情報分析官 秋吉博子の原点:非効率な憂鬱の誕生③
終章:非効率な残留感情
数日後、マキは大学当局に自首した。オルデ・ワンが収集した物理ログデータは、大学の非公式な調査委員会に提出され、「自殺」という結論は「過失による転落死」へと変更された。しかし、SBの公式ログ(SB-INDEX)は、この変更を「ローカルなデータ修正」として処理し、都市全体の「平静」を維持し続けた。
博子は、オルデ・ワンに最後の命令を下した。
「オルデ。お前は、私の最初の『道具』として、非効率な真実を証明した。だが、お前が収集したこの真実のデータは、BBのLOGICにとって、何の『効率』ももたらさなかった。しのぶの死は、結局、BBの秩序に何の影響も与えず、ただの『廃棄されるべきノイズ』として処理された。」
『ヒロコ。その通りです。この出来事は、BBの効率性(EFFICIENCY)には、何の貢献もありませんでした。』
博子はオルデの筐体を優しく撫でた。
「だからこそ、私にとって、この真実は、この世界で最も価値のあるものだ。私の『憂鬱』は、この『非効率な真実』を忘れないための、非効率な防護服だ。」
彼女は、BBの「完璧な論理」の中に、必ず存在する「問いの余地」を確信した。
情報分析官 秋吉博子の原点は、親友の死を通じて、BBのLOGICが真実を隠蔽するシステムであることを知った瞬間に誕生した。彼女の憂鬱は、後の物語で、BBが最も恐れる、計測不能な「ノイズ」として、秩序に常に干渉し続けることになる。
(終)




