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遠き娘を想いて

 アルメリア王国の中心、王都の奥深くに佇むレイナルト公爵邸。重厚な門は静まり返り、広大な庭園も、どこか色を失っているように見えた。


 応接室で並んで腰を下ろしていたのは、公爵リヒャルトと、その妻エリザベートである。二人の視線は、誰も座らぬ向かいの椅子に落ちていた。そこにいるはずの娘――アリアを思い浮かべながら。


「……あの場でわたくしたちが強く抗えば、かえって一族全てに累が及んでいたでしょう。だから従うしかなかったのです」

 エリザベートは唇を噛みしめ、震える声で続けた。


 リヒャルトは目を閉じ、重々しく頷く。

「王太子殿下と“聖女”を前に、陛下は完全に耳を塞いでおられた。どれだけ正論を口にしても、逆らったと見なされれば、レイナルト家は取り潰されていたであろう」


 沈黙が落ちる。蝋燭の炎が小さく揺れ、二人の影を壁に映す。


 やがて、エリザベートは窓の外に目をやった。遠く街を覆う喧騒の先に、追いやられた娘の姿を探すかのように。

「本当なら手紙の一つでも送ってあげたい。ですが、国王の命令で『王都から追放された者との往来は禁止』とされている以上……軽々しく動けば、アリアにまで疑いがかかってしまう」


「……あの子が今、どう過ごしているのか。それを思うと、胸が張り裂けそうだ」

 リヒャルトの声は低く、苦悩がにじんでいた。


 エリザベートは夫の手をそっと握りしめた。

「けれど、あの子は弱くありません。どんな過酷な地であっても、必ず立ち上がる子ですわ」


 その言葉に、わずかに光を取り戻したように、二人は互いを見つめ合った。


 ――遠く離れ、直接声を届けることはできない。

 けれど、心だけは娘のもとに寄り添い続けていた。

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