追放の日
初投稿です。
定番物を書いてみたくて、投稿しました。
きらびやかなシャンデリアの下、王宮の大舞踏会場は熱気に包まれていた。
流れる音楽は甘く優雅で、貴族たちの笑顔は社交の仮面をかぶっている。
その真ん中で、私――アリア・フォン・レイナルトは、ただ一人、冷たい視線を浴びていた。
「アリア・フォン・レイナルト! お前との婚約を破棄する!」
金髪碧眼の青年――ルーカス王太子の声が、会場に響き渡る。
彼の顔は怒りに紅潮し、手には一枚の羊皮紙が握られていた。
周囲の貴族たちは驚きと興奮を隠そうともせず、さざ波のようにざわめく。
――ああ、ついに来たのね。
私は目を閉じ、胸の奥にずっと封じ込めていた記憶を開く。
前世、私は平凡なOLだった。ある日、車のブレーキ音と共に意識が闇に沈み、目覚めたらこの世界――乙女ゲーム『真実の花冠』の悪役令嬢アリアになっていた。
物語の中のアリアは、ヒロインであるリリアをいじめ抜き、最後には断罪されて修道院送り。その後は病に倒れて孤独に死ぬ……そんな救いのない結末。
だから私は、転生後、できる限りおとなしく過ごした。
ルーカス殿下の隣で微笑み、リリア嬢に冷たくもしなければ、邪魔もしないよう努めた。
――なのに。
「お前はリリアに嫌がらせを繰り返し、彼女の大切な物を盗み、果ては命まで狙った!」
あら、それは初耳ですわ。
思わず口元が引きつりそうになるのを、私は笑みで押し殺した。
ルーカスの背後で、淡いピンク色の髪を揺らす少女――リリアが、大きな瞳を涙で潤ませている。
「……すごく怖かったです……アリア様が……」
周囲の視線が一斉に私を責め立てる。
前世で画面越しに見ていた時は「守ってあげたいヒロイン」に見えたその姿も、今の私には計算高い仮面にしか映らなかった。
「この証拠を見よ!」
ルーカスが高らかに掲げた羊皮紙には、まるで私がリリアを呪い殺そうとしたかのような文言と、偽造された署名が記されていた。
……雑な偽造。インクのにじみ具合から見ても最近作られたものだわ。
けれど、誰もそれを疑わない。
むしろ断罪という劇場を楽しむ観客のように、息を潜めて次の台詞を待っている。
「アリア・フォン・レイナルト。貴様の罪は万死に値する!
よって王都から追放し、二度とこの地を踏ませぬ。
……お前の行き先は、国境の北方辺境だ。そこを治め、余生を朽ち果てるまで過ごすがいい!」
ああ、これで幕が下りた。
私は静かにスカートの裾をつまみ、優雅に一礼する。
「……承知いたしました、殿下。末永くお幸せに」
その笑みが嘲笑だったことに、彼らは気づかなかった。