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ウマが好き



ダイレカ王国軍側。




「お前が国を発見した旅商人か」


巨大なテントの中には椅子が置かれ、暖かい空間になっている。

椅子に座るアラドルの前には、頭にターバンを巻いた一人の旅商人が立っていた。


「はい、そうです。でも私は国自体を見た訳ではないのでなんとも・・・」


困った様子の商人は汗を流しながら顔を拭っている。兵に囲まれているので生きた心地がしないのだろう。哀れなくらい挙動不振だった。


「何を見た?」


アラドルが聞くと、旅商人は思い出すように視線を上に向ける。しばらくすると口を開いた。


「十年前もお伝えした通り、小さな砦のようなものが見えたぐらいで、後は逃げたのでわかりません」

「どのような奴らがいた?」

「男が一人見えましたが、どんな姿をしていたのかも、遠くからでしたから顔もわかりません。体格からそうじゃないかと思っただけなので、もしかしたら女だったのかも・・」


「この丘の先を真っ直ぐに進むと、巨大な裂けた大地があるんだな?」

「それは間違いないです。左方向へ歩いて行って、それを登り下りしながら渡って、真っ直ぐ進めば、見渡す限りの森が広がっています。そして目を凝らして見ると、そこに小さな砦があったんです。私はそこで引き返しました」


「賢明だな。行けば殺されただろう」

「あの・・それで・・お金は・・」


商人の要求には答えず、立っている兵士を見て指示を出すと、腕を掴みテントから出て行く。

アラドルは隣の人物から地図を受け取った。


「聞いた話と同じだったな。行軍予定に変更はなさそうだ」

「良かったですね。いらぬ手間が省けました」


アラドルの隣には、参謀のイラルーがいて口の端を上げている。茶色のローブを着て、痩せた清潔感のある男だった。


その隣にはグレヴィスもいる。イラルーとは比較にならない程、体格がよかった。


主要な兵士達は、口々に変更がなかった事に安堵している。


「しかし、敵の情報が全くないのは残念でしたな」


武器の一つでも分かれば良かったが、見ていないのなら仕方ない、とグレウィスは諦める。


先行部隊に期待するしかない状況は、少し不安だった。


「先に進んでいる兵士は優秀だ。きっと情報を持ち帰ってくるだろう」


アラドルは自信を持って言った。











ーーーー



ドミトルは射殺しそうな目付きで映像を見ている。


今度は敵軍に、どんな戦力を持った人物がいるのか、事細かな説明に入っていたからだ。


どこの誰が調べたのか、ふざけた情報まで入っている。足のサイズが何故必要なんだ?とドミトルは思っていた。


「こちらの方は◯◯出身の◯◯さんで、◯◯学園では運動部所属の・・」


しかも敵軍の映像はお座なりだったくせに、人物紹介にはやけに気合いが入っている。


音声付でバックには特殊効果もつけていた。


一人一人を、まるでストーカーのように調べ上げ、親族関係まで暴かれている。


このダイレカ王国の軍隊の者達は特殊能力に対する抵抗力が全くないようだ。


しかも若い連中をターゲットにしただけの、戦闘には全く関係のない情報なので、軍関係で調べていなかったらただの犯罪だ。


寿命が違うので本当に若い。二十から三十代の情報が集められていた。


ドミトルはイライラとした様子で、隣のラブレスの説明するのを聞いている。


要約すると。


アラドルという第三王子は尻から太股にかけてのラインが好きで、趣味は乗馬。帰ったら栗毛の馬の購入を考えているが黒い馬とどちらにしようか迷っている。白い馬の名前はキャラメリーゼで柔らかい牧草が好き。

参謀のイラルーは嫁に隠れて二人浮気相手がいて一人は娘と同じ年。

グレヴィスは酒が好き、だった。


グレヴィスに対しての興味のなさがよく分かる。聞いているだけで頭が痛くなる情報だった。


今日の会議で何を話に来たのか、若干分からなくなってきたドミトルだが、机の上には、分厚い冊子が用意されている。


一応、手に持ってみた。


「◯◯さんなんていいんじゃないでしょうか?」

「いや、こっちの◯◯の方がいいと」

「私はこちらの人物の方が気にいったな」


皆が話しあっているのを聞いて、お見合いかよ、とドミトルは心の中で突っ込みをいれる。

ラブレスが新たな資料を置いた。


「いつまで続けるつもりだ?」

「命がけで手に入れた情報ですよ?他の皆は入院中です」

「!?」


微笑みながら、ドミトルに恐ろしい情報を伝えてくる。入院とは核に損傷があった場合なので、回復するまでに数ヵ月かかる事もあった。


こんな情報の為にっ、とは言えないのでドミトルはグッと耐える。敵軍の精密な情報である事は確かな事だった。


「・・後で見舞いに何か送ろう」

「嬉しいと思いますよ。では、情報の確認をお願いします」

「分かった。置いておけ」


もう何だってやってやる。とドミトルは腹を据え、情報の確認を始める。


しかし情報の確認をすればするほど、何の為にこんな事をしてるのか分からなくなり、悩むように頭に手をやっていた。


その姿を見つめるラブレスは、入院した者達が言っていた言葉を思い出す。


敵軍を調べている時に、こいつら面白いから総隊長の餌食にしてやろうぜ、とか、ぎゃははは生体調査したいわ、と言っていた事は、隠蔽する事にした。



そんなやりとりを続けていると、時間が過ぎて行く。


あまりに弱く、敵に見えないので、相手は巨大な玩具を抱えて健康物質を運んでいるだけのようにも見えてくる。


迷惑なのはお客の数が多いだけだ。


そうすると残った全員が情報の見すぎで、他国の見た事のない人種の方々が、わざわざ遠くからお越し下さっている、と言うように思える。


知れば知るほど、この者達が近しい存在になってきた。


夕飯も食べずに夜も更けてくると、全員一致でお出迎えする事に決まる。


「いやぁ、こうして見ると一万人の体の弱いお客様が、危険な場所にもかかわらず、こうして挨拶に来てくれるのは凄い事じゃないか」

「危険が極力ないようにお出迎えしないとな。はっはっは」


上位貴族が自分の持っていた赤色の晶映石を取りだし魔力を注ぐと、晶映石から光が出る。それから自分の頭の核と晶映石を魔力で接続すると、その光に文字が浮かび上がった。


そうして軍の方針の書類を作り、会議室に置かれていた透明度の高い緑の写紙石に晶映石の情報を送る。すると写紙石から魔力で作られた紙の書類が出てきた。


上位貴族は出てきた書類をドミトルに手渡す。その中には特殊能力解除の申請も入っていた。


皆の目の前に、その書類も映し出されているようだが、軍の者達に抗議する者はいない。


会議も終わり解散となった。


脳が停止していた状態で歩いていたドミトルだが、廊下を一人で歩いている内に冷静になってくる。


手元の書類を見たのだが、あまり覚えていなかった。


「まぁ、問題があってもダイレカ王国だしな・・」


戦力なんてあってないようなものだ。どうとでもなるだろう。


ドミトルは気にしないように手元の書類を裏返し、自分の部屋に戻る事にした。


部屋に戻ってから一息つき、さらに冷静になったドミトルは思う。


ダメだろ。


これから軌道修正を頑張る事に決めた。




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