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宿舎9


「第一神子とはどういう事ですか?しかも干渉地帯でそのような無謀な事を・・どうしてそのような事になったのですか。これは由々しき事態ですよ」


オスマンドの表情からも思考からも、不真面目さが消える。後に残ったのは、帝国の軍の者としての姿だけだった。


話が本当なら干渉地帯でドミトルと第一神子が相対した事になる。それはギルデイザイス帝国にとって、致命的と言えるほどの失態だった。

いくらドミトルが強くても、相手が第一神子なら万が一と言う事もある。もし何かあったとすれば、ギルデイザイス帝国にとって許されざる事だった。


自国の二人しかいない皇女の一人であり、軍の長でもあるドミトルを失う事があれば、帝国にとって損失は計り知れない。もしそのような事が起これば満場一致で国交断絶、全面戦争に突入するだろう。


そのような壮大な事をオスマンドは考えていたが、ドミトルの方は冷静で、腕を組んだまま無言でいる。

そうするとオスマンドの頭が冷え、落ち着いた。それを感じたので口を開く。


「これは軍の長である俺の判断だ。元々はギルデイザイス帝国側から出た問題で、他国に必要のない緊張を与えてしまったのが原因だ。小競り合いならあると思っていたが、あの状況で本格的に二ヶ国が動く事はないと断定できる。証明する事も可能だ」


「それを聞いてもよろしいですか?」


秘匿されているだろう、と思いながら駄目元で聞いてみる。表情で分かったのか、ドミトルが皮肉げに笑った。

己に関する事で重要な事は、一つたりともなかったからだ。


「俺のお見合いが原因で大戦争を起こせるか?そんな恥ずかしい歴史を残せる国家があるなら、見てみたいものだ」


あっさりと口にしたその言葉に、ポカーン、とオスマンドと補佐達は口を開けている。


アラデルギル区域であった事は、情報規制されており、それはドミトルの事とエルスドラの弟の事があったからだった。


百歩譲ってドミトルのお見合いは、いつもの事だと笑われるだけなのでまだいい。だがエルスドラの弟の事を大々的に知られた時には、デルモスラウナ神王国がどんな行動を起こすか予測できずにいたので、アラビスレイド光王国とも話をして、情報は表に出さない事で一致した。


それほどデルモスラウナ神王国というのは、扱いの難しい国で、武力国家であるギルデイザイス帝国でさえも深くは関わりたくない、と常日頃から注意している国でもある。アラビスレイドなどは、首都がギルデイザイスよりも近いので苦心していた。


さすがに第一神子が降臨した事は誰の目にも明らかだったので、情報規制をしていても、拡散しようとする意図がなければ話す事は許されている。

ドミトルの補佐官には全て報告されているが、エルスドラの弟に関する情報は、他の者には秘匿するようになっていた。


「デルモスラウナが絡んでいる。これでこの話は終わりだ。俺の言いたい事は分かるな?」


暗に、これ以上関わるな、と言うとオスマンドも直ぐにそれを理解する。


「了解・・しました」


気が抜けてしまい少々放心したように答えると、周りの者達も同じような表情だった。


オスマンドが納得したのでドミトルは息を吐く。

せっかく温泉に行ってきたというのに精神が磨耗したように疲れてしまった。今日の夜は眠れそうだ、とドミトルは思った。


「土産でも食べてゆっくりとしてくれ」


そう言って皆の包囲網を潜り抜けると、歩いて行く。その後に続いてリングレアが早足でついてきた。


「総隊長、打撲しないように気をつけて下さいね」


アタランテがドミトルの背に向かってそう声を掛けると、歩く速度が上がる。聞こえたリングレアが追い付いて体を調べようとしているが、それを引きずるようにしてドミトルは視界からいなくなった。


「これで大丈夫でしょ」


アタランテはゲルモンテを見る。


「だな」


ゲルモンテは同意して、アタランテの機転の良さに拍手をした。

それで何があったのかオスマンドが気づくが、何も言わない。これ以上は自分に出来る事はなさそうだ、と思っていた。


「オスマンドは追わなくて大丈夫なのか?」

「ああ、リングレア補佐官がついていれば今の所は問題ないと思う。誰かがついていれば無茶はしないだろ」


モイスが聞いたが、今の所は、と言っただけでオスマンドはまだ厳しい目を向けていた。


いつもは支援部隊隊長に見えない気の弱そうなオスマンドも、こうして見るとしっかりと隊長格に見える。

窓から見えるリングレアを引きずっているドミトルの姿を、しばらく全員で見ていた。




「今日は厄日だな」

そう呟きながらドミトルはリングレアを引きずる。

「総隊長、身体調査させて下さい」

「お断りだ」

そんな攻防を続けながら歩いていた。


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