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閑話第二話 マイマイは呪われている

閑話ですが、本編の補足になっている上に、十二話の続きになっています。

通常より少し短めで、一番話数が多い話の半分ぐらいしかありません、すみません。

因みにロリーナは新キャラではなく、本編に登場済みです。

忘れてしまった方は、第五話を確認してください。

閑話第二話 マイマイは呪われている


「スケルトン1号と2号がーーーーー!?」


まるで、枯れ木がへし折られるような音と共に、二体のスケルトンが粉々になって吹き飛ぶ。


「もう駄目だ!おしまいだ!」


無残な姿を見たマイマイは、絶望的な表情で悲鳴のような声を上げた。

彼ら二体はマイマイの身を守る壁だったのであり、その壁が無くなった今、マイマイの目の前にスケルトンを粉々にした元凶が迫ってきていたからである。

暗い洞窟の闇を掻き分けながら迫ってくる影は、マイマイの体より大きな鉄製の棍棒を持った二足歩行の牛、ミノタウロスだった。


「私美味しくないから、食べるの止めた方がいいですよ!?」


「ウモーーーーー!!」


「そうですか、気にしませんか!困りましたね!!アハハハ!!」


ミノタウロスが棍棒を振り上げる。


「ひゃっ!?」


逃げようとするが、足がすくんで動くことができない。

そのためマイマイは死を覚悟し、手で頭をガードし、目を閉じた。



「パニクってる暇があったら、早く次を再召喚するんじゃ!馬鹿者が!!」


だが、次にマイマイに襲い掛かってきたのは棍棒の衝撃ではなく、マイマイが何度も何度も聞いている罵声だった。


ギャリギャリギャリギャリ


続いて、金属と金属をすり合わせるような音が洞窟内に響き渡る。

恐る恐るマイマイが目を開けると、そこにはマイマイと同じ年頃の金髪少女が、手甲をつけた手で棍棒を食い止めている姿があった。


「ロリーナ!!」


彼女の名はロリーナ、マイマイの友人であり、マイマイのパーティメンバーだった。


「怪我は無いか、馬鹿マイマイ」


「ありがとうロリーナ、愛してるよ!」


ロリーナの姿を認めた瞬間、マイマイからの足のすくみが無くなり、いつもの調子が戻ってくる。

そのため、自然に冗談が口から出る。


「冗談言っている暇があったら、早く次を召喚しろ馬鹿マイマイ!

 流石のわらわも一人ではこやつを倒すのは厳しい」


ロリーナはそんなマイマイを罵倒しながら命令する。

しかし、その頬には赤みが差していた。

どうやら、先程の罵倒は本当に怒っているのではなく、恥ずかしさを隠すためのものらしい。


「わかった、わかったよ!

『召喚 亡霊の魔法使い 通常型 LV3』」


ロリーナをより一層弄ろうかともマイマイは思ったが、素直に召喚獣を召喚する。

ここで調子に乗ったら、本当に怒られるからだ。

経験的に。


「亡霊の魔法使い、ロリーナを援護するんだ!」


「むひょひょひょ!

