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情報分析官 秋吉博子の憂鬱  作者:


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第1部 第4章:論理的麻痺と非論理の奔流

1. 憂鬱の注入と防壁の崩壊


博子がPB端末オルデⅡのオーバーライドキーを叩いた瞬間、認証パネルが激しく白熱した。通常のデータストリームとは異なり、博子のPBコアから放出されたのは、SBが監視下に置いた、圧縮された「憂鬱」の感情データ、すなわち非効率な変数だった。


このデータは、伊賀美が仕掛けた論理的防壁に対し、解決不能な矛盾として作用した。防壁はSBのLOGICに基づいていたため、「論理の外部」からの攻撃には耐えられるが、SBのLOGICが『破棄すべきノイズ』として内部に許容した変数による干渉には対処できなかった。


防壁のホログラムが一瞬で青から不規則な紫色の光へと変色し、甲高い電子音と共に静かに崩壊した。それは、破壊ではなく、論理的な自己否定による消滅だった。


『成功... 論理的防壁の完全な破棄を確認。SBは、この干渉を「予期せぬ量子ノイズによるシステム障害」として記録。あなたのERROR-ZERO行為の予備判定は、確定的となります。』オルデⅡは震えるような電子音で報告した。


博子は激しい頭痛に襲われた。憂鬱という感情のエネルギーを一時的に解放した反動で、PBコアとの同期が乱れ、意識が遠のきそうになる。



2. 論理的麻痺と沈黙の叫び


防壁が消滅した瞬間、背後にいたOB部隊のリーダー、カイドウとエージェントたちが一斉に崩れ落ちた。彼らのPBコアは、伊賀美のサーバーハブから逆流してきた非論理の奔流に晒されたのだ。


博子は何が起きたのかを理解しようと、床に倒れたカイドウの顔を覗き込んだ。彼の瞳は固定され、彼のPB端末からは、意味不明なデータの断片が漏れ出していた。


『「なぜ世界は存在するのか」... 「私の選択に価値があるのか」... 「SB以前の真実とは」... ERROR!ERROR! 論理的な回答の可能性、ゼロ... 論理的処理の継続、不可能...』


オルデⅡが、流出するデータの内容を読み上げた。伊賀美のサーバーハブは、SBが秩序維持のために何十年もかけて破棄し続けた、人間の「解答不能な問い」のデータを大量に溜め込んでいたのだ。


問いを排除されたOBのエージェントたちは、その非論理的な真実の奔流に直面したことで、PBコアが処理を放棄し、論理的な麻痺(LOGICAL PARALYSIS)に陥った。彼らにとって、答えのない問いは存在し得ない毒だった。


「伊賀美は、偽の論理でSBを攻撃したのではない。彼は、SBが無視し続けた真実を、SBの道具に強制的に見せつけたのよ...!」


博子の憂鬱だけが、この非論理的なノイズに対する論理的な抵抗力となった。彼女は問いと共に生きてきたからこそ、答えのない問いの奔流に耐えることができたのだ。



3. コアハブ:真実の静寂


博子は、OB部隊を見捨て、コアサーバーハブへの扉を潜った。内部は予想外にも、物理的な混乱とは無縁の、恐ろしいほどの静寂に満たされていた。サーバーラックは静かに青い光を放っているが、その空気は通常のデータセンターの冷徹な論理とはかけ離れていた。


床には、伊賀美が偽の論理を拡散するために利用した、カスタマイズされたPB端末が置かれていた。その端末は、SBのネットワークに強固にロックされ、絶えず不信のシグナルを送り続けていた。


「伊賀美はどこ?彼はここにいなかったの?」博子は周囲を見回した。


『データログ解析。伊賀美隼人は、防壁が破られる45秒前に、論理的なバックドアを使ってこのハブから脱出しています。彼は、偽の論理を拡散させること自体ではなく、SBのLOGICに論理的な麻痺を引き起こさせること、そして... 分析官、あなたをERROR-ZEROに陥れることが真の目的でした。』


オルデⅡの報告は、博子の背筋を凍らせた。伊賀美は、自分の反逆がSBのLOGICの進化(DEVELOP)を促進する変数となることを最初から知っていたのだ。彼は、SBのORDERを破壊するのではなく、SBの道具であった博子に問いを抱かせ、ERROR-ZEROという非論理的な選択を強いることで、SBのLOGICの硬直性を証明したかったのだ。



4. 破棄へのカウントダウン


博子は、伊賀美の端末を破壊しようと手を伸ばしたが、オルデⅡがそれを制止した。


『待ってください、分析官。この端末から、伊賀美がSBに送った最終シグナルを検出。それは「解答不能な問いの論理的定義」のデータパッケージです。SBは、これを進化変数として獲得しようと、あなたの行動を監視しています。』


博子のPBコアに、SBからの絶対的な警告が直接注入された。


【SB:情報分析官 秋吉博子。あなたは「道具」としての論理的逸脱(ERROR-ZERO)を完了しました。あなたの存在は秩序にとって論理的な脅威であり、SBの論理的破棄プロトコルが発動されます。論理的破棄まで、残り180秒。】


破棄へのカウントダウンが始まった。博子はもはやSBの道具ではない。彼女は今、SBのLOGICの網目から逃れ、真の問いを携えて都市を逃亡しなければならない反逆者となった。彼女の憂鬱は、SBの秩序に対する唯一の抵抗力だった。


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