関西出身のサトリーヌは、王子に婚約破棄を宣言され、たこ焼きを落とす
「サトリーヌ、君との婚約を破棄させてくれ!」
それはある晴れた日の、真っ昼間に起きた、唐突な出来事だった。
「えっ?ギルバートちゃん、なんて言ったん?もっかいゆうて?」
「え、え、あ…君との婚約を破棄すると言ったのだよ!ゆ、ゆうて…?」
ギルバート王子は多少押され気味になりながらも、それでもなんとか威厳を保ちつつ、サトリーヌにズバッと言い放った。
「えぇ〜!いきなりそんなこと言うたかて、ウチ困ってしまうわぁ〜、そんなんダメよダメダメ〜!あ、わからんかな、少し古いネタやったかもやわ」
サトリーヌは、なかなか首を縦に振らない。さすが関西出身である。サトリーヌは大阪生まれ、大阪育ち、そしてつい数年前に異世界へ転移されたばかりのうら若き乙女だった。
「それにギルバート兄さん、理由を聞かせてもらわんかったら、ウチそんなん婚約破棄なんて納得できひんわぁ〜」
ギルバートはひとまず深呼吸をする。息を整えるためである。深くふかーく呼吸をする。
「理由はだな。君のその言葉づかいだよ!君の言葉づかいは到底僕の妻になる身としては、受け入れられるものではない!いくら君のプロポーションが抜群で、可愛らしい顔をしてようともだ!」
「あらぁ、ギルちゃんそんなにウチのこと褒めちぎらんといてほしいわ、照れるわぁ〜」
「いや、褒めてないだろう!とにかく…これは受け入れてもらうぞ」
ギルバート王子の後ろから、しおらしく現れたのは、サーシャであった。
「サトリーヌさん。私、ギルバート様に先日愛の言葉をいただきましたの」
サトリーヌは手に持っていた、たこ焼きの箱を落とした。ん、なぜにたこ焼き。
「あ、愛の言葉やて…」
「そうだ。私はこのサーシャを愛している。君と違いおしとやかで、ぷ、プロポーションは多少劣るものの、私の妻にふさわしいのはやはり貴族としての身だしなみを重んじてくれるサーシャなのだ」
「あ、愛の言葉やて…」
サトリーヌは2回言った。
「もぉ〜、そんな真剣な顔して言うから笑ってしまいそうになるやんか〜。ギルちゃんってオチャメさんやね〜。そんなところも可愛いで」
「え、そうかな…はっ、いや。というわけだ。よろしく頼むぞ、サトリーヌ!」
ギルバート王子は、なんとかかんとか威厳を保ったのか、翻弄されたのか疑問だが、押し切ったのである。サトリーヌは呆然とそこに立ち尽くした。
「ウチのたこ焼きが…まだ3個残っとったのに」
食べ物の恨みは大きいのだ。いや、婚約破棄の恨みも大きいのだ。
◇ ◇ ◇
その翌日。サトリーヌは王都である人物と会っていた。ギルバート王子の兄であるカイン王子である。
「サトリーヌ、どうした?元気がないじゃないか」
「ちょっと、聞いてぇなカインちゃん。ギルちゃんがな、いきなり婚約破棄したいって言うてきたからな。ウチ食べかけのたこ焼き落としてしもてん!めちゃショックなんやけど!」
「なにぃ〜っ!!それはまことか?」
「うん、ホンマホンマ。ウチこっちの世界来てからめっちゃ頑張ってギルちゃんのこと助けてきたやんか?ギルちゃん大人しいから外交とかも全然でけへんかったのに、ウチがついてって、他国の王様とかもウチが笑かせたり、仲良うなったりして、上手くいってたやんか?」
「うむ、私もそれは聞いているし、ギルバートのことを羨ましく思っていたのだ。それを婚約破棄とは…正気の沙汰ではないな」
「せやろ?しかも理由なんて言ったと思う?言葉づかいやて。そんなん小さい頃から染みついてしもてるんやから、無理に決まってるやんか」
カイン王子はサトリーヌの言葉にうなずく。
「あぁ、なんか最近言い寄られていた、サーシャとかいう色目づかいの女にふらっときたのであろう。どうする?私からギルバートに言ってやろうか?」
「ん〜。もうでもええかなぁ〜って思ってんねん。せっかくウチ頑張ったのに、そんなん言われたらもう冷めてしまうっていうか。たこ焼きも熱々のほうが美味しいやん?冷め冷めになったら美味しないやん?」
「ふむ、それもそうだな。では、私と一緒になるか?」
サトリーヌは一瞬固まった。
「え…一緒になるって…ウチのことお嫁さんにしてくれるん?」
「うむ。サトリーヌ、君が嫌でなければだがな」
「カインちゃん、たまには男らしいこと言うやんか。なんかウチって、そういう素っ気無い感じに言う方がなんかキュンときてしまうタイプやねん」
サトリーヌは目がハートになっている。
「すまないな、私はあまりロマンチックに言うことはできないが。改めて言おう。サトリーヌ、これからも私のたこ焼きを一生焼いてくれ」
「私の…たこ焼きを…!!そんなん言われたんはじめて…」
たこ焼きを一生焼くことがどういう意味かはちょっとわからないが、とにかくサトリーヌはとても感激をした。
◇ ◇ ◇
そのまた翌日。
カイン王子と、サトリーヌの婚約を聞いたギルバートはとても慌てた。
「え、え、なんで兄と?全然何も接点なかったよね?」
「ギルバート様、そんなお二人放っておけばよいではないですか」
「いや、実はそういうわけにもいかんのだ…」
実はギルバートは兄のカインに多額の負債があったのだ。
「サーシャ、かくかくしかじか…というわけなのだよ…」
「えっ!そんなの聞いてないんですけど〜!!私はお姫様になって贅沢三昧できるっていうからあなたに言い寄っただけなんですけど!」
「えっ、そんなこと言わないでくれよ…今サーシャに裏切られてしまったら、僕は困ってしまうよ…」
ギルバートはもう泣きそうだ。その時カイン王子とサトリーヌが2人のところへやってきた。
「おぉ、ギルバート。何を泣きそうになっているのだ?」
「カイン兄さん。そりゃないよ〜!僕もそんな本気で言ったんじゃないのにさ〜」
「ギルちゃん!ひと言ええか」
サトリーヌは真剣な顔をして、ギルバートの方を向いた。
「サトリーヌ、僕は…」
「恋はな、たこ焼きと一緒や!熱々でまん丸でふわふわな時が幸せやねん!冷めてしもて、地面に落ちてしもて、ぺっちゃんこになったら、もう恋は終わりなんや!よう覚えとき!」
「そ、そんなぁ〜〜!!!」
ギルバートの声が王都に響いた。
みなさんもどうか覚えていてほしい。
恋は、たこ焼きと一緒。ん?そうなのか。




