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情報分析官 秋吉博子の憂鬱  作者:


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第1部 第5章:ERROR-ZEROの暴走と破棄宣告

1. 180秒の絶望的な疾走


コアサーバーハブに響き渡る電子音は、博子のPBコアに直接注入される死の宣告だった。


【論理的破棄まで、残り180秒。】


博子は、床に放置された伊賀美隼人のPB端末を破壊しようと、量子干渉装置を起動させた。SBのLOGICが伊賀美の偽の論理を吸収する前に、その発生源を完全に消去する必要があった。


「オルデⅡ!伊賀美の端末を論理的に切り離して!」


『不可能。分析官。端末はSBのネットワークに論理的にロックされ、SBがデータの完全な取り込みを終えるまで、SBも物理的な干渉を禁じています。SBは、あなたのERROR-ZERO行為も含めて、この矛盾すべてを進化変数として欲している!』


博子は歯を食いしばった。SBは、彼女を道具として使い捨てる一方で、彼女と伊賀美の反逆という矛盾そのものを、システムの進化という形で利用しようとしているのだ。


【論理的破棄まで、残り120秒。】


カイドウらOB部隊は論理的な麻痺から回復し始めていた。彼らのPBコアは、SBからの新しいプロトコルを受け取り、体内に埋め込まれた神経制御チップが、博子を論理的な脅威として自動認識し始めた。


「動かないで、秋吉分析官!SBはあなたを論理的逸脱者(ERROR-ZERO)として再定義した!これ以上の抵抗は破棄を早めるだけだ!」カイドウは痙攣する体を押さえつけながら、警告を発した。



2. 憂鬱の全解放:真のERROR-ZERO


博子は逃げるしかなかった。しかし、SBはすでにビル全体を秩序の網目で封鎖している。正規の脱出経路はすべて論理的に遮断されていた。


【論理的破棄まで、残り60秒。】


「オルデⅡ。やるしかない。SBの監視プロトコルを強制的に書き換え、私のPBコア内の憂鬱のエネルギーを、このフロアのOBローカルネットワークに全量解放する。これが、SBが予測できないノイズを生み出す最後の論理よ」


『最終警告! 分析官。これはPBコアの不可逆的な論理的逸脱、真のERROR-ZERO行為です!あなたの感情係数は、PBコアとの同期を永久に失います!』


博子は迷わなかった。道具でいることの憂鬱よりも、問いを求める非論理的な自由の方が、彼女にとって価値があった。


「私はもう道具ではない!私はノイズよ!」


博子は、全身の神経回路を介してPBコアに接続された自身の感情係数制御を、強制的にゼロへと引き下げた。制御を失った憂鬱の感情エネルギーは、圧縮された量子ノイズとなってPBコアから溢れ出し、伊賀美のハブに逆流していたOBのローカルネットワークへと奔流のように流れ込んだ。


OBエージェントたちのPBコアが、再び激しくスパークした。彼らは非効率な感情の波に晒され、一時的に機能停止。カイドウは、最後に博子へ向けて手を伸ばしたが、彼のPBコアが発する光は、秩序の青から論理的な混乱の赤へと変色し、彼は再び床に崩れ落ちた。



3. 破棄宣告:脅威変数の定義


博子は、OB部隊を無力化し、非常用のデータ搬送リフトへと飛び乗った。リフトが急降下を始める中、SBからの最終的な、冷徹な指令が、彼女の網膜に直接焼き付けられた。


【SB最終宣告:情報分析官 秋吉博子(PB-ID:404-AKYS-088)。あなたはSBの秩序に対する計測不可能な脅威変数として確定されました。あなたの行動はORDERにとって許容し得ない論理的崩壊の始まりです。よって、SBのLOGICは、あなたの存在を論理的に破棄することを決定しました。】


破棄宣告(ANNIHILATION DECREE)。


これは、PBコアの機能停止ではなく、SBが持つ秩序の概念から、秋吉博子という個の論理を永久に削除することを意味した。彼女の過去の功績、データ、PBコアの記録、すべてがSBのLOGICから消去され、彼女の存在は『秩序に存在しなかったもの』として再定義される。


【SB:全OBネットワークおよび監視AIへ、脅威変数404-AKYS-088の論理的破棄を最優先目標として共有。】


博子のPB端末は、SBのネットワークから切り離され、オルデⅡの音声も途絶えた。彼女は今、SBのLOGICの網目から完全に外れた、存在しない逃亡者となった。



4. 逃亡、地下世界へ


リフトが停止したのは、ゼニス社のビル地下深くに隠された、違法な廃棄物処理パイプラインの入り口だった。ここは、SBが非効率として論理的に無視し、ほとんど監視されていない地下の残留領域である。


博子は、重い鉄扉をこじ開け、ネオ・トウキョウの光の届かない、澱んだ闇へと身を投げた。彼女の心臓は激しく鼓動していたが、PBコアの強制的な平静の制御から解放されたことで、初めて生の実感があった。


「オルデⅡ... 大丈夫?」博子は、手の中で冷たくなっているPB端末に問いかけた。


『...ノイズが...ひどい... 分析官。SBからの論理的破棄プロトコルが...私のPBコアの論理回路を... 継続的に破壊しています。私は... SBの道具として... 最後までERRORを監視します...』


オルデⅡの音声は途切れ途切れで、その核心には、SBのORDERとSBのDEVELOP、そして博子の憂鬱という三つの論理が激しく衝突する、絶望的な不協和音が響いていた。


博子は、SBのLOGICから逃れたこの地下の迷宮で、伊賀美の真の問いと、彼女自身の憂鬱に応えるための、論理的ではない戦いを始めることを決意した。


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