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影の騎士

 王都は、かつての栄華をすっかり失っていた。

 石畳はひび割れ、路地はごみと瓦礫であふれ、飢えに苦しむ民は影のように壁際をさまよう。腐敗した領主や高官たちは豪奢な屋敷に閉じこもり、民草の嘆きには耳を貸さぬ。街の空気そのものが重く、絶望を孕んでいた。


 だが、その闇の中でもなお、光を求める者たちがいた。

 夜更け、人気のない倉庫の奥で、十数名の影がひそやかに集う。彼らは「レジスタンス」と呼ばれる人々――腐敗した王都を内側から変えようと立ち上がった者たちである。

 「今夜の標的は、物資を独占している役人の倉庫だ」

 短く告げられる作戦。無駄のない動きで散開し、音もなく忍び込む。やがて、彼らの手で奪われていた食料は再び民へと分配され、ひとときの笑顔が取り戻されるのだった。


 「これでまた、子どもたちが飢えずに済みますね」

 仲間の一人が安堵の声を洩らす。

 その中心に立つ左頬に傷のある男が、静かにうなずいた。


 ――カイン。


 かつては王都の騎士団に籍を置き、若くして頭角を現した剣士であった。だが、上層部が腐敗し、民を顧みずに権勢を奪い合う姿に絶望し、潔く鎧を捨てた。以後、姿をくらまし、荒れ地で傭兵や冒険者を経て、やがて志を同じくする仲間と共にレジスタンスを立ち上げたのである。


 彼はただ剣を振るうだけの男ではなかった。分け前を必ず公平に配し、弱き者を優先して守る。民のために汗を流すその姿は、やがて「影の騎士」と呼ばれ、密かに人々の希望の象徴となった。


 「聞け! 今日の勝利は、皆の勇気のおかげだ。だが気を抜くな。奴らは民を食い物にするためなら、どんな手も使う。必ず報復が来る……」

 低く抑えた声が、集会の空気を一変させる。

 ――そう、勝利の陰には必ず報復がある。王都を支配する腐敗の牙は、未だ健在なのだ。


 仲間たちは互いにうなずき、決意を新たにした。だが胸の奥には、いつ牙が襲いかかるか知れぬ緊張が渦巻いていた。


 ◇


 一方そのころ、北のノーザン領。

 アリアは書簡を手にしていた。ヴァルトリア王国崩壊後、王都の混乱を伝える断片的な報せである。

 「……やはり、王都の荒れは深刻のようですね」

 小さくつぶやき、視線を窓の外に向ける。そこには交易で賑わう市場の明かりが広がっていた。

 「この地を守るだけでは足りない。いずれ、王都へも手を差し伸べねば……」


 その胸に芽生えた憂慮は、やがて“影の騎士”と呼ばれる男との邂逅へとつながっていく。

 だが彼女はまだ知らなかった。王都に巣くう腐敗の牙が、静かに牙を研ぎ澄まし、民と共に抗う者を血で沈めようとしていることを――。


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