アベルの冒険 2 リビングウェポン 魔剣フルンティングの脅威
蟲毒迷宮に出没するという、リビングウェポンのうわさ。探索に来た俺たちパーティーの3人は、突然分断されてしまった。
閉じ込められたカイルたちは何とか脱出を図る。そして俺、アベルの前に現れたリビングウェポンは、いきなり襲い掛かってきた……!
はたして、俺たちは目指す魔剣を手に入れられるのだろうか?
登場人物
主人公:アベル 迷宮学園1-D組に所属する、冒険者。剣士 LV1。剣をこよなく愛する。
ハナエ 迷宮学園1-D組に所属する、冒険者。パーティ紅一点の魔女で、重力術師 LV1。
カイル 迷宮学園1-D組に所属する、冒険者。テイマー LV1だが、まだテイムしていないが、人狼でライカンスロープ形態に変身できる。
この物語はファンタジー異世界のダンジョンを舞台にした冒険小説です。ダンジョンに挑む冒険者たちは夜の闇よりも暗い地下迷宮の底で何を得るのでしょうか?
2 リビングウェポン 魔剣フルンティングの脅威
【蟲毒迷宮:テイマー LV1 カイル】
「ちくしょうっ! こんなお荷物をつい庇っちまった!」
「ちょっとぉ! お荷物とはなによカイル!」
壁から飛び出してきたボーリングバグの砲弾のような突撃から、パーティーを組んでいたひとり重力術師のハナを庇ったせいで、ドアが閉まってもうひとりのパーティーメンバー、アベルがドアの向こうの部屋に取り残されちまった。
ズドンッ!
「うわぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁっ!」
ガキィィィンッ!
追撃するように床に倒れていた俺たちに向かってさらなるボーリングバグが打ち出されてきた。そいつを俺が手甲をつけた拳で弾き飛ばす。まったく、たまったもんじゃないぜ!
アベルは大丈夫だろうか? ボーリングバグの速度に余裕で対応できるのは俺だけだ。お荷物がいるとはいえこっちは大丈夫だが、再びこのドアが開くまで、アベルはひとりで耐えられるか? そこまでヤワな奴じゃあないが、早いところ合流したほうがいいだろう。
「カイル、そのドアを蹴破ってみてよ!」
「今やっている!」
だがドアは武器のついた拳で殴ろうが蹴ろうがびくともしない。ダンジョン特有の破壊不能属性というやつかもしれねぇ。よくわからないが、少なくとも今の俺たちじゃあ、こいつを蹴破るのは不可能のようだぜ。どうする? 策を考えようとするがどうにも考えはまとまらねぇ、ただ待つ以外に方法はないように思えてくる。俺はどんな場合でもあきらめるっていうガラじゃねぇんだが。
こいつはどう思っているんだろう? ハナエの意見を聞こうとするが、彼女は俺から少し距離をとって、あたりを警戒しながら考えているようだ。アベルがいる間は俺にもくっついていたが、ふたりきりになった途端、露骨に警戒されているらしい。まあ、魔女はそのくらいでちょうどいいのかもしれないが。
言葉遣いも遠慮がなくなっちまったし、もう被っていた猫を維持する気もないらしいぜ、まったく。
「カイル、ハナエに考えがあるの、しばらく私を守って悪い虫を払ってくれないかしら。多分これからたくさん出てくるだろうからね。ただ待つよりも、あんたの負担は大きくなるかもしれないけれど……」
「いいぜ。俺もただ待つってのは性に合わねぇ、少しでも可能性があるなら何だろうが乗ってやろうじゃねぇか。それでその考えっていうのは?」
「虫たちは壁や天井からは襲ってくるけれど、床からは襲ってこないのよ。地面と天井は同じ素材石だし、床のほうが潜んでいそうなものなのに。私、考えてみたのだけれど……おそらく虫たちはさっき上ってきた断崖から噴き出していた地下水の水気を嫌っているのよ。だから下には虫がいないという結論。私の重力呪文で水を壁まで押し上げて、虫をあのドアのほうに追い込んでみたいの、仕掛けを無理やり動かさせるためにね」