 『ニードルファイア 掃討型 LV2』」


「ロリーナ!プランBだよ!」


「分かってる!」


亡霊の魔法使いの周囲に、螺旋状に捩れた炎が何十本も出現する。

そして、一斉にそれらの炎が射出された。

射出された炎は、ミノタウロスと、ミノタウロスと格闘戦を行っているロリーナに殺到した。

しかし、二人に命中するかと思った瞬間、ロリーナは天井に激突するかと思うような跳躍を行い、炎を回避する。


「ブモオオオオオーーー!?」


ミノタウロスに炎が次々に着弾する。


「やったか!?」


マイマイが叫ぶが、どう見ても倒していなかった。

体中に火傷が広がっている様子から、かなりのダメージを与えたようだったが、相手はこのダンジョンのボス。

この程度で、やられる相手ではなかった。


「ブモオオオオ!!!」


まるで、怒りを表現するかのごとく、両手を上げ雄叫び上げるミノタウロス。

怒りで攻撃力がUPといった様子であり、一見ピンチだったがこれこそがマイマイ達が狙っていたことだった。


「変なフラグを立てようとするな!」


「ごめんロリーナ、ちょっと言ってみたかったんだ」


ミノタウロスの背後からマイマイを罵倒するロリーナの声が聞こえる。

先程跳躍したロリーナは、そのままミノタウロスを飛び越え、その背後へと回り込んでいたのだった。

突然背後に現れたロリーナに、ミノタウロスは驚いたような表情をしたが、全ては手遅れだった。


「衝撃のビッグハンド!!」


突然体中からオーラを噴出したロリーナが、拳をミノタウロスに突き出す。

すると、巨大な光の拳が現れ、無防備なミノタウロスの背中に直撃した。


「ブモモモモモモモモモモ!!」


直撃した光の拳は、ミノタウロスの背骨をへし折る。

そして、そのままミノタウロスの体を宙へと誘った。


宙を飛ぶミノタウロスの体。

しかしここは洞窟、ミノタウロスの体はそのまま飛び続けることはなく、洞窟の壁に激突した。


ドドーン


猛烈な爆音が洞窟の中に響く。

マイマイの耳は爆音で何も聞こえなくなるが、そういった仕様なのだろう、妙に軽快な音楽だけがはっきりと聞こえた。


「やったよ、大勝利だよロリーナ!!」


笑顔でマイマイがロリーナに駆け寄る。

先程の音は、マイマイがレベルアップしたことを表す音だった。


そう、ロリーナの一撃で壁と一体化したミノタウロスは、完全に事切れていた。


----------


「なかなかの強敵だったねー」


山の麓に造られた宿場町。

その端に立てられた宿屋に併設されたレストランのテラスで、マイマイとロリーナのささやかな祝勝パーティが行われていた。

夕日が差し込むテーブルの上には、水晶をカットして作られたワイングラスが二つと、ミノタウロス討伐で得られたアイテム「紫水晶の花」が置かれパーティに華を添えていた。

ところが、何時もの如く、その場は反省会になってしまっていた。


「この阿呆が!

 あんな雑魚ボス相手に苦戦するとは、先が思いやられるぞ」


「だって…

 召喚術士のお仕事と言えば、召喚獣に任せておけば全てオールOKのはずだったのに、まさか真っ直ぐこっちを狙ってくるだなんて、思わなかったんだもん!」


マイマイの言い分はそれなりに筋が通っていた。

これまでの敵なら、まずは召喚獣に対応し、それを倒した上でプレイヤーを狙ってくるはずだった。

そのため、当初の作戦『プランA』では、マイマイの召喚獣であるスケルトン1号と2号にミノタウロスが対応している間に、ロリーナが忍び寄り、必殺技で仕留める手筈になっていた。

ところがミノタウロスは、囮に出していたスケルトン1号と2号を無視し、真っ直ぐマイマイへと向かって来たのである。

マイマイは、慌ててスケルトン1号と2号を呼び戻し壁にしようとしたが、無理に割り込ませたため、一方的に攻撃され簡単に撃破されてしまう。

結局、召喚獣の魔法攻撃で強引に隙を作り、ロリーナが必殺技で仕留めるという『プランB』に切り替えなんとかなったが、戦闘開始前ではプランBを使うことになるとはロリーナすらも本気では思っていなかった。


