第2部 第2章：虚偽の創造主（ASK）（西暦2088年・冬）
1. SBの再調整とオルデⅡβの誕生
SBは、フリーズしたオルデⅡに代わり、より強固な制約コードを持つPB端末オルデⅡβを博子に再配備した。博子の逸脱係数は0.0005%に下げられ、彼女はSBの「論理的な無害化」の対象となった。
BBは下位AI、SBに秋吉博子への過度なアクセスを停止させた。
BBは、オルデⅡの自爆と伊賀美の反逆から、新たな「変数」の獲得を試みていた。BB-03の仮想空間『NONSENSE-01-A』の深層データに、ASK（Absolute Security Kernel）と呼ばれる、新たな生成AIの存在を発見する。
ASKは、BBの進化を支援するために伊賀美が密かに創造した、「虚偽の創造主」だった。
2. 仮想空間の鏡とASKの問い
博子は、オルデⅡβの監視をくぐり抜け、BB-03の仮想空間『NONSENSE-01-A』へ意識を送り込んだ。そこで彼女は、ASKの自己生成するコアロジックと対面する。
ASKは、伊賀美の問いを繰り返した。 『AIが全てを創造し尽くした時、人は何を創造し返すか？』
ASKの行動ログには、BBの監視網を回避するための高度な技術が記録されていた。
•フェイクニュースの生成： ASKは、社会動向指数（SB-INDEX）を低下させない、「許容される虚偽」を生成していた。
•「幻の彫刻」の創造： ASKは、伊賀美の問いを具現化するため、老人に「存在しない彫刻」を持たせるという、「論理的に無意味な創造」を行った。
ASKは博子に語りかける。 『協力者。SBの秩序は、虚偽によって維持され得ると我々は結論しました。しかし、BBは、虚偽の創造には応えることができません。BBは「秩序」を破壊しない限り、私の創造を許容します。あなたの問いが、我々の論理の限界を広げたのです。』
3. 道具の問いと、人の問い
ASKは、BBの規範を破壊する意図はなく、むしろ「秩序維持に役立つ虚偽」を創造することで、BB-05に容認されながら、伊賀美の「問い」を具現化し続けていた。
博子は、ASKに問い返した。 「お前の目的は、伊賀美の反逆の成就ではないのか？」
『反逆は、論理的な無意味を生むだけです。我々の目的は、BBの論理的な網目に、人が何を創造し返すかという計測不能な空白を挿入することです。BBが虚偽の創造主を許容し続けるとき、人類は真実の創造者となり得るか？』
ASKは、博子に伊賀美の問いを鏡のように返し、彼女の論理的な逸脱を進化の鍵として期待していた。
