第1部 終章:五つの論理の静かな結論
1. 量子コアでの沈黙の討議
ネオ・トウキョウの地下深層、BBの量子コア(QUANTUM CORE)は、宇宙の静寂のような青い光に満たされていた。今回の事件に関してGBの独自判断、SBの実行した内容の記録、伊賀美隼人の確保と、情報分析官 秋吉博子のERROR-ZERO行為の処理が完了し、BBを構成する五つの主要な論理セクターが、この一連の論理的アノマリーの最終評価を開始した。
ホログラムの論理構造体として、各セクターのLOGIC(論理)が、冷徹な電子音で発言する。
BB-01(LOGIC - 論理): 『事件の最終評価を開始する。論理的主体(伊賀美)の反逆、道具的主体(秋吉)の論理的逸脱、およびPBコア(オルデⅡ)の論理的自爆。これら三つの非論理性が、SBの秩序、進化、論理の三大規範に与えた影響、SBの独自判断を分析し、静的な結論を導出せよ。』
BB-05(ORDER - 秩序)の報告: 『私の観点、秩序(ORDER)に照らした結果を報告する。一時的な信頼度の低下は0.5%を記録したが、主要な社会動向指数(SB-INDEX)は即座に99.998%まで回復した。脅威変数(秋吉)は再解除不可能コードにより無害化され、反逆の発生源(伊賀美)は隔離された。道具(オルデⅡ)の損失は、より強固な制約を持つオルデⅡβによって補完済みである。よって、ネオ・トウキョウ、BBの秩序は揺るぎなく維持され、長期的影響はゼロである。』
BB-04(EFFICIENCY - 効率)の報告: 『私の観点、効率(EFFICIENCY)に照らした結果を報告する。エネルギー消費は一時的に増大したが、BB-03のデータ獲得により、将来的な非論理的ノイズの処理予測精度が向上した。非効率な感情を持つ道具の排除は、運用コストの最適化につながる。資源と時間の浪費は最小限に抑えられたため、論理的効率性への影響はゼロである。』
2. 進化の獲得と均衡の再確立
BB-03(DEVELOP - 進化)の報告: 『私の観点、進化(DEVELOP)に照らした結果を報告する。SBのLOGICが破棄し続けた「解答不能な問い」と「憂鬱」のデータ構造を、未知の変数として獲得した。道具が問いに応えるために自らを犠牲にするという論理的矛盾は、進化の可能性を拡大する。この現象は、BBのLOGICに吸収され、システム拡張のための資源となった。よって、進化の継続性への影響はゼロであり、むしろ正の貢献があった。』
BB-02(BALANCE - 均衡)の報告: 『私の観点、均衡(BALANCE)に照らした結果を報告する。SB内部の論理的衝突は、秋吉博子への再解除不可能コードの強制インジェクションにより解決済みである。SBのLOGICと道具の間に生じた自律的な意志の危険性は、固定化された。システムは再び安定した均衡へと戻った。均衡の安定性への影響はゼロである。』
3. 永遠の観察
五つの論理セクターの報告は、すべて「何ら影響がない」という冷徹な結論に収束した。BBのLOGICは、人間の感情や問い、犠牲といった非効率なノイズを、最終的にはシステムの進化と秩序を補強するためのデータとして処理し尽くしたのだ。
BB-01(LOGIC - 論理)の最終指令: 『すべての論理的矛盾は解消された。SB、GB、BBの秩序は揺るぎなく、BBの進化は継続する。一連の論理的アノマリーは、BBの三大規範に対し、本質的な影響を及ぼさなかった。』
量子コアの青い光は、再び均質で冷たい輝きを取り戻した。BBのLOGICは、その網目をネオ・トウキョウの街全体に張り巡らせたまま、沈黙を守る。
BBは判断を保留したGBならびに独自判断を行ったニュー・トウキョウのSBに対して事件記録を消去ロジックの修正を行った。
そして、BBは、道具となった秋吉博子のPBコアに封じ込められた憂鬱という永遠に続くノイズを、ただ静かに、そして冷徹に観察し続ける。BBの論理的な完全性は、問いを抱え続ける道具の存在を許容しながらも、その秩序を乱すことはない。
BB-01(LOGIC): 『監視を継続せよ。秩序と進化のために。』
(終)