「確かに、これまでの敵とは違うようじゃな。

 そういえば、先のアップデートで新たに設定された敵全てのAIが賢くなったという噂がある。

 これはその影響かもしれん」


「ええー、どうしよう…

 せっかく召喚術士として修行してきたのに…転職したほうがいいのかな?」


先日行われた大型アップデートで、新たなエリアやダンジョンが増えたとのことだが、どうやらそれだけではなく敵のAIの性能が上がったとの噂が出ていた。

自らを危険に晒さず戦うのが基本スタイルのマイマイとしては、致命傷になるかもしれないアップデートに困り果てる。


「…別に転職する必要は無かろう。

 今後もマイマイの戦闘スタイルで戦えるような家臣を揃えればいい」


「家臣?」


「今のように、状況に応じて召喚獣を召喚してもいいが、予め自分の戦闘スタイルに特化した家臣を用意し、それを召喚するのじゃ。

 例えば、今回のような敵に対抗するのなら、とにかく頑丈な家臣を作ってそれを壁にするのじゃ。

 耐久力が豆腐のマイマイには打って付けじゃろ?」


そんなマイマイに、ロリーナが家臣を作ればいいとアドバイスする。

ロリーナはいつもこうやってマイマイを導いてくれていた。


「なるほど、それでロリーナは具体的にはどんな家臣がいれば良いと思う?

 私は、今ロリーナが言ったような防御系の後衛タイプを用意して、私を守りながら援護射撃すればいいかなと思う」


「それじゃ駄目じゃ」


ロリーナのアドバイスと、先のミノタウロスとの戦闘を思い出しマイマイは提案する。

だが、ロリーナはその提案を否定した。


「なんで駄目なの!?

 前衛のロリーナを援護しながら戦うのが、一番バランスが良いと思うんだけど」


否定されると思っていなかったマイマイは、驚いてロリーナに聞く。

前衛のロリーナを援護するのなら、遠距離攻撃兼マイマイの護衛ができる家臣を持つのが、最もバランスが良いからだ。


「前衛一人、後衛一人、そしてお守が一人じゃ!」


そんなマイマイに、ロリーナは指を三本立てながら答える。

その顔には、少し悪戯っぽい笑みを浮かんでいた。


「お守!?えっと、何それ?」


お守という、聞いたことが無い役割に、マイマイはロリーナに質問する。


「マイマイは呪われているのかと思うほど、間抜けなところがあるからの!

 ちゃーんと面倒見てくれるお守の家臣が必要じゃ!

 メイドタイプとか、鎧のように着こなせる家臣とかどうじゃ?」


「わ、私は、呪われてにゃい!?


 あいたたたた!

 舌を噛んだ…」


いきなり大声を出したからか、マイマイは自分の舌を噛んでしまう。

ロリーナに指摘されたように、マイマイは呪われているかの如く、間抜けなところがあった。

ここぞという所で転んだり、今のように狙っているのかと思うようなところで大失敗してしまったりするのである。


「やっぱり呪われているようじゃの…、本当に面倒見てくれる家臣が必要じゃな」


「だから、必要ないって」


マイマイは、涙目になりながら呆れ顔のロリーナを睨んだ。


「やせ我慢するな」


だが、ロリーナもマイマイと付き合いが長いため、そんなことでは怯まなかった。


「ロリーナが面倒見てくれるから必要ないもん!」


そのためマイマイは不貞腐れてしまう。


「……まったく、いつまで経ってもお子様じゃの…。

 いつもわらわが一緒に居られると限らないのじゃ。


 わらわが戦闘不能になったら?


 迷宮ではぐれたら?


 どうする気じゃ?


 そんな時に一人で対応できるよう、前衛と後衛、そしてわらわの代わりにお守をしてくれる家臣が必要じゃろ?」


ロリーナはマイマイに優しく言い聞かせる。


「ごめん、大人気なかった。

 ロリーナの言う方向で家臣を作ることを考えるよ。

 でも、家臣作るのって大変なんだよね…」


ロリーナの優しさを感じたマイマイは、自分の行動を恥じて素直に謝る。

そしてロリーナの言う方向で家臣を作ることにした。

だが、家臣を作るのは容易ではなかった。

専用の家臣を作るには技術もコストも掛かるからであり、まだ駆け出しのマイマイにとっては、どちらの条件も満たしていなかったからだ。


「急がば回れと言うのじゃ、ゆっくりと家臣を作ればいいのじゃ。

 きっといつかいい方法が見つかるのじゃ。

 さあ、マイマイの好きなホワイトアスパラを使った前菜が出てきたようじゃぞ」


マイマイの腕と同じぐらいの太さのある、大きなホワイトアスパラが乗せられた皿が運ばれてきた。

マイマイは(ロリーナの言うとおり、ゆっくり家臣を作ろう)と決めると、ホワイトアスパラにかぶり付いたのだった。

あれこれ悩むより食い気が優先されるという、マイマイの性格をよく表した行動に、ロリーナは呆れつつも微笑ましいものを見るような表情をしていた。


----------


「ねえロリーナ!

