アベルの冒険 1 蟲毒迷宮の探索
4月。まだ迷宮学園に入学して間もない新入生の俺たちは、ある噂を聞きつけてダンジョンに潜っていた。
蟲毒迷宮、この虫型モンスターばかりで人気もなく、武器もドロップしないといわれているダンジョンに、リビングウエポンが徘徊しているというのだ。
はたして、俺たち3人を待ち受けるものとは?
登場人物
主人公:アベル 迷宮学園1-D組に所属する、冒険者。剣士 LV1。剣をこよなく愛する。
ハナエ 迷宮学園1-D組に所属する、冒険者。パーティ紅一点の魔女で、重力術師 LV1。
カイル 迷宮学園1-D組に所属する、冒険者。テイマー LV1だが、まだテイムしていないが、人狼でライカンスロープ形態に変身できる。
この物語はファンタジー異世界のダンジョンを舞台にした冒険小説です。ダンジョンに挑む冒険者たちは夜の闇よりも暗い地下迷宮の底で何を得るのでしょうか?
1 蟲毒迷宮の探索
【蟲毒迷宮:剣士 LV1 アベル 】
4月。迷宮学園の朝は早い。
俺の名はアベル、冒険者を養成する迷宮学園の1-E組所属。黒髪に黒い瞳、背は高い方かな。職業は剣士LV1。趣味は武器集め。
今日は朝からある噂を聞きつけて、俺たち3人で即席パーティーを作り、蟲毒迷宮と呼ばれるダンジョンにやってきている。
ジュワッビシッ!
「やれやれ、聞いてはいたが本当にこのダンジョンの敵は虫ばっかりだなぁ、うじゃうじゃと。普通の女子が来たがらない理由がわかるってもんだぜ! まぁ、人気のないダンジョンなんで男子もあまり来ないがな!」
バシ!
「あのぉ、ここに女子がひとりいるんですけど、カイルさん? あなたはその手甲の爪で、虫が寄ってこないようにもっと叩き潰してくれると嬉しいんですけど~っ!」
シュバ! シュババッ!
「ごめんねハナエ。今日はこんな場所につき合わせちゃって。モンスターは俺の剣で魔女の君に寄せ付けないようにするから安心してほしいな。カイルのほうが、手は早いかもしれないけどね!」
俺の頼りになる仲間はふたり。爪のついた手甲で虫を潰している灰色の長髪で長身、ワイルドな見た目の男子がカイル。文句を言いながらも明るい髪色のサイドポニーをかわいく揺らしながら、ムカデを潰す羽目になっているかわいそうな女子がハナエ。俺たちはこの3人パーティーで冒険しているのさ。
このダンジョンは名前の通り虫系のモンスターが出没する。まだ入り口を降りたばかりの最初の部屋。ここは暗い部屋の端がよく見えないほど広いホールになっていて、俺たちは1mほどの昆虫型モンスター達からの手厚い歓迎を受けている。今はそれをせっせと撃退中さ。
「ウェルカムセントビードのサービスなんて、最悪なダンジョンですぅっ。正直やる気は出ないんですけどぉ~……」
この辺の虫系のモンスターは見かけの気持ち悪さとは裏腹に、術師系の魔女のハナエのワンドの一撃でもつぶせるほど弱いのだけれど、なにせ数が多い。俺たちは話しながらも群がってくるムカデ型モンスターを倒していく。
「珍しいモンスターが出ると聞いたから、俺はワクワクしているけどね、ハナエ、カイル」
「ま、これもアベルの唯一の趣味らしいから、つき合ってやろうぜ。ここに今、アベルの好きな剣のモンスターが徘徊しているらしいから、なっ」
ダンジョン出入り口のあるホールは10×10区画ほどの広さ(1区画は5m×5mほどの広さで、おおむね天井の高さも同じのブロック構造が基本になっている。ダンジョンの通路はだいたい幅は1区画)で、この蟲毒迷宮は1部屋が3区画以上の広めの部屋が多く、部屋やエリアごとに住んでいる虫の縄張りが違うらしい。この出入り口のあるホールは、オオムカデの巣と呼ばれて恐れられ(嫌がられ)ている、このダンジョンの名物のような場所だった。
剣士の俺の得物はエストック、細身の長剣だ。俺は流れるような刺突で敵を突き殺していくが、この虫たちはなかなか悪くない刺し心地だ。サクサクと刺していく俺の剣撃が、おそらくこの3人の中では最も早いだろう。
パーティーメンバーのうち、カイルはテイマーだけれど、まだモンスターをテイムしているのを見たことがない。彼は普段は人の姿をしているが人狼化できる獣人で、元々の筋力系ステータスのSTRやSPD、DEXの数値の元値が常人より高く、LV1の今はまだテイマーと剣士の職業の補正の差を超えるほど力が強い。レベルが上がれば剣士のステータス補正も上がって、合計数値で彼を上回るはずだけれど。アベルの野性的な身のこなしは卓越している。
ハナエは重力呪文を操る重力術師だが攻撃呪文はまだ使えないので、補助呪文で近づくモンスターに重力罠でデバフをかけながら、ワンドで虫を叩き潰している。ワンドはわずかなMPで駆動する術師用の打撃武器。彼女は虫をつぶす感覚に顔をしかめながらも、ワンドを振るう手を休めようとはしない。なかなかのガッツ。
たまたま今日はこの3人で冒険しているだけだが、即席パーティーにしては悪くない連携だ。
