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選ばれざる者たち

 謁見の間は張りつめた沈黙に包まれていた。

 そこへ、慌ただしい足音が響き、伝令が扉を押し開けて駆け込んできた。


「ほ、報告いたします! 王都西方の防壁が……崩壊いたしました! 魔獣が目前に迫っております!」


 場が一気にざわめき立つ。

 伝令はなおも必死に続けた。


「市民の避難も間に合っておりません! 早急な対応を――」


「な、何だと!」

 玉座から身を乗り出した王太子は、半ば取り乱したように叫ぶ。

「では聖女の祈りはどうした! 昨日も大々的に祈りの儀を行ったはずだ!」


 伝令は目を伏せ、言葉を選ぶように答えた。

「……体調不良とのことで、やはり奇跡は起きなかったと……。これで四度目になります」


 ざわり、と空気が重くなる。

 しかし王太子は顔を赤くし、声を張り上げた。


「ち、違う! 聖女は間違いなく選ばれた存在だ! だが、周囲の者たちが正しく導いていないから力が発揮できないんだ! 信じようとしない者たちのせいで、奇跡が阻まれているのだ!」


 まるで己の信仰心を必死に守るかのような叫び。

 臣下たちは互いに顔を見合わせ、誰一人として言葉を返さなかった。


 すると国王が低い声で口を開いた。

「……くだらぬ言い訳はよい。それより王都の守りはどうするのだ」


 鋭い視線が伝令へと向けられる。

 伝令は一瞬ためらい、それでも職務を果たすべく報告を続けた。


「現在、第一騎士団は王城の守護にあたり、第二騎士団は城下の警備に手一杯です。よって防壁外への出陣は――第三騎士団に命じるべきかと」


 国王の眉がわずかに動いた。

 そして嘲るような笑みを浮かべる。


「……第三騎士団か。どうせ普段は役立つこともないのだ。せめて今回ぐらいは骨ぐらいは折ってもらおうではないか」


 伝令は深く頭を下げると、口元にかすかな侮蔑を浮かべ、そのまま踵を返して謁見の間を去った。


 ――その報告を受けた第三騎士団の詰所。

 荒れた机と古びた武具が並ぶ空間に、重苦しい沈黙が流れていた。


「……我らに、防壁を守れと……?」


 誰かが呟く。

 それは冗談のようでいて、誰も笑わなかった。


「俺たちに回ってきたってことは……つまり、見捨てられたってことだろう」

「どうせ成果は奪われる。失敗すればすべての責任は俺たちに押しつけられる。どちらにしても終わりだ」


 誰も否定はしなかった。

 無力ではない。だが、あまりに長く蔑まれ続けた。

 誇りを持つことすら、とうに許されなかったのだ。


 それでも。

 胸に染みついた騎士としての矜持が、彼らを立ち上がらせる。


「……行くぞ。誰も俺たちを選ばなかったとしても、俺たちは――戦うしかない」


 その声は、絶望の中でなお折れぬ意志を灯していた。

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