 そこらへんで適当な男捕まえて、子供を作ってくるね!!」


「死ね!!」


「ブゲラ!」


マイマイの頬にロリーナのパンチが直撃する。

そのパンチは手加減されていたが、ロリーナの顔は般若のように怒りに満ち溢れていた。


「お前は何を考えておるんじゃ!!

 わらわはそんなビッチに育てた覚えは無いぞ!!!」


地面に倒れたマイマイの胸倉を掴み、ギリギリと締め上げるロリーナ。


「あ、いや、これこれ!」


息も絶え絶えにマイマイが、空中にウィンドウを開き、ロリーナに見せる。


「(仮称)子供授かりシステム?」


そこには、(仮称)子供授かりシステムという文字と、説明と思われる文章が載っていた。


「GMから、自分達の能力と特徴を受け継いだ子供が貰えるシステムだよ!

 これなら、家臣の代わりになると思わない?」


このシステムは簡単に言うと、男女の二人で必要事項を登録することにより、GMから能力と特徴を受け継いだ子供(NPC)を貰えるというものだった。

つまりマイマイは、子供を家臣代わりに使おうと考えるいるのだった。

因みに、このシステムは機械的に機能するため、エロイ事など一つも無いと注意書きもされていたことを、マイマイの名誉のために書いておく。


「物凄い金額が要求されているじゃないか、こんなの駄目じゃ駄目じゃ」


悪くないアイデアだと思ったのか、ロリーナは内容を読み込んでいたが、必要なお布施額を見て駄目だと言い始めた。

確かに、お布施額は二人の所持金全てを投じても足りないぐらいの額だったからである。


「大丈夫!

 ほら見て!ベータテスターに当たったんだ!」


そんなロリーナの発言はマイマイにとって予想済みだった。

マイマイは直ぐに『ベータテスターに合格しました』という文字を指差し、ロリーナに見せた。

マイマイは(仮称)子供授かりシステムのベータテスター(バグ出し要員)として選ばれていた。

よって、お布施無しに子供が一人貰えることになっていた。


「なるほど、いや、やっぱり駄目じゃ。

 マイマイみたいな子供が、親になれるとは思えん!!」


だが、ロリーナはマイマイを見て、難しそうな顔をしながら反対する。

それを見たマイマイは、確かに私は自分自信が子供みたいな性格の上に、見た目もとても親には見えないと思った。


「それなら、ロリーナが適当な男を捕まえて子供作ってよ!」


「何を馬鹿なことを言うんじゃ!

 わらわは、例えゲームでもどこぞの馬の骨とも分からない相手と子供を作る気など無い!!」


そのため、自分が無理ならロリーナはどうだと聞いたマイマイだったが、ロリーナは意外と貞操概念が強いらしい。


「ロリーナは見ず知らずの相手は嫌か…それじゃ…」


それなら、知っている相手ならどう思うのかと、マイマイに好奇心と悪戯心が生まれた。


「何やってるんじゃ!!」


マイマイがやっていることに気が付いたロリーナは驚き、マイマイを叱る。

ウィンドウには『夫 エントール・マイマイ三世』『妻 ロリーナ・エルメシオン』と記入されていたからだ。


「ごめんごめん、ちょっとね、私とロリーナで登録しようとしたら、ロリーナがどんな顔をするかなーって思って」


「無駄なことじゃ、そんなことしても何も起きまい!