「なるほどな、こっちはいつでも大丈夫だ、虫どものケツをひっぱたいてやってくれ!」
「了解! あんたは私が呪文に集中できるようにしっかり守ってね、泣き言は聞かないから!」
俺はハナエの周りをぐるぐる回りながらステップを踏む。1拍が2拍……どんどんリズムとスピードを速めていく。そして全神経を今まで以上に集中してハナエを中心に結界を作るように防衛ラインを張っていく。これは職業技能ではなく、人狼の本来の本能に起因する能力だ。縄張りを死守する絶対防衛ラインを超えるものを感知する第六感を超える感覚。その防衛ラインで守られているハナエも呪文を詠唱しだした。
「沓下の水よ、引力のくびきから離れてわが手に従え!一滴の水より海へと至る流れとなる大河の流れよ、海嘯となりて源流を望め……」
あれは、初級の1次元呪文の詠唱だな。戦闘中に呪文を唱えている暇はないので、詠唱破棄まで行えて初めてその階位の呪文が使えるといえるのだが、重力で水を操る場合、長い呪文を詠唱し続ける集中力さえあれば並行して同時に呪文を展開し続ける事によって、初歩の1D呪文の点だけの作用で、2D呪文の面で作用する効果を再現することが可能ってわけか。ハナエのやつ考えたな、だが1Dとはいえ連続詠唱でMPが持つのか?
「繰り返す振り子の鼓動、惑星の鼓動、世界の命脈が奏でる永久に刻まれるその力、ハナエの名において今束ね、そして解き放つ……」
ガタッ。ガタガタッ。
壁から虫たちが蠢く異音が聞こえ出した!
「ふっ。どうやら水が上って虫たちが追い立てられだしたようだな、ハナエなかなかやるじゃねぇか。あとはうまく仕掛けが作動するまで!」
ドゴンドゴンドゴンッ!!!
「ドリャリャリャァッ!!! このまま虫どもを打ち落とし続ければいいってこったな!」
【蟲毒迷宮:剣士 LV1 アベル】
気がつけばそこにいた、探していたリビングウェポン。
見た目はエストック、銀色に輝く細くまっすぐな刀身。リビングウェポンと呼ばれるモンスターの中には武器の形をしただけのモンスターもいるが、あれは間違いなく意思を持った武器、魂が宿った剣だと剣に魅入られた俺の魂がそう告げている。
俺はそいつに向かって自分のエストックをまっすぐに掲げる、これは普通の鉄製の剣だが自分で手入れをしてきた愛用の剣だ。それを待っていたかのように、空飛ぶ剣が俺の切っ先目がけて飛んできた。
カキンカキンカキンッ!
1回、2回、3回。空中を舞う剣が鋭い突きを放ち、まるで巻き戻るように引いてからのまた突き。まるで月の満ち欠けのように正確で、弓張月のようにしなって見える高速のコンビネーションの動きを、俺も同じく正確な突きで返した。すべてお互いの切っ先同士がぶつかって火花を散らす。
「突きが綺麗ですね……」
思わず求婚しそうな胸の高鳴りを感じてしまう剣。いやこれは力のデモンたる魔族、バァルの息吹を宿した魔剣で間違いないだろう。
シャキシャキシャキシャキィンッ!
ふふっ余計なことを言ったからか、ますます突きが激しくなってきたねっ。
「このまま心行くまで突きあおうかッ!」
ジャキジャキィィィンッ!
ああ、いつまでもこの美しい魔剣と剣技の競い合いを続けていたい! その思いは一撃一撃ごとに高まっていったが、変化は突然に訪れた!
カキィィィィィンッ!
鋭く高い音を立てて俺の剣が高く弾き飛ばされた! そしてかの魔剣は、弾き飛ばされた俺の剣に空中で巻き付くようにくるくると回ると、あの使い込まれた剣は光の粒子となって消え、魔剣が俺の剣とそっくりな姿になったのだった!!
