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光差す大地

 一年という時の流れは、人々の努力と工夫を確かに実らせていた。

 アリアが辺境に追いやられた当初、そこは痩せた大地と崩れかけの家々しかない、荒涼とした場所だった。だが今、その光景はまるで別の世界のように変貌を遂げていた。


 畑には黄金色の麦が揺れ、整然と並ぶ畝からは瑞々しい野菜が顔を出す。輪作や堆肥作りといった、アリアが前世の知識をもとに導入した方法は、村人たちに根付き、確かな成果を上げていた。


 広場では子どもたちが駆け回り、大人たちは笑顔で作業を進めている。人の声と笑い声が響く村は、もはや「寂れた辺境」ではなく、活気に満ちた共同体だった。


 丘から村を見下ろすアリアの胸に、静かな誇りが満ちていく。

 かつては追放と絶望の象徴だったこの土地が、今は人々の希望を育む場所となっているのだ。


 もちろん順風満帆というわけではなかった。害虫に作物を荒らされることもあれば、寒さで収穫が思うようにいかない時期もあった。だが村人たちは諦めなかった。互いに知恵を出し合い、工夫を重ねるうちに困難を乗り越える術を学んでいったのだ。


 やがて噂を聞きつけ、近隣の村からも少しずつ人々が移住してくるようになった。食べるものに困らず、子どもたちが笑って暮らせる場所――そんな評判が、この地を目指す背を押したのだろう。


 エリーもロベルトも忙しさを増す日々に追われながらも、誇らしげに働いていた。アリアもまた、村人と同じように土を耕し、汗を流し、共に生きることを選んでいた。領主と領民という垣根は次第に薄れ、この地には「共に築く仲間」という空気が根付いていた。



 その安定を脅かすように、ある日、国境付近から異変の報せが届いた。

 隣国で王の圧政が頂点に達し、ついに国が崩壊したというのだ。飢えと疲弊に追われた民が大挙して国境を越え、難民となって押し寄せてきたのである。


 最初に現れたのは、痩せこけ、裸足のまま歩いてきた小さな子どもだった。続いて老人、女、男……。彼らは疲労と飢餓で憔悴しきり、今にも倒れそうな姿で助けを求めてきた。


 周囲の村々は怯え、口を揃えて「迷惑だ、追い返せ」と叫んだ。食糧を分け与えれば自分たちが飢える、疫病が広がるかもしれない、治安が乱れる……。不安は理解できたが、それでもアリアの胸は揺るがなかった。


 「ここを、彼らの居場所にするのです」


 毅然と告げるアリアの言葉に、最初は戸惑いも広がった。しかし彼女自身が先頭に立ち、エリーと共に水を汲み、食糧を分け与え、眠る場所を整えていく姿を見て、村人たちも少しずつ動き始めた。


 ロベルトは言った。

 「人が増えるのは労力が増えることでもある。大変だが、これを好機とすべきだ」


 難民の中には大工や鍛冶師、薬草の知識を持つ者もいた。飢えと疲れを癒やすと、彼らは次第に活力を取り戻し、この地のために働き始めた。


 人口は一気に膨れ上がり、領地は新たな段階へと歩みを進める。これまでの収穫量では足りなくなる懸念もあったが、アリアはすでに次の段階を見据えていた。輪作の拡大、灌漑の整備、共同の貯蔵庫――人が増えれば、できることもまた増えるのだ。


 アリアは丘の上からその光景を見下ろし、静かに息を吐いた。

 ――この地は、もう荒れ果てた辺境ではない。

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