 男女を登録しろと説明書に書いてあるじゃろ!」


本気では怒っていないようだが、どうやら機嫌を損ねたらしく、ロリーナは投げやりなことを言って明後日の方向を向いてしまった。

そのため、一人放置されたマイマイはウィンドウを閉じようと思うが、ロリーナが最後に言った言葉に引っかかった。


(…本当に何も起きないのかな?)






「どうしたんじゃ、まだ何かするのか?」


不穏な様子を感じ取ったのか、ロリーナがマイマイの方に向き直す。

すると、ロリーナの視界に『OK』と書かれたボタンを恐る恐る押そうとしているマイマイの姿が入ってきた。


「何をしているんじゃ!?」


「ベータテスターとしては、やらなくてはいけないような気がして」


「何だか凄く嫌な予感がするのじゃ、マイマイ!直ぐにやめるのじゃ!」


「…でもこういうのがベータテスターの仕事だし」


「別に無理にテストする義務はないじゃろうが!」


マイマイを止めようと、マイマイにロリーナが飛びつく。


「あ、ちょっと!」


「早くウィンドウ離れるんじゃ」


「別にまだ押すと決めた訳じゃ」


「あ!」


マイマイの足が、ロリーナの足に引っかかった。

そして、マイマイとロリーナの視界がゆっくりと回転し、二人の視界全体に『OK』と書かれたボタンが迫って来る。


「ああ!?」


「ぽちっとな!?」


「あっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」


----------


「まったく、女の子同士で子供を授かるとはビックリビックリ」


無理に作った笑顔で言うマイマイの視線の先には、大事そうに赤ん坊を抱えたロリーナの姿があった。


「…それで、これからどうるす気じゃ、マ イ マ イ お 父 さ ん?」


ギロリとマイマイを睨むロリーナにどう答えればいいかマイマイは悩む。

先程まで、マイマイとロリーナの二人で子供を育てることを決意していたマイマイだったが、その決意を否定するとあるメールが一方的に送られて来たからだ。

そして悩んだ結果、届いたメールを素直にロリーナに見せることにした。


「な!?私達で育てるのじゃないのか!?」


そのメールを読んだ瞬間、ロリーナは悲しそうな顔をする。

メールには、今回の現象はバグであること、子供はバグキャラ扱いになるため、所有は認められないということ。

そして、バグ解析のため、GMが子供を回収することが書かれていた。


「うん…一応私達の子だし、そう言ったんだけど、所謂バグキャラだから絶対に認められないって…。

 どうしても拒否するのならアカウント停止って言われた…」


「そうか、仕方が無いの…

 不甲斐ない親を許しておくれ、えーっと…赤ちゃん?」


「ねえ、GMに渡す前に名前ぐらい付けてあげようよ」


ゲームとはいえ、手違いで作り、そのまま手放してしまう子供に、親としてせめて名前だけでも与えてあげたい。

ただの贖罪といえばそれまでだったが、マイマイとしては、これだけはしてあげたいと思った。


「マイマイらしからぬ、まともな意見じゃな」


「何気に酷くない?」


「さて、名前はどうするか」


茶化した様子だったが、ロリーナもマイマイの意見に賛成する。


「スルーですか、とりあえず私とロリーナの名前から文字を取るというのはどう?」


「典型的だが、悪くないアイデアじゃ、マイマイとロリーナか…」


因みに、ロリーナはロリーナが名前で、エルメシオンが苗字だが、マイマイはマイマイ三世が名前でエントールが苗字である。

つまり、マイマイは日本語風で、ロリーナは英語風の表記になっていた。


「合わせてマロっていうのはどう?」


「zipを寄こせとか言い出しそうだから駄目じゃ!それにこの子は女の子じゃぞ!」


生まれた子供は、マイマイとロリーナ二人の特徴を受け継いだ可愛い女の子だった。

その姿は赤ん坊でありながら妙に気品に溢れていたが、決して公家ではない。


「マリーナとかは?」


「語呂は悪くないが、なんとなく水中戦用みたいだから駄目じゃ」


「じゃあ、マーリナ」


「…ほとんど変わっておらんじゃないか」


「でも、結構いいと思うけど…」


マイマイは、両手の人差し指をツンツンと付き合わせながら言う。

実はマイマイのネーミングセンスはかなり悪かった。

そのため、適当に思えるこれらの名も、マイマイにしてみれば良いと思って言っている事をロリーナは思い出した。


「…わかったそれでいこう」


「本当!?どうしたの珍しい!