「食ったのか、俺の剣を……」
魔剣の喜びの波動が、びりびりと空気を通して伝わってくる。そんなに美味かったのか、俺が手入れをした剣は。そして魔剣の動きは先ほどまでの突きよりさらに鋭さを増し、その切っ先はより多彩な動きで俺に迫ってくる。
剣を喰らって進化する魔剣なのか、面白い!
無手となった俺を、俺の剣の姿になった魔剣が容赦なく襲い掛かってくる。鋭い突きはそのままに、さらに動きが洗練されている。いや、違う。この剣さばきはどこかで見たようなデジャブを感じる。何とかスウェーしながら剣の突きを紙一重でかわす。今までよりさらに動きが鋭くなったのに、不思議と剣の軌跡が読める、そうか!
「『真剣白刃掴み』!」
魔剣の軌道の癖を見切った俺は、左手を開いて掌で剣を受け止めた!
掌に刺さり一瞬だけ動きが止まった隙に、俺は右手で剣の柄を握ってつかまえた。魔剣はカタカタと震え抵抗したが、無理やり自分の手の甲から刺さった魔剣を引き抜いて、そのまま鞘へと納刀することに成功した!
「お前の剣の癖は、俺の剣を食ったことによって俺の動きをラーニングしたんだな。それに剣を食ってレベルが上がったと見えて強くなった。俺の元の剣と見た目は同じだが、攻撃力は元の魔剣より少し強いといったところだろう、俺の剣気鑑定がそう告げているぞ。ふふっ。もっと俺色に染め上げてやる」
鞘の中で魔剣は肯定するようにもぞもぞと動く。どうやら俺を持ち主と認めたらしく、もう勝手に動くことはないようだ。早速使ってみるか……。
ドゴンッ!
「『刺突』!」
ちょうど壁から打ち出されてきたボーリングバグの砲弾を魔剣で刺し貫く。今までよりも剣が自在に動く! さらに切っ先は、硬いボーリングバグの甲殻をケーキにフォークを刺すほどの軽やかさで突き刺して余裕で捉える。俺は続けざまにさらに飛んできた2匹もそのまま剣で受け止めて、巨大な櫛団子のようになった魔剣をほれぼれと眺めた。
「なかなかいい拾いものだったな、防御無効属性があるらしい。この出会いは、もう運命だね」
「……その剣の効果は物理攻撃無効属性の無効化と、武装解除よ。防御力を下げているわけじゃないのよ。そして喜んでいるところ悪いのだけれど、それは私の剣なので返してもらえないかしら?」
むっ。ボーリングバグを突き刺した部分を見ると、まるで自分から防御を解くように固い羽根を開いて、甲羅の内側へ剣を貫いていることに気づいた。俺が剣の性質を見誤るなんて……。
少し慚愧に堪えない気持ちをかみしめてから、俺はゆっくり声の方へと振り返った。喜びに浸り、ひとりごちりながら剣の感触を愉しんでいた俺に、いきなり後ろから声をかけたのはうっすらと見える少女の影。ゴーストだろうか? この剣もそうだが、ここには俺しかいなかったはずだ……。
剣との語らいを邪魔する無粋な声の主は、だんだんとその姿を濃く表して、金色に輝いて透き通る迷宮学園女生徒の幽霊の姿で現れたのだった。
つづく。
次回予告
魔剣フルンティングを得たアベルの前に現れた、幽霊のような女子生徒。迷宮のなかで試される冒険者たちの覚悟、はたして。
次回、アベルの冒険 3 幽霊副会長の試練 にご期待ください!
ここまでお読みくださりありがとうございました。良ければ、ポジティブな感想やご意見を頂けると、励みになりますのでよろしくお願いします。
この物語は、ノクターンノベルにて連載している迷宮学園七不思議 の外伝で、本編でも活躍するキャラクターの別の活躍が語られるお話となっています。
アベルの冒険は、各話3000~6000程で3話で完結する物語となっております。果たしてアベル達は無事に生還できるでしょうか? 最後までこの冒険を共に楽しんでください。
また、ノクターンノベルで連載している迷宮学園七不思議も(年齢制限ありの作品ですが)よかったらお読みいただき、楽しんでいただけたら幸いです。
迷宮学園七不思議
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