出逢いはいつも突然!
気がつくといつもここに来ていた。
俺の名前はライネス・ハート。ここセントラル高等学校3年A組の生徒だ。周りは受験シーズン真っ盛りだが俺にはそんなもん関係ない。理由は単純、ただ単にやる気がないからだ。なんのとりえもなく世間一般から見たらただの廃人というものらしい。よく先生は「君たちには無限の可能性がある」などとたわごとを言ってるが俺には全く縁のない言葉だ。
そして今うちの学校で話題になっているのが魔法とかいうもんであった。なんでも昔は魔法関連が盛んだったらしく、魔法大戦争なるものが起きていたらしい。まぁこの手の作り話はどこの世界にもあるようだ。
クラスの一人がこう言った「今の社会では魔法は衰退してしまったが、実は魔法は誰でも使えるらしい。誰でも魔力を持っていて、きっかけさえあれば使えるようになるんだってさ!」とんだ馬鹿がいたもんだ。魔法などこの世には存在しない。
初めに断っておくが俺はオカルトや超常現象などいうものは全くといって興味がない。この科学技術が進歩した世界でそんなおとぎ話のようなものは存在しない。断言する。周りからはつまらない奴と思われていて友達が少ないのが現状だ。
俺がこういった夢のような話を信じなくなったのはこの事件が原因だ。今から12年前に「ヨンタクロース事件」という事件が流行っていた。この世界には聖なる日の夜にヨンタクロースというじいさんが子供たちに欲しいものをプレゼントするという今考えてみたら胡散臭い世間の風習があった。
俺が6歳のときそれは起こった。当時の俺はまだ希望に満ち溢れていて、ヨンタクロースが来るの心待ちにしていた。聖なる日が明けた次の日・・・俺の枕元には手紙とプレゼントが置いてあった。俺は嬉しくてプレゼントをすぐさま開けた。中には俺の大好きだったキャラクターのおもちゃが入っていた。んで、ルンルン気分のまま手紙を開けて読んで見た。
読んだ瞬間ルンルン気分は崩壊した。手紙にはこう書かれている。
「プレゼントを開ける前に必ずこちらをお読みいただき、それに了承してからプレゼントを開封してください。プレゼントを開けるとその時点でお客様がプレゼントを購入したという契約が発生します。お買い上げ金額は99999999円です。それが嫌ならば決して開封なさらないようお願いします。万が一開封されたのにお支払いされないようでしたらこちらはお客様を抹殺します。それではメリー苦しみます。」
はめられた。子供の純粋な気持ちを利用した卑劣な手だ。子供はプレゼントをすぐに開けるという心理を上手く利用したもんだ。すぐさま両親にこの事を報告した。キレられた。
この手の詐欺は基本無視するのが正解だが馬鹿なことに払ってしまった。その後も不当な請求がたくさん来て、家庭は崩壊し、父さんと母さんは離婚してしまった。そして原因を作った張本人として俺は捨てられ施設に引き取られ寂しい思いをしながら施設生活を送り現在に至る。
そんなこともあって夢を信じていたら後悔すると思い込むようになった。だから魔法なんてもんは信じない。
受験や将来、この辛い現実から逃げだしたいとき俺はいつも学校の屋上に行く。今日もいつものように屋上に向かう。
屋上へと続く扉を開くと綺麗な夕日が見えた。ここに来ると嫌なことなんて全部忘れられる・・・ハズだった。今日はちょっとばかし違っていたのである。
屋上にでて想いにふけっていると何かがこちらに向かって飛んでくる。
「なんだあれ?」
飛んでくる物体の正体は隕石である。隕石が向かってくるなんて話なんか、
「あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
俺は間一髪のとこで隕石をかわした。普通隕石なんて落ちてきたら落ちた周辺は壊滅するが、この隕石はそんなことはなかった。
「何なの!?こんな展開漫画じゃねーんだからありえないっしょ!!」俺は絶句した。そんな俺を無視して隕石に変化が起きた。
隕石からなにやら変な生物が10匹くらい出てきた。それは人と同じくらいの大きさのカマキリのような生物だった。そんな馬鹿な!とりあえずコミュニケーションをとろう。
「えーとあなたは一体何?言葉わかる?」そんな俺の言葉を無視してカマキリの様な生物は俺目がけて鎌を振りかざしてきた。
「んな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁ」またもや絶句した。そう俺はチキンなんだ。
俺はその攻撃をかわして行ったがついに屋上の端まで追い詰められてしまった。
「俺が何したってんだよー!これは夢か!?イテテ!ほっぺつねっても覚めねえからリアル!?誰か助けてくれーーー!!!」もう諦めて目をつぶった。まだ俺彼女だってできたことないのに死ぬのなんて嫌だーーー
・・・・・・・あれ?まだ生きてる。恐る恐る目を開けた。開けた瞬間驚いた。女の子が剣を握りカマキリのような生物を次々と斬っていたからだ。俺は見とれてしまった。彼女の剣技にではない。彼女に見とれていた。彼女の風貌は背中まであろう茶色い髪を束ねていて白のタンクトップにデニムの短パンというとてもその場に合わない服装だったが何よりとても綺麗だったのだ。異様な風景の中、俺は彼女のことだけをずっと見ていた。
見とれている間に彼女はカマキリのような生物を倒していた。助かった。
「あ、ありがとう!助かったよ!なんてお礼をしたらいいか・・・」俺は彼女に駆け寄った。だが、
「それ以上近づくな。」冷たい声でしかも敵意むき出しで彼女は剣を俺に向け言い放った。
「な、なぬ!?お前、俺を助けてくれたんじゃないのか?」後ずさりする。
「助けてなどない。私は敵を殲滅しに来ただけだ。その場にたまたまゴミが紛れこんでただけだ。」綺麗な顔しといて性格は最悪だった。俺が思うに容姿がいい女って大半が性格悪い気がする。
「初対面の相手に向かって失礼だぞ!」
「まぁいいか・・・私を見られた以上アンタにはいずれにしろ死んでもらわなきゃいけなかったことだし。」
そう言って剣を俺目がけて振りかざしてきた。今度こそ死んだ!!絶対死んだ!!はいさようならー!!と思ったのもつかの間俺はまたもや生きていた。理由は単純、本来彼女が俺を斬っていたであろう剣は何故か俺の手に握られていたからである。驚いたのは彼女の方だ。自分がたった今まで持っていた剣をどこぞの誰かが握っていたのであるから。
「アンタなに人の剣をうばってんのよ!!」そう言い彼女は俺から剣を奪いまた斬りかかってきたが俺はまだ生きてる。そしてまたもや彼女の剣を握っていた。そして彼女はまた奪い返して斬りかかる。何度も何度も。
「アンタもしかして・・・名前は?」
「ライネス・ハート・・・君の名前は?」
「アンタどこかの協会に所属してる?」人の質問は無視かよ。
「協会?なんだそれ?」
「とぼけんじゃないわよ!魔術協会のことよ。」
「魔術協会!?しらねーよそんなもん。お前もまさか二次元やろうか?魔法なんて夢見やがって!」
「アンタ本当に何も知らないの?」
「だからしらねぇって言ってんだろ!」
「まさかただの本当にただの一般人!?そんなことが・・・アンタちょっとそこで待ってなさい!」そう言い彼女はどこかに電話し始めた。何なんだあの女?魔術?協会?そんなお話なんて理解できない!大体この剣は何なんだ?剣は夕日を浴びて光っていた。電話が終わったのか彼女はこっちにやってきた。
「こちらの調べでわかったけどアンタは本当にただの一般人のようね。今からおおよそのことを説明するからよく聞くのよ!まず魔術協会について。アンタ魔術って聞いたことある?」
「あるよ。不思議な現象を起こすやつだろ。そんな作り話信じられないけどね。」本当にどいつもこいつも
夢物語言いやがって・・・
「そう。アンタの言う通り魔術ってのは異様な力を扱う術のもの。簡単に言うと火を出したり、物を凍らせたりなんかね。次は魔術協会について。魔術協会ってのは簡単に言うと魔術を扱う人たちで構成された組織のことなの。魔術協会には3種類の宗派があるの。1つが私の所属しているセントラル宗派。2つ目がイースト宗派で3つ目がウェスト宗派。この3つの宗派の違いはそれぞれの信仰している神の対象が違うこと。まぁまた追々覚えてもらうけどね。」
「う~んよくわかんね。ってか覚えたくない。」
「次はさっきの魔物について。あの魔物は過去の遺物と言われているの。私たち魔術協会は一般人の平和を守るために陰で魔物を倒しているの。魔法の存在は決して一般人に知られてはいけないルールがあるの。」
「だから俺は殺されかけたんだな・・・」この女むかつく。
「そして最後はその君が持っている剣について。その剣は伝説によると選ばれし者しか扱うことができないものなの。今までは私が選ばれし者として使ってきたんだけど・・・何故か馬鹿が選ばれちゃったみたい。」
初対面の相手にここまで失礼な奴は見たことがない。
「以上説明したことわかった?」
「あんな簡単な説明でわかると思うか?」
「馬鹿に説明するのは疲れるわね。」
「誰だってわかるか!認めたくないが魔法ってものがあるのはわかった。けど魔物が過去の遺物ってなんなんだ?」
「仕方ないわね、詳しく説明するわ。今から900年前この世界を震撼させる戦いがあったの。この戦いは歴史から消されたみたいだけど、わずかに残った記録からそのことがわかった。その戦いのは「エデン戦争」っていうの。」
「シークス・・・」俺の口から何故かその単語が出てきた。理由はわからない。
「シークスって何?」
「なんでもない!気にしないで続けて!」
「続けるわよ。900年前にはまだ神という存在がいたらしいの。その神が人間を殺すために造った魔物のことを過去の遺物っていうの。戦いは終わったのにまだその頃の生き残りが最近になって活動し始めているの。まるで何かに反応するかのように・・・」
「それってまずくないの?あんなのがウヨウヨしてたら安心して暮らせないじゃん!で、次の質問!宗派が3つあるって言ってたけどその詳しい違いは?」
「さっきも言ったけど信仰してる神が違うの。私たちセントラル宗派はエデンって神を信仰しているの。イースト宗派はオメガ、ウェスト宗派はアルテマをそれぞれ信仰してるわ。後は宗派によって得意な魔法があるってことくらいかな。」
「じゃあ最後の質問!この剣は結局なに?」
「選ばれし者しか扱うことのできない幻の剣よ。それを使える人は世界を救うことができるって言われている。それ以上は私にはわからないわ。」
「おおよそ把握できたかな。つまり俺は選ばれし者に選ばれてこの剣で魔物を倒すってことだなって納得できるかーーーーーー!!」
「できなくてもするんだよ!ったくなんでアンタみたいのが選ばれたの?そもそも選ばれし対象が変わるってどういうことよ?」
「俺がしるか。まぁお前は不適任ってことだよな!」言ってやったぜ。ざまあみろ。俺って腹黒い。
「アンタ背後気をつけな。」全身に悪寒が走ったのは言うまでもない。
「まぁとにかくアンタは私の代わりに選ばれちゃったんだから今日からアンタは私たちセントラル宗派の傘下についてもらうからね!」
「いやだね。どうせ俺があんな化け物を倒さなきゃいけないってオチだろ?嫌なこった。」付き合いきれないわな。魔法だの選ばれただの信じたくないリアルはまっぴらごめん被《こうむ》る。
「アンタはもうただの一般人ではない。それにあのような化け物が人を傷つける現状を黙って見ていられるの!?」確かにその通りだ。この女は口は悪いけど一応俺を助けてくれた。けど俺にはそんな度胸なんてないし、なによりチキンだ。
「ちなみにこれからどうすんの?」一応聞いてみる。
「これからアンタは私たちと共に戦ってもらう。で上の命令だと私がアンタの教育係になれだとさ。」
「あっそうなの・・・んじゃあとは頑張ってくださいな。」俺はそう言い残し逃げた。辛いリアルから現実逃避した。だって他人のために命を懸けるなんてことは俺にはできない。俺は臆病で卑怯だ。俺のことを救ってくれた一人の女の望みすら叶えてやれない哀れな奴だよ俺は。
なんとか無事に家についた。女はついてきていない。これでよかったんだよな。俺に人なんか救えないし、これでよかったんだ。けど、それからずっとあの女のことを考えてた。
布団に入って寝るときも脳裏に浮かぶのはずっと、あの女の姿だけだった。