「しかしアベル、本当にこんなダンジョンに、リビングウェポン型のモンスターが徘徊しているっていうのか? 虫系のモンスターは武器を持たないし、このダンジョンの宝箱では武器をドロップしない。武器とは縁遠いダンジョンといわれているようだが?」
「目撃数も多いから信憑性はかなり高いよ。最近レイピアかエストック型の刺突剣型のモンスターがこのダンジョンの虫型モンスターを刺し殺して回っているという目撃例は多いからね。見つけたらぜひ俺のコレクションに加えたいね。武器が多くドロップする妖精迷宮は何度か探索したけれど、錆びた銅か鉄製の武器しかドロップしないんだ、新入生がおいそれと入れるエリアではね」
俺の唯一の趣味は剣を集めること、そして剣を愛でること。入学してまだ数週間ほどだけれど、すでに学園の購買で売っている剣で手が届くものは買って試したし、武器のドロップが多いダンジョンにも潜ってもみたけれど、レベル1の新入生がいける範囲ではたいした剣は見つからない。でも、リビングウェポンなんてそんな珍しい武器をせめて一目でも見られるならば、この程度の虫なんぞ苦にもなりはしないさ。
「ああ! もう虫が多すぎです! ハナエもうイヤですっ! 帰りたいですぅっ!」
「俺とアベルのふたりだけでも、このくらいのモンスターの相手は十分だぜ。嫌ならハナエは帰ったらどうだ?」
「ああもぉ! ひどいです! アベルなんとか言ってくださいよぅ!」
「まあまあ、ふたり共ケンカしないで。それに入り口付近のムカデの巣を越えれば、一度に大量の虫はそんなに出ないはずさ。カイルも折角ハナエが付き合ってくれているんだから、そんなこと言っちゃだめだよ」
「その空中に浮かぶ剣型のモンスター目撃情報が多いのは、蟲毒迷宮地下1階の北側のエリアだったな。ようやくこのくそったれたムカデどもとも、おさらばできそうだぜ」
「厳密にはここに住んでいるのは、陸生のムカデメリベらしいけどね」
「さすがアベルは博識ね、ムカデの種類にも詳しいなんてっ」
「だから本当はムカデじゃないんだけどね……」
なんとかオオムカデの巣を越えた俺たちは通路を北に進む。しばらく天井までの高さも幅も1区画の通路をすすむと、ほどなくまた開けた場所に出た。目の前には断崖絶壁。
「ダンジョンの地下一階なのに、見上げるような崖がそびえているのは謎だよね……」
「降りてきた階段よりも明らかにこの絶壁は高いし、壁の上にも空洞があるようだな。確か北側エリアって言うのは、この上の地帯だって聞いたが」
「この絶壁、所々から地下水が噴出して、滝というほどじゃないですが、水が流れていますけどぉ、この水はどこからきてどこへ流れていくんでしょうね~……」
「俺にもよくわからねぇが、ダンジョンってのは地面に空いた穴なんかじゃなくて次元の狭間にできた穴だってんだろう?」
「そうさ、ダンジョンは異次元からの侵略者、デモンが自分たちの世界からこの世界に開けた次元の穴。俺たち冒険者の役目は、この次元を超える不思議なトンネルを攻略して、デモンの侵略から俺たち人間の世界を守る事にある。これは授業でも習っただろう」
「この虫だらけのダンジョンはどんなデモンが作ったのかしら。虫だらけのデモンの荘園なんてそれこそ行きたくないわね……」
「蟲毒迷宮は、冥王の支配する不死の荘園に繋がっているといわれている。腐肉漁りの虫達は彼らの使いらしいね。ここは比較的細い穴で、モンスターも弱いから生徒の訓練用に残されたダンジョンのひとつ。これも授業で習っただろう?」
「虫にしろ不死にしろ、どちらもぞっとしないし迷惑な話だぜ。どうせなら、魅了の女王の支配するサキュバスの荘園に行きたいもんだがな」
「益荒男たちはみんなそういうわね、男子って本当最低ですぅ。私はインキュバスの荘園なんて御免こうむりたいわね」
「言ってろ。だが、アベルがこのダンジョンにハナエを誘った意図はわかってきたぜ。この壁を重力呪文で登って、北エリアへショートカットしようって寸法なわけか」
「それだけじゃないよ。彼女が優秀な魔女で、俺たちふたりの益荒男といいコンビネーションをとれそうなので、お願いしたんだから。そうだよねハナエ」
「そうよ、アベルがそんな打算だけで私を誘うわけないでしょう~? カイル」
彼女はその後に、「私をパートナーとして見定めるために連れてきたに決まっているのよ」と小さく付け加えたけど、俺にはよく聞き取れなかった。
重力呪文による重力相殺で壁を乗り越えた先には、ボーリングサロンと呼ばれるエリアが広がっていた。
「サロン、なんだか平和そうな名前ね」
「由来は不明だが、ずいぶん殺風景な小部屋が等間隔でどこまでも続いているようなエリアだな。壁に所々人間の頭が入りそうなくらいの穴が開いているのが気になるが……」
先頭を行くカイルが最初の小部屋に入っていく。続いてハナエ。崖から通じている道は本来のルートとは違う裏口のようなものだろうか。
「このエリアは、ボーリングバグと呼ばれる甲虫型モンスターの縄張りだから油断しないでね」
「それってどんな虫なんだ?」
「どんなって、虫なんて全部一緒でしょう?」
「ボーリングバグというのは黒くて丸い虫なんだ。でもこのエリアで真に注意すべきなのは……」
ズドン!
