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第3話 阿良宿サーカス

「鎮圧しろって言ったって...」


眼前の地獄に呆然とする条に一瞥もせず、動き出したのは花園であった。


「私は鮫に対処するからあんたはあのイカをどうにかしてちょうだい」

「あの数の鮫を!?そんなんできるわけ─」

「できる。私の守護者イブは守ることこそ真骨頂なのよ」


彼女はそう言うと、両手から大量に血を滴らせ、無数の怪物を出現させた。


「私の仔をナメないでちょうだい」

「...仮に、無理だとしても私たちが動かない理由にはならないのよ」

「!」

「悪ぃ...目ェ覚めたわ。そうだよな、俺らはこの街を守るためにいるんだ」


俺はクラーケンに向き直り、目に向けてトランプを放った。

ダメージを与えることを期待した訳では無い。

クラーケンの狙いをこちらに向けさせるためだ。

狙い通りこちらを敵として認識したクラーケンは丸太ほどの太さを持つ触手を叩きつけてきた。


「遅せぇ!」


クラーケンの相手など無理だと感じていたが、ピエロの身軽さと柔軟性があれば対処することは容易だった。

さらに塵煙に紛れることで距離を詰め、指の間で挟んだ無数のトランプでクラーケンの身体を切り裂くことに成功した。


った!」


そう確信したが、クラーケンの命には届かなかった。

トランプでは小さすぎたのである。

その上、重油のような重みのあるイカ墨を浴びせられ、動きが鈍った際に触手に弾き飛ばされた。

自身が軟体化していることにより致命傷とはならなかったが、勝てないと思わせるには充分すぎる一撃だ。

だが、それが俺が動かねぇ理由にはならない。

トランプが小さいからなんだ、どう対処するか全力で頭を回し続けるんだ。

覚悟を決めた敵に対して、クラーケンはテラテラと光る肌を向け、トドメの一撃を放った。

ただ走るだけじゃ回避できないと判断し、身体をバネのように収縮させて大幅に加速させることにより、間一髪で回避することに成功した。

さらに多方向から襲ってくる触手をヒントにし、バネ状の身体で3次元的軌道ではね周り全方位からクラーケンを切り裂いた。

無論、これも効果は薄いが、ダメージを与える以上の意図があった。

観察である。

クラーケンをこの小さな刃(トランプ)で捌くために様々な方向から観察して1つの結論に至った。

普通のイカと身体構造が同じであるのだ。

ならば方法は1つ。眉間を突き、神経を〆るのだ。

チャンスは一度きり。

しかし、俺にはそれができる。そう確信するほど冷静になっていた。

クラーケンはこちらに再度触手を振り下ろした瞬間、その隙を突く。


「今だ」


触手の反動を利用し、俺の狙いすました一撃でクラーケン〆ることに成功した。


「片付いたようね。私は市民たちを避難させてきたわ。」


そう言う彼女の後ろでは、仔達が倒した鮫を貪っていた。


「能力の規模と無差別さからして、これは暴走だと思うわ。おおよそ、空の魚群の中央に囚われてるんじゃないかしら」

「なるほど。それならどうやってあそこまで行くかだな」

「私の仔達を梯子にするわ。一気に駆け上がりなさい。できるでしょ?ピエロさん」


皮肉交じりの無茶なアイディアだが、今はそれしかない。

条は肉の梯子を一気に駆け上がり、巨大な魚群に飛び込んだ。

魚群の中心には、藻に囚われた少女が青ざめた顔で溺れてる様にもがいていた。

近づいてみると、


「海が...海が...」


と呻いている。


藻を切り裂き、起き上がらせると朦朧としてる少女に向けて、


「ここは海じゃないぞ!大丈夫だ!」


そう何度も叫ぶと、フッと症状が和らぎ、魚群は消滅した。

しかし、足場となっていた魚群が消滅したことにより俺と少女は共に空から零れ落ちた。


「どわぁぁぁぁ!」

「今回だけは私が尻拭いしてあげるわ」


そう言い、仔で肉の山を形成し、2人を受け止めた。

そこに霧生ともう1人が歩いてくる


「おふたりともお疲れ様です。こちら、異能保護団体『明星の会』会長の卯月さんです。」

「卯月です。よろしく」

「異能保護団体ってなんだ?」

「異能保護団体というのは、表向きは精神疾患患者援助団体として活動していて、パラソルで働くことができないような異能者を保護する団体なんですよ。」

「つまり、その子を私たちは保護させてもらうということです。これから、君とも深い仲になるでしょうから以後お見知りおきを。」


その後、卯月という小太りの男は少女を背負い、去っていった。


「なんで保護団体なんてのがあるんだ?」

「異能者の存在を公表すると混乱や異能者の親族が危険ですからね。かと言ってそのまま社会に放つ訳にも行きません。」

「つまり受け皿が必要ってことです。」


なるほど。怪事件の原因が表に出ない理由はここにあったのだ。

そうぼんやりと考えながら、バーに戻った。


「フンッ!フンッ!フンッ!」


バーに戻ると鉄心が上裸で筋トレを行っていた。


「おお!戻ったか!」


そうこっちを向き直る鉄心の腹には、痛々しい弾痕があった。


「その腹...」

「あーこれか?これが俺の恐怖の根源だよ」

「鉄心くんは元軍人なんですよ。色々苦労もあったようですがね。」


鉄心が苦笑をしながら顔をかいた時、

ドンドン!

バーの戸を叩く音がした。

霧生がドアを開けると


「こんばんワァ」

「おや、お客様...では無いようですが、本日いらっしゃったのはその異常な殺気が理由でしょうか?」

「えェえェ。あなたガタは我々の邪魔ばかりスるので少々警告をト。」

「警告ですか?」

「はイ。異能者は人類という卵から恐怖ニ適応しテ力を得ることで孵化した進化した存在であるノニ、我々『バード』が人類に恐怖を与える邪魔をスるだけでナク、進化に適応できナイ落伍者マデ助けてるのでネ」

「これ以上我々ノ邪魔をスるなら容赦シナいと首領ドンが怒ってイル」

「伝えるベキことは伝えタ。でハ」

「逃がすと思いますか?」

「やめトケ。可愛い部下が吐いてイルぞ」


霧生が振り向くと、パラソルのメンバーは土色の顔色となっており、吐瀉物を撒き散らしていたり、昏倒している者までいた。


「でハ、さらばダ」


役者が続々と出てきました。このサーカスはどこへ向かうのでしょうか。乞うご期待

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