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暗部部隊


自室に戻ってきたドミトルは、暗部部隊に直接連絡をとる為に晶映石を持ち上げると、皇族が使用できる長い暗号を魔力で形作りながら注ぎ込んだ。


赤い色をしていた晶映石が、暗号を受け入れ黒い色に変わる。全ての暗号を入れ終えると、石の色は元の色に戻り、ドミトルの周りに透明な赤い結界を作り出す。


現実世界と精神世界、二つの世界を同時に見ながら、精神の世界で暗部の補佐官、バウレスに繋がり、ドミトルの頭の中に直接その姿が浮かび上がった。


顔の骨が太く、それを支える首も太い。筋肉質な体は盛り上がり、つり上がった眉の下には、逆らう者には容赦しない鋭い目がある。紫紺の短髪は後頭部だけにあり、額から頭の上まで、骨のようなものが埋め込まれていた。


瞬きが少なく、自分の目の前にいる者を観察しているように見える。それは誰に対しても変わる事はなく、常にその状態だった。


全身を覆う、黒に近い紺色のローブを着ており、手には黒い手袋を嵌めている。

そんな人物とドミトルは頭の中で向き合っていた。


外から見えないので、機密の情報を交換する場合にはこの方法が良く、薄暗い広い空間の中で、バウレスとドミトルが対面している。


「久しぶりだな」


声が空間に響いた。


地面のない世界には上も下も存在しないが、二人の精神は壊れる事はなく、その状態を受け入れている。


精神の存在は肉体よりも魔力に近いので、個に見える二人も、この世界に浸透している存在となっていた。だが、個だと言う情報を持っているので、自分の肉体を精神の世界でも構成して、相手に認識させる事ができている。


バウレスはこの世界の中でも、平気な様子でドミトルの前に立っていた。


「そうでございます。分かっているなら、もう少し連絡をいただきたいものです」


口をへの字にして相手は不満そうな表情をする。それでも瞬きは少なく、目は食い入るように一挙一動を観察しているので、肉体を持つ時と変わる事がないその姿に、そこまで再現する必要はないだろ、とドミトルは思った。


長い付き合いなので、放っておかれた嫌味を言いたいようだ。


それが分かるので、ドミトルは言い返す事はせずに、相手の言葉を受け入れる。自分にも非があると思っているので、無難な言葉を選んだ。


「連絡がないのは元気な証しだと思ってくれ」

「それは分かっておりますが、それを踏まえた上で意見を申しております。それよりもお急ぎでは?」

「いや、大丈夫だ。時間ならまだある。私用だからな」

「私用?」


記憶を探っているのか、初めて相手の目線が外れる。


「俺の情報は調べなくてもいい。どうせ出てこない」

「・・・」


バウレスは無言で続きを促すように、ドミトルを見ている。それに答えるように簡潔に言った。


「睡眠をとるから護衛をする隊員を貸してくれ」


そう言うとバウレスは、はて、と首を微かに傾げる。


「おかしな言葉が聞こえました。他にありましたか?」

「他にはない。まぁそう言う理由も分かる。俺が寝る為に護衛をつけるのは久しぶりだからな」


ドミトルはそう言って相手を見た。

バウレスの方は返事をせずに、じっと見ている。暗部との繋がりは、護衛が不要になってから途切れがちであった。


暗部は忠誠心が非常に強いので、皇族の為に命をかける事など、当然であると考えているが、それにも関わらず家族に認定されるなど、絶対に受け入れ難い事である。


過去のドミトルはそれを簡単に考えてしまっていたので、不用意な発言をしてしまっていた。

今思えば相当な心労を暗部に与えていたと思う。それを反省しながら、ドミトルはバウレスに頼んでいた。


「緊急に仕事を頼みたい。家族認定は絶対にしないと誓うから、護衛の派遣を頼む。久しぶりにゆっくりと睡眠をとりたい」


精神的に疲れたドミトルは肩を下げる。

その疲れた様子にバウレスは気づかれないように動揺した。


これは早急に対処すべき事だと思考を百八十度変え、片足を後ろに下げ、腰を曲げて頭を下げる。


過去の事件の事など消去された。


「直ぐに手配いたします」


優先順位など考えるべき事でもなかった。


「助かる」


そう言ってドミトルは通信を切るように精神世界から姿を消す。

バウレスもそれを見届けた後、直ぐに消えた。



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