説明しようとしたところで、いきなり大砲のような砲弾が壁を突き破って襲い掛かってきた! ヘルメットほどの黒い弾丸が迫ってくる。それに反応できたのはカイルだけだった、さすがは野獣の勘の鋭さだ。
「セイアッ!」
カイルが爪の生えた手甲で殴りつけて迎撃する。相変わらず勘がよくて素早いな、さすが。黒い弾丸はそのまま壁に弾き飛ばされて、ボーリングバグの開けてきた穴の横にたたきつけられて壁にめり込み、足をじたばたしている。
ボーリングバグは黒くて丸い30cmくらいのコガネムシのような甲虫モンスターだった。
「ナイスストライク! でも、これで終わりじゃなさそうだね」
ズドズドン!!
さらに2体のボーリングバグが壁と天井から飛び出し、カイルが両手で同時にはじき返す。相変わらず人狼の反射神経は尋常じゃない。
「ターキーだね、さすがカイル」
このエリアでは、壁から時々このボーリングバグが飛び出してくる。モンスターというよりトラップのような奴らで、壁の中を移動して突然弾丸のように射出される甲虫の砲弾は常人では何とかよけるのが精いっぱいだろう。俺たちは気を付けながら市松模様に並んだ小部屋をいくつか潜り抜けていく。
「この部屋同士を区切っているドア、空いている場所はいいが閉じているドアは手では開きやしない。たまに勝手に開閉しているのは、どういう仕組みになっているんだ?」
「おそらく、壁の中を移動するボーリングバグが仕掛けを動かしているようだね」
「まったく、とんだボーリング大会だぜ。だが、いつまで続くんだこのエリアは……うおっまずい!」
突然壁が爆発して至近距離からボーリングバグが俺たちの真ん中を歩いているハナエを狙って飛んできた。とっさにカイルが彼女をかばって床を転がる!
バタンッ。
だが運悪くふたりが扉の向こうに転がり込んだ瞬間に、俺の目の前で無情に閉じる扉。しまった、分断されてしまった!
「うわぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁっ!」
閉ざされた扉の向こうからふたりの悲鳴が響いた。まずいな、俺は取り残された部屋のなかを慎重に調べてから部屋の中心に立って、ひとまずいつ砲弾が飛んできても対処できるように神経を張り巡らせた。
ふたりのことは心配だが、向こうにはカイルがいる。むしろ危険なのは俺のほうだろう。だが、俺の感覚と戦闘スタイルは本来ひとりのほうが戦いやすい。このまままた扉が開くまでボーリングバグをやり過ごすしかないだろう。そう思いながら神経を集中していると、俺はいつの間にか何かが比較的ゆっくりと浮いて飛び回っていることに気づいた。
この部屋には砲弾状の虫の気配しか感じなかったが? 俺はフェイントをかけた動作で背後に切りつける!
ジャキィィィィン!
俺の渾身の刺突は、同じく細身の剣での刺突に阻まれた。そして剣は宙を舞って距離をおいて俺をにらむように対峙している。
「こいつは、リビングウェポン!」
振り向いた俺を突き刺さんと、不規則な動きで宙を舞う剣が俺に迫っていたのだった!
つづく。
次回予告
蟲毒迷宮、ボーリングサロンに乱れ飛ぶ飛ぶ黒い砲弾。分断されたパーティーにそれぞれの試練が襲いかかる! アベル達一行は、生き残ることができるか?
次回、アベルの冒険 2 リビングウェポン 魔剣フルンティングの脅威 にご期待ください!
ここまでお読みくださりありがとうございました。良ければ、ポジティブな感想やご意見を頂けると、励みになりますのでよろしくお願いします。
この物語は、ノクターンノベルにて連載している迷宮学園七不思議 の外伝で、本編でも活躍するキャラクターの別の活躍が語られるお話となっています。
アベルの冒険は、各話3000~6000程で3話で完結する物語となっております。果たしてアベル達は無事に生還できるでしょうか? 最後までこの冒険を共に楽しんでください。
また、ノクターンノベルで連載している迷宮学園七不思議も(年齢制限ありの作品ですが)よかったらお読みいただき、楽しんでいただけたら幸いです。
迷宮学園七不思議
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