ニンムはたのしいな
一週間後、十分食糧を確保した隊員達は広場に整列していた。
今日の天候は曇りだが隊員達の表情は明るい。
目の前に立っているドミトルを見ても文句を言ってこなかった。
「任務は完了したぞ」
ドミトルの言葉に隊員達は歓喜の声を上げた。
「やったーーー!」
「生き残ったぞ」
「私達、帰れるのね!」
もう夜の獣達に怯える心配もない。巨大生物に襲撃される事もない。視覚の範囲外から特殊攻撃をくらう事もないし、食糧の中から出てくる寄生虫と戦わなくてもいい。
そんな事を考えている隊員達にドミトルは一言付け加える。
「頭を守る必要もないな」
「いや、頭さえ無事ならいいって事ないから!!俺達、体全部、大事だから!!」
隊員が一生懸命ドミトルに言ってくる。そんな隊員達だったが意外と冷静に考えている者もいた。
「まぁ腕ぐらいならなくなっても一週間で生えてくるからなぁ」
そんな事を言いながら思い浮かべる。だがそれに否定する者もいた。
「良くないよ!いくら特殊再生を使ってもらえば一瞬で治るとしても食われた恐怖はなくならないんだぞ」
「昨日やられたもんなぁ・・足の指」
「言うな!思い出すだろ!!」
騒ぎは収まらず大きくなる。それを見ながらドミトルは隊員達がどんな様子かを観察していた。
「お前達の喜びは十分に分かった。俺も任務が完了して嬉しく思っているぞ」
「総隊長・・!」
「やる気に満ちたお前達には、さらなる本任務がある」
「「え??」」
「各自用意して次の場所に行くぞ。本任務はユルス山での食糧調達だから帝都から二時間の近場の山だ。ここまで来るのに十日かかった。帰りもそれくらいだろう」
隊員達は放心したようにポカンと大口を開けたまま固まっている。
それにドミトルが内心笑っていると、次第と意味を理解したのか、鬼のような表情で怒鳴ってきた。
「どういう事っすか!?ユルス山って底の中ランクの少し強い獣が出てくる場所ですよね!?どうしてそれが本任務になるんっすか!!」
「アゾマンゾルドの任務の方が百倍難しい任務ですよね!?簡単な任務の方が重要度が高いっておかしくないですか!!」
通常は確かにアゾマンゾルドでの食糧調達の方がユルス山での食糧調達よりも難しい任務だ。
任務にもランクがあり、下から底ランク、底の中ランク、底の上ランク、それから中の底ランク、中ランク、中の上ランク、高の底ランク、高の中ランク、高ランク、特上ランク、最上級ランク。
そして最後にくるのが命級ランク。皇帝一家からの任務となる。
「いや、本任務は第一皇女殿下の命であらせられる。何もおかしくない」
ドミトルはそう言った。
「だったら何が・・・」
「そんなに重要か?アゾマンゾルドの任務を下したのは俺なのに何が聞きたいんだ」
「総隊長・・・ですか」
愕然となる。総隊長からならどんな任務でも命級ランク任務だ。拒否権はない。
もしそれでも拒否したいなら総隊長補佐官に明確な理由を提示し、全軍の隊長補佐官を招集した議会を開催。話し合いをし、任務内容に問題があると認めさせなければならない。
そんなのほぼ不可能だ。
「ああ俺だ。総隊長でありギルデイザイス帝国第二皇女である俺が、軟弱ひよ子野郎どもを鍛える為に選んだ最適だと思われる場所がこの山だ。丁度良かっただろ?」
失うモノはあったとしても死なずにこの場にいるじゃないか。それでも気にくわないと言うヤツがいるなら。
「傷つけた責任をとってやる」
ドミトルは断言する。
え??と隊員達は固まっていたのだが、ドミトルはそのまま続けた。
「とってやるから男は全員正装して第一皇女殿下に面接な。女の方は家に挨拶に行ってやるから兄妹、従兄用意して首を洗って待っていろ。華麗に挨拶を決めてやる」
自分なりの優しい笑顔を向け、受け入れるように両手を広げたドミトルは言う。
「家族になろう」
「「あ、いや、いいです・・・どうせ生えてきますし」」
隊員達全員の熱意は海の藻クズのように散った。
手や足は新品がいいもんなぁ、などの会話もされている。
「責任をとってやると言っているのに、なぁ?」
ドミトルは同意を求めるように補佐の方を向く。しかし補佐は全員視線を合わせる事はなかった。
一回りも二回りも成長した隊員達は大人しくユルス山へ向かう。
その背中は前よりも頼もしくなっていた。
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本任務は滞りなく完了し帝都に帰還する。
遠征後には三日間の休みが手に入るので隊員達は各々が過ごす休みの計画を立てていた。
そんな時、大変な情報が入ってくる。
「他国が軍をこちらに向かわせているらしい。戦争になるぞ」
衝撃的な内容に隊員達は背筋を凍らせた。