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瓦礫の街に立つ者

 王都の街並みは、もはや往時の面影を残していなかった。

 魔獣そのものは討伐されつつあったが、その過程で生まれた爪痕はあまりに深く、そして広い。焼け焦げた屋根が軋む音、崩れかけた壁が砂煙を上げて倒れ込む音が、あちこちから響いてくる。瓦礫に覆われた道の両脇には、座り込んで嘆きに沈む人々の姿。失った家を見つめて泣き崩れる者、必死に倒壊した木材をどかして家族を探そうとする者。王都の大通りは、絶望と混乱の光景に支配されていた。


 その混乱の中、必死に人々を救おうと動いているのは、ノーザン領と公爵領の兵たちであった。

 「急げ! まだ生存者がいる!」

 「水を持て! 火を広げるな!」

 兵らは互いに声を掛け合い、瓦礫を取り除き、火を消し、傷ついた人々を担ぎ上げる。血に染まった鎧も、煤に覆われた顔も構わず、ただ人命を救うために動き続けていた。


 さらにそこには、第三騎士団の姿もあった。

 彼らは壊滅寸前まで追い詰められた直後であったにもかかわらず、なお武器を手放さず、王都の民を守るために立ち続けていた。

 「まだだ……俺たちは終わっていない!」

 「市街地に魔獣が紛れ込んでいる、見逃すな!」

 かつて蔑まれてきた彼らの声は、今や必死に王都を支える咆哮となって響き渡っていた。


 そのとき、小さな影が第三騎士団の兵の足元に駆け寄った。

 泥だらけの頬を涙で濡らした子どもが、必死に頭を下げる。

 「……ありがとう、お兄ちゃんたち……」

 兵は一瞬、言葉を失った。

 これまで「役立たず」と嘲られ、存在すら疑問視されてきた第三騎士団。だが今、その言葉は紛れもない真実として胸に響いた。

 「……ああ。任せろ」

 短く応えた声は、かすれていたが力強かった。


 一方で、王宮の動きは鈍かった。

 国王は依然として自らの安全を第一に考え、「城の守りを固めよ」と繰り返すばかり。

 王太子は聖女の側に付き従い、周囲の混乱には目を向けようとしない。

 民への救済は、すべて後回しにされていた。


 臨時拠点と化した広場では、公爵とアリアが向き合っていた。

 「アリア。我らは国王の命を待つだけの者ではない。王都を守り、民を導けるかどうかは、我らがどう動くかにかかっている」

 父の厳しい眼差しに、アリアは強く頷いた。

 「はい。……今こそ、私たちの責務を果たす時です」


 父娘の短いやり取りを合図に、兵らはそれぞれの役目へと散っていった。

 ノーザン兵は崩れた街路に防衛線を築き、公爵領兵は救援物資を運び出す。第三騎士団は市街を巡り、魔獣の残党を討ち、避難する人々を護送した。


 もはや王族の号令ではなく、自らの意思で。

 ――誰かに選ばれるのではなく、自ら立ち上がった者たちが、瓦礫の街を支えていた。


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