街の亀裂
その日、王都の大通りはいつもと変わらぬ賑わいを見せていた。露店に果物が山積みされ、行商人が客を呼び込み、子供たちの笑い声が石畳を跳ねていく。
けれど、ざわめきの底にはどこか重苦しいものが漂っていた。
「聞いたか? 昨日の祈りのお披露目……また駄目だったらしいぞ」
「また? これで何度目だ」
「もう三度目か四度目だろう。いや、もっとかもしれん。毎回、聖女様は“体調不良”でごまかしてる」
耳を澄ませば、似たような声があちこちから聞こえてくる。
囁き声は、もはや疑いではなかった。確信めいて、人々の口に上っていた。
「結局、最初から力なんてなかったんじゃないのか」
「馬鹿を言うな。不敬だぞ」
「でも、考えてみろよ。雨は降らない、癒やしの奇跡も見たことがない。俺たちは“聖女”という看板に騙されていただけなんじゃないのか?」
誰も大声では言わない。けれど、人々の目に浮かぶのは、信頼よりも疑念だった。
白い聖堂で祈るはずの少女は、もはや「奇跡の象徴」ではなく、「見せかけだけの偶像」に変わりつつある。
その時だった。
――ドォンッ!
突如、地鳴りのような衝撃が王都を揺らした。
石畳が震え、積まれた籠が転がり落ちる。露店の主が慌てて押さえたが、次の瞬間、もっと大きな音が響いた。
「な、なんだ!?」
「地震か……?」
人々の視線が、一斉に王都を囲む防壁へ向けられる。
その白亜の巨壁に、ありえぬものが刻まれていた。
――大きな亀裂。
蜘蛛の巣のように広がるひびが、瞬く間に縦横へと走り、石片が崩れ落ちていく。
「嘘だろ……防壁が……!」
「聖女の加護が宿っているはずじゃ……!」
人々の声は、すぐに悲鳴に変わった。
「加護なんて、やっぱり最初からなかったんだ!」
誰かの叫びが、群衆の心を一気に突き動かした。
その瞬間、森の奥から低い唸り声が響く。
ゴゥゥゥ……と大地を這うような音に、群衆の背筋が粟立つ。
「ま、魔獣だ……!」
「来るぞ、裂け目から!」
空は相変わらず晴れ渡っていた。
だがその青さは、人々の心を一片も慰めなかった。