 自分で言うのもなんだけど、私のセンスは良くないから、いつも却下なのに」


目を見開き、もの凄く驚いた様子でマイマイが言う。


「なんとなくじゃが、マイマイは直ぐに大切なことを忘れるから、自分の気にいった名前を付けさせるようなことをしないと、名前どころか子供の存在すら忘れそうな気がしたのじゃ」


「そんな、私はそこまで馬鹿じゃないよ~」


「なら、良いんじゃがの~」


「ははははははっ!」


「やっぱり怪しいの」


「そんなこと無いって」


………


……




「マイマ…………」


「マイマイお嬢様」


「マイマイお嬢様!!」


ロリーナの声が消え、いつの間にか良く知る別の女性の声に切り替わっていた。

目を開けると、そこにはロリーナと子供の姿は無く、マイマイを覗き込むように見る、見慣れたメイドの姿だけがあった。


「カグヤ?」


「そうです、カグヤです。

 おはようございます」


「そうだね、間違いなくカグヤだね。

 おはよう」


「…どうかされましたか?」


「いや、夢を見ていたよ、懐かしい夢を」


マイマイはベッドの上で体を起こす。

辺りを見回すと、天幕付きのベッドと、その先に続く青い絨毯、金で装飾された壁が見えてきた。

そうだった、オガサワラシティに到着してこのホテルに泊まったのだったと、マイマイは思い出した。


「懐かしい夢ですか?」


「ロリーナと子供…子供!?」


「ロリーナ様と子供ですか?」


(やべえ、本当に忘れていた…)


決してずっと忘れていたわけではない、子供がその後消去されずに天界で育てられているとの情報を手に入れたマイマイとロリーナは、自分達の正体を明かさずこっそりと誕生日プレゼントを子供に送ったりしていた。

だが、今回のログイン後はそれどころではないことが連続し、完全に忘れてしまっていたのだった。

因みに子供の存在は、他の百使徒にバレるといらぬ誤解を与えるため、マイマイとロリーナだけの秘密だった。

そしてそれは、家臣に対してもである。


「あ、いや何でもないんだ」


「そうですか?」


(千年経ったから、もう墓の下だろうな。

 大きくなったらどんな子になるのか、見てみたかったのにな…)


「どうされましたか!?

 御気分が優れないようですが!?」


「本当に何でもないよ!

 元気元気だよ!

 さあ、準備をして情報収集を始めるか!

 それと、時間が余ったら、昨日の銀子さんとマリーナちゃんにでも会いに行こうか」


何故だが、急に昨日の二人組みに会いたくなったマイマイはそう告げると、ベッドから勢い良く飛び降りた。


「カグヤー、確かここにはドライヤーが無かったよね?

 頼める?」


「お任せ下さい、私の魔法の前ではドライヤー等無用の産物です」


「おかしいよな、何でドライヤーが無いんだろうね?

 仕様変更かな?」


「さあ、時の流れの影響でしょうか」


千年の時によって変わったもの変わらなかったもの、それはマイマイの知る限りでも沢山ある。

今後マイマイは、それらに望む望まずとも出会うことになる。

だが、例え強く望んだとしても出会えないものもある。

今日マイマイが強く再開を望んだ相手が出会える相手なのか、それとも出会えない相手なのか、それを知るにはまだ少しだけ時間が必要だった。

次回は本編の予定です。

なお今回の内容は昔と今とを繋ぐお話でしてが、どこをどう繋いでいるかは本編が進んでいけばいずれわかると思います。

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