗ばかりするという有様だった。
しかし、そんなスケサン達の努力は、数十分後に実を結ぶことになる。
「報告します、ここより3キロ程先に、王都と王宮ではないかと思われる場所が!」
何かマイマイの気晴らしになるものが無いかと探しに出たリッチが、王都と王宮を見つけ出したのだった。
「何だと!!直ぐに行くぞ!スケサンついて来い!!」
「姫!?」
突然復活し、走り出すマイマイ。
王宮や王都という名がつくところはエバー物語にはたくさんあるが、マイマイにとっては王宮とはマイマイがギルド長を務めた『世界建設ギルド』の本部兼マイマイのホームであり、王都とはその城下町のことだった。
(もしかしたら、ギルドのメンバーが誰か居るかもしれない。
それに、あそこなら通常ルートとは別の方法でGMと連絡が取れる!)
そう期待を込めて、マイマイは森の中を突っ走っていく。
エバー物語屈指のギルド『世界建設ギルド』のギルド長でありながらも、重度の厨二病患者でネカマという色々と残念なマイマイ。
そんな彼女の、世界の命運を左右するかもしれない戦いはこうして始まったのだった。
これにて、序章が終わりといった